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mui Lab創業のうらがわとは? 「muiボード」ができるまでと、これから。 | mui Labのクリエイティブディレクター

こんにちは、mui Lab採用チームです。mui Labでは現在、スマートホームやIoT関連のサービス開発を行うエンジニア・デザイナーを募集しています。

今回、話を聞いたのはデザイン部クリエイティブディレクターのhirobeさんです。

デザイン部 クリエイティブディレクター 廣部 延安(Nobuyasu Hirobe)

mui Lab共同創業者兼クリエイティブディレクター。インハウスデザイナーを経て、心地の良い暮らしを情報テクノロジーを用いて実現するために、自然素材である木を使ったmuiボードを発案する。日常に存在する手触りを通じて人の生活と情報テクノロジーとの接点を探求する。

「muiボード」誕生までの物語

── mui Labを創業する前は、どんなキャリアを歩んでこられましたか?

京都工芸繊維大学を卒業し、新卒でNISSHA株式会社(以下、NISSHA)に入社しました。NISSHAは、印刷技術や電子部品、医療機器などを扱う企業です。

はじめは企画編集とデザイン制作を行なっている部署で、グラフィックデザインの業務からスタートしました。花形である美術館関連の仕事に携わりたいという想いで、色々なデザインを見たり、印刷物を集めたりと情報収集をして、自分のスタイルを模索していきました。

新卒3年目に産業資材事業という別部門に異動になり、CMFデザインという工業デザインの分野を担当することになりました。CMFとは、Color(色)、Material(素材)、Finish(仕上げ・加工)を意味し、人が触れる部分のデザインを提供します。2000年代前半は携帯電話、2000年代後半はノートPC、そして2010年代は自動車内装や家電のCMFデザインを行っていました。

NISSHAのCMFデザイナーとして約15年、国内外のさまざまなお客さんと仕事をすることができました。そこで得られた色や素材、加工に関する経験や感覚は、muiボードなどの現在のプロダクトにも活きています。

デザイン部門の管理職も経験させてもらい、10名のチームメンバーと一緒に働きながら、メンバーがデザインするための環境をどのように作っていくかを主に考えていました。

── インハウスデザイナーとして、特に工業製品の色や素材、仕上げのデザインに特化した業務を担当されていたんですね。「muiボードを作ろう」と思った最初のきっかけはなんですか?

当時、僕のデザインに対する考えの一つに「ノイズを減らしたい」という想いがありました。世の中にものや情報が溢れるほどあるなか、溜め込んできたものがどんどん「ノイズ」に変わっていきやしないかと思っていました。

一方で、それでも自分の近くに置いておきたいもの、毎日の生活のなかで触れていたいと思う大切なものは「ノイズ」とは感じず、むしろ心を落ち着けてリラックスさせてくれる印象を持っていました。

また、以前住んでいた家の近所に、心地よい音楽が流れ、光が入るカフェがありました。休日、そこでゆっくり本を読んだりしながら、「本当に心地よい空間だなあ」「どうすれば自分もこのような空間や体験が作れるのかな」と考えていたこともあります。

そんな関心事を持っている時期に、NISSHAの新規事業として考えていたプロダクトが、muiボード誕生のきっかけです。

── NISSHAでの新規事業プロジェクトがきっかけだったんですね。具体的にどのような流れで「muiボード」の形や大きさ、素材が決まっていったのでしょうか?

