こんにちは、みんなのコードです。
みんなのコードは、「すべての子どもたちがプログラミングを楽しむ国をつくる」というミッションを掲げ、先生方が授業で使えるプログラミング教材『プログル』を提供しています。
小学校の算数・理科の時間で使える教材として『プログル』、中学校・技術で使える『プログル技術』、そして今年3月には、高等学校情報科・情報Ⅰで使える『プログル情報』を提供開始しました。
これらの教材は、オンラインかつ無償でご利用いただけます。
さて、前回、「高校生向けプログラミング教材を女性メンバーでレビューしてみて気づいたこと」と題して、『プログル情報』を実際に使ってみて女性メンバーが感じた心理的安全性の観点やプログラミングの面白さを感じるまでのプロセスを書きました。
今回は、高校教員研修を担当している講師・永野に、感じた内容を共有してみた様子をお届けしたいと思います!
-永野さん、自己紹介をお願いします!
千葉県の高校で25年間教員を、教育委員会で3年間指導主事として仕事をしてきました。もともと地理を教えていたので、プログラミングやコンピュータの専門家ではないのですが、コンピュータの可能性や情報教育の面白さは教員になった頃から感じていました。
その後、教科「情報」が新設された時から、「情報の授業をやりたい!」と情報教育にどっぷり浸かることになりました。
高校では、千葉県立袖ヶ浦高校で、生徒が自分のiPadをあらゆる授業で自由に使えるという学科を2011年に新設しました。今では当たり前になりましたが、当時は「タブレットなんて教育で役立つの?」なんてよく言われましたね。
その後、指導主事として先生方にICTや情報教育の研修をしていたのですが、さらにその先のことを考えた時、「情報教育からだんだん離れていくことになってしまうのかなぁ」という不安を感じていました。
そんな時、新しい学習指導要領で高校生全員がプログラミングを学ぶことになることに向けて、「全国の先生方にプログラミングや情報教育の楽しさを伝える仕事をしませんか」とみんなのコードから声をかけていただきました。正直悩みましたが、思い切って教員を退職し、みんなのコードに参加することにしました。
現在は全国の先生方に研修をして回っており、素晴らしいメンバーとともに楽しさとやりがいを感じながら仕事をしています。
-ありがとうございます!次に、高校生向け授業教材『プログル情報』について教えてください。
プログル情報は「Python」というプログラミング言語が学べる教材です。
小中学校ではScratchのようなブロック型のプログラミングを扱うことが多いのですが、Pythonはテキスト型のプログラミング言語です。コードを自分で書いていくのはどんな言語でも難しいと思いますが、Pythonは比較的書きやすく、また読みやすい言語と言われていて、非常に人気があります。
『プログル情報』はインターネットを通して他のプログラムと連携するWeb APIという仕組みを利用したプログラミングもできるようになっています。
またレッスンの後半では、ユーザーそれぞれがオリジナルプログラム作品を作れるので、生徒が自分のアイデアを生かして身近な問題解決にも取り組めるような構成になっています。
-永野さんがみんなのコードに入社する前の話ではありますが、私たちの記事は、何か発見はありましたか?
