渋谷のおしゃれなカフェの代表的な存在であるand people。カフェ文化の先駆けとも言える宇田川店の創業期から9年に渡って活躍している松尾様に、and peopleの魅力と接客への向き合い方についてお話を伺いました。
客としてお店に来て「このお店で働きたい」と感じて入店
-入社されてどれくらいになりますか
9年になります。and peopleの宇田川店がオープンして割とすぐに入社しました。他の飲食店や夜はバーで働いているので、アルバイトとして勤務を続けています。
-入社のきっかけを教えてください
きっかけは完全に通りすがりです。すごく素敵なカフェがあるなと思ってふらっと入ってみた。それが宇田川店だったんですけど、お店の内装にバキューンと撃ち抜かれました。インテリアとか一見雑多な感じで置いてある小物とかも意味不明に見えるんですが、全体で見ると不思議にまとまっていて居心地の良い空間になっている。渋谷のど真ん中でテラスで過ごせるというのも衝撃でした。
「どうやったらこんなお店を作ることができるんだろう」「どんな人がやっているお店なんだろう」と気になって。僕にとってお店に対する最大級の賛辞が「このお店で働きたい」なんですが、まさにそれを強く感じたのがand people宇田川店でした。会計の時にアルバイトを募集しているか聞いて、その後すぐ働き始めました。
-今お店で担当しているのはどんな業務ですか
基本的なホール業務に加えて、アルバイトのスタッフから上がってくる様々な相談や提案を一旦聞くのが僕の役割です。そして、僕で解決してよい話か、社員に上げるべきなのかを判断します。
あとはお店の雰囲気作りについても考え作業をすることがあります。例えばこの神南店であれば椅子とか照明は新品のものを購入してエイジングという加工をしてあります。それによってアンティークに見えるわけです。今はだいぶ年季が入ってきたので本当に古いものになってきていますが、and peopleの空間に対するコンセプトは開店当初から徹底しています。
コンセプトを考えているのは校長(社長のこと)です。内装だけでなくBGMの選曲も校長によるもので、センスがすごい人ですね。
校長が僕の人生を作ってくれた
-校長はどんな存在ですか
一言で言うとかっこいい人です。何事に対しても全力で楽しむ姿勢に感動します。それはお店のコンセプト作りだけではなくて僕たちスタッフに対してもそうで。
お店の飲み会が良い例なんですが、僕たちには開催する店舗と集合時間しか知らされていない。それで指定された会場に行くといつものお店とは全く異なるキャンドルの配置や空間づくりがされていて度肝を抜かれました。さらに著名なアーティストを呼んでいたり、彼らの演奏に合わせてパフォーマーが演じたりとか。これを全部校長が一人でセッティングしていたんです。スタッフを驚かせて楽しませたい、その強い思いが伝わってきます。
そういった思いがある人だからこそand peopleのコンセプトが色褪せずに支持されているんだと思いますし、素敵な空間を提供し続けることができるんだと思う。僕自身、もし校長と出会っていなければこんなに長い間働き続けることはできなかった。そういった意味では校長は僕の人生を作ってくれた人といえます。
スタッフの挑戦をサポートしてより良い空間づくりを
-今後はお店をどのように成長させていきたいですか
まずはスタッフが挑戦したいことについて、実現させられるように後押しをできる存在になりたいと思います。それによってお店をもっと良くできるはずなので。
例えば神南店はプロジェクションマッピングを通りに面した窓のカーテンに投影するんですが、この映像のクオリティをもっと上げるのは一つの課題です。こうした課題に対してスタッフが当事者として声をあげて、トライをして欲しいですね。そこに対して僕はしっかりサポートをしたい。
あとは働くスタッフ間の雰囲気を調整するのも僕の役割だと思っています。リラックスするのは良いことなんですが、緩みすぎているときはちょっと引き締めるとか。逆に色々な要因で緊迫しているときは、気分をほぐすように声かけするとか。スタッフが良い雰囲気であるのも良い空間を作る上では重要な要素だと思います。
業務効率化×接客=居心地良い空間
-最後に接客業におけるスタッフの役割を教えてください
雰囲気作りがスタッフの重要な役割だと思います。最終的なお店の居心地の良さを決めるのはやはり人だと思うので。
今and peopleではお客様が注文する際にはタブレットを使用しています。これはお店の作り的に家具やしきりが多いために店員を呼びづらく、結果注文数が落ちてしまうのを改善する目的で導入されました。さらに席間を巡回するスタッフを減らすことができ、業務効率化とコスト削減も実現しました。導入の目的は達成できたと思います。
ただ一方で、スタッフがお客様とコミュニケーションをとる機会は減りました。そこで僕が今一度みんなに問いかけたいのは「サーブをするだけの人になっていませんか」ということ。料理をテーブルに運ぶのが数少ないコミュニケーションの機会なわけですが、そこでお客様としっかり「対話」をして欲しい。単に会話をしろということではなく、対話にはいろんな方法があります。お客様と向き合うことでお店の満足度が上がるはずなんです。
これはand peopleだけでなく多くの接客業で共通する考え方だと思います。「業務効率化」と「お客様との対話」って一見相反する要素に見えるんですが、両立することこそが素晴らしいサービスを実現する。デジタルによって業務効率化の恩恵を受けつつも、常に「お客様との対話」を頭のどこかで意識することで、単なるサーブをするだけの人ではなく雰囲気の良い空間を作る重要な役割を担うことができると思います。