新卒で大手ゼネコンに入社した佐々木は、現場監督としてキャリアをスタート。 その後、留学やアジアでのICT事業戦略、米国でのM&A推進など、20年にわたり多角的なキャリアを歩んできました。ゼネコンで20年築いてきたキャリアの中で、現場の泥臭い実態から大手企業の経営層の視座までを知り尽くした彼が、節目のタイミングで選んだのはアンドパッドへの参画でした。今回のインタビューでは、佐々木が大手企業でどのような経験を積んできたのか、現場と経営の双方を経験したからこそ見えてきたものについて語ってもらいました。
佐々木 延幸 新規事業開発室
大学卒業後、大手ゼネコンに入社。現場監督を経て、本社企画室へ異動。その後シンガポールにて、アジア全域のICT事業戦略策定、クロスボーダーM&Aを経験。米国子会社の事業戦略補佐および業務プロセス最適化を歴任。2025年、アンドパッドに入社。
職人の手仕事への憧れから大手ゼネコンへ
――佐々木さんが建設業界を志した原点と、キャリアの概要について教えてください。
私の原点は、大工をしていた父をはじめとする職人家系で育った幼少期の記憶にあります。父、祖父、曾祖父と代々建築の職人であったため、幼少期から職人たちの手仕事を見て育ちました。何もなかった場所に建造物が立ち上がる過程を間近で体験し、「モノづくり」の面白さに魅了されました。しかし、就職の際には、父と同じ道を選ぶのではなく、「よりスケールの大きなプロジェクトで建物を建ててみたい」という思いから、大手ゼネコンへの入社を決めました。
入社後は現場監督として約10年間、あらゆる建築現場の施工管理に携わり、後半10年は経営目線での、全社プロジェクトやM&Aなどを体験しました。施工管理は工場建築から始まり、数十億円規模の高齢者施設、大学の体育館、さらには超高層タワーマンションや大型商業施設・オフィスビルなど、数億から数十億、数百億円規模の多種多様な現場を担当しました。
――現場監督の仕事において、印象に残っているエピソードを教えてください。
現場監督の役割は、2年や3年といった建造物のマスター工程を月間・週間の細かな実行計画に落とし込み、日々現場で動く職人さんたちを統括しながら、完工まで推進することです。大規模な現場では、1日に数百人から数千人もの職人さんが工事を行います。職人さん全員が同じ目標に向かって安全に、かつ気持ちよく仕事を進められるよう段取りを組み、司令塔として現場を回していくのが現場監督の責務です。
特に忘れられないのが、ある大型商業施設の建設現場です。トラブルが発生した直後の局面で後発部隊として投入され、過酷なスケジュールと厳しい環境の中でスタートを切りました。あまりの重圧に周囲が疲弊し、脱落者も出る中ではありましたが、「自分がやりきるしかない」と腹を決めました。職人さんたちと膝を突き合わせて信頼関係を築き、日々の徹底したコミュニケーションを通じて工程を追いました。最終的に無事故で工期通りに完成を迎え、お客様から「本当にありがとう」と感謝されました。 胸が熱くなり、思わず涙が溢れるほどの達成感を味わった瞬間です。 職人さんたちが一人で奔走する私を見かねて、協力し、鼓舞してくれたからこそ実現できたことだと思います。
――現場の最前線で学んだ、仕事における大切な信念とは何でしょうか?
一言で言えば「筋を通し切ること」と「信頼関係の構築」です。建築現場はデスクワークと異なり、一歩間違えれば命の危険につながる過酷で真剣勝負の世界です。だからこそ、自分の言葉には責任を持ち、情報の伝達漏れや曖昧さを一切排除して職人さんたちに向き合う必要があります。安全第一を徹底し、全員が同じ方向を向いてゴールを目指すためのリーダーシップと対話の大切さは、今でも私の全ての仕事の根幹になっています。
34歳での転機。現場から経営の渦中へ
――その後はどのようなキャリアを歩んだのでしょうか?
