昨年に引き続きエンタテインメント業界全体が新型コロナウイルスの影響を大きく受ける中、2021年もさまざまな新機軸を打ち出してきたエイベックス。昨年に引き続きコロナ禍での入社となった4名の新卒社員の声に耳を傾けると、既成概念に捕らわれないZ世代ならではの、新たなエンタテインメント像が見えてきた。
(左から)石本 裕太、長谷川 優真、笠井 りん、橋詰 瑛太
「数か月前まで大学生だった自分にしかできない課題解決が求められた」
2020年に続き、多くのイベントやコンサートが中止・延期に追い込まれるというコロナ禍真っただ中の入社。平時であれば上司や先輩、同期社員と密なコミュニケーションを図りながら進めるべき業務開始から変則的な働き方を余儀なくされた4人。はたしてその心中はどのようなものだったのだろうか。
長谷川「私は『dTV』を運営する、エイベックス通信放送株式会社に配属となったのですが、コロナ禍で在宅ワークをしている社員も多く、初出社日なのにオフィスに先輩社員自体がほとんどいませんでした。それでも、少しでも顔を覚えてもらうために出社している社員の方へ質問をしてみるなど積極的なコミュニケーションを心がけました」
石本「私はレーベル事業本部セントラルプロモーショングループでテレビの情報番組を使ったプロモーションを担当しています。制度として、1人の新入社員に対して1人の先輩社員が“トレーナー”という立場で付いてくれて、オンラインでの個別ミーティングを何度も開いてくれたので、業務開始に際して大きな不安はありませんでした」
このようにエイベックス社員としての第一歩を踏み出した4人だが、すでに与えられた役割の中で自らのポジションを確立しようと動きはじめている。
笠井「私はビジネスアライアンス本部第1アライアンス営業グループに所属しているのですが、最近ようやく一人で企業にアポを取ってヒアリングできるようになったところです。とある案件では、数か月前まで大学生だった自分にしかできない課題解決が求められ、そこで『これが今の私に求められていることなんだ』と一定の手ごたえが得られました」
橋詰「僕はレーベル事業本部 第2クリエイティヴグループでA&Rとして大橋トリオとみゆなの2人を担当しています。音源制作に関して会社としては当然セールスを考えるわけですが、アーティストは『自分が作りたいものを世に送り出したい』というスタンスなので、この2つをうまく擦り合わせていく仕事です。キャリアも音楽性も異なる2人との仕事を通して、特にコミュニケーションの部分でいろいろ吸収しているところです」
「コロナ禍になり、みんなが流行よりも本質を見るようになった」
ところで、コロナ禍によって私たちにもたらされた生活様式の変化は、エンタテインメントそのものの姿を大きく変えようとしているのも事実だ。多くのライヴが「動画」として配信され、人々がそれをスマートフォンで場所を選ばず楽しむなど、これまでの常識が大きく塗り替えられた今、4人は大きなうねりをどう感じているのだろうか。
石本「以前は当たり前のように楽しんでいたライヴが開かれなくなったことで、『やっぱりライヴは必要だよね』と風向きが変わった気がします。結果的にエンタテインメントにおけるライヴの価値が相対的に高まり、むしろその熱量は前より高まっているのではないでしょうか」
長谷川「ライヴと言えば、あるアイドルグループの配信ライヴで出演者の背景にオーディエンスのコメントが流れるシステムが使われましたが、あれはオンラインならではですよね。有観客だったら声を発したり手を振ったりできるけど、配信ではそれができない。そこで、オーディエンスがデバイスを通して打ち込んだテキストが表示される――この発想はコロナ禍ならではだな、と感じました」
笠井「私の場合、企業と仕事することが多いからかもしれませんが、コロナ禍になってみんなが本質を見るようになったと感じています。これまでみたいに『すごく流行っているからやる』とかではなく、人々が本質を見る流れを企業が察知して、それをエンタメとして発信する。その中でエイベックスとしていかにコミットしていくか――この流れがすごく勉強になっています」
「今後は社会情勢も考慮して当たるコンテンツを考える必要がある」
コロナ禍で起きたさまざまな変化。これらは当然、エンタテインメントに携わる4人に対してもさまざまな課題を提示している。
長谷川「私が宣伝を担当している映像配信サービス『dTV』は、コロナ禍でむしろ需要が伸びた分野のひとつです。でも、アフターコロナではライヴなどリアルでの体験の価値が相対的に上がったわけで、そうなるとオンラインならではの楽しさをもっと伝えていかなければならない」