新規事業では、自社の取り扱う技術を使ったプロダクトを考えていました。

心地よい空間をつくりたいという想いから始めたので、「家の空間に馴染む」ということを大切にしました。

そこで、家に使われる素材を使うことで自然と馴染むと考え、木をはじめ、石、ガラス、布といった素材をつかって最初のプロトタイプをつくりました。CMFデザイナーとしての経験から、様々な素材が光を透過するということは知っていたので、光源が素材を通してどのように見えるかを実験していきました。

いくつかの素材で最初のプロトタイプをつくって、ニューヨークで開催された展示会に出展したところ、木の素材への反応が一番良かったのでした。「かわいい!」などの反応が多く、その後の検証でも、人は木のインターフェースに対して最も「温かみ」を感じているということを実感し、muiボードに木を使うことを決めました。

機械でありながら、画面に触ることを通じて「木に触れる」という体験ができる。さらに、タッチ入力ができると、色々なインターフェースが作れます。木を通して情報が浮かび上がることで、どことなく柔らかい印象が出せそうなことも想像でき、そのためにオリジナルでフォントを準備したいということも初期の段階から考えていました。

大きさや形についても、多くの試作品をつくって検討するなかで、一番大切にしたのは「空間に置かれたとき、最も存在感が消えて、見えなくなる」ということです。

── 「家の構造物の一部」のようになり、存在感が消えるということに、徹底してこだわっているのですね。

そうですね。細長い木片のような佇まいは、家の中の手すりや棚、木の装飾のように溶け込みやすいと思いました。

muiボードは、画面表示ができるディスプレイ領域の横幅が製品自体の横幅よりも小さく、左側に寄っています。設計者からは「右側のディスプレイ表示がない部分は、省いてしまってもいいですか?」と聞かれたのですが、僕はこの長さがあるからこそ、何も表示していない時に「家の構造物の一部」に見えるような、「一片の木片」という感じがでると思いました。そのため、余分ではなく必要な長さとして製品のサイズになっています。

そうしてできあがった最初の製品「muiボード 第1世代」をローンチし、自宅で家族が自然と使っているのを見ると、より家族が使いやすいものにできたらなと思うようになっていきました。

「muiボード」からはじまったmui Labの軌跡

── その後お子さんたちも成長されたと思います。家族のなかで数年にわたりmuiボードを使ってみて、いかがでしょうか。

muiボードの話から少し離れますが、子どもたちとテクノロジーとの関わり方については日々考えさせられます。自分の子どもたちにもスマートフォンを持たせているのですが、正直複雑な気持ちです。

子どもの友だちの多くがスマートフォンを持っているので、連絡手段や会話のネタにもSNSやYouTubeの話題が多く、自然と動画コンテンツの視聴時間が多くなったり、スマートフォンで友達に返信するために、画面を見る時間が多くなっています。

「スマートフォン」という手の中にすっぽり入る道具ひとつで、SNSや面白い動画を見ること、電車の定期券としての機能から買い物まであらゆる物事ができます。そして過去の情報をもとに、さらなるサービスの提案がひっきりなしに来たり、購入をそそのかすような誘惑に、大人でさえも、いとも簡単に導かれたりします。それほどとても人の心を掴み取ってしまうのがスマートフォンという道具だと思っています。

muiボードを作っている僕の家でも、こんな問題があるんですよね。

hirobeの自宅のようす。家族それぞれが別々のデバイスに注目している。

── なるほど。最近では、人の意識や注意を奪ってしまうような仕組み、「アテンション・エコノミー」という言葉が注目されることも増えてきましたよね。一方で、近年mui Labはソフトウェア開発事業でスマートフォン向けアプリを提供する機会も増えています。また、mui Labが提供するサービスとしてhirobeさんが大切にしていることはありますか?

一番は、「スマートホーム」という市場で、muiボードが当たり前に使われる未来を想像しています。

そのためにはまず、まだ世の中に浸透しきっていない「スマートホーム」の快適さや便利さなどのメリットをサービスとして広く実現したり、コミュニケーションで伝えたりして、市場自体を作っていく必要があります。

今の段階では、すでに世の中に浸透している「スマートフォン」を使うことで、それが一番早く実現できるのではないか、その過程で、いまmui Labが開発を担わせていただいているさまざまなプロジェクトにも貢献できるのではないかと思っています。

先ほどの写真のような家族のようすを見ていると、正直、「スマートフォンのアプリをつくる」ということは本当に正しいのだろうかと考えたこともあります。しかし、いまのスマートフォンやテクノロジーのあり方に違和感を持っていたり、「きっともっとよりよい体験づくりができるはずだ」と信じている僕たちだからこそ、よりよいものが作れるとも思っています。

