海外事業に携わるために大企業へ入り、順調に経験を重ねてきた。それでも、「もっと世界へ飛び出したい」「自分にしかできない仕事がしたい」と、どこかでくすぶっている……。
大手総合商社で約10年間、海外営業やタイ現地法人の経営などに携わった渡邊 海は、そんなモヤモヤを抱えていたと当時を振り返ります。幅広い能力を身につけながら総合力を高めていくキャリアに違和感を覚え、2025年にcool-japan株式会社へ参画。現在はCOOとして、独自開発した冷凍寿司「碧寿司(みどりすし)」を世界へ届ける事業を牽引しています。
大企業から少数精鋭のスタートアップへ経営人材として飛び込み、渡邊は何を得たのか。海外事業の最前線で感じるやりがいや、これから共に世界へ挑む仲間への期待を聞きました。
(登場人物)
cool-japan株式会社 COO 渡邊 海
大学卒業後、国内大手総合商社にて物流・サプライチェーン領域の事業管理・開発および法人営業に従事。タイ現地法人における経営実務にも携わり、海外事業の現場理解とマネジメント経験を積む。2025年にcool-japanへ参画。事業戦略立案および全社統括を担い、現場で培った実務感覚と経営視点を融合させ、より多くの顧客に価値を届ける事業づくりに取り組む。
総合力を高めてきれいな円を描くより、もっと自分を尖らせる道を選んだ。
—渡邊さんは大手総合商社からキャリアをスタートしているんですね。
新卒で大手自動車メーカーグループの総合商社に入社し、約10年間勤務しました。私はもともと海外で働くことを強く意識していて、大学も授業がすべて英語で行われるところを選び、在学中には留学も経験したんです。
留学中には、日本のものづくりの素晴らしさに気づきました。たとえば、海外で購入するノートは罫線が歪んでいることも珍しくありませんが、日本製のノートは罫線がきれいに引かれていて書き心地も抜群。そんな気づきから、「自分も日本の強みを海外へ広げる仕事がしたい」と考え、商社へ進みました。
—商社ではどんな仕事を経験したんですか?
最初に担当したのは、自動車が顧客のもとへ届くまでの物流構築です。ミャンマーやケニアなど、物流網がまだ十分に整っていなかった国々で事業の立ち上げに携わりました。
その後はタイに約5年間駐在し、自動車部品の物流を通じて現地の生産を支える会社の経営を担いました。もともと上司には「なるべく早く経営側へ進みたい」と伝えていたんです。当時から少し生意気だったので、「そこまで言うならやってみろ」と任せてもらえた面もあったのかもしれません(笑)。
—順調にキャリアを重ねていた中で、転職を考えるようになった理由が気になります。
大企業で10年働くうちに、自分の能力がだんだん「きれいな円」になっていく感覚がありました。さまざまな経験を積むことで総合力は高まります。一方、大組織の中でキャリアを築こうとすればするほど、会社の考え方や仕事の進め方に適応して、尖った部分を丸く整えていくことも求められます。
私は次第に「このまま円をきれいにしていくことが、本当に自分の望むキャリアなのか?」と疑問を感じるようになりました。
整えられた仕組みの中で丸くなっていくのではなく、もう一度自分を尖らせ、自分の意思決定によって事業を動かせる環境へ行きたい。そんな思いから転職を考え始めたんです。
餌を待つ側から、自分で獲りにいく「野生の世界」へ
—cool-japanを知ったきっかけは?
cool-japanへ出資している企業の投資担当者が、大学時代から親しくしている後輩だったことがきっかけです。彼が「すでに優れたプロダクトがあり、それを生み出した超優秀な経営陣がいる」とcool-japanを紹介してくれました。
実際にCEO・柿沼とCPO・中矢に会ってみると、一気に惹き込まれましたね。2人はゼロから何度も事業を立ち上げた豊富な実績がありながら、現状の弱みを率直に話し、私の力を求めてくれたんです。入社後に自分が担うべき持ち場が明確になり、互いの強みをかけ合わせれば、良いチームとして経営に挑めると確信しました。
—「冷凍寿司」という事業領域には、どんな可能性を感じたんですか?
