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日本のベンチャーで働くスウェーデン人が企業の海外進出を成功させたワケ

David Bergendahl氏

これまで、社員数十人のベンチャーでも海外で成功できるのかというテーマで、ディープラーニングを手がけるベンチャー企業「ABEJA」で海外事業を担当する私自身や仲間の奮闘を伝えてきました。今回は、私のスウェーデン人の同僚であるデイビッド・ベルゲンダール(David Bergendahl)が、どのように日本の企業で職を得て、キャリアを築いてきたかについて聞きました。

デイビッドは、ABEJAに入社する前は、日本のスタートアップ2社の海外事業部署を渡り歩いてきました。2017年にシンガポールへ進出したABEJAの現地法人に加わり、いまは東南アジア地域全体の事業開発を束ねています。

彼の口から話された内容には、おのずと日本企業が海外進出で成功するにはどうしたらいいか、そのヒントが含まれています。なぜ日本企業、しかもベンチャーに入社して海外進出という道を選んだのか。貴重な体験を重ねてきたデイビッドに語ってもらいました。


就活全滅の自分をスタートアップが採用してくれた

5歳の時、スウェーデンの自宅で母のつくったすき焼きを食べて、そのおいしさに衝撃を受けました。日本食はとても新鮮で良質な食材を使い、そしておいしい。まず、食べ物を通して、日本について学びました。

学生のころはプロのスノーボーダーになろうと、Swedish Snowboard Academyというスクールに通っていましたが、大怪我をして断念。日本へ行ってみたいという思いが強まり、日本への交換留学プログラムのあるスウェーデンのウプサラ大学に進学しました。

しかし、いざ日本に出発しようとしたわずか数日前の2011年3月に東日本大震災が起こり、いったん延期となってしまいましたが、同年9月、あらためて日本の土を踏むことができました。

実際に暮らし始めると、日本はスウェーデンと似ていると思うようになりました。似ているのは、まず国民性です。礼儀正しく、ビジョンよりは現実的な考え方をする人が多い。スウェーデンにいるようなアットホームな感覚も感じました。

大学に入るための競争が激しく、実直に勉強する点も似ています。私は留学中に大学院プログラムにも合格し、院生2年目に、そのまま日本で職を得ようと就職活動を始めました。他の学生たちに交じり、リクルートスーツを着て合同就活イベントに行き、企業の面談にも臨みました。ですが、日本語を上手く話せないせいか、なかなか就職先が見つからなかったのです。

そんななか、KAIZEN PlatformというITベンチャーが、英語の堪能なインターンを探していると友人が紹介してくれました。面接を受けに行くと、担当者のひとりが私が英語を話している間に舟を漕ぎ始めてしまったので、私はまたこの会社も落ちるのだろうと覚悟しました。

そう思っていた矢先、突然その場に会社の創業者が現れて、「どうしたら海外事業を始められるか?」と訊ねてきたのです。私がすかさず自分なりのアイデアを披露すると、それに注目してくれたのか、アメリカでの事業開発を支援するインターンとして、KAIZEN Platformへの参加を許可してくれました。2014年のことです。

当時、日本語を上手く話せない外国人である私に「価値」を見出してくれたのはベンチャーだけだったのです。

日本企業が陥りがちな情報と指示の格差

KAIZENのチームメンバーと、最優秀月間チームに選ばれた祝勝で。左から坂田真さん、岡部 達也さん、デイビット本人

当時、KAIZEN Platformのメンバーは5人だけで、数年間は目の回るような日々を過ごしました。社員に昇格して最初の6カ月は、CEOと事業開発責任者と自分の3人でサンフランシスコの現地法人の立ち上げに専心しました。

チームの仲間とは英語でコミュニケーションを取り合いながらでしたが、言語の壁はそれほど感じませんでした。海外事業を軌道に乗せるという共通の目標があったので、チームワークはよかったと思います。CEO自身が現地に赴いて意思決定するので、物事を進めるスピードがとても早かったことを覚えています。

サンフランシスコと日本を往復しながら、カスタマーサクセスのマネージャーとして、アメリカの顧客のサクセスを支援しました。現地では一戸建てを2〜4人でシェアして暮らしていました。

もちろん苦労もありました。グローバルメンバーが増えてきたときにはとくに大変で。アメリカの上司に承認を得て、ある案件を日本の上司へと報告したら「認めない」と言われたことがありました。これには、日本企業が海外展開する際に、陥りがちな事情があったのです。

欧米への展開の際には、距離や時差の関係から情報の格差が生まれがちです。加えて、慣習やユーザー嗜好の違いによって、事業の優先順位も異なります。こうした違いを認識せずに、現地の判断が尊重されないまま、日本にある本社の担当者の承認を優先していくうちに、日本と海外のスタッフの間で摩擦が生じるようになりました。

この格差の状況について、私は現地法人の同僚と一緒に日本の経営陣に何度も訴えました。そうしたことで、日本から社員が派遣され、やっと私たちの懸念が事実だと認識してくれるようになったのです。

こうした試行錯誤を経て、アメリカ進出から2年ほどたったころ、ようやく会社全体にグローバルカンパニーとしてのカルチャーが形成されていくようになりました。経営陣のひとりには非日本人を招き、会社をグローバルに成長させたいと思う人だけを採用するようになりました。日本人スタッフも全員が英語を話せるよう努力するようにもなりました。

