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売り手と買い手をコミュニケーションの力で繋ぎ、より良い購買体験を提供したい

中小企業を経営する家庭で育ち、ビジネス感覚を養う

起業や現在のビジネスに繋がるような幼少期の原体験があれば教えていただけますか?

私の両親は、祖父が立ち上げた貿易会社を経営していました。私は1982年生まれで、91年にバブル崩壊がありましたが、ちょうど幼少時代は日本の景気がかなり良く、正直なところわりと恵まれた生活をしていたと思います。そのような環境で育ったこともあり、大企業に就職できたからハッピーだとか、中小企業だから不幸とかではなく、人間の幸福って違うところにあるんだ、というのを幼い頃から直感的にわかっていたと思います。

また、私が小学6年生の頃にWindows95が発表され、世界が続々とインターネットで繋がり始めました。私の親も新しい物好きだったこともあって、早々にパソコンを購入したんです。プログラムを組んだりするほどではなかったですが、私も当時からパソコンに慣れ親しんでいました。

学生時代で何か印象的なエピソードはありますか?

大学院では法律とインターネットテクノロジーの研究をやっていました。印刷術や郵便技術、さらには電話などテクノロジーの発展とともに、コミュニケーションコストが縮小してきたわけですが、それが進めば進むほど、既存の法体系に合わないような法律の紛争が起きるようになってきたんですね。例えば著作権法なんかは、元々は出版なら出版業界、音楽なら音楽業界の権利を守るために運用するといったように、業界法的な方向性が強かったのですが、技術が発達して一般の人も大量にコピーして頒布できるような時代になり、新たな問題が生まれてくる。そのあたりをテーマに、経済学的な分析も交えて研究を進めていました。

それと同時に、これだけインターネットが発達して、誰もが情報発信できるような世の中になっても、ハードルが下がるだけで、価値ある情報を発信する人の割合に変化があるわけではないと見ていました。これは、私のオリジナルな考え方ではなく、アメリカでもキャス・サンスティーンなどの学者も、著書で民主主義とインターネットの衝突を取り扱っています。今考えると、このあたりも今のビジネスに繋がっています。

実は、大学院生時代に呉智英さんや浅羽通明さんと仲良くさせていただき、知識人みたいな生活をしていたんです。なので、意識高く就職活動をして、丸の内のようなところで働きたいというよりは、そういった文化的な活動をして行きたいなという思いもあり、最初は就職活動に積極的ではありませんでした。

キャリアを見つめ直し、迎えた転機

そんな中で、金融機関に就職されたきっかけは何でしたか?

秋採用をしていたというのと、小さい頃からインターネットに慣れ親しんだり、大学院でも研究したりしていたので、インターネットを活用したユーザー向けのサービスをやりたいと前から考えていました。そこで金融機関はWebの活用が遅れていますし、遅れている業界でこそやったほうがいいと思い、三菱東京UFJ銀行に入りました。今でいうフィンテック、リテール向けのプロダクトでオンラインを活用したものを作りたいと思ったのがきっかけです。結局配属されたのは自動車会社や楽器メーカーなどの大企業担当部署で、仕事は面白いといえば面白かったのですが、自分のやりたいことであるインターネット関連とは遠いと感じました。ちょうどそんなことを考えている時に、イギリス系銀行で、インターネットを使った送金やリテール預金のプロジェクトの立ち上げがあったので、そちらへ転職を決意しました。

その後、起業に至るまでの経緯について教えていただけますか?

このまま続けても、金融系のキャリアになりそうだなという気もしていましたし、そもそも中小企業の家で育っているので、大企業の金融マンでずっとスーツを着る、ということにはこだわりがなかったんですね。それで本来やりたかったWeb系のキャリアに転身したいなと思っていた時に、ちょうどAmazon Japanから声をかけていただきました。自分で何かやりたいとは考えていましたが、まだWeb系のノウハウもなかったですし、特に小売系に興味があったので、入社を決めました。自分としては起業に向けての準備期間と考えていたので、 実際に働いたのは1年です。

Amazonではどのような学びや気づきがありましたか?

金融機関にいると、どうしても金融庁や関連会社を見ながら働くようになってしまいがちですが、Amazonは徹底的にユーザー中心の考え方であることに気づかされました。なぜかというと、現代の人間も、1万年後の人間も、変わらずいかに安く多くの品揃えの中から便利に買うか、つまりプライスとセレクションとコンビニエンスの三つを追い求めるという普遍性に基づいてすべて考えられているのです。プライスに関しても、例えば他のECサイトが下げれば自動的に追尾して下げますし、セレクション重視で今やなんでも売っています。これは特にコモディティの取引をするにはものすごく便利なマーケットで、欲しいアイテムを検索ウィンドウに入力して、後はカタログ上にアイテムが並んでいるのを辿っていくというような購買の体験を提供しています。

ただ、人間の消費活動はそれだけではなくて、コミュニケーションが大事なジャンルもあります。それはまさに我々が『ライフスタイル系』とまとめて呼んでいるジャンルで、ファッション、不動産、人材、飲食などにあたります。つまり取引される「財」に対して、エージェントがいる。ファッションだったら販売員、不動産だったら不動産の仲介業者などが情報を提供し、その人のニーズのフレームを作ってあげるということです。例えばシャツを探している時に、何千万ものアイテムが出てきたら購入をためらってしまいますが、「いいのが3着あって、その中のこの1着がとてもオススメなんですよ」と言われた方が人間って納得しますよね。そういうコミュニケーションによってニーズのフレーミングがされているライフスタイル系のWebビジネスには拡大余地があると気づいたことが、起業に繋がったきっかけのひとつです。

ファッションの購買体験を一からデザインし直す

Webビジネスの拡大余地について、どのような事を感じられたのですか?

