突然ですが、皆さんは鉄道の点検がどのように行われているか知っていますか?
毎日当たり前のように走っている電車の裏側では、線路、橋梁、トンネル、電柱など、膨大な数の設備が人の手によって、時間と労力をかけて点検されています。
その「当たり前」を、少しずつ変えていこうとしているのが、現在私たちLiberawareが取り組んでいるProject SPARROW(鉄道SBIRプロジェクト)です。
―Project SPARROWとはどんなプロジェクトか?
このプロジェクトは国土交通省が推進する「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3基金事業)」において、「鉄道施設の維持管理の効率化・省力化に資する技術開発・実証」(補助金 交付決定額:52 億円)として採択された国家プロジェクトに位置づけられる取り組みです。社会インフラの持続可能性を支える技術として、大きな期待を受けながら開発・実証を進めています。
(※SBIRとは、スタートアップや中小企業による革新的な研究開発を促進し、その成果を円滑に社会実装することを目的とした制度です。)
一言で表すなら、「社会に不可欠な鉄道インフラを、ロボット技術で未来につないでいく取り組み」。本プロジェクトでは、ドローンをはじめとしたロボット技術を活用し、鉄道設備の点検・調査をより安全に、より効率的に行うことを目指しています。
―なぜ、今このプロジェクトが必要なのか?
鉄道インフラは、人や物を運ぶ都市機能の根幹です。もし鉄道が止まれば、都市は簡単に麻痺してしまいます。しかしその一方で、鉄道業界は大きな課題を抱えています。
- 設備の老朽化(平均経年50年以上)
- 自然災害の激甚化・頻発化
- 点検・保守を担う人材の不足
- 線路内作業による「触車」「感電」「墜落」といった安全リスク
- 膨大な時間とコストがかかる点検業務
それでも、「点検をしない」という選択肢はありません。安全な列車運行を守るためには、確実な点検と保守が不可欠だからです。
―ドローンで「当たり前」を段階的に変える
そこでこのプロジェクトでは、ドローンという新しいロボット技術を使って、鉄道設備を点検するという挑戦を行っています。
ただし、「ロボットが全部自動でやってくれる未来」をいきなり実現できるわけではありません。鉄道という特殊な環境では、
- 走行中の列車との安全な回避の実現
- 電磁波・風・雨など外乱の影響
- 機体サイズや飛行時間などの制約
- 安全な自動飛行を支えるセンサー技術や制御技術
など、技術的なハードルが非常に高いのが現実です。だからこそ鉄道SBIRは、ステップ・バイ・ステップで実現していくことを前提としています。
一つひとつ技術を検証し、一つひとつ事業として成立させながら、少しずつ「できること」を増やしていく。この考え方が、国の補助事業であるSBIRとして進められている理由でもあります。
(試験飛行の様子)
―Project SPARROWが目指す姿
Project SPARROWでは、
- 鉄道特有の環境に対応した屋外自動飛行ドローンの開発
- 列車情報と連携した運行管理システムの開発
- デジタルツインによる鉄道環境の可視化、維持管理
を組み合わせ、包括的な点検ソリューションとして現場投入することを目指しています。
人が危険な場所に行くのではなく、ドローンが人の代わりに働き、人は安全な場所からそれを支える。これは、Liberawareが「IBIS」でこれまで取り組んできた思想とも重なります。将来的には、
- 災害時に鉄道の運行が再開できるかどうかをドローンが自動で確認する
- 山間部での崖崩れの兆候を自動で調査する
など、緊急時における巡回や、災害発生時の迅速な状況監視といった、点検にとどまらない活用も視野に入れています。少しずつ確実に「今までの当たり前」を変えていく。それがProject SPARROWです。
≪プロジェクト名「SPARROW」に込めた想い≫
「SPARROW」は、Specialized Aerial Remote Railway Observation Work platform
の頭文字から名付けられました。同時に、都市部から農村部まで幅広く生息する「雀(SPARROW)」のように、日本社会にとって身近で、当たり前の存在になりたいという想いも込められています。(※本名称はプロジェクト名であり、将来の製品名・ソリューション名とは異なります。)
・
・
・
~Voices from the Project~
Project SPARROWには社内外たくさんのメンバーが関わっているのですが、本日は代表して4名「有川さん(技術開発部):鉄道SBIRの開発プロジェクトマネージャー」「舟迫さん(SBIR事業開発部):事業開発、システム開発担当」、「佐藤さん(技術開発部):ドローンの自動飛行に関するソフトウェア開発担当」、「不動さん(技術開発部):ドローンの機体設計担当」にお話をお聞きしました。
(左:舟迫さん、左奥:有川さん、右奥:佐藤さん、右:不動さん)
―本プロジェクトに携わる中で、どのような点に面白さを感じていますか?
