昭和の頃、大阪の喫茶店ではアイスコーヒーは「冷コー(レーコー)」で通っていました。
懐かしく感じられる方もおられるのではないでしょうか。
錢屋カフヱーの「アイスマンデリン」は冷たい苦みが涼しい、この懐かしい冷コータイプです。
それとは別に「サマーブレンド」というアイスコーヒーを期間限定で提供しています。
これは「麦茶はストローで飲まない(だから美味しい)」という言葉がきっかけになって生まれました。
グラスに鼻先を入れて芳ばしい香りを楽しみながらゴクゴク飲める、さわやかな酸味のスッキリタイプです。
ストローを使わないことをお勧めしているのでグラスを傾けて飲むことになるのですが、戻した時に氷の音が響きます。
カタチのないデザイン
この音が涼やかであって欲しいので、そういうグラスを探そうとして食器店の店頭で「水と氷を入れて音を聞かせて」と言っても普通は応じてもらえません。
商品開発の段階でグラスのデザインに音を求める発想がなければしょうがないことです。
実は、ある作家に錢屋プリン専用のスプーンを注文しているのですが「すくったプリンの跡が綺麗に見えるようなスプーンを」とお願いしました。
面白がりながらも少し困ったように「少し時間をください」と言われたので「もちろん待ちます、忘れた頃に届けば良いですよ」と笑って応じました。それから2年ほど経ちますが、まだ届きません。
作家さんが呆れて諦めたか、忘れてしまった可能性もありますが、約束した通りに待ってみます。
グラスに響きの美しさ、スプーンにプリン側の断面の美しさを求めた訳ですが、ポイントを少しずらした楽しみ方は、その意外さに気が付けば、とても楽しいと思います。
これは趣味の登山で高山に登った時に鳥の鳴き声が足の下から聞こえてくることに気が付き、その非日常感がとても心地よく、幸せな気持ちになったことがヒントになりました。
こんな話をしていたら知り合いが「今の蛇口は出てくる水の形状をデザインしている」と教えてくれました。
蛇口そのものの形状に留まらず水やそこに含まれる空気の量を調整し、水撥ねを抑えながら水流が美しく見えるようにするのだそうです。
「カタチづくること」がデザインであるとは限らず、カタチといえなくとも心象に浮かぶ何かがデザインの対象と言えるのかも知れません。
涼しさ、懐かしさ、心地よさ、安心感、期待感、等…何であれ求められる何かを感じさせることができたならば、それは優れたデザインと言えるのでしょう。