最近、公立園の保育士確保に関しての相談が増えてきました。
正直に言うと、一律採用で差別化をしてこなかった公立園の採用は、私たちが得意とする分野ではありません。しかし、相談された以上、策を考えるのが私たちの仕事です。
そんな中、JA共済総合研究所が2024年12月に発表したに目が留まりました。
問題提起
このレポートはこう述べています。
・「人口戦略会議」は、2050年までに全国の自治体の約4割が「消滅可能性自治体」になると予測。
・都市部の待機児童問題に隠れがちだが、過疎地域の保育問題は日本全体の課題として捉える必要がある。
・本稿では、制度上は消滅したが、今も独自に運営される「へき地保育所」の現状と新たな課題を通して、人口減少地域の保育の未来を考察する。
JA共済総合研究所レポート (2024.12)
都市に暮らす人にとっては、どこか遠い話に聞こえるかもしれません。でも、「保育園が足りない!」と騒がれてきた都市部とは逆に、「子どもは少ないのに保育が足りない」という、まるで裏返しの待機児童問題が起きているのです。
今回は、見過ごされがちな「過疎地の保育の危機」と、その状況を打ち破るための、方策についてお話しします。
まず、このグラフを見てください。
これは、保育所の定員に対して、実際にどれだけの子どもが入れているかを示す数字です。過疎地域では、4つある席のうち1つが空いているような状態。しかもこの数字は、この4年で7%近くも急落しています。
「なんだ、子どもが減ってるんだから当たり前じゃないか…」
そう思った方は、問題の核心を見逃しています。実はその裏で、「保育園に入りたくても入れない」子どもが生まれているのです。
保育施設にカウントされない保育所
この謎を解く鍵は、「へき地保育所」という存在にあります。
戦前からあった「農繁期託児所」の流れを汲み、農家が安心して働けるように支える役割を担ってきました。交通の便が悪い農山漁村のために作られた、簡易的な保育施設です。しかし、国の制度としては2015年に廃止されました。「乳児保育に対応できない」「給食設備がない」や「保育士の配置基準が低い」というのが理由です。
しかし、今もなお、全国に200ヶ所以上のへき地保育所が、市町村の努力によって運営されています。なぜか?
それは、保育所も幼稚園も一つもない自治体が、全国に26も存在するからです。つまり、制度から見放されたこの施設が、地域にとっては「子育ての最後の砦」なのです。
「待機児童問題」は、過疎地でも起きている
深刻な事態が北海道のある離島で起きています。
その島では、漁師になるために若い移住者が増え、子どもの数も少し増えました。保育のニーズは高まっています。しかし、保育園は0歳児の受け入れを見送りました。いわゆる「待機児童」の発生です。
なぜか?
理由はシンプルで、保育士が一人もいないから。
さらに根深いのは、こうです。
島の基幹産業は「漁業」。漁が忙しくなる時期には、保育園で補助員として働けるかもしれない女性たちも、生活のために漁の手伝いに出なければなりません。
「保育」と「地域の基幹産業」が、限られた働き手を奪い合っているのです。
これは、都市部の「ハコ(施設)が足りない」という問題とは次元が違います。「ヒト(担い手)」そのものが地域から消え、子育ても産業も、両方が成り立たなくなる共倒れの危機なのです。
保育の危機=地域の崩壊。でも「逆転の一手」はある
この問題の本質は、単なる子育て支援ではありません。
保育がなければ、若い世代は農業や漁業を継ぐために移住できません。つまり、農山漁村の保育を守ることは、私たちの食卓を支える「日本の食」を守ることに直結しているのです。
これはかなり難しい状況です。行政の縦割りや、法律の壁が立ちはだかります。しかし、諦めるのはまだ早い。難しい課題だからこそ、常識を打ち破る大胆な発想が未来を切り拓きます。ここに、「逆転の一手」を提案します。
解決策①:「未来の担い手を、村が育てる」― 資格取得支援の“本気度”
「ヒトがいないなら、育てればいい」
全国の若者に向けて、村がこう呼びかけるのです。
「保育士になりませんか?資格を取るための学費は、全額、村が支援します。その代わり、卒業したらうちの村で数年間、働いてください」
これは、国の「保育士修学資金貸付事業」などを活用すれば実現可能です。ただ待つのではなく、攻めの姿勢で未来への投資をする。これが、担い手不足という根本原因にメスを入れる、確実な一歩です。
解決策②:“公務員”の壁を壊す― 社会福祉事業団というウルトラC
「公立のままでは、使えるお金に限界がある…」
そんなジレンマを解決する、少し“禁じ手”にも見える一手があります。それが、公立保育園の「民営化」です。
「そんな過疎地域で民営化しても誰も受託しない…」
だからこそ、市町村が設立し「社会福祉事業団」に運営を移管するのです。
こうすることで、どうなるか?
「公立」のままでは使えなかった、国からの手厚い民間園向けの助成金が使えるようになります。そのお金で保育士の給料を上げたり、待遇を改善したりできる。
さらに、「公務員」という硬直的な枠組みから解放されることで、もっと柔軟な雇用形態や給与体系が可能になり、地域外から優秀な人材を呼び込むことも夢ではありません。これは、自治体の“覚悟”が問われる、まさにウルトラCの改革です。「小さな自治体には無理」と思われるかもしれませんが、今や“無理を通す”覚悟が問われています。
未来は、問い直す力に宿る
今回ご紹介した提案は、あくまで叩き台です。すべてを出「来る・出来ない」で考えるのではなく、問い直す材料として活用していただけたら幸いです。労働力が減り、産業が衰退し、社会インフラが維持できなくなる…これは、いずれ日本全体が直面する未来の縮図です。
少子化には、「立ち向かうか」「あきめるか」の二択しかありません。
できない理由を考えるのはなく、どうしたらできるのか?
その一手を、共に探りましょう。
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「もう、保育士が使い捨てられるような現場は終わりにしたい」
保育業界に携わって20年。キャリアフィールド代表・都築裕一が、現場で見てきた課題と、これからの可能性をnoteで綴っています。
採用の裏側、制度の盲点、持続可能な園づくりのヒントにご関心のある方は、ぜひ一度ご覧ください。
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