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RINGOらしさを詰め込んだ “とっておき” な書体、「RINGO TYPE BOLD」誕生の舞台裏(前編)

「RINGOのフォントを提案させてください!」

こう書かれた一通のメールが、BAKE INC.(以下、「BAKE」)の担当者のもとに届いたのは、2024年8月のことでした。

このメールの送信者はフォントワークス株式会社で書体デザイナーとして活躍する中村勇弥さん。
「RINGOのフォントを作りたい」という中村さんの熱意の込もった提案をきっかけに、フォントワークスとBAKEはフォント作成に向けた取り組みを開始。それから4か月の間、何度もやりとりを重ね、ついに2024年12月、RINGOのロゴをモチーフにして作られたフォント「RINGO TYPE BOLD(リンゴ・タイプ・ボールド)」が完成しました!

今回の記事では、BAKEでRINGOのクリエイティブを担当する小林と林がフォントワークス 中村さんにフォント開発の裏側やデザインへの想いを伺いました。前編では中村さんが書体に興味を持ったきっかけや書体デザイナーの仕事、そしてRINGOのロゴに興味を持ったきっかけについてお話いただきます。

書体デザイナーになったきっかけは「筑紫明朝に魅せられた」から

:中村さん、今日はよろしくお願いします。オンラインではずっとお話していましたが、実際にお会いするのは最初にご提案をいただいて以来ですね!

小林:今日は「RINGO TYPE BOLD」の開発にまつわるお話や、中村さんのフォントにまつわる想いなど、いろいろとお伺いできたらと思っています。よろしくお願いいたします!

中村:こちらこそよろしくお願いします!

:最初に中村さんのご経歴について教えてください。中村さんはフォントワークスさんで「書体デザイナー」として働かれていますが、そのご職業を目指されたきっかけってあったのですか?

中村:はい。15歳のときにある小説を読んでいたのですが、その本で使われていた「筑紫明朝」にグッときてしまったことが書体に興味を持ったきっかけなんです。

:「筑紫明朝」ってフォントワークスさんの書体ですよね?

中村:はい。弊社から2004年にリリースされた書体です!
それまで書体って全然気にしたことなかったのですが突然魅了されてしまい、翌日には美術の先生に書体デザイナーになる方法を聞きに行きました。

小林:最初にご提案いただいてから熱い想いをお持ちだと感じていましたが、熱意と行動力がさすがすぎます…!

中村:ありがとうございます。ただ、それから数年「筑紫明朝」で書かれた小説しか読めなくなって大変だったんですよ…(笑) そこからたくさん調べたり、実際に描いてみたり、東京の大学に入ったあとはイベントにも行ったりして、書体についての知識をつけていきました。

:そして、大学ご卒業後にフォントワークスさんに入社されたんですよね。普段、「書体デザイナー」としてどんな業務をされているのですか?

中村:はい、新卒でフォントワークスに入社し、入社後すぐの研修時代からずっと「築地復刻書体プロジェクト」に携わっています。東京築地活版製造所が鋳造した明朝体の二号活字を、「筑地(つくじ)二号明朝」として復刻するプロジェクトです。


「築地復刻書体プロジェクト」
明治18年(1885年)に創業した「東京築地活版製造所」は、日本の印刷や出版の発展に大きく貢献した会社。活版印刷において先駆的な存在となり、印刷業の発展を支えた。特に、同社が制作した「築地体」と呼ばれる活字は現代の書体の源流の一つであり、日本の文字文化に多大な影響を与えた。昭和13年(1938年)に同社が廃業し、今では複数の築地復刻書体が存在する。しかし、その多くが仮名のみ収録された仮名書体である。
そこで、フォントワークスでは、「築地体」の二号明朝活字を「筑地(つくじ)二号明朝」として漢字まで揃えて復刻するプロジェクトを開始。「築地」とフォントワークスの書体「筑紫」の文字を組み合わせて名づけられている。
※詳細は「フォントワークス × Monotype 公式note」をご確認ください


:私は今回「築地体」を初めて知ったのですが、とても魅力的な書体だと感じました!
重心が踊るようにずれていたり、溜まりがぽてっとしていたり。制作動画も拝見したのですが、とても興味深かったです!

中村:ありがとうございます!当初は明朝体に携われるだけで浮かれていましたが、何百文字と作っていくうちに、今、仰っていただいたような魅力がわかってきました。愛らしい書体だなーと感じています。築地復刻書体プロジェクトと並行して、OEM書体や筑紫書体の制作にも携わっていますが、無数にある漢字の黒みを揃える作業やカーニング情報の作成など、地味ですが、品質を支える業務が多いです。

小林:今回の「RINGO TYPE BOLD」プロジェクトで改めて感じたのが、私たちが書体として使えるようになるまでに、書体デザイナーの方たちの果てしない、地道な作業があるんだなということでした。本当にありがたいです。

小林:これは活版でもデジタルフォントでも一緒だと思うのですが、私、書体の魅力って、作り手の感性が感じられるところだと思うんです。自分にはない感性に触れることができるんですよね。「え、なんでこうしたの?でもそれがいい…!」とか思ったり。(笑)

:すごくわかります!「なるほど、この文字をこう作るかー!」などと考えながら見るの、楽しいですよね!(笑)

小林:そうした自分にはない感性を解釈して、再現したり再構築したりするのは大変だと思いますが、同時にすごく楽しそうだなと思います。復刻書体だからこその大変さや難しさって、やはりあるんですか?

