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「地方創生にマーケティング戦略は必要か?」稼働率5%以下の公共施設が、累計1万5,000人 宿泊する人気グランピング施設になれた理由(栃木県・鹿沼編)

(記事作成:広報インターン 宮地)


「地方創生をするには、
 マーケティング戦略が必要だ。」

地方創生事業部グループの責任者、増田は言う。
新人インターン生の私(宮地)は「戦略……?単純に新しくて素敵な施設をつくれば人は集まるものじゃないの……?」と最初その言葉の意味がよく分からなかった。

本記事は、ザランタン各施設のマーケティング戦略について追いつつ、地方創生におけるマーケティング面でのポイントを解き明かすシリーズの第二弾。
今回は「ザランタン鹿沼|前日光あわの山荘」について。(第一弾:北海道・芦別編はこちら



栃木県・鹿沼市の施設課題
「年間稼働率5%以下」

東京都から車で約2時間の、好アクセスの場所にある栃木県鹿沼市。日光の手前に位置し、関東一の清流とも呼ばれる「大芦川」や、ピクニックから本格登山まで楽しめる「前日光県立自然公園」があり、自然に囲まれて落ち着いた地域である。

鹿沼市に2022年7月『ザランタン鹿沼|前日光あわの山荘』はオープン。開業からわずか2年弱で、累計約1万5,000人以上(2024年3月時点)が訪れる人気グランピング施設となった。

しかし、開業前には大きな課題があった。
開業前のこの施設は「前日光あわの山荘」は、隣接している「前日光つつじの湯交流館」とともに年々利用者は減少。使われなくなったテニスコートをリノベーションしてキャンプ場として事業転換するも、利用者減少に歯止めはかからず。年間稼働率は5%以下だったという──。

そんな課題があった場所を、いかにマーケティング戦略で地方創生したのか。

今回も、『ザランタン鹿沼|前日光あわの山荘』の設立背景や現在までの道のりについて、地方創生における5つのマーケティングポイントに注目しながら、株式会社ダイブ地方創生事業の増田へのインタビューとともに追っていく。



【鹿沼×地方創生】
マーケティングのポイント5つ

① 一発屋のグランピング施設になるな

2022年当時、株式会社ダイブが『ザランタン鹿沼|前日光あわの山荘』を開業した背景には、関東マーケットを抑える重要性があったという。

関東エリアの人口は約4,000万人。これは日本の総人口の3~4割に及ぶ。当時、香川県・岡山県・北海道・佐賀県といった関東エリア以外で展開していた『ザランタン』にとって、全国的なブランド認知を上げるためには関東マーケットに抑えることは必須だったという。

ただ、候補地を見つける道のりは簡単ではなかった。

増田「関東で『ザランタン』の候補地を探し始めたんだけど、ここが一番苦戦した......。そもそも関東エリアには遊休している土地や施設が少なかったし、遊休してたとしても自然感を兼ね揃えている場所ではないことが多かった。」

宮地「やっぱり自然感がないと、お客さんは来ないですよね……。」

増田「いや、そんなことはないんだけど。」

宮地「え?」

増田「関東にある他社グランピング施設は、民家や幹線道路の近くなどの自然感が少ない場所にあることも多くて。でも、コロナ禍で経営は上手くいっていた。」


関東のグランピング施設は、自然豊かな立地じゃなくても予約がとれないほどの人気だったという。三密回避の旅行を求める消費者のニーズ、近場で非日常感を求めるニーズにグランピング施設はマッチし、経営は絶好調だった。

それであれば……自然感にこだわらずに関東であれば出店をすればいいのでは?という疑問が私の頭によぎる。


増田「短期的な視点だと自然感にこだわずスピードを優先した方がよいかもしれないね。でも、中長期的な視点で『消費者がグランピング施設に求めている本質的な価値は何か』をとらえる必要もある。」

宮地「本質的な価値……?」

増田「グランピング施設に求めるものを消費者リサーチをすると、大自然に囲まれて過ごす時間・自然体験こそ顧客満足度の向上につながっているとわかった。確かに、水回りが良くても自然感がなかったらただのホテルになってしまうし、いちユーザーである自分の主観で考えても『アウトドアは、自然が豊かな場所でしてこそだな……』と感じていた。」