すごくありました。やっぱり、「不安になる」「見られたら恥ずかしい」という観点は発見でした。そこまで心配になっているんだということは、教える側としてはあまり思っていなかったから。見られたら恥ずかしいというよりは、後ろから見られたらプレッシャー、みたいなね。
教える側は、そんなこと思っていないんですよ。「大丈夫かな~」「どうかな~」「ちょっとアドバイスでもしてあげようかな」くらいなんです。それがプレッシャーにつながる、というのはなるほどな、ちゃんとケアしないといけないな、と思いましたね。
-後ろから見られることで「アホがバレる」と思ってしまいました(笑)
そんなことない。そんなことないですよ(笑)。
『プログル情報』を先生方に使ってもらう中で気づいたことでもあるんだけれど、先生は「先生が全部知っている必要があって、それを生徒に教えなきゃいけない」という感覚でいるんですよね。でも、実はプログラミングって、あまりそんなことはなくて。プロでもググるんですよ。似たようなプログラムを見つけて、参考にしながら、自分のやりたいように作り変えていくんです。
プログラミングは、すごく詳しいところまでいったら、すべての内容を覚えきれるわけないんです。ただ、生徒から質問されたら、全部さらっと答えられなければ先生としてまずいと心配している人はいっぱいいるんですよね。
-やはり、先生方も心配や不安を抱えていらっしゃるんですね。
はい。でも、間違えることは恥ずかしいことではないんです。プログラミングは、間違えて実行して、エラーが出たらそこを直して実行して。まだダメだ、何がおかしいんだろう、みたいなかんじで、何百回も実行したり直したりしながら進むのが普通なんです。
例えば、ゲームをしていて、1回でクリアしようと思っている人なんていないと思うんですよ。何度もゲームオーバーになりながらクリアを目指す。わりとそういう感覚に似てると思うんです。分からないことを不安に思うとか失敗しちゃいけないと思うのは、本当はそんな必要がないし、最初は分からないことがあたり前。だから、教える時も、生徒に「それでいいんだ」という感覚を持ってもらうように、どんどん気軽にチャレンジできるようにしなきゃいけないなと思います。
プログラミングに詳しい先生や教えたことがある人にとっては、初心者の時の気持ちを忘れてしまい、分かって当たり前、という感覚になってしまっている部分がたくさんあるんです。生徒が学習する際に「どんなことでも聞いていいんだ」という雰囲気をつくることが大切だと改めて思いましたよね。
-ゲームの例えはすごく分かりやすいです!私たちも、3回やってみたからこそ手応えを感じ、プログラミングが楽しいと感じることができました。
「みんなですごく楽しかった」ってすごい大事だよね。プログラミングの習得は、一人でやるときとみんなでやるときと両方必要だと思います。
ただ、人それぞれのタイミングはあると思っていて。いきなりみんなでやると、自分であんまり考えずに人の真似してしまう面もある。それこそ、恥ずかしさを感じない環境で、自分で何回も何回も繰り返して、自分で考えてどうにかしようという試行錯誤の時間も大事。
それを一通りやった後に他の人と話すと、「私もあそこでつまづいた」とか、「これこうすればいいんだよ」とか、「なるほどね」みたいな話になって、自分が試行錯誤したことが後からちゃんと身について、理論に結びついていく。ずっと1人でやるとか、ずっとグループで取り組ませるのではなく、タイミングよく混ぜると良いですよね。
-たしかに、両方の側面がありますね!
タイミングを上手く図ってやる、というのが先生の仕事でもある。私が全部教えるからあなたたちはそれを覚えなさい、というように、自分の知識の一部を伝授するだけ、というのはこれからの先生の仕事ではないですよね。
まずは、先生にも友だちにも聞ける雰囲気づくりをする。先生が教える場面もあるし、生徒が自分で学ぶ時間や活動も大事にしつつ、先生や友だちと話す時間も確保する。そういう授業の進め方が、これから先生にとって大事なところかなと思いますね。
それから、先ほども話したように、教員も、全部知っていなければいけないというプレッシャーを感じながらやっているわけですよ。プログラミングにまったく興味もないし、まったく知りませんでは困るけれど、教員も、そういうプレッシャーはいらないですよね。プロのプログラマーじゃないんだから。分からなければ、「そこは先生もちょっと分からないから一緒に調べてみようよ」で絶対良いと思うんですけどね。知ったかぶりしたり威圧してごまかすよりずっといい(笑)。知らないことを生徒に聞かれると気に入らない教員もいるけど、そんなに身構えなくてもいいと思います。
何か聞かれて答えられないと、生徒から「なんだこの先生。いつも偉そうなのに自分も分からないんじゃないか」と思われると思っている。だから、なかなか「分からない」って言えないんです。でも、普段から生徒の「分からない」という気持ちをしっかり受け止めて向き合ってあげていれば、先生がたまに分からない、と言ったって、生徒は見下したりはしませんよ。
「先生だって学んだり調べたりする姿を見せていいんですよ」と先生に伝えることで、プログラミングを教えるハードルが少しでも下がればいいなと思います。
-ありがとうございます。先生も分からないところがあるから一緒にやろう!という姿勢がプログラミング教育で大事なんだなと、永野さんの話を聞いて改めて思いました。
(後編につづく)
インタビュアー:杉之原明子、洞まなみ、釜野由里佳