私は、「冷凍」と「寿司」のどちらにも、日本ならではの強みがあると考えています。
寿司は世界に誇れる日本の食文化ですし、冷凍技術も日本が先行している領域の一つです。その2つを組み合わせた冷凍寿司は、日本が世界に先駆けて市場を切り拓ける可能性のある分野だと感じました。
—とはいえ、大企業から少数精鋭のスタートアップへ移ることに不安はなかったんでしょうか?
不安よりも、「やってやろう!」という気持ちのほうが強かったですね。
大企業で感じていたモヤモヤを率直に表現すると、「口を開けていれば餌がもらえる」ような感覚だったんですよ。安定した経営基盤があり、仕事も役割も与えられる。とても恵まれた環境ですが、私はそこを離れて「野生の世界」へ飛び出したかったんだと思います。
野生の世界では自分で食料を獲らなければ生きていけませんし、いつ誰に捕食されてしまうかわかりません。スタートアップも同じです。リスクも結果も自分で引き受けるというハードな環境ですが、そのほうが生きている実感を持てるし、もっとワクワクできると感じました。
—人によっては、スタートアップへの転職で年収が下がるケースもあると思います。渡邊さんはどうでしたか?
下がりました(笑)。大企業からスタートアップへ移る時点でそれは覚悟していましたね。
でも同時に、現実的なメリットも見据えていましたよ。これから急成長を目指すスタートアップだからこそ、ストックオプションなどによる将来的なリターンによって、大企業での会社員生活を続ける以上の報酬を得られる可能性もあります。
自分が事業成長へ貢献した分だけダイレクトに返ってくる。それもまた、野生で生きることの魅力だと思っています。
「悩むのは24時間、決めるのは1秒」COOとして背負う責任
—渡邊さんはCOOとして、どんな役割を担っているんでしょうか?
主に、社外のステークホルダーとの関係を取りまとめています。投資家やアメリカの販売パートナーとの交渉、国内外での営業などが中心ですね。ほかにも、工場の立ち上げや製造委託、原材料の調達など、事業を前へ進めるために必要な外部とのやり取りを広く担っています。
—スタートアップの経営に加わって、特に難しいと感じたことはありましたか?
会社員時代には、時に煩わしく感じることもあった上司がいない。それは思っていた以上に怖いことでした。
もちろん意見を聞ける相手はいますが、最後に決めるのは自分です。判断一つで会社が右にも左にも進みますし、一歩間違えれば潰れてしまうかもしれません。悩む時間は24時間あっても、決めるのは1秒なんですよね。その1秒に責任を持つ怖さを常に感じています。
ただ、こうした経験を重ねるうちに、準備の仕方も変わりました。以前は行き当たりばったりに動くことも多かったのですが、今では事前にいくつものパターンを想定してから臨んでいます。
—海外の関係者との仕事では、どんな壁にぶつかりましたか?
大企業にいた頃と違い、cool-japanがまだ小さなスタートアップということで、交渉では立場が弱くなる場面もありました。相手に呑まれないよう、大企業時代には使わなかったような強い言葉で押し返すこともありますね(笑)。
たとえばある交渉では、あまりにも受け入れ難い条件を突きつけられ、「これを承諾しないと契約を締結しない」と言われたこともあります。そのときは私たちが出せる材料をすべて集め、遠回しに「cool-japanを敵に回すと後悔するぞ!」と匂わせながら(笑)、粘り強くやり取りしました。
お利口に生きてきた大企業時代とは違う環境で、「今できることをすべてやる」という野生の感覚が徐々に身についていったように思います。
—実際に海外へ出る機会も多いんですか?
