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再エネの地産地消サイクルで新しい街のあり方を創造する。アイ・グリッド・ソリューションズが描く未来構想とは

本記事は、visionsに掲載された記事を許可を得て転載しています。オリジナル記事の詳細は、こちらをご覧ください。

世界の共通課題である気候変動。解決の鍵が、化石エネルギー中心の産業や社会をクリーンエネルギー中心へ転換する「GX(グリーントランスフォーメーション)」。2023年5月に「GX推進法」が成立し、日本でもさらに取り組みが本格化しています。スーパーマーケットなどの流通小売や物流施設の屋根上を太陽光発電所とし、余剰電力を地域に循環させる仕組みで、企業のCO2排出量を削減するソリューションを提供するアイ・グリッド・ソリューションズ。地域の脱炭素化を支援する「GX City®」構想を掲げ、事業を推進してきた代表取締役社長、秋田智一さんに、ここまでの歩みと、さらなるポイントを聞きました。

目次

  • 地域循環で再エネ自給率の高い街づくり「GX City®」

  • ライフスタイルも含めた未来像を打ち出す必要

  • 300の挑戦と失敗があったから、2つの成功がある

  • 一つひとつ課題を克服しながら磨き続けたコンセプト

  • 目の前の急流を懸命に進むうちに、大河に出る

地域循環で再エネ自給率の高い街づくり「GX City®」

──推進している「GX City®」構想とは、どんな街の構想なのでしょうか。

私たちの事業は施設の屋根上に発電所を作り、再生可能エネルギーを直接その施設に届けていきます。さらに発電所ごとの再エネを増やすためのソリューションを展開しています。こうした施設を全国に広げることで、地域ごとで小さな発電所で生み出された再生可能エネルギーが地域の脱炭素化を推し進めることができると考えています。これが私たちが目指している「GX City®」へとつながっていくのです。


──すでにある建物の屋根上を発電所として活用し、そこを起点に街のGX化につなげるんですね。

そうです。この仕組みであれば、新たな土地開発を必要とせず、自然を傷つけることもありません。その施設で使いきれない余剰電力は、私たち独自の「余剰電力循環スキーム」で地域内に循環させ、エネルギーの地産地消サイクルを構築します。太陽光を余さず活用することで、再エネ自給率を向上させることができます。

「GX(グリーントランスフォーメーション)」という言葉は、「CO2排出ゼロ」といった言い方よりも曖昧さのある言葉ですが、私たちはその曖昧さがいいと思っています。単純に脱炭素化に必要な削減目標といった定量的な話だけでなく、そこがどういう街でありたいかを加えていける余白を大事にしたいからです。たとえば、農業も盛んで食の地産地消も行われているとか、林業も盛んで資源循環が生まれているとか、屋上農園も取り入れようとか、ありたい街を白地のキャンパスにどんどん描いていけるものでありたいと思っています。


──たとえば、どんな街の姿が描けるのでしょうか。

災害時にスーパーマーケットがバックアップ電源で電気をつけることで、住民に安心感をもたらすこともあるでしょう。将来、万が一海外から燃料が入ってこない時代が来たとしても、エネルギーを地域でつくれることで、強靭な街に変わることができる。再エネがその街にあることで、企業の進出や、個人が引っ越してくる理由になるかもしれない。地域の魅力づくりにもなりえるわけです。

実際に今、地方自治体の方々とコミュニケーションをとる機会も多いのですが、地域ごとで特徴や課題が違います。それぞれの地域にあった「GX City®」を一緒に考え、エネルギーを基点とした新しい街の姿を提案しています。何のためかわからない脱炭素ではなく、脱炭素社会への転換をきっかけに新しい街づくりができる。そういう事例をつくることで、この転換はいい方向に向かっているんだということを示す。これが今の私たちのいちばんの役割だと思っています。