現場監督として10年目を迎えた頃、本社の企画室から一本の電話が入りました。突然「明日から現場を離れて留学に行ってもらう」と急遽告げられました。背景は多角的で経営視点を養う人材を育成していくプロジェクトにおいて、私に白羽の矢がたったようです。10年間もいた現場を離れることに対する葛藤や寂しさは正直ありましたが、「これは自分のキャリアにおける大きな転換期になる。この挑戦機会を逃す手はない」と決意し、要請を受け入れました。
――具体的にはどのような活動をしていたのでしょうか?またここでの経験は、佐々木さんの視座にどのような変化をもたらしましたか?
1年間、大学院でファイナンシャル、経済学、法務、経営戦略などを体系的に学びました。これまで現場の「仮囲いの中」という狭い世界にいた私にとって、世の中の経済や経営の仕組みを学び、多国籍な人々とのネットワークを築くプロセスは、劇的に視野を広げてくれました。
留学後は本社に戻り、副社長や各事業部門長が集まる経営会議の場で、自社や建設業界全体の将来像を議論する場に立ち会いました。現場にいた頃は「目の前の工事をいかに期日通りに納めるか」に集中していましたが、経営陣は「10年後の業界のあるべき姿」「業界をリードし、自社が果たすべき社会的インパクト」という遥かに高く広い視座で意思決定を行っていました。それが現場とは圧倒的に異なる景色でした。現場を体験し、経営の視座を学んだことで、「その両者をつなぐ媒介役として業界に貢献していきたい」という覚悟が芽生えたことを今でも覚えています。
――現場と経営の両方を経験したことで、佐々木さんご自身の「キャリアの軸」にはどのような確信が生まれましたか?
私のキャリアの軸は、「現場・業界・社会への貢献(Contribution)」です。 現場の泥臭さや大変さを身をもって経験してきたからこそ、「現場の努力が正当に報われる仕組みを作りたい」という強い想いが行動の原動力になっています。 現場の声を伝えるだけでは経営は動かず、逆に数字だけを突きつけても現場は動きません。現場のリアルと経営の数字という『双方の言語』を理解し、そのブリッジ役となって組織や業界を変革することこそが、自分が現場に恩返しをし、社会へ貢献するための最良の道だと考えています。
海外の現場で直面した「変革の壁」
――その後、アジア地域のICT事業戦略やクロスボーダーM&Aを牽引されましたが、その経緯について教えてください。
経営目線を培った後は、シンガポールを拠点としたアジア全域のICT事業戦略担当に命じられました。私の命題は、「今後のアジアにおける建築事業のあるべき姿」を考えること。そのためにまず現状分析からスタートしました。しかし当時はコロナ禍の直前・直後であり、海外渡航や人的リソースが極度に制限され、各拠点の現場進捗が全く把握できない危機的状況にありました。
そこで私は現地に着任後、落ち込んだ生産性を上げていくため、まずアジア全域にある100件以上におよぶプロジェクトの工程表や実行予算データを自ら手作業で収集し、一つの可視化シートとして立ち上げました。あらゆる支店に毎日電話を掛けて、状況を把握、さらに現地スタッフがタブレットなどで日々の進捗や3Dデータを入力できる専用の可視化ダッシュボードシステムを構築。経営陣がリアルタイムで、クリティカルパスの進捗や予算状況といった現場の真実を正しく把握できる仕組みを完成させました。
――100件以上ものプロジェクトの状況把握には、大変な苦労があったのではないですか?