宮地「なるほど。」

増田「コロナ禍により一時的にグランピングに追い風が吹いていたのは事実。でも、コロナが明けて沖縄旅行や海外旅行も行けるようになった時に、グランピング施設として本質的な魅力を備えていなければ淘汰されていくことが予想された。それはリスクが高い。だから、関東マーケットは欲しかったけど、『ザランタン』が大事にしている価値である自然環境を妥協したくはなかった。」

宮地「……ただ、流行りに飛びつくだけじゃ駄目なんですね。」


増田「当時、関東エリアの候補地をとにかくたくさん視察して……そんな時に、出会ったのが鹿沼市だった。鹿沼市は、東京から2時間、宇都宮からも1時間で行けて、人気観光地の日光も近い。日光には、特に紅葉のピークを迎える秋口に人流が多くて、鹿沼なら立地的にも立ち寄ってもらえる。」


増田「それと、人気観光地の近くなど、ある程度の人流が既にある場所の方が集客はしやすいと分かっていたんだ。鹿沼はかつて日光の宿場町として栄えた場所で、昔ながらの街並みや飲食店もあって、町としても魅力的。自然に関しても、施設内には渓流も流れていて気持ちのいい環境で、求めている条件が揃っていた。」

宮地「妥協せず、こだわって場所探し続けたことが、『ザランタン鹿沼』の成功の基礎になっているんですね。」


学び① 本質的な価値をとらえる
例えばタピオカも一時は大流行してお店も増えたが、今では閉業したところも多い。目先の流行や利益ではなく、長期的な成功を見据えた施設づくりをするには、消費者が求める「本質的な価値」をとらえることが大切である。



② 1泊2食体験付き、一人あたり1.5万円前後の値決め

第2に、意外と見落としがちなポイントとして、売値の重要性について語る増田。京セラ株式会社の創設者である稲盛さんも「値決めは経営である」とおっしゃるほど。

経営についてあまり熟知していないと、プライシングの観点が弱くなってしまう傾向があるという。仮に商品が超最高品質だとしても、品質を上げるためには値段も上げなければならない。もちろん品質は大事だが、消費者からすると値段も同じくらい重要な購買の判断軸であり、その観点がどうしても抜けやすいという。


増田「重複するけど、『ザランタン鹿沼』を開業した時はコロナ禍だったから、旅行先としてグランピングがブームだった。ひとり1泊2食付きで3万円〜4万円と高額だったとしても、泊まってもらえる可能性はあった。でも、一時的に市場的に追い風が来ているだけ。コロナが終わったあと値段に見合わないグランピング施設は、中長期的に考えるとリスクがあるなと思っていた。」

宮地「確かに、私もグランピングには興味あったけど、高価な施設がほとんどで。結局行けてないです……。」

増田「自社で調べたデータをみても、1万円以上〜2万円未満の価格帯でグランピングを求めているユーザーの割合が65%以上と大きい。なのに、この価格帯で提供している施設がほとんどない。なのでこのマーケットを狙えるなと。自分たちが『ザランタン』でやってきたことを、関東でも実現できたら絶対にヒットすると思った。」

宮地「価格も関東だからといって妥協せず、実際のマーケットやユーザーの需要に応える……。シンプルだけど、意外と見過ごしがちな部分なんですね。『グランピングは高価なもの』という認識も変わりますね!」


学び② 売値にこだわれ
消費者にとっては価格も重要な判断軸。流行に頼るのではなく、実際のマーケットやユーザーの需要に基づいた価格設定をするべし。


③ ウッドデッキを引き算する

最初の視察から協議を重ねること2年 ── 晴れて契約交渉が成立!したものの、その先にはさらなる壁が……。契約交渉の末に承認された、初回契約期間はなんと1年半の短期間だった、という。

これでは初期投資を契約期間内に回収できない可能性が高く、ビジネスとしてリスクがとても高いことはインターン生の私でも想像がつく。立地的なポテンシャルから中長期的な成功を見据えていたとはいえ、いかにこの壁を乗り越えたのだろう。


増田「契約期間が1年半という悪条件があったときに、やるべきは可能な限り投資回収リスクを最小限にすること。そのためには、2つしか道がない。1つ目は当初の想定よりも高く値付けをして、短期的に営業利益の創出を優先する方法。2つ目は、『ザランタン』が大事にしてきた値付けは維持しつつも、そもそもの初期投資を大幅に削減する方法。結論、チームで話し合って、当初の計画よりも初期投資を削減しようと決めた。」

