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スリーエス株式会社は、「どんな人でも、自分の人生を決められる世界」をビジョンに掲げ、24時間型訪問介護事業とSaaS事業の2事業を通じて、高齢者の在宅生活を可能にする仕組みづくりに取り組んでいます。
2023年12月5日に資金調達を発表、24時間型訪問介護を軸にした事業開発に至る思いや、今後のビジョンについて話しています。
インタビューした人
代表取締役CEO / 創業者
千田 桂太郎(ちだ けいたろう)
2011年にエムスリー株式会社に入社。その後、2013年に東北復興支援を手掛けるNPOに入社。ここでの経験を元に、2019年にスリーエス株式会社を創業
社会課題を事業で解決するアプローチ
──千田さんが起業家を志したきっかけについて教えてください。
もともと私は大学に進学するまで、漠然と医師または官僚になることを考えていました。幼少期から正義感が強いタイプだったということや、社会を良くできる職業というイメージを持っていたことが理由でした。
「起業」という手段に目を向けたのは、大学時代に複数のベンチャー企業で長期インターンシップを経験したことがきっかけです。「今ある職業ではなく、新しい事業・会社作りを通じて、社会課題を解決する」というアプローチがあることを体感しました。そこからは、起業を前提にした時に、どういったテーマで取り組んでいくのかを模索しているような期間だったように感じます。
──これまで千田さんは、いくつかのテーマで仕事をされていますね。
インターン時代も含めると、気候変動、医療、復興支援の領域で仕事をしてきました。例えば、2011年に新卒入社したエムスリー株式会社も、当時から急成長を遂げていた医療系ベンチャーです。短い期間でしたが、医療というテーマで急成長をしている会社に在籍できたことは、私にとって貴重な経験だったように思います。
2013年からは、縁あって学生のときにインターン生として勤務した東北復興支援NPOである一般社団法人RCFに入社しました。企業の寄付金、行政/省庁の予算をいかに東北復興のために活用するか、私たちの役割はコーディネーターというもので、事業企画・推進・実行のサポート業務などを担います。最終的には中核メンバーの一人として、40〜50名ほどの組織で、事業の推進や経営管理の領域を担っていました。
構造的な業界課題を解決したい
──いつ頃から起業を検討し始めたのでしょうか?
起業を意識し始めたのは、2017年頃からです。東北復興の仕事の中で、色々な課題に直面しましたが、高齢化に伴う課題に行き着くことが多く、その領域で何かしたいという想いが募っていきました。
──最終的に介護領域で起業した理由を教えてください。
開始当初は、いまの事業内容ではありませんでした。しかし、この業界に踏み入れて、明らかに構造的な課題があると実感しました。それは、各々の現場では非常に優れた管理者や職員もおり、かなり奮闘している状況がありながらも、業界全体でみると、人材不足の問題、社会保障費の問題、関わる方々のQOLの問題など、課題が山積みだったからです。
それにも関わらず、そこの業界課題を根本的に解決しているプレイヤーがいるようにも感じませんでした。
誰から頼まれた訳でもないですが、私の中での勝手な使命感が湧いてきて、この領域を、その現場の方々と一緒によくしていきたいと感じたのを今でも覚えています。そこが介護領域に決めたポイントでした。
24時間型訪問介護サービスを通じた、業界構造の転換を目指して
──創業時からはどんな変遷があったのでしょうか?
介護領域で事業を模索する中で、見えてきた部分から課題解決のための事業を行ってきましたが、2度の事業転換を経て、24時間型訪問介護事業を開始し、今に至ります。
試行錯誤を繰り返していく過程で、24時間型訪問介護というコンセプトに出会えたのは縁と偶然でしたが、時間をかけて業界の全体像を把握していたので、ここの領域からアプローチすることで、業界構造を転換し、本質的な課題解決が出来ると確信しました。
──本質的な課題とは何でしょうか。
いまの日本における介護の状況は、施設中心の構造です。施設が果たす役割も大きいですが、一方で、サービスの利用者である高齢者の希望の多くは「在宅生活」になり、そこにGAPがありました。
その要因はいくつかありますが、主要なところは「夜の介護負担」や、「急な状態変化に対する不安感」などです。
ここが要因となって、望む・望まないに関わらず、施設中心のサービス選択になる、という構造になっていました。
これは利用者のニーズに沿った選択肢がないということだけではなく、働く介護職にとっての負担や、さらには社会的な介護・医療にかかるコストの増大など、広範囲な影響を及ぼしています。
──それを解決するのが24時間型の訪問介護ということでしょうか。
24時間型の訪問介護とは、在宅で介護が受けられる「在宅介護サービス」のひとつです。夜間も含めた24時間365日訪問を前提としており、緊急時の訪問も可能です。
これは先ほどお伝えした「夜の介護負担」や、「急な状態変化に対する不安感」の解消に繋がります。結果、このサービスがあることで、施設中心の選択肢になってくる介護業界において、最期まで在宅という選択肢を提示することができます。
