■“戦わない”
戦わない。一体何と戦わないのか。
まあ、“戦う”という動詞を使うのなら、一般的にその対象は「敵」であろう。
では、企業やフロントセールスが“戦う”相手とは何だろうか。競合他社…?ノルマ…?確かにそれも戦う対象に相違ない。
不動産会社(ことさらB to Cの売買をコア事業としている会社)の場合、往々にして戦う相手が「お客さま」となってしまうことがある。
信じられないかもしれないが、これ事実。
不動産はプライシングの根拠が多数存在する商品である。一物六価という言葉もあるぐらい、評価者によって価格は面白いように変わる。
ここでいう評価者は何も省庁や自治体だけに限らない。マーケットにいる不動産売買の企業もまた評価者の一角だ。
つまり、自社利益を最優先とするならば、一企業が強引なプライシングをすることも可能といえる。相場や取引事例などの客観的なデータはあるが、物件ごとの固有性と個体差が大きいため、恣意的なプライスもまかり通る。
そんな不当に高い商品を買う人がいるのか。
…それがいるのだ。
ただし客観的な値付けに基づかない商品を売るためには必要不可欠なことがある。
強いセールス、だ。
有無を言わせない強いセールス。
必然「お客さま」は寄り添うべき相手ではなく、攻略対象という位置づけになってしまう。
そう、「戦う相手」となる。
さて話を戻そう。
コンスピリート(以下「コンスピ」と略称)は創業から「戦わない」ことを行動理念の軸としてきた。
コンスピはクライアントと戦わない。
当たり前のことなのだが、この業界においてそれが決して当たり前でないことは先述の通りである。
これを書いている小生自身コンスピへ加入して約12年、加入までの約10年間も不動産のフロント営業に浸かってきた人間である。
コンスピ入社時のカルチャーショックは大きかった。何せこれほどフロントセールスの地位を高く置いていない企業を経験したことがなかったからだ。
誤解のないように言うと、報酬や待遇的に低いということではない。組織内のヒエラルキーとして、過剰に営業が持ち上げられることがない、という意味と捉えてほしい。
ひとたび成約が取れれば、蝶よ花よと扱われる(営業が天狗となる温床でもある)のが販売会社の常態だが、それが全くない。
しかし、あるとき気が付く。
フロントセールス単体で成約に至ることなんて実はそうあることではなく、あくまで「フロント」という役割を担っているに過ぎないんだ、と。
どの業務もコンスピでは並列であり、そこにヒエラルキーは存在しない。
成約に至る道程もまた同様で、パワーをかけて強いクローズで勝ち取るものではない。
クライアントの問題解決を図る。そのための手段として収益不動産があり、お客さまの抱える問題と提案する物件との間に高度な整合性が求められる。
その考えがベースにある以上、モノを売りさえすれば終わり、ということにはなり得ない。したがって、強引に売ったところで「収益不動産を通じてクライアントの問題解決を図る」というミッションはクリアできない。
つまり、お客さまは「戦う対象」どころか、深く理解すべき対象なのである。
■“戦わない”というマーケティング
小生はコンスピの立ち上げから5年目あたりで加入することになる。
その頃には先述のカルチャーはすでに確固たる基盤として存在していた。当初はとにかく戸惑った記憶しかないが、やっていくうちに理に適っていることに気付く。
パワーで販売していく企業を引き合いとして甚だ恐縮だが、とにかく強い。もともとその中で育てられた身ゆえによく分かる。
不動産の知識や知見の習得よりも、強いクロージングを磨くことに日々は費やされる。
結果、その強いクロージングに押し負ける人を探すことが営業活動となる。かつては電話営業、今はWeb広告等からの誘導もあるだろう。未だに品川の駅前で直接営業から声を掛けられることもある。もちろん同業であることをお伝えして丁重にお断りするが…。
つまり、(言い方は悪いが)自分たちの営業手法へ“ハマってくれる人”に当たるまで延々とその作業を続ける。仕事を始めるために要する時間がとにかく長い。
一方でコンスピの場合。
仕事の出発点が異なる。
まずクライアントの問題・課題ありきである。
不動産から◯◯万円収入を得られる基盤をつくりたい、相続対策として法人を設立して不動産を保有したい、単純に節税対策をしたい、既存保有不動産の稼働を上げたい、管理相談に乗って欲しい…etc。