宮地「初期投資の削減、といってもどうやって……?」


プロダクトというものはコストだ。それは、私も理解できた。ただ新たに設備を作る、機能を増やす、コンテンツを充実させる……そうしたコストの積み重ねでプロダクトが成り立つ。だからこそ、そもそも初期投資を大幅に減らせるものなのか、安かろう悪かろうにならないのか、私には分からなかった。

増田「初期投資の要件で本当に必要なのか?と、まず疑ったのがトイレ棟の新設。一応すでに既存設備にもトイレはあったから。ただ、既存トイレは遠すぎた。階段を上って、橋を渡って、さらに管理棟の階段を上って……と、テントサイトから歩いて5分もかかる。真夜中だと、階段もあって足元も危ないし、吊り橋も渡ってもらわないと行けないし......トイレ棟新設は引けないなと判断した。」

宮地「トイレは近くにないのは辛いですからね……。」

増田「次にアクティビティ。『ザランタン鹿沼』では目玉のアクティビティとしてテントサウナを導入する予定があり、最初に10個購入する予定だった。そこを削ってしまうと、アウトドア要素はかなり下がるし、自然体験の強みも減ってしまう。サウナ市場は伸びていて、サウナと渓流の組み合わせで提供できるのは売りにもなる。なのでそこも引けない」

宮地「アクティビティを削ったら、それこそ本末転倒な気がします。」


検討に検討を重ねた結果 ── 。
客室のウッドデッキ建設を削ることに決めた、という。

増田「『ザランタン』の他施設はすべてウッドデッキがある。ウッドデッキの上に張られたテントは見栄えも良いし、非日常感も演出できる。だから、グランピング施設はウッドデッキがあるべき、と固定観念で思ってしまっていたけど、改めてこの時、消費者は本当にウッドデッキを必須で求めているのかを疑った。ウッドデッキがあるけれども宿泊料金が1泊2食体験付き2万円になるのと、ウッドデッキはないけれど宿泊料金が1泊2食体験付き1.5万円になるのと ──、本当に顧客が求めているのはどちらなのか。」

宮地「難しい選択ですね……。」


仮にコスト増加を承知でウッドデッキを建設した場合、短期間でコスト回収するためには確実に宿泊費を上げざるを得ない。でも、それは『ザランタン』のマーケティング戦略において絶対に譲ってはいけない項目。そこで、ウッドデッキ建設は保留にして、長期契約が決まったあとに立てることにした。

さらにただウッドデッキを引き算するのではなく、基礎部分はのちのちウッドデッキが立てられるような仕様にしてコンクリートのデッキとして作ることにしたという。結果、当初の計画よりも4分の1までコストを抑えたという。

今の実績から答え合わせをすると、その判断は正解だったのかもしれない。ただ、当時いろんな選択肢があり時間が限られるなか取捨選択するのは簡単ではなさそうだと、私は感じた。


学び③ 頭をひねって、取捨選択
最大限リスクやコストを抑えるために、「何が必須で、何が削れるか」を見極める考察力と決断力が必要。



④ファミリー層からの嫌われ者になる

第4のポイントとして、嫌われる消費者を決めるべきと増田はいう。


宮地「えっ……?消費者に嫌われたら、そもそもビジネスにならないんじゃ……?」

増田「不安だよね。だから大抵、みんなの意見をまあるく聞いて、『あれが欲しい』『これがないと困る』と色んなアイディアをあれこれ足し算して詰め込みすぎてしまう。その結果、誰にとっても中途半端なものになるんだ。」

宮地「中途半端なもの?」

増田「例えば、有名カフェチェーンのスターバックス。スターバックスはおしゃれな空間が売りで、若者や感度の高い人たちから支持されている。勉強とか仕事にはぴったりの場所だよね。でも、ファミリー層には嫌われているんだ。なぜなら静かだから子どもが騒いだら気を使うからね。あとは、匂いの出る食事などはおしゃれ空間的な価値を毀損するから、あえて取り入れていなかったりする。」

宮地「なるほど!確かに。ターゲット層をしっかり定めた方が、お客さんの満足度向上やリピーター獲得にも繋がりやすいかもしれないですね。」

増田「そう、どこに嫌われてどこに好かれるかっていうのを意識して事業をするのは大事なんだ。その方向性を象徴するのが、つまりは、コンセプトなんだけど。好き嫌いが分かれるプロダクトって、一見需要が狭くてもったいないように思えるけど、ターゲット層に対して明確にポジショニングが取れていてとても良いものなんだよね。」