そして、国の政策としても「在宅」を重視した介護・医療政策が掲げられており、その方向性に合致したサービスです。このサービスの普及こそが、業界構造を変える大きな糸口になります。
──素晴らしいサービスなのですね。
ただし現状は、その期待に反して全く普及してきませんでした。
そもそも「施設」「デイサービス」「訪問介護」などの主要な他の介護市場が伸びていたことや「24時間」で「訪問介護」と聞くと「人材採用が難しいのでないか」という業界内の見方もあり、参入が増えてきませんでした。
またこちらの方が大きく、根本的な点ですが、介護事業者にとって24時間型訪問介護は収益化が難しかった為、参入後の撤退が出たり、思うように事業拡大もしてこなかったという課題があります。この課題を解決できるソリューションが必要でした。
── それはどういった課題で、どういった解決策が必要なのでしょうか。
その前に、24時間型訪問介護のビジネスモデルについて簡単にご説明します。
制度上決まっていることなのですが、一般的な訪問介護の場合、その内容、滞在時間によって1訪問あたりの売上が決まります。1訪問あたりの売上が制度上決まっている為、あとは訪問回数を増やせば増やすほど売上が上がる構造になっており、事業者は「いかに訪問するか」というインセンティブが働きます。このインセンティブの中で、多くの法人が事業を行ってきました。
またその訪問回数等のプランニングは、ケアマネジャーと呼ばれる第三者が行っています。介護の法人が自社で、最適なプランを行う機能が向上しづらい構造にあります。
一方で24時間型訪問介護の場合、月額制になっており、ひと月あたりの報酬が定額で決まっています。訪問を減らせば減らすほど、当然、利用者満足は下がりますが、一方で、訪問すればするほどコストも増えます。
またその訪問回数等のプランニングは、共同ケアマネジメント方式と呼ばれる形態の中で、ケアマネジャーと介護の法人が協働して、決めるという形になります。事業者側で、利用者の状況や満足度と収益のバランスをとりながら「訪問回数の最適化」を図ること、つまりサービスマネジメントが重要になるということです。
こういったインセンティブと業務プロセスが、これまでの当たり前であった訪問介護事業と全く異なるという点に、本事業の難しさがあります。
「PORTALL」を通じて24時間型訪問介護をスタンダードに
──そこで鍵になるのが、事業者向け業務支援サービス「PORTALL(ポータル)」なんですね。
先に説明した通り、現状は24時間型訪問介護においてサービスマネジメントを適正に行うことは困難を伴いますが、「PORTALL」を活用いただくことで、そのハードルを下げ、収益化と持続可能な事業作りが可能になります。
我々のプロダクトが普及することによって、この市場が広がり、多くの方にとって、在宅という選択肢が当たり前になる社会の実現に繋がります。これは先ほどお伝えした利用者ニーズへの合致、介護職への新しい活躍の場の創出、そして、高齢者一人当たりの社会保障の最適化につながる、ということです。私たちはそれを目指しています。
──今回の資金調達の目的を教えてください。
マネーフォワードベンチャーパートナーズ株式会社をリード投資家として、ニッセイ・キャピタル株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社、ならびに既存投資家としてANRI株式会社、株式会社ANOBAKAの計5社を引受先として、第三者割当増資を実施いたしました。調達金額は約3.3億円になります。
「PORTALL」の開発体制強化を目的とした人材採用と、当社直営の介護事業所の新規開設に充てる予定です。
私たちはこの領域が、これからの介護や医療の一番の土台になると考えています。そこに向けて、プロダクトの拡充と大きな構想に向けた事業推進をしていきます。
介護から社会構造を変えていく
──これからどんな方を採用していきたいと考えていますか?
私たちはSaaS事業を行いながら、自社でも介護事業に取り組んでいます。いくつか理由があるのですが、一つは、自社が事業運営を通じて直面する課題を、そのままプロダクト開発に活かすことができる為でもあります。またこの領域において、ベストなオペレーション自体をまだまだ作っていかなければならない段階で、人が多く介在する介護領域においては、自社で全てをコントロール出来る状態で、そのオペレーションの試行錯誤をしたい為でした。さらにはそこから成功事例を作っていくことで、この領域自体の広がりを作っていくことができると考える為です。
こうしたアプローチやその背景にある思想、そして、その先にあるクライアント、エンドユーザー、そして社会全体の仕組みの変化に関心を持っていただける方と、ぜひご一緒できたらと考えています。
──最後に、読んでくださっている方に一言お願いします。
直接介護に関わったことがない方でも、この領域は変革が必要だと感じている方も多いと思います。実際に介護に無関係でいられる人はいませんし、介護保険制度は社会保障の根幹を担う制度です。介護に関わっている当事者の方々はもちろん、多くの方が何かしらの形で関わってくるテーマの一つです。
そのような分野で、これからの社会に必要な介護の形を創り、介護から社会構造を変えていく、そういった想いに共感いただける方々と、ぜひお話しできたらと思います。