中村:ありますね!
復刻書体を制作するときは、印刷されたときに生まれる揺らぎやにじみまで「味」として拾っていくのですが、筑紫書体のデザイナーの藤田さんに指摘されて、はじめて見えてくるものがあったりします。また、筆運びのしなやかさやスピード感に想像力を働かせたりする必要もあって、普段のようにただ文字を文字として見るのとは違う難しさがあります。でも、そこがまたおもしろい部分でもありますね!

RINGOのロゴが気になったのは「読めるけれども、読みにくい」から!?

小林:では、ここからは少し話題を変えてRINGOのロゴやデザインについてお話を伺えればと思います。中村さんはもともとRINGOのことは知っていただいていましたか?

中村:はい、もちろんです!私は福岡在住なのですが、RINGO 天神地下街店の前をよく通っていたんです。

中村:BAKE CHEESE TARTやPRESS BUTTER SANDも知っていましたが、これらがBAKEさんのブランドであることは実は今回初めて知りました。それぞれのブランドでイメージやデザインが際立っているので、どの会社が運営している、というよりもブランドとして認識していたような気がします。

小林:ありがとうございます。ブランドごとにしっかりとした個性があるのは弊社の特徴かなと思います。
そのためか、ブランドごとに客層もけっこう違うんですよね。たとえばPRESS BUTTER SANDはビジネスシーンでのご利用も多く、男性のお客様も多いのですが、RINGOは女性のファンが多かったりします。

:そのブランドの個性を支えているのが、BAKEで浸透している「おいしさの次にデザインが大事」という考え方です。新ブランドや新商品を作るときには試食の段階からデザイナーも同席しますし、お菓子そのものの形状や見え方についても必ず商品開発のメンバーから相談があるんです。どの部署のメンバーと話しても「デザインを大切にしよう」という想いを感じます。
全部署がしっかり共通のブランドストーリーや「ブランドらしさ」を認識して、そこに立ち返りながらブランドづくりや商品づくりを進めたり、プロモーションを考えたりしていますね。

RINGOのデザインについて話が弾みました

小林:RINGOでいうと「とっておきを、みんなのものへ。」というブランドコンセプトを掲げています。
「素材や味わいへのこだわり」と「焼きたてのおいしいアップルパイを気軽に楽しめる身近さ」、この両方をデザインからも感じていただけるよう意識しています。
RINGOのデザインは、シンプルかつミニマルですが、”上質さ” や ”こだわり”、そして ”とっておき” といったニュアンスをしっかり伝えられるように、細部のバランスにこだわっています。

中村:書体デザインとは違った分野のデザインの話で非常に興味深いです…!
特に ”上質さ” は細部まで油断できない部分かなと思うので、それを商品やパッケージ、店舗デザインでどう実現しているのか気になります。RINGOのロゴには以前からそそられていましたが、ロゴ以外のパッケージや店装などのデザインにも注目してみます!

小林:ありがとうございます!
長く愛されているブランドなので、これまで積み上げてきたRINGOらしさ・RINGOの世界観はしっかりと守りつつ、新らしさや斬新さも吹き込めるように工夫をしています。中村さんがRINGOのロゴに興味を持っていただいたのはどういうところだったのですか?・・・というお話は、実はすでに初回のご提案のときに熱く語っていただいたのですが、改めて読者のみなさま向けにお願いします!(笑)

中村:はい、改めて熱く語らせていただきます!(笑)
最初の出会いは天神地下街を歩いていたときのことでした。遠くにRINGOのロゴが書かれた看板が見えて、その瞬間「何て書いてあるんだろう?」と視線が引きつけられました。そして、近づいて読み取れたときの「はっ!なるほど!!」という感動と驚きは今も胸に残っています。振り返ると、あのときすでにRINGOのロゴのとりこになっていたのだと思います。

中村:誤解を恐れずに言うと、RINGOのロゴって、読めるけれども、「読みやすさ」からは少し遠いと感じています。個人的には、明快でわかりやすいものより、適度に悩ませてくれるもののほうが好きなんです。受け手を尊重し、対等に扱ってくれているような印象を受けます。

中村:RINGOのロゴって、まさにシンプルでミニマルなんですよね。とてもスタイリッシュ。なのに強烈な個性があって、かわいい。子どもっぽさとはちょっと異なるかわいさだと感じているのですが、それが自分にとってストライクゾーンで…それからずっと頭に残っていました。

後編では、いよいよ「RINGO TYPE BOLD」が誕生するまでの経緯について深堀りしていきます。

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