そうですね。一人でプロジェクトを進める苦労はありましたが、プロジェクトの進捗も真実も分からなければ、経営判断を的確に下すことはできません。情報をデータとして蓄積し、分析できる仕組みが不可欠だと感じていたからこそ、強い思いを持って取り組むことができました。このときから、情報をどう貯めてどう活かすかを、初めて真剣に考え始めました。本当に知るべき情報と判断軸を明確にするべく、シームレスな透明性のあるシステムを突き詰めるべきだと考え、行動していました。
――しかし、国や言語、文化が異なる海外現場で、新たなシステムやツールを定着させるのは容易ではないと思います。どのようにハードルを乗り越えたのでしょうか?
単に「本社が決めたルールだから入力してくれ」とツールを押し付けても、現場は絶対に動きません。国や言語、ビジネス慣習が異なる現地スタッフ一人ひとりのバックグラウンドや思いに耳を傾け、入力者にとってのメリットや可視化の重要性を丁寧に解き明かしていく必要があると考えています。
具体的には、各拠点の中でITリテラシーや意識の高いキーマンを巻き込み、地道な草の根活動です。国ごとの進捗率やデータ入力率を可視化して、競争意識を生み出す工夫を行ったこともあります。相手の立場に立った対話とリスペクトの姿勢があってこそ、初めて組織や現場は動いてくれるのだと痛感しました。その後、再度異動の声掛けがあり、M&Aに携わることになりました。
――また未知の領域を任されることになったのですね。
はい。現場上がりの人間が誰も手掛けたことがない領域で、自分がロールモデルになるという新たなキャリアへの挑戦だと捉え、腹をくくって引き受けました。M&Aの対象は、アジアのとある建設会社。店舗内装や改修ビジネスを専門に手掛ける企業でした。約1年間、企業のクロスボーダーM&A案件に携わったのですが、最終的なクロージングを手掛ける前に、アメリカ赴任の辞令が出たためチームに引き継ぎました。そこでは米国子会社の社長交代に伴い、社長補佐として米国事業における業務プロセスの最適化や北米全体の事業戦略立案、さらには大型M&A交渉の最前線に立ちました。海外で仕事をする中で叩き込まれたのは、「自国の常識や基準で相手をジャッジしない」ということです。なぜ彼らがその発言をし、その選択をするのか。相手の文化的背景や文脈を深く理解した上で対等に対話し、共通のゴールに向かって巻き込んでいく重要性を体得しました。
――現場監督から経営企画やM&A、海外事業へとレイヤーが上がっていく中で、経営に関わる面白さはどこにありましたか?
自分が主役として前面に出て判断を下すというよりも、経営陣の「参謀・サポート」として、事業成長を極限まで加速させる「触媒」になれる点に大きな面白さを感じていました。 現場時代に培った泥臭いリアルな感覚をベースに、関わったプロジェクトが巨大化し、組織や人が飛躍的に育ち、国境を越えるビジネスへと昇華していく。そのダイナミズムを参謀として間近で動かし、愚直に「やり切った」という強い手応えを得ることができました。
「縦と横の分断」を再構成する熱い覚悟で、退社を決意
――大手ゼネコンで現場監督から海外事業・経営戦略まで輝かしいキャリアを重ねる中、ゆくゆくは経営陣として活躍する道も見えていたかと思います。
大型M&Aの契約調印を迎え、大きな肩の荷が下りました。その節目で、日本への帰任と新たな部署の立ち上げを打診されましたが、ふと立ち止まって考えるタイミングがありました。当時は42歳。大手ゼネコンにおいて、現場・留学・経営企画・海外M&Aという全方位の経験を積ませてもらい、自社や業界の構造が見えるようになりました。このまま会社に残り、決まったポジションで事業を守っていく道もありました。しかし、国内の建設市場が成熟期を迎える中、守りの姿勢に留まりたくはありませんでした。「残り20年の社会人人生で、もう一度自らの手で業界に大きなインパクトを与える挑戦がしたい」という強い思いから挑戦を決意しました。自分の足で立ち、建設業界の構造的課題を本気で解決できる舞台へ飛び込もうと決心しました。
――佐々木さんが考える、現在の建設業界が抱える本質的な構造課題とは何でしょうか?
