皆さまいかがお過ごしでしょうか。まずはご報告です。A.C.O.はこの度、モンスター・ラボの一員になりました。ちゃんとした説明はこちらのプレスリリースを読んでみてください。このリリースが公開されてからというもの、何故この選択を?と知人からよく聞かれます。どうやら周囲には意外な選択だったようです。であればここに、デジタル化を追い風にまずまずの成長をしているけれど、今後のさらなる変化と複雑化するニーズに独立系企業のまま対応できるだろうかと正直不安を覚えている40代のオーナー経営者に向けて、体験したことを書いておきます。
その前に一つお伝えしておきたいのは、A.C.O.の経営に事業継承の課題はありません。業績も順調だし人材も集まってきています。色々とキレイです。だからこれは救済型M&Aではなく、成長を目的とした戦略型M&Aと言うそうです。
M&Aという道を選んだ理由
M&Aを初めて意識したのは2011年春、facebookが小さなデジタルデザイン企業を買収したというニュースを目にした時です。そもそも事業会社がデザインを強化するなら、どんなに大きな企業でも個人のデザイナーをハンティングする事で解決するものだと私は思い込んでいましたのでちょっとした驚きでした。facebookはエンジニア集団だからデザインや使い勝手なんで後回しだ、という姿勢から一転してデジタルデザイン品質の向上に向けてチームまるごとM&Aしたわけです。この時デザイン人材、もっと正確に言うとデジタルデザインチームには大きな価値があるのだと私は理解しました。この時から、いずれ日本でもデジタル・デザイン企業の価値が上がるだろうと思い込み、自分たちが今後M&Aという選択をするかわからないけれど、とにかく個人の才能に寄りかからず最高のチームパフォーマンスを発揮する会社を創ることに集中することにしました。
ちょうどこのころに「自分の足で立つ人を、つくる」と「一人でできることは、小さい」という2つのA.C.O.の企業メッセージを作りました。会社は未来永劫続くものではないから自分のスキルをしっかり磨いておこうね、そして一緒にやろうという人が現れたら大きなことができるようになるよ、という意味を込めています。このメッセージには、個人価値とチーム価値の最大化を目指す決意と同時に、万が一会社がどうなっても自分でどうにかしてね、という私なりの予告が込められています。
M&Aの対象にすら入っていなかった
これ以降は明確にM&Aも選択肢の一つとして意識しながら経営判断をしてきました。とにかく良いチームを作ろう、と。そのためには採算が合い、多くのプロジェクトを経験し、財務の健全化を計ることは最低条件で、新しい領域や規模の大きいプロジェクトに挑戦し、自社メディアで発信し、調査研究に力を入れ、経営陣と社員間の垣根ない健全な関係を作ろうと努力しました。気づいたらM&Aの意識は薄れ、どうにかして良いチームをつくってサービスの総合力を強化したい、その一心でした。
頭の片隅からM&Aという選択肢が消えかけた2016年冬、Design tech Report にデジタル・デザインに強い企業のM&Aが活発に行われている理由が書かれていました。またオーナーが変わったことで、更に成長を遂げている企業が沢山あることを知ります。ここでM&Aという選択肢を頭の中で再起動させました。(Design in Tech Report 2015 from John Maeda)
この頃タイミング良くいくつかのM&A仲介会社から連絡があったので、いよいよ来たなと待ち構えていると「エンジニアは何人いますか?」としか聞かれない。A.C.O.の企業価値がほとんどないと遠回しに言われたりしました。要するにエンジニアが足りないから採用よりM&Aが安いということで買い手から頼まれて探しているだけでした。だからエンジニアがいないA.C.O.に興味を持ってもらう人は皆無。欧米の傾向がいよいよやってきたと構えた私の想像とは大きく違っていました。ちょっと早すぎたかもしれない2016年春のことです。
まるでM&A活動という名の営業活動
M&Aのことは無かったことにして実業に集中していた2016年夏、初めて自分の考えていたことを理解してもらえそうなM&Aコンサルタントと出会えたので、恐る恐るM&A活動を再開してみました。これまでとは違い、予想に反して沢山の候補企業と多くの経営層の方々と深いところまでお会いする機会を得ることができました。それは今後の経営方針や経営課題、社内事情、私達への期待(ずれてる期待も含め)など、実に生々しいお話が積み上がっていきました。すると図らずもM&A活動が、質の高いB2B顧客調査として機能しはじめます。その調査結果をきっかけに、今一度事業戦略を立て、後にUXデザイン事業へ参入することに。こうなるともはやM&A活動という名の営業活動のようです。
可能な限り社内で共有しながら
一般的に、オーナー経営者は社内の誰とも共有することなくM&Aを進めることがほとんどだそうです。でもA.C.O.はネガティブな理由があるわけではないしM&Aありきでもない。そもそもチームを企業価値としているのでこの活動隠す理由はどこにもないだろうという理由で、管理職以上には最初からほぼ全ての進行状況を共有して進めていました。この開示によって早い段階で管理職同士の会合が行えたり、企業文化の相性や現場感シナジーが立体的に確認できたりと、経営視点だけでは見えてこない判断材料が沢山得ることが可能になります。
あともう一つ。クロージングまでの2年弱ずっと粘り強く支えてくれたM&Aコンサルタントや厳しい目でA.C.O.を支えてくれた弁護士先生と税理士先生、そしてしなやかで前向きな取締役。最高のチームが無ければ、怖くて前には進めなかった思います。
変わること、変わらないこと
さて心機一転、これからです。何が変わるのかは、まだ私もわからないことが多いのでやってみるしかありません。少なくともグループに入ることで財務管理や人事管理など、これまで出来ていたとは言い難い大切なバックオフィスをサポートしてもらいます。そうなれば実業に集中できるのでサービスの発展がこれまでより加速することになるでしょう。モンスター・ラボの優秀な主要スタッフの皆さんからは学ぶことだらけだし、ぶっ飛んでる社長(良い意味で!)は思いもよらない風景を描いてくれそうだし、A.C.O.のスタッフは頼もしくて柔軟だし、そんな人たちに刺激をもらいながらコミュニケーションデザインやUXデザインを中心に、戦略提案から開発までを一括して品質管理できるようになることは楽しみな変化です。まだまだこれからですが。
日本の企業を世界に伝えたり、大手以外の選択肢を提供したり、デザインで課題解決したり、タイムチャージ商習慣を根付かせたり、次の世代の人材を育てたり、成功体験を捨ててダイブしたり。A.C.O.としてまだまだやらなきゃいけないことが沢山あるけれど、これまでの方法より少し近道できるかもしれません。
一方で既存の役員や社員、企業ブランド、基本的なサービス方針、既存の開発パートナーとの協力関係はこれまでと変わらないので、表向きにはあまり大きく変わったように見えないかもしれません。それでも、A.C.O.がジワジワと力強さを増しているように皆さんに感じていただけるよう、気を引き締め、引き続き会社をデザインしていく覚悟です。
これからもA.C.O.をどうぞよろしくお願いします。
WRITER
倉島 陽一(YOICHI KURASHIMA)
代表取締役兼CEO/PRODUCER
東京芸術大学美術学部建築学科卒業。設計事務所を設立。代表取締役退任後、A.C.O.創業と同時に入社し、2002年同社代表取締役に就任。クリエイティブディレクション、マーケティング、コンサルティング担当。