インターンとして入社してから4年、アメリカでの事業が軌道に乗り、「やりきった」と達成感を持ったちょうどそのころ、本社からサンフランシスコに定住するように命じられました。そのときはまだ日本で暮らしたかったので、思い切って転職することにしました。

とはいえ、社会人として最初に出会った会社がベンチャーで、そしてKAIZENだったのはとても幸運でした。当時、選べる立場だったとしても、大企業へは転職しなかったと思います。それくらい、多くの学びと成長がありました。テクノロジー業界に入ったことも、人生で最も幸せな偶然の出会いだと思っています。

倫理的観点からの事業検証が海外では重要

カンファレンス(IoT Asia)での登壇の様子

その後、別の日本のベンチャー企業を経て、2017年9月にまだ創業して半年だったABEJA Singaporeの社員第一号としてジョインしました。

ここでの試行錯誤も数えきれません。シンガポールのメンバーが日本の事業に持っていかれたことで現地のチームが空中分解しかけたり、他のメンバーと毎日言い争いをしたり、大切なメンバーが立て続けに辞めたり、なかなかつらいこともありました。しかし、そこを共に潜り抜けてきたメンバーとは、いま強いつながりが生まれていると実感しています。

現在、ABEJAでは、グローバル視点のカルチャーを醸成するために、日本とシンガポールで働くメンバーを同時に招き、「Global Communication Meeting」を開催しています。文化の違いなどから対立しがちな問題を解決する場として続けています。そして、ここでの発案がきっかけで生まれたのが、ABEJAの倫理委員会「Ethical Approach to AI」(EAA)です。

他の企業との協業のなかで、日本では問題とされていないような点が、シンガポールでは倫理的にグレーと取られかねないことがしばしばありました。採用の履歴書の審査やローンのクレジットスコアリングに使用されるアルゴリズムなどがそうです。これらのテーマでのAI活用は進んでいますが、アルゴリズムに使用されるデータセットに、例えばですが白人男性の採用選考固有のバイアスがある場合、倫理上問題という意見があります。

このようなグレーゾーンの部分を会社としてどう判断するのか、きちんと議論するべき、そんな意見が同僚からも出て、Global Communication Meetingで話し合われました。そこで、懸念のある事案の是非について倫理的観点で討議する委員会を設立しようと提案したのです。

EAAは提案からおよそ3カ月で結成されました。日本側の担当社員が選んだEAAメンバーの候補は、最初日本人男性が大半でした。しかしそれでは特定の性別や国籍に視点が偏ると指摘したことで、結果的に多様なメンバーが集い、いまはシンガポールの事業にも好影響を及ぼしています。

こうした倫理的観点での事業検証は、日本ではさほど必要性を感じられないかもしれませんが、グローバルでは非常に重要視されます。こういった認識の違いをふまえて、EAAが機能するよう運営できたのは、とても良い経験になりました。

最後に、私の経験から導き出した、日本のスタートアップへのメッセージを送りたいと思います。海外で事業を拡大する場合、成功要因は次の3つに尽きると思います。

・現地・現物の意思決定
・文化の違いを理解しあう努力
・グローバル企業になるという本気の覚悟

3つ目は、本気で海外に出たいのか、単に興味があるだけなのかの識別が大事ですが、「単に興味がある」というフェーズでも、できることはあります。

例えば、かつての私がその恩恵を受けたように、海外出身のインターンを採用してみることです。社員との相性を知る良い機会になります。働く時間は日本人と比べて短いですが、時間あたりのアウトプットは高くなると思います。

こうして海外に対して知る機会を設けて、自分たちの本気度を確かめていき、本気でチャレンジしたいとなれば、挑戦できる仲間はたくさんいると思います。私の経験談から、海外で成功する日本のベンチャーが1つでも増えることを願っています。

インタビューを終えて

よく周囲で日本語が話せる外国人しか採用しない会社を見かけます。しかし、日本語が話せないことで外国人を判断することは機会損失だと感じています。

デイビッドは、私が一緒に働いてきた仲間のなかでも、とくに尊敬できる同僚です。真にグローバル企業になりたい場合は、そういった言語の壁を自分たち日本人の側から突破することが、企業のカルチャーとしても大切なのではないかと考えています。

私の場合は、幸運にもこの会社に入るまで英語が全く話せない、つまり文化の違いに気づくアンテナがまったくない状態から、デイビッドを含む同僚の力を借りて、海外展開に大切な論点に気づくようになりました。「無知の知」という言葉がありますが、自らの無知を自覚し、海外メンバーを自分のなかに招き入れ、彼らに学ぶところからスタートしても、よいのではないでしょうか。

【ベンチャーの海外進出Tips】

1. 現地・現物の意思決定
◯ 現地での意思決定が不可欠。船頭が2人いる状況はつくらない。

2. 文化の違いを理解しあう努力
◯ 国ごとに文化が異なることを理解し、異なるポイントにアンテナを張るように努める。

3. グローバル企業になる本気の覚悟
◯ 日本語が話せないから採用しないというスタンスはもってのほか。海外進出に本気の覚悟がない場合は、海外インターンの採用など、できるところから始めるのも手。

文=夏目 萌

(2019年12月10日掲載のForbes Japan「AIベンチャー海外進出の「泥臭い」リアル」より転載)

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