しょっちゅうですよ。私の場合は、入社直後に0泊3日でドバイへ行きました。到着後に現地で帰国便のチケットを発券しようとしたら、滞在時間があまりにも短いので「乗り継ぎですか?」と聞かれたほどです(笑)。その2週間後には、柿沼と同じアパートで生活しながら、1か月にわたりアメリカを回りました。
少数精鋭のcool-japanでは、必要な場面で、動ける人がどんどん海外へ飛んでいきます。「さっさと海外で仕事をさせてくれ!」という人なら、活躍の機会はいくらでもあります。
渡邊が入社直後に向かったドバイでの1コマ
感情を爆発させて「一緒に泣ける仲間」と共に世界へ挑みたい
—会社としての今後の展望を教えてください。
まずは、2028年までに売上30億円を実現します。3.2兆円規模といわれる米国の寿司市場から見れば、30億円は「たった30億円」でしょう。その先には100億円も見据えています。
独自の技術とプロダクトをさらに進化させ、本気で世界を攻める仲間が加われば、十分に実現できると考えています。
—どんな仲間を迎え入れたいですか?
経営陣と同じ視座を持ち、時には経営陣に噛みつくような勢いで(笑)、海外市場に挑む営業人材が来てくれるとうれしいです。
碧寿司については、ヨーロッパや中東、オーストラリア、アジアなど各地から引き合いがある状況ですが、今はそのすべてに対応しきれていません。すでに展開を進めているアメリカ市場を担当してくれる人が加われば、私は他の地域をどんどん開拓していきたいと考えています。
また、状況に応じて私たちに「待った」をかけてくれるブレーキ役もほしいですね。現経営陣は全員が攻めることを得意としています。さらに事業展開のスピードを上げていくには、財務や管理の面からリスクをとらえ、必要なときに立ち止まらせてくれる人が欠かせないと思っています。
—新しく加わる人には、どこまで仕事を任せる計画ですか?
特に制限は設けず、まずは1人でできるところまで、思いきりやってほしいですね。結果的に1人で手が回りきらなくなったら、次に必要な仲間を自分で見つけてもらいたいです。
よく採用記事では「入社した瞬間から活躍の機会がある」なんて書かれていますよね。cool-japanの場合はそんな悠長なことは言っていられなくて、「すでに仕事があふれ返っているので誰かに拾ってほしい!」という状態です(笑)。入社後はいきなりハードモードになるかもしれませんが、その分だけ、やりがいも大きいはずです。
と言っても、毎日朝から晩までハードに働き続けてほしいという意味ではありません。負荷を高めて全力を注ぐ日もあれば、落ち着いて自分を整えられる日もあります。どこで力を入れ、どこで抜くかも自分次第です。
—渡邊さんのように大企業から転身する場合は、どんなふうに意識を変えていくべきでしょうか?
環境が人を作る面もあるので、役割に飛び込めば、必要な能力や考え方は身についていくと思います。ただし、「タスク表に自分の名前が入るまで待っている」ような人は、cool-japanには向いていません。
ここでは、仕事は与えられるものではなく、自分で作るものです。転がっている仕事があれば拾い、「これが足りない」「あれも必要だ」と気づいたら自分で動く。そんなふうに、イレギュラーを解決していく日々を楽しめる人が向いていると思います。
—最後に、この記事を読んでくれている人へメッセージをお願いします。
cool-japanでは、一つの受注が決まるたびにみんなでハグし合って喜びます。失敗したら本気で意見をぶつけ合い、どう改善するかを語り合ってきました。経験豊富な人たちが集まっていますが、クールに仕事を進めるだけでなく、感情を爆発させる瞬間も多いんですよ。
仕事では合理性が大前提ですが、それだけでは人は動きません。お互いの感情や思いまで受け止めながら進める「情理」も、私たちは大切にしています。
たとえるなら、学生時代にスポーツやイベントに打ち込み、仲間と泣いたり、抱き合ったりしたような感覚に近いのかもしれません。私たちが探しているのは、うれしいときも苦しいときも一緒に泣ける仲間。そんな思いに共感してくれる人と出会い、共に世界へ挑みたいですね。