建設業界には、「縦の分断」と「横の分断」が存在します。「縦の分断」とは、施主、ゼネコン、サブコン、職人という重層的な請負構造の中で、下位のレイヤーへリスクや負担が一方的に転嫁されてしまう構造です。そして「横の分断」とは、設計、積算、施工管理、維持管理という一連のプロセスごとに部署やシステムが分断され、データがシームレスに繋がらないサイロ化の状態を指します。この二つの分断がある限り、どれほど個別の現場が努力しても、産業全体の生産性向上や働く人々の待遇改善を実現することは、難易度が高いと考えています。
――その分断を解消するための唯一の解が、アンドパッドだったと。
その通りです。縦と横の分断をつなぎ合わせ、情報を透明化してデータを統合できるのは、現場の職人さんから大手企業の経営層までをカバーし、27.9万社を超える圧倒的な顧客基盤を持つアンドパッドのプロダクトしかありません。現場のリアルな解像度を持つのがアンドパッドのプラットフォームです。そこに私が培ってきた大手ゼネコンでの現場知見、経営戦略、グローバルM&Aの経験を掛け合わせれば、業界の構造変革を劇的に加速させられると確信し、ジョインを即決しました。
仮に巨大グローバル企業がいくら莫大な資金を投入してシステムを作ったとしても、「現場で当たり前に使ってもらえるようなサクセスノウハウ」と「10年分の現場のリアルなデータ」だけは絶対に買えません。 建設DX/AXにおける最大かつ最難関のハードルは、現場の職人さんや施工会社に実際にツールをご利用いただくことです。アンドパッドが10年かけて現場に入り込み、職人さんたちとの信頼関係のうえで獲得してきた一次データは、他社が追随できない『最大級の防御壁』であり資産です。この蓄積があるからこそ、分断された業界をテクノロジーで一気通貫につなぎ切る勝算があると感じています。
現場と経営の知見を融合させ、日本発のプラットフォームをグローバルへ
――アンドパッドにおいて、今後どのような挑戦をしていきたいですか?
第一に手掛けたいのが、国内における大手ゼネコンやエンタープライズ企業に対するアプローチの強化です。大企業の経営陣が求めているのは、単なる「業務効率化ツール」ではなく、「3年後・5年後の事業拡大やデータ統合にどう貢献できるか」という未来の拡張性と戦略です。現場監督としての解像度と経営層としての視座の双方を活かし、大企業の経営アジェンダに深く切り込む提案を推進していきたいと考えています。
第二に、アンドパッドのグローバル展開の推進です。すでにアンドパッドではアジアといった海外市場での挑戦が始まっていますが、日本で培った圧倒的なプロダクト力と現場第一主義のサクセス文化は、世界市場でも充分に通用するポテンシャルを秘めています。私が海外現場やM&Aの最前線で培ってきた知見をフルに注入し、ANDPADを「世界で勝てる日本発の建設AIデータプラットフォーム」へと昇華させていきます。
――最後に、これからの建設業界への思いを教えてください。
建設業は、人間の手で社会インフラを作り上げる素晴らしい産業であり、現場で働く人々は誇りに満ちています。しかし、アナログな環境や構造的な分断によって、その魅力や価値が充分に発揮しきれていない現状があります。縦と横の分断を統合できるのは、強力なプロダクト力と膨大な現場のリアルな声のデータ、及び分析結果による裏付けられた確かな情報だと思います。私のこれまで培ってきたグローバルや建設業界の知見を掛け合わせ、世界で戦える企業に成長させていきたい。業界の縦と横をつなぐ媒介役として、テクノロジーの力と現場へのリスペクトによって、現場の職人さんから経営者まで、誰もが正当に評価され誇りを持って働ける世界を作り上げたいと考えています。そして将来、今の組織がグローバルに向けてさらに爆発的に拡大していく景色を間近でみてみたいです。