クライアント企業の担当者の方々も、「muiボードという製品を生み出したmui Labであれば、本当の意味で人の役に立つ情報テクノロジーと人の関係をつくっていけるのではないか」という期待のもとで、プロジェクトを依頼してくださっているのを感じます。

── muiのプロジェクトの進め方やデザインの考え方をとてもよく理解し、共感して任せてくださるクライアントが多いのですね。

そうですね。クライアントからの要件を確認しながら相談を重ね、柔軟にUIや体験づくりを検討していきます。例えば、三菱地所さんのスマートホームアプリ「HOMETACT」のデザインでは、「エナジーウィンドウ」というUIを新たに設計しました。

窓のなかに、森の自然や動物たちの姿が映し出されています。前日のエネルギー使用状況がよいと、動物たちは生き生きとした様子に、改善ができる場合は森の様子に元気がなくなります。

エネルギー使用の状況がよいと左のような画面に。エネルギー利用に改善の余地があると右のような画面になっていきます。

電力の使用量などを示す情報を、情報が羅列されているグラフだけではなく、子どもと一緒に感覚的に見れるもので提供したいと思い、このUIになりました。

僕自身に、このサービスを「家族で使う」というイメージがあったり、「わかりやすさ」や「実感」を大切にしたいという想いがあるので、アプリデザインのセオリーとは別の観点で提案を実現できた例かと思います。

── インターンを含め、デザインメンバーも続々と増えています。さまざまなバックグラウンドや強みを持つメンバーが同じ方向を見て仕事が進められるよう、mui Labにはデザイン・プリンシプルがありますね。

複数のデザイナーでプロジェクトを行うなかで、社内でmuiのデザインのとらえ方について拠り所となるものが必要となってきました。僕もデザインに関して、自分のなかで大切にしていることを言語化する必要があると思っていたので、この先関わるデザイナーが増えていくことを考えるとちょうどよいタイミングだと思い、社内メンバーで集まり、muiのデザイン・プリンシプルをつくりました。

muiボードだけでなく、スマートフォンアプリなどのプロダクトのデザインの際も、デザイナーたちがデザイン・プリンシプルを参照し、「どうすればmuiらしいデザインになるか」を考える指針にしてくれています。

── muiボードはデザインだけでなく、機能の面でもタッチパネルディスプレイを持つ他のスマートデバイスと異なる点が多くあると思います。muiの社名は「無為自然(むいしぜん)」という言葉が由来になっていると思いますが、何か東洋特有の考え方にヒントを得ていることはありますか?

海外と日本のデザインに対しての考え方の違いの例を話してみたいと思います。

例えば、欧米の食卓には主にナイフとフォークがあり、正式な食事になれば、それぞれの料理に合わせたナイフとフォークのセットが用意されています。テーブルに並んでいるものを順に使っていくものですね。料理に合わせて大きさや形が最適に作られていることが多いです。

一方で、日本ではもともと「お箸だけ」ですよね。食事に合わせて変えるのではなく、お殿様から村人たちまで、基本的にお箸という一種類だけをつかい、「ツール」ではなく「使い方」をうまく変えたりコントロールしたりして、食事をしていました。

使う人が工夫して、食べ物をうまく食べやすい形にしていくことが求められますし、それを使いこなすことが人に求められているように思います。結果として、一つの道具でさまざまな料理を食べることができるような食事の方法となっていると思います。

このように、道具は使い方しだいで、いかようにでも使うことができるのではと考えています。

またそんな道具は、人が工夫をして使い方を少しずつ変化させるのに適応できるよう、「シンプルなつくり」であるのではと思っています。

muiでは、スマートフォンアプリなども用途を決めた上でデザインや設計を進めていきますが、そのできたものに対して、人が使い方などを加える余地が残されていると、いくつかの状況にもうまく対応できるものになるのではないかと思っています。

muiの思い描くスマートホームの「これから」

── hirobeさんの思い描く、理想的なスマートホームのあり方を教えていただけますか?