増田「この考え方は、ザランタン鹿沼の時も同じ。グランピング施設は一般的に、ファミリー層の利用が多い。だからファミリー向けに整備するのが正攻法にみえる。

でも、ザランタン鹿沼を開業した場所は子供から目を離して自由に遊ばせるには地理的に少し危険なんだよね。死角が多くて崖があるから、子供を遊ばせたときに落ちて怪我をしてしまう可能性があったり、渓流もあまり浅瀬ではなくて流れも少し強かったりと、ファミリー層にとってのデメリットが目立った。デメリットを打ち消すには整備費用がかさむし、時間もかかる。

さらに仮にファミリー向けに作ったとしても、近くには那須高原があるから、そこの動物園とかテーマパークに勝るファミリー層の支持は取れないと思って。」


増田「だからカップルや友人同士で来るような層をメインターゲットにした大人向けの施設として開発をすることにした。」

宮地土地の特徴からターゲットを絞り込んだんですね!」

増田「その通り。そして、どんな大人向けのアクティビティを用意するかを考えた時に、施設内に渓流があったので、市場的に伸びていたサウナを一番の売りにしようと。サウナと渓流をセットで提供できる安価なグランピングというポジションで開発していけばかなり強いと思ったからね。そして『ザランタン鹿沼』のコンセプトは、『前日光でととのう、渓流リトリート』に設定したんだ。」


今後は、渓流沿いへの川床サウナや、朝ヨガができる渓流テラスの機能の整備や、大人向けにおしゃれなアウトドアバーを整備を検討しているという。誰に嫌われるかが明確になっているからこそ、ターゲットになる大人が喜んでくれるには?と思考回路を絞ることができる。

地方創生においては、お金・人・モノのリソースが限られる。その中で、弱みを打ち消すのではなく、その地域性の持っている魅力を引き出すコンセプトメイクが重要だと理解できた。


学び④ 嫌われる消費者を決める
土地をしっかり見て、最適なターゲット層を絞り込み、その需要に合わせて施設づくりを行うことが重要。


⑤ 積み上げた信頼で、長期契約へ

最後のポイントは、小さな実績を積み上げること。いきなり巨額の投資で勝負に出たり、目先の利益に躍起になるのではなく、試行錯誤して進めながらしっかりと結果を出して、着実に実績を積んでいく。そうすることで地域からの信頼を得られたり、地域企業との協力も可能になる。


増田「地域の企業とか貢献とかでいくと、粟野建設さんという地元の建設業者さんや、お肉などの食材も地域のお肉屋さんから仕入れている。はじめは地域の人も『うまくいくのかな……?』と懐疑的だったけど、今では喜んで協力してくれている。コツコツ頑張ってきてよかったなと感じるよね。」


以前は稼働率5%で年間利用者も100人未満であったが、ザランタン鹿沼|前日光あわの山荘の開業1年目で宿泊者数7,000人突破、2年目には8,000人が宿泊し、累計1万5,000人が利用する人気施設となった。そして、当初は1年半の短期契約だったのが、小さな実績の積み重ねにより、自治体や地域住民・事業者からの信頼を得た結果、長期契約が実現した。

2024年3月からは各テントお部屋にはウッドデッキが整備され、その他の整備も進行している ── 。


学び⑤ 小さな実績を積み上げる
いきなり大きく勝負したり大きな利益を目指すのではなく、少しずつ着実に。その積み重ねが地域からの信頼につながる。


まとめ

ここまで見たように、

① 本質的な価値をとらえる

② 売値にこだわる

③ 頭をひねって取捨選択

④ 嫌われる消費者を決める

⑤ 小さな実績を積み上げる

の5つのポイントを押さえた戦略により、以前は稼働率5%以下であった公共施設が、累計1万5,000人以上が訪れる人気グランピング施設へと再生した。



「地方創生をするには、
 マーケティング戦略が必要だ。」

今回また新たなマーケティングポイントを学び、ザランタン各施設の立ち上げには様々な戦略がなされていることを改めて実感。私も色んな角度から戦略を考案できるように、これからさらに学び続けていきたい── 。

(記事作成:広報インターン 宮地)




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