クライアントの問題解決が出発点である以上、寄せられるご相談すべてが「仕事」になる。戦う必要が微塵もない…どころか、戦っているヒマがない。
不動産はあくまで問題解決のための手段でしかなく、販売そのものは目的ではない。先に申し上げた通り、この考えは創業以来のコンスピリートの姿勢である。
この姿勢がクライアントのコミュニティ内に周知され拡がったことでどうなったか。
大きな広告予算を割かずとも紹介や口コミで仕事が絶えなくなった。購入の有無にかかわらず、不動産に係る万事はあそこに聞けば解決に向けて動いてくれる。その姿勢と評判自体がいつしかマーケティングの根幹そのものとなっていった。
■不動産会社の企業価値
「不動産屋っぽくないですね」
周囲からよくそう言っていただく。
スーツ着用原則禁止、新規事業立ち上げの早さ、リモートワークにフレックス、オフィスもまったくオフィスらしくない。
…確かに列挙してみるに「不動産屋っぽくない」。
そもそもの社風がそうだから、というのもある。…が、戦略的にそうしている向きもある。コンスピのミッションは不動産をツールとして、クライアントの問題解決を図ることにある。クライアントや物件オーナーは寄り添うべき相手ゆえ、「営業をかける側」と「営業を受ける側」という住み分けにはならない。だからこそ一般的に「不動産営業っぽさ」の象徴となる“ビシッとした”スーツを避けている。
ましてや「購入して欲しい」というベースがある訳でもなく、共に問題・課題を解決していく間柄である以上関係性は対等だ。この考えからスーツは原則禁止としている。
オフィスをオフィスらしくしないのもその考えの延長上にある。
新規事業の立ち上げや、新規サービスの開始も恐らく突出して早い。
これも、自発的にというよりは、クライアントのオーダーへ応えるために始まることが圧倒的に多い。当然自社のリソースやナレッジを転用可能な新規事業が多いものの、既存業務に加わるかたちでスタートする。
したがって、業務効率化やDX化は必然、というよりマストとなる。
リモートワークの継続もフレックスも、フリーアドレスオフィスも、シェアオフィスの利用も、情シス部門の設置もすべてそのためといえる。クライアントファーストというといささか格好いいが、お客さまの数だけ抱える問題・課題も存在し、それらが仕事に直結するため、必然的に“そうなった”ということだ。
上記もふまえて表題にある「不動産会社の企業価値」の話をしてみよう。これは言い換えればその企業のミッションは何か?という問いになる。
建築をコアとする不動産会社なら良質な建物を供給すること、となるかもしれない。では不動産販売を主体とする会社はどうだろうか。時折取って付けたようなCSRを喧伝している販売会社を目にすることがある。もちろん志高く社会的責任を果たそうとしている不動産会社も多く知っている。
ただ、販売を主軸とする会社の場合、どうしても謳っているミッションと実際のアクションとが乖離しているケースも少なくないように思う。その実、日々の業務の大半は在庫販売に費やされ、結果的には売上至上とならざるを得ない(良い悪いという話とは全く別軸の話)。掲げた崇高なミッションも虚しく響いてしまう。
コンスピリートのミッションは、実はCSRほどマクロなものではない。
再三述べてきたように「不動産を通じてクライアントの問題解決を図る」。これ以上でもこれ以下でもない。そのミクロの動きが社会貢献の意味合いを持つケースもあるかもしれない。ただ、それは結果論の話。
あくまで、目の前のクライアントが抱える問題や課題を一つずつクリアにしていく。
各関連資格の保有を積極的に推奨するのも、不動産分野における高度なコンサルタイトル(CPM、CCIM等)取得を推し進めるのもそのためだ。
販売や管理、融資のサポート、工事、建築。それぞれが独立したサービスではあっても、これらのリソースを集約して問題解決に当たることが本当の意味での「仕事」となる。
その先にクライアントの満足があり、企業価値が向上する。その対価というかたちで社員やスタッフ、その家族へ還元される。これがコンスピリートにとっての王道の考えであり、行動の指針となっている。
いささか長くなってしまったが、カテゴリ的には「不動産業」であったとしても、皆さんが思われる「不動産会社」とは少しちがう。私自身もそう思う。いつも説明に窮する。
「戦わない」という信念を貫くための“戦い”は案外辛いものだ。それでもなぜその姿勢にこだわるのかといえば、それが「クライアントのため」であり、それがコンスピらしいから、である。