ライフスタイルも含めた未来像を打ち出す必要

──企業のビジョンには「グリーンエネルギーがめぐる世界の実現」を掲げておられます。その実現を通じて解決したい課題はどのようなことだとお考えですか。

やはり気候変動の問題です。CO2排出量をもっともっと減らしていかなければいけない。これは世界の共通課題です。日本にいると危機感は感じにくいですが、気候変動に関する国際会議やイベントに参加すると、住めていたところに住めなくなる危機はすでに起こっていて、文化の喪失や人間の生存権を脅かすことだということがわかります。日本にも起こる可能性だってある。

それだけ世界的な課題でありながら、脱炭素社会への転換を推進するのが難しいのは、脱炭素ができたとしても、目に見える部分は何も変わらず、利便性が高まるわけでもないと感じられてしまっていることです。社会がよくなるイメージよりも、生活に制限を受けるだけのような受け止め方になりがち。もっと明るい未来像を打ち出す必要があると思うんです。


──なるほど。多くの人が目指したくなる未来の社会のイメージが必要だと。

はい。今の日本のエネルギーシステムだって、高度成長を遂げて日本が経済的に豊かになる未来を目指してつくられたもの。人口を都市部に集中させて、太平洋ベルトの工業地帯に電気を送って、効率よく製品を製造して海外に売る。そういう社会にしようという価値観があったからつくられました。

これからも、次の社会、つまり脱炭素の社会をどう描き、どんなライフスタイルを人々が望むかだと思います。首都機能が東京に集中するより分散しているほうがいい、地域の豊かさを感じながら暮らしたい、といった価値観が広がれば、エネルギーシステムも分散型に移行していくでしょう。無機質で、我慢を強いられるのではないかというイメージの「脱炭素社会」という目標だけでなく、ライフスタイルや価値観を含めた未来像が生まれれば、新しい未来がひらけてくると思います。

300の挑戦と失敗があったから、2つの成功がある

──すでに国内で約1,000施設の発電所を稼働させていて、国内実績は3年連続でトップ(*1)とのこと。ここまでの事業の成功の理由はなんだとお考えですか。

*1:富士経済 2024年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望/ 第三者所有モデル(PPAモデル、リース)・非住宅(10kW以上)・2023年度実績。

あるとすれば、変化に強かったということだと思います。事業は時代のニーズによって変わってていくものだと思うで、そこにアジャストできるかどうか。組織が変化に強いとはどういうことかと言えば、やっぱり強くしなやかに変われる人たちが社内にいるということだと思います。

さらにいうと、失敗を恐れずに新しいチャレンジができたり、失敗も許容できたりすること。そういう変化への耐性のあるカルチャーが私たちにはあったということが、事業の成功につながったのだと思います。

アイ・グリッド・ソリューションズには「300分の2」という言葉があるんです。あるとき、社史をつくろうとしてそれまでの歩みを整理していたところ、取り組んできたアイデアやテーマは300個くらいあることがわかりました。そのうち、今の事業につながっているのは、2つしかありません。失敗は無駄だったと捉えることもできるけど、私たちにとっては、そのたくさんのアイデアがなければ、2つの成功もなかった。このカルチャーを大事にしようと、「300分の2」と言っています。

スケートボードの選手たちは、失敗することはもう前提として「失敗」とは言わず、うまくいったときに「メイクした」と言いますよね。人がやった技を真似しても点数は高くならず、自分のスタイルやオリジナリティを出すことが評価される。そういう感覚を会社の中に根付かせていきたい。堀米雄斗選手にイメージキャラクターになってもらっているのもそのためです。