スマートホームの現状での一般的なイメージは、「家が全自動で動いて、人が待っているとお茶をロボットか何かが運んでくる」ようなイメージではないでしょうか?

しかしそれでは、人が「自由に動く」というよりも、「人がオンラインゲームや動画の視聴を永遠に続けられる」というような未来なのではと思っています。

僕の考える「未来のくらしの当たり前」は、人がしっかりと目の前のことに注目して、ものを大切にできるとか、一緒にいる家族との会話を楽しむことができるということが最優先にあります。

それをうまく補助するような形で、情報テクノロジーが生活の周りにひっそりと編み込まれているようなイメージです。

2022年にミラノサローネで発表した、「生活に溶け込む美しいIoT」のコンセプトはカームテクノロジーの考え方をベースにおきながら、人が生活する中で、意識することなく「家」が「人」の行動に合わせて、空間を調整していくことができればということを表現していました。

たとえば、朝カーテンを開ける、という習慣をテクノロジーがやってしまうと、人が朝日を浴びて今日の天気を確認するとか、窓際の植物の様子を見る、というような暮らしの習慣まで奪ってしまうかもしれません。

また、「食卓を拭く」という動作は、その後の食事を快適に行うための準備でありながらも、一緒に食べる家族や友人のために行っていることです。

こういった準備や、暮らしのなかでの意図を、家もうまく認識することができれば、人の手間を少しだけ手助けすることができないか。

また、最後は人が好みの状態への調整を簡単に加えることができ、それによって、人が求める状態を完成させるようなことができると、とても快適でリラックスできる空間になるのではないかと思っています。

── mui Labのミッション「⼈と⾃然とテクノロジーが穏やかに調和した ⼼ゆたかなくらしと社会を創造する」について、hirobeさんの解釈で教えてもらえますか?

人と自然のテクノロジーが調和することができれば、くらしと社会は心豊かになる、という仮説ですね。

「心豊かなくらし」をしっかりとイメージできるかが大切だと思っています。

「豊か」ではなく「心豊か」なので、物質的な豊かさではなく、心理的な安心感なども含まれた豊かさ、なのだろうと思っています。

そのためには、テクノロジーに「自然の叡智」をうまく活かすことができれば、人にとって有用なものになるのではないかと思っています。

自然の原理というのですかね。太陽が登ると暖かく感じるとか、暑い日には風が吹くと心地よいとか、雨でジメジメするけれど、そのあとは涼しくなるとか、これまで長きにわたって経験してきたことを全て無くしてしまうのではなく、良いところと良くないところを少し調和していくことができれば良いのではと思っています。

── ありがとうございます! 最後に、mui Labのデザイナーとして一緒に働きたい人はどんな人ですか?

暮らし方になんらかの「こだわり」を持っている人ですかね。

「家をどう思っているか」というのは聞いてみたいと思います。家が落ち着く場所であったり、家族の時間もその他の時間も好きな人、未来を創ることに関心がある人。それぞれ、家というものの捉え方かと思うのです。

我が家に友人や子供たちの友達などが集まってワイワイできるとき、このうえなく幸せだなと思っています。みんなが集まれる家があって、楽しく話したりご飯を食べたり、テレビゲームをやりながらワイワイしているのがとても好きです。

仕事もこれに似たような感じでできないかなと思っています。簡単ではないと思うのですが。

私たちには働くために最適化された「オフィス」という場所がありますが、家に友達を呼んで一緒に宿題をやっている子供たちを見ると、このように働くことができないかなと感じます。わからないことがあれば聞くし、自分がわかることがあれば教えてあげる、疲れたら一緒におやつを食べるとか。

一緒に何かを作るというのは、こんなことではないかなと思っています。

それが一緒にできるような人って、どんな人なのでしょうね?


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