なぜ東大で建築を学んだ一級建築士が、モビリティの事業開発支援の仕事をしているのかを、聞いてみた
株式会社AMANEはアーバンテックを活用した事業開発支援を行なう会社。同社が支援を行う先、つまりクライアントには多くの交通事業者が名を連ねています。
交通事業者が提供するのは「移動性」「動きやすさ」「可動性」のモビリティ(mobility)のサービス。かたや今回のストーリーに登場する齊藤さんは「建築」(architecture)という「構造物」の設計を学んできた人物。
齊藤さんの歩みを深掘ることで、株式会社AMANEの仕事内容、そして求める人物像も見えてきます。日頃、齊藤さんと一緒に仕事をしているリガーレのライターが、齊藤さんの横顔・プロフィールについて聞きました。
【齊藤 せつな】取締役
東京大学大学院にて都市デザイン・建築設計の研究を行う。大学院での修士論文を元に「小さい交通が都市を変える」を出版。都市構想家・建築家である大野秀敏氏の建築設計事務所にて建築設計・都市デザインの仕事に5年間従事した後、現職。一級建築士。
建築からモビリティへ
――まずは齊藤さんが「建築」を専攻した理由を教えてください。
齊藤:高校生のときから「デザイン」と「社会学」に興味がありました。この2つを総合したものが私の場合には「建築」でした。別に実家が家業で建設業を営んでいたわけでもなく、幼いころから飽きずに橋やダムばかりを眺めていた子…でもなかったんです。バドミントン部の部活動を思いっきり楽しんでいるような高校生でした。
東京大学に入学し工学部建築学科で学びましたが、その中で2つの力を身に付けることができました。一つは「複雑な情報を一つの形にまとめる力」、もう一つが「表現する力」です。
そういう力を身に付ける一方で、「日本社会の縮小化」という課題・不安もより具体的に感じ始めていました。縮小社会になると建設需要は伸び悩みます。人口減少による空き家問題などもすでに取り沙汰されていた頃で、「今までと同じじゃダメなんだ」という危機感を私以外の学生も感じていました。
そこで大学院へ進み、新領域創成科学研究科環境学で都市計画を研究しました。まさにテーマは「縮小社会における都市計画」です。ちなみにこの新領域創成科学研究科は「学融合」が一つの特徴で、理系・文系の人材が混ざり合って研究していました。哲学を専攻してきた人もいていろんな刺激をもらいました。
大学院で研究を進める中で「人口減少が進むほど、モビリティが重要になる」こともわかってきました。よくコンパクト・シティ構想が取り上げられますが、現実的にはなかなか厳しいです。土地にはそれぞれ持ち主がいて、その土地を手放してでもコンパクト・シティに賛成だという地主はそんなに多くはいません。それでも便利な街をつくりたい――。そのカギになるのが「モビリティ」だと考え研究を深めました。修士論文を元に『小さい交通が都市を変える』という本も出版しました。
齊藤と大学院から一緒の佐藤さんと日々ディスカッションしながらプロジェクトを進めています。右が齊藤。
設計事務所で広域計画のマスタープランも経験
――大学院を修了した後は、実際に建物の設計をしていたのですか?
齊藤:はい。大学院の研究室の教授であった大野先生の事務所で、一級建築士の資格も取得しました。工場や福祉施設など多様な建物の設計をしました。ある案件では工場と音楽ホールを併設させるユニークな設計も経験し、広域計画と呼ばれる建物+近隣地域のマスタープランの作成にも携わりました。小規模ですが都市計画のプランニングとも言える内容で、「都市レベルでモノを考えるのってやっぱり楽しい」とあらためて実感しました。
設計事務所で5年間経験を積み、そろそろ独立を考えるような時期に差しかかりました。そんなタイミングで出会ってしまったのが、株式会社自動車新聞社で現在当社のCEOも務める井上が執筆した『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』という本でした。読んだ直後の感想は「おおー! まさにこれだ」。私は大学院でモビリティをテーマにしたころから、「建築」×「モビリティ」の2軸で行こうと考えていました。近いうちに時代は変革するだろう、そのときが来たらモビリティの世界に飛び込もうと思っていたのですが、すでにその時代が始動しはじめていました。そこで井上とコンタクトを取り、ちょうど井上も同時期に新しいビジネスを考えており、そこから株式会社AMANEが誕生しました。
左が齊藤が大学院の時の共著書「<小さい交通>が都市を変える」。右が代表の井上の共著書「Beyond MaaS」。
AMANEが求めている人材
――株式会社AMANEはどんな仕事をしているのですか?
齊藤:一例を挙げると、ある交通事業者のモビリティサービスの実装支援や、ある住宅地におけるモビリティハブを活用した賑わいの創出。また自動運転車両の実用化に向けた技術と安全を含めたサービスの検証なども行っています。他にも当社をハブにして事業者同士を引き合わせ、協業支援・アライアンス支援も行っています。
こう話すと順調にスタートしたように思われますが、私が取締役として実際に動き始めたのは2020年1月。折しもコロナ禍の始まりと重なってしまいました。移動そのものができず、仕事も取れず、本当に苦戦ばかりでした。しかし徐々に複数のプロジェクトが動き始め、仕事も取れるようになり、苦労したことでかえって自分たちは何が得意なのかがわかるようになりました。
――苦労したことで気付いたAMANEの得意なこととは?
齊藤:メンバーそれぞれに高い専門性があり、それをプロジェクトにうまく活かせることです。新しいモビリティ・サービスのシナリオを考えるのは井上、そのサービスに建築の知識を反映させながらインフラ設計をするのが私と佐藤、それを支えるシステムを構築するのが斉田。とても小さな会社ですが「サービス開発」「空間・インフラ設計」「システム開発」に長けた人材がここに集まっています。
――では、あらたに加わってほしい人材とは?
齊藤:プロジェクトを動かせる人です。そしてAMANEにしかできない融合型の提案ができる人です。今の私たちに足りない専門性や人材を挙げるとしたら、広告系・マーケティングの専門性、自動車業界や自動車そのものに詳しい人、戦略が考えられる人。小さな会社なので営業から企画、進捗管理まで、全工程に携わっていくことになります。もっと本音で言うと、算盤をたたきながら経営戦略的なことを考えられる人です。
とりわけモビリティ・サービスにおけるプロジェクトは、縦割りになっている考えやプランに、横から串を刺すことで初めて成り立つプロジェクトが多いです。そういう意味でも、今のAMANEのメンバーが持っていない分野の専門性を持つ人材が欲しいです。
職種を一言で表すとなると、プロジェクト・マネージャー、ビジネス・ディベロッパー、事業開発、すべてが当てはまります。もう本当に私たちは今、手一杯で…。締め切りを絶対に守るという強い気合の人にもぜひ来てもらいたいです(笑)
新しい領域のサービスに、私たちは今挑戦しています。「サービス」「インフラ」「システム」を組み合わせて提案できるという、他にはない大きな強みを当社は持っています。大げさではなく「次の時代をつくりたい」そんな夢を実現できる仲間はそろっています。建築を学んでいたとき「ただ建物を造るだけでは人は動かない。人を動かすにはストーリーが必要だ」と教えてもらいました。人を動かすストーリー、モビリティ・サービスを一緒に作っていきましょう!