石本「コロナ禍ではオーディション番組が流行ったじゃないですか? 私はその背景に、“在宅時間が増えてテレビを見る機会が増えた”という社会情勢があったと思うんです。だから、今後はこれまで以上に社会情勢も考慮して当たるコンテンツを考える必要があるんじゃないかと再認識しました。ただ“いいものを作る”というのももちろん大事だけど、人の動きや世の中の状況も考えていかなければなりません」
「エンタテインメントの選択肢が増えたことで、競合も増えた」
コロナ禍を経て、加速度的に変わりゆくエンタテインメント。テクノロジーの進歩によってリアルとヴァーチャルのボーダーラインがますます薄れ、長らくテレビを中心に回ってきたマスメディアの構造も様変わりしつつある。今や誰もが音楽や映像をインスタントに創作し、発信できる世の中で、それぞれが見据えるエイベックスとしての“次の一手”とは一体どのようなものなのだろうか。
長谷川「エンタテインメントの選択肢が増えましたよね。逆に言うと競合が増えたともいえる。その中でいかにエイベックスが選ばれていくかというと、たとえば地方在住の人が物理的に体験できないライヴを、“配信”というフォーマットを介してリアルと遜色ないレベルで体験できるところまで持って行けたらうれしいですね」
石本「これまでのマスメディアを中心としたアプローチだけでは通用しなくなり、どのようなターゲットに届けたいのかを可能な限り掘り下げて、一人ひとりのファンに対して還元できるコンテンツを作っていかなければならないと感じています。『ラジオで流して終わり』、『テレビに出て終わり』、『ライヴして終わり』じゃなくて。ちょっと前だったらメディアに出ているアーティスト=売れているで通用していたかもしれませんが、どういう人が、どのような環境でそのコンテンツをどう楽しんでいるのか、そこを追求していく必要があります」
「単に“エイベックスっぽい音楽”じゃなくて、もっとバラエティに富んだものになるといい」
一方で、コロナ禍以前から進んでいたエンタテインメントの変質とグローバル化に対しては、エイベックス自体の変化も求められるという声も。
橋詰「かつてはメジャーで活躍するアーティストがチャートを席巻していましたが、最近はそれに反発するようにインディペンデントなスタンスで活動するアーティストが増えてきています。ですから、エイベックスもそういうインディペンデントなアーティストに対してももっと柔軟に対応できるようになっていけたらと思うんです。世間で『エイベックス』いう名前を耳にしたら、みんなある程度共通の“エイベックスっぽさ”があると思うんですよ。でも、イメージが固定されていると、固定されているところでしか輝けない。単に“エイベックスっぽい音楽”じゃなくて、もっとバラエティに富んだものになるといいのではないかと。そんな風に、徐々にカラーリングを調節できるようになっていったらいいですね」
石本「今、世界的に人気のあるK-POPのように、日本から世界に新しいエンタテインメントを打ち出すのであれば、他がやっているものを後追いしてもダメでしょう。ここ数年、世界的に流行っているシティポップやアニメのように、日本独特のものをグローバルで受け入れられるようなアプローチをとらなければいけないのではないでしょうか」
笠井「私も日本人の表現が細やかな部分がすごいと思っていて、個々の音楽や映像作品にもそれが現れていますよね。そういう部分を、もっと世界に発信していきたいですね」
長谷川「たしかに海外と日本を規模感で比べてしまうとどうしてもかなわない部分はありますよね。だから、あえて日本の個性というか日本独自のカルチャー――たとえばアニメとかを発信していければエンタテインメントとしての新しい“日本ブランド”ができていくはずです。そのために、デジタルメディアを使ってどんどん可能性が広げていければと思います」
「変わること」をごく自然のこととして受け入れ、新たな価値を模索する――。インタビューを通して感じたのは、そんなある種の達観さえ感じられる4人のスタンスだ。インターネットが爆発的に普及しはじめた1990年代末に生を受け、変化の渦の中で育った彼らならではの資質とも言えるだろう。コロナ禍という苦難の時代にあえて「人を楽しませる」世界へ飛び込んだ4人が、この先エイベックスにおいてどのようなコンテンツを生み出していくのか楽しみだ。