佐藤:
今回のプロジェクトで一番大きなテーマの一つは、ドローンの安全性の担保です。自動で飛行するドローンが、意図しない方向に飛んでいかないことや、他の物体と衝突しないことを保証する仕組みを、プログラムとして作り込む必要があります。しかし、現実のセンサーから得られる値は必ずしも正確ではありません。ノイズが入ったり、測定が失敗したりすることもあります。そうした不確実性も考慮しながら、確実に安全に飛ばせるドローンを作ること、これは非常に難しい挑戦です。
その一方で、この難しさこそが技術的に面白い部分でもあります。ドローンは目に見える動きがあるため、作ったものがすぐに視覚的に確認できるのも楽しいところです。さらにソフトウェアのエンジニアとしては、アルゴリズムを組み立てる余地が多く、三次元空間での計算や推定精度をどう高めるかなど、研究的な面白さも感じられます。課題をクリアした瞬間も嬉しいですが、私自身一番楽しさを感じるのは課題を解決する過程そのものです。「どうしよう、これをどうやって解くか」と試行錯誤する時間こそが、技術者として燃える瞬間であり、このプロジェクトの醍醐味になっています。
舟迫:
鉄道SBIRプロジェクトの面白さの一つは、苦労の多さにあります。もちろん、毎日の開発は大変です。でも、その大変さこそが自分にとって学びと挑戦の源であり、楽しみでもあります。プロジェクトでは多くのメンバーと協力し合わなければならないので、コミュニケーションをどうとるかが大事になります。単に会話するだけでなく、各々の得意な方法でアウトプットすることが有効だと感じていて、例えば私の場合、文章を書くのが得意ではないけれど、ソフトウェアや映像など、形として見えるものを作ることができる。そのスキルを活かして、自分の考えをプロジェクトメンバーに伝えるようにしています。実際、作ったものを見せることで、意見や反応をもらえますし、プロジェクトも前に進んでいくのを実感できます。
不動:
正直に言うと、今はかなり大変です。
でも同時に、これまでやってきた仕事の中で、一番面白いフェーズでもあると感じます。
このプロジェクトの面白さは、難しいからこそ、新しい技術の芽が必ず見つかるところにあると思っています。今取り組んでいることが、将来まったく別の機体や技術につながる可能性もある。そういう感覚があるから、苦労も前向きに受け止められるんですよね。
前職では、決められたマニュアルやフォーマットに沿った積み上げ型の開発が中心でした。今のプロジェクトではその型がなく、検証方法や装置そのものを一から考える必要があります。試行錯誤は多いものの、「何をどう検証すべきか」を自ら定義できる点に大きな面白さがあります。研究と開発の距離も近く、アイデアがすぐに試作・検証され、そのままプロダクトに反映されていく。研究が現場や製品と地続きで進んでいる感覚です。スピード感があり、失敗も前提となる厳しさはありますが、新しい領域に挑戦しているからこそのやりがいがあります。「大変だけれど楽しい」「苦労はあるけどワクワクしている」、そんな状態を象徴するプロジェクトだと思っています。
(八街実験場での作業風景)
―Liberawareと言えばIBIS(屋内点検用ドローン)ですが、IBISと鉄道SBIR事業で違いを感じる点はありますか?
舟迫:
鉄道SBIRプロジェクトの一番大きな特徴は、「人や社会のすぐそばで飛ぶドローン」だという点です。IBISは屋内点検用のドローンです。工場や倉庫といった、人の出入りや環境条件がある程度コントロールされた空間で使われます。仮にドローンが落ちたとしても、人や社会インフラへの影響は限定的です。
一方で、鉄道はまったく違います。鉄道の周辺には、人がいて、建物があって、そのすぐ横を列車が高速で走っています。そんな環境の近くをドローンが飛ぶ以上、「とにかく安全であること」が絶対条件になります。鉄道でドローンが落ちれば、列車は止まり、社会に大きな影響が出ます。そもそも、鉄道の運行を支えるためにドローンを使うのであって、運行の妨げになってはいけない。だから鉄道SBIRでは、単に自動で飛行するドローンを作っているわけではありません。複数のセンサーや制御システムを組み合わせ、一箇所に不具合が起きても、飛行を継続できる冗長化された安全設計をしています。
ハードウェアだけでなく、ソフトウェアや制御技術も含めて、複合的に安全を担保している。この「周囲の安全を前提にした設計思想」こそが、IBISと鉄道SBIRの決定的な違いです。
有川:
IBISとの比較で考えると、価値の軸は共通しています。それは、人が危険な場所に行かずに、ドローンが社会インフラを点検するという、安全に見えないリスクを可視化していく本質的な価値です。
違う点と言うと、社会性という視点でサービスの特徴は変わってくるだろうと考えています。鉄道は、多くの人の目に触れる社会インフラですし、工場やプラント、下水道のような一般の人が立ち入らない場所ではなく、生活に寄り添った身近なものです。だからこそ、鉄道内でドローンが安全に飛行できるようになれば、ドローンという存在そのものが、より一層社会に認められていく。技術の社会実装という点で、非常に意味のあるステップだと思います。
また、鉄道環境は「飛行する場所が鉄道事業者の私有地である」「人の立ち入りが禁止されている」など、公共空間とはいえ半分は制御された空間であり、インフラ点検の自動化にチャンレンジする場として、現実的で最適なフィールドでもあります。
ドローン点検サービスとして社会性が求められ、技術的な難易度がありながらも現実的に社会実装していく挑戦ができる。それがこのプロジェクトの面白さであり、価値があることだと感じています。
(八街実験場での作業風景)
―なぜこれまでは鉄道を、ドローンで点検することは難しかったのでしょうか?