元々のきっかけは、先ほどもお話しした、大学院の時に気づいたことで、情報技術の発達によって情報のハードルがどんどん下がっていっても、専門家など価値ある情報を持つ人は一定の比率しかいないということとも繋がるのですが、ライフスタイル系ビジネスには売り手と買い手の間にものすごく情報の差があり、ECでの取引は非常に成立しにくいと言えます。

例えば、今我々が手がけているファッションの領域では、ユーザーの使い分けが進んでいて、普段ネットを頻繁に使っている人でも圧倒的にオフラインで購入していて、EC化率は9%ほどです。ネットで買うものと言えば消費財や、インナーやソックスなどの低単価なファストなものが多いです。ECでファッションアイテムを買う人も店舗のファンで、店頭に行くこともあるし、気に入ったら今度はECやSNSフォローしたりと、実はシームレスでぐるぐると繋がっています。ここで、数量ベースでも金額ベースでもオフラインでの顧客との接点というのは非常に重要なのですが、オフラインでのユーザーの購買体験は実はそれほど良くないと思いました。

例えば、どのようなことが問題なのでしょうか?

実際に店頭に行くまでどこに何があるかわからないとか、行って見てからでないとどのようなものがあるのかわからないのが基本ですよね。その出会いももちろん重要なのですが、大人になると時間もないしなかなか難しい。あとはコミュニケーションチャネルも電話しかないとか、メールを送ってもレスポンスが遅いこともあります。コミュニケーションした時に来店の予約がされていてスムーズな商品提供をしてもらえたり、さらに言うと自分のことを知ってくれていて関連アイテムを提案してくれたりするというのは、何回も通っていればともかくとして、あまりないでしょう。更に言うと決済が裏でスムーズにまわったり、その後継続的なコミュニケーションがあるかと言うと、それもあまりないのですね。今あげたような問題点は、実はWebを使うと解決できるものなのです。ユーザーの体験を考えれば、今後そういう方向にどんどんシフトしていくと思っています。

人生での様々な気づきが繋がって起業に至ったのですね

そうですね。我々がやりたいのは、弊社のサービスを通して買い物する時に単にチャットできますとか、単にファッションアイテム買えますというところではなくて、その購買の体験を一からデザインし直すということです。つまりどこに何があるのかを可視化して、実際に詳しい専門家に話を聞いて、それを買って評価するところまで一気通貫して、購買体験をシームレス化するというところを目指して始めました。

買い物の仕方の違いをヒントに海外展開へ

ファッションを扱うことにした理由は?

確かに不動産や人材なども同じようなニーズがあるのですが、ファッションは取引回数が多いので、人の生活の中に日常的に入っていけると思ったからです。

他に、起業のアイデアに結びついたことはありますか?

もうひとつは、アジアでのモノの売買のやり方が日本より進んでいると感じて、面白いなと思ったことです。アメリカや日本は、情報技術の発展とともに段階的に情報環境も進化していったのですが、中国やインド、東南アジアなどの国々は、他の情報環境が整備される前にいきなりみんなスマホを持ち始めたことになります。そういう国の人たちは知らないモノとかコトに直面した時にGoogleなどの検索エンジンを使わないんですね。買い物の時も同様、わからないことがあったら、サービス提供者や物を売っている人にメッセージを送って直接聞くんです。値引き交渉なども、買う前にチャットで何度も問い合わせたりします。それは文化の違いというよりも、情報技術がどういうタイミングで現実社会に入ってきたかだと思っています。そこでアジアへの展開も視野に入れるようになりました。

海外でもスムーズな購買体験を提供していきたい

今後の事業展開はどのようにお考えですか?

既に海外オフィスもありますが、国内だけでなく海外でのサービスも拡大していきます。我々の事業モデル自体がわりと海外をターゲットにしていて、コミュニケーションしてモノを買い、かつそれがメディアとして流通するというようなモデルは、アジアのニーズとの相性がとてもいいのです。2018年1月からは、台湾でのサービスを開始させる予定です。今後も基本的にはファッション中心ですが、不動産など他の領域でもニーズがあるのでそちらも今後海外を起点に進めていくことも視野に入れています。

最後に、御社を志望する方へのメッセージをお願いします

スタートアップ系の企業で働ける楽しみというのは複数あると思いますが、私が楽しいと思っているのは、会社の成長と共に、自分も成長できるところです。何かひとつ得意なことがあっても、会社が成長すればするほど、それ以外にも新しいことをどんどんやらなければいけない。さらに言えば、会社を自分の手で大きくできるとも言えますし、その上で自分自身も何者かになれるチャンスも提供できると思います。また、海外向けのサービスに携わりたいという人も大歓迎です。

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