私自身、成功にも関与していますが、失敗もたくさんしています。150くらいの失敗は私です(笑)。それだけの失敗を許容してくれていた。いい会社だと思います。

一つひとつ課題を克服しながら磨き続けたコンセプト

──今の事業や「GX City®」構想も、多くの失敗を経てできているということでしょうか。

そうです。今主軸となっているPPA事業も失敗と挑戦の連続でした。2011年の東日本大震災での電力不足をきっかけに、社会全体で電力供給のあり方への見直しが進みました。そこで、省エネだけでなく、エネルギーの新たな事業を打ち出していこうと自分たちで太陽光発電も行おうと動き出したものの、当時は、つくり出された電力は電力会社に売るスタイルで、しかも大規模開発を行うのが主流でした。山林などの広い土地を取得できるノウハウも資金もない。壁にぶつかっている中で、省エネのコンサルティングでお取引していた流通小売業のお客さまの施設を見ると、大きな低層屋根があった。この屋根で発電すれば、日本中で太陽光発電量を増やせるんじゃないか。施設の屋根で発電する発想が、そんなふうに生まれました。

ただ、太陽光発電設備の投資回収サイクルは約20年と長く、お客さまに投資いただくにはハードルが高い。それならば、屋根をお借りして、私たちがそこに発電所をつくり、再エネをお客さまの施設に送る形態にすれば、お客さま側に投資リスクはない。そうやって、今のオンサイトPPA事業の考え方にたどり着きます。


──培ってきた資産を活かしつつ、事業をブラッシュアップしていったような感じでしょうか。

ええ。さらにそこからも、自分たちで発電所をつくる資金調達、既存の電力コストより安く抑える「グリッド・パリティ」(*2)の壁、消費しきれない余剰電力をどうするかなど、多くの課題を乗り越えながらたどり着いたのが、今の事業のあり方です。

失敗を恐れず一歩踏み出したことで、最初は思ってもいなかった意味が見えてきたり、それならばこれを加えようと補ったり、時代のニーズを受けて考え方をアップデートしたり。最初からすべてが描けていたわけでなく、そうやってコンセプトを磨き続けてきたというのが正しいです。

*2 グリッド・パリティ:再生可能エネルギーの発電コストが、既存の電力コストと同等であるか、それよりも安価になること。

目の前の急流を懸命に進むうちに、大河に出る

──秋田さんご自身は、どうやってビジョンを見つけてこられたのですか。

自分が起点になったほうが楽しいし、すごく強いこと。誰かが起点となったテーマをこなしていく人生もあるけれど、どこかのタイミングからは誰もテーマを与えてくれなくなるので、自分のあり方を持っているほうがいいと思います。ただ、なぜそれを自分がやりたいのかを明確に持つなんて、なかなかできないですよね。私も20代の頃はそうでした。

私自身は、ビジョンがあってそこに向かって計画的に登っていく山登りタイプではなく、目の前の急流をとにかく転覆しないように漕いでいくラフティングタイプ。新人の頃なんてただただ漕いでいくだけ。でもそうしているうちにだんだんと川が開けてきて、大河に出る。川が太くなっていくなかで、いろいろな人と出会って、自分の進むべき方向はこっちかもしれないと、だんだんと見つかってきました。自分のテーマらしきものが見えてきたのは、40歳手前くらいです。

さらに、そこに責任感や使命感がおりてくる。最初は自分の隣の人のためだった仕事が、課のためになり、部のためになり、会社のためになってきた。会社を代表する立場になると社会というものが見えてきて、社会課題への使命感みたいなものが大きくなってきた。私はそんなふうに進んできました。

一つずつやっていく先に、社会課題に関心を持つようになるし、テーマが見えてくる。今を一生懸命やることがすごく大事なんじゃないかと思います。


編集後記

「脱炭素社会」という合言葉は、エネルギー供給の不確実性という危機的状況に人類総出で真剣に向き合おう、という緊急事態宣言なんだ。取材の前にはニューヨークで日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)の視察団の一員としてClimate Week NYCを視察し、世界の気候変動問題を間近で見聞きしていたという秋田社長のお話から、世界の意識変化をリアルに感じる機会をいただきました。
「再エネの地産地消モデル」「GX City®構想」といった事業サイドの先進性が一見目を惹く同社。ですが、真の強みは、失敗を讃え合う「発明家集団」のような精神性にあるのだと思います。次の100年、200年をワクワクする未来に変えていく。「日本といえば、GX先進国だよね」といわれる未来も、近いのではと感じました。

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