有川:
鉄道をドローンで点検する。言葉にするとシンプルですが、実は長い間「やりたくてもできなかった」領域だと思っています。絶対に落ちない前提で設計しなければならない。この要求水準が、これまで鉄道×ドローンを難しくしてきました。
難しくしていた理由のひとつとして、技術が追い付いていなかったということが言えると思います。コンピュータの計算能力の進化や、通信技術の進化、自動運転などの自動化技術の進化など複数の技術がほぼ同時に実用レベルまで成熟し、ドローンでの点検というものが世の中でも一般的になってきました。鉄道環境で絶対に落ちない安全なドローンを遠隔で自動制御する、というひと昔前では想像できなかった技術が実証段階にきたのだと思います。
不動:
さらに、カメラやセンサーの小型化・高性能化ですね。高解像度でありながら軽量な機器を積めるようになったことで、「見たいものを、必要な精度で見る」ことができるようになった。そして重要なのが、これらすべてを“軽さ”と両立できるようになったことです。ドローンは重くなれば飛べません。バッテリーを積み、センサーを積み、制御系を積みながら、それでも40分飛び続ける。これは、過去の技術では物理的に成立しなかった領域です。つまり今は、「一つの革新的技術が生まれたから」ではなく、複数の技術が同時に揃ったタイミングなんです。
(八街実験場に設置している線路で飛行実験中の様子)
舟迫:
あとそこにもう一つ、社会側の変化があります。鉄道インフラは老朽化が進み、点検を担う人材も不足している。危険な場所に人が入って作業を続けることにも、限界が見え始めている。「点検しなければならない」「でも人だけでは続けられない」この状況が、ドローンのようなロボット技術を本気で社会実装しよう、という動きを後押ししています。SBIRは、そうした「今まさに必要とされているが、まだ簡単にはできない」領域に対して、段階的に挑戦するための仕組みです。
(大盛況だった鉄道技術展の一幕)
―このプロジェクトを進める上で、大事な点・特に大切にしている点は何ですか?
有川:
このプロジェクトで目指しているのは、単にドローンを飛行させて点検することではなく、開発した技術を社会的に意味のある形で届けることです。世の中のドローンに馴染みのない人でも『これすごいね』と感じてもらえるような、わかりやすい価値を作ることが大切です。技術者として制御や動作の面白さは分かっても、社会に伝わる形にすることはまた別の挑戦です。
不動:
開発の過程で特に重要なのは、お客様との期待のすり合わせです。現場の人たちからの要望は必ずしも技術的に整理されておらず、言葉通りに形にするだけでは、真に求められている成果にはなりません。だからこそ、開発者は要望の背景を読み解き、現実的に実現可能な形に噛み砕いて伝える必要があります。
時にはお客様の期待がずれ、現場で喜ばれる部分が人によって異なることもあります。その場合は、個別の部分ではなく、プロジェクトが目指す将来像や価値に焦点を当て、ステップごとに積み上げていくスタイルを意識します。こうしたコミュニケーションを重ねながら、まだ完成していない製品を調整していくプロセスは、骨が折れる一方で大きなやりがいがあります。
佐藤:
プロジェクトは単なる技術開発ではなく、Liberawareでしか出来ないことの追求でもあると感じています。私も含め携わるメンバー全員が、〝自分たちだからこそ実現できる技術やプロダクトを通じて、Liberawareのミッションでもある「誰もが安全な社会を作る」ことに貢献する〟意識を持っています。大手企業では踏み込みにくい領域に挑み、新しい価値を生み出す挑戦が出来ることはLiberawareだから出来るチャレンジですね。
―最後に、これからどんな方と一緒に働きたいですか?
舟迫:
Liberawareではスタートアップ特有の柔軟性と、安心感のある社風が融合し、多様なバックグラウンドを持つメンバーが自然に馴染み、力を発揮できる環境が整っています。
その中で求められるのは、単なるスキルや経験だけではなく、「ミッション・ビジョン・バリューに共感できる人」であることはもちろん大事ですが、それ以上に、自発的に挑戦したいという気持ちを持っている人が理想です。変化やチェンジを楽しめる人、冒険心を持って世の中に何かを届けたい人と一緒に仕事ができると、プロジェクトの可能性も広がると信じています。