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インタビューVol.4「障害者もパフォーマーになれる」ハートサインダンスを普及させたい/一般社団法人にじいろの森・理事長 もりかずえさん

一般社団法人にじいろの森の代表理事を務める、もりかずえさん。「みんなで心のバリアフリーの花を咲かせていこう」のコンセプトのもと、さまざまな障害を抱える人たちと手話パフォーマンス“ハートサインダンス”のイベントを開催したり、障害の垣根を超えた交流をされたりしている。

ご自身も、インフルエンザから急性脳症を発症した娘さんを育てるママとして奮闘されてこられた経験を持つ。

今回は、もりさんのハートサインダンス講師としての活動をお聞きするとともに、障害を持つ人とのかかわり方や今後の展望についても伺った。

「あぁ、これがしたかったんだ!」手話ダンスとの出会い


もりさんが手話パフォーマンスに出会ったのは、2010年前後に通っていた手話通訳士を育成する手話講師養成講座でのこと。当時、専業主婦をしていたもりさんは、手話通訳士に関心を寄せていた。ところが、あるパフォーマンスを見て、雷に打たれたような衝撃を受けたという。

「講師がろう学校の音楽の先生で、あるとき、その先生が手話パフォーマンスを見せてくださったんです。それを見た瞬間に『これをやるために、私はこの講座にお勉強に来たんだ!』と感じました。手話でこんなことができるなんて!という感動が湧きあがったんです」

以前は、保育士として働いておられたもりさん。その経験から、体を動かすことはもちろん、自己を表現することの大切さはよくご存じだ。しかも、ご自身の娘さんが急性脳症が原因で障害を抱えたことにより、重度障害者がいかに運動する機会に恵まれていないのかもよく知っておられた。

重度障害を抱える人は、デイサービスと自宅を行き来したり、リハビリなどで体を動かしたりする以外、ほとんど寝たきりで一日を終える。介助がなければ、運動一つできない。

もしも私たちが、一日のほとんどを寝て過ごす日々を送れと言われたならば、きっととてつもないストレスを感じるはず。それが日常になっているのが、重度障害を抱える人たちだ。

とはいえ、彼らがその状況に何も感じないはずがない。娘さんが重度障害を持つもりさんだからこそ、手話パフォーマンスを見たときに、ことさら強い感銘を受けたのかもしれない。

「全員がパフォーマーになれる」心を表現するハートサインダンス


手話パフォーマンスを知ってからのもりさんの行動は早かった。手話講師養成講座のクラスメイトと手話ダンスチーム『エール』を立ち上げ、地域のお祭りなどにボランティアで手話パフォーマーとして参加。その様子を、娘さんが通う児童デイサービスの事業所の人たちも応援してくれていた。

1年間の講座を終えたのち、2013年からもりさんは個人活動を開始した。通訳士ではなく、手話パフォーマンス講師活動を始めたのだ。教えるのは、もりさんオリジナルの手話パフォーマンス『ハートサインダンス』。外部講師として障害者福祉施設に出向するようになった。

ハートサインダンスのベースは、手話パフォーマンスだ。本来、手話には文法などの正しい表現がある。ろう者にとって大切なコミュニケーションツールなのだから、当然といえば当然だ。そして、その表現方法は、手話パフォーマンスにも継承されている。

けれど、それが反対にパフォーマンスできる人を選ぶ原因にもなっていた。そこでもりさんは、障害の程度に関係なく楽しめるようにと『ハートサインダンス』を考案したのだ。

「手話の文法的な縛りを取り除いたパフォーマンスが『ハートサインダンス』です。ハートサインダンスでは、車いすに差した旗をなびかせたり、風車を回したりといった演出もパフォーマンスの一つとしてとらえています」

手話パフォーマンスよりも参加のハードルを下げることによって、自分の意思で体を動かせない重度障害を抱える人もパフォーマンスに参加できるようになった。

あるとき、もりさんの活動を知る児童デイサービス事業所の理事長から「ハートサインダンスを子供たちにも教えてほしい」と声がかかる。これが転機となって、2016年に手話パフォーマンス教室『シロツメクサ』を開業することになった。

当初、教室に通うのは、児童デイサービスで働く職員の子供のみだった。それが、やがて健常の子供や発達障害を抱える子供などが集まるようになっていく。それにともなって、ステージに上がるパフォーマーたちも、健常者と障害者が混ざり合うようになっていった。

それが、2020年に立ち上げた一般社団法人にじいろの森でのハートサインダンス普及活動にも繋がっている。

もりさんのハートサインダンスのステージには、障害者も健常者もない。舞台にいる全員がパフォーマーだ。もりさん曰く、ハートサインダンスは心を表現するパフォーマンス。自己表現したいのは、障害のあるなしに関係なく、みんな同じだ。

障害に無知だったからこそ始められた活動


手話パフォーマンス教室『シロツメクサ』を開業した当初、もりさんは「障害に対して、本当に無知だった」と語る。だが、それは決して後ろ向きな言葉ではない。

「知らなかったからこそ、先入観を持たずに、目の前の一人ひとりを信じてこられたんだと思います。反対に、障害に対して深い理解があれば『この人は○○の障害があるから、これはできないだろうな』という意識が先立つ。そんな自分だったなら、工夫すればできることも取り上げてしまっていたかもしれません」

その言葉に私は、障害を持つ人と接するとき、無意識に相手の可能性を狭めてはいないだろうかと自問した。

もりさんは、障害者というくくりで相手を見るよりも先に、得手・不得手のある一人の人間として見ていたのである。相手と向き合って、その人ができることを共に探り、一緒にパフォーマンスを作り上げていく。それが楽しいのだという。

できること・できないこと以外にも、相手の性格や個性から魅力を掘り下げながら、演出することも心がけているそうだ。

「障害があっても年相応に扱う」それが相手への礼儀

「娘はいま、23歳。幼い頃に急性脳症になったので、見た目は中学生くらいに体が小さいんです。けれど、心はちゃんと大人の女性。赤ちゃんを可愛がるみたいに扱われるのは、本人にとってはもう恥ずかしいことなんですよね。大人だから、メイクにだって興味がありますし。障害を持っていても世間一般の感性がある。娘にしても、ハートサインダンスを習いに来る生徒さんにしても、私はあくまでも実年齢で接するようにしています」

そう言っていても、生徒に対しては気持ちだけでは通じ合えないのだろうかと悩んだこともあったそうだ。

講師活動を始めたばかりの頃、ハートサインダンスを教えようとするが、何をしてもどう働きかけても反応がなく伝わらなかった。心が折れたことも、一度や二度ではないという。それでも諦めず、ずっと笑顔を絶やさすことなく伝え続けた。

粘り強くいられたのは、もりさんの中に「彼らはできる」というイメージがどうしても拭えなかったからだったという。

「プログラムがスタートした時から、生徒さんの中には体をゆする人もいれば、飛び回る人もいました。それを見ていて私は、それが障害の現れ方だと捉えずに『それだけ体が動くのだから、できないわけがないじゃん』と感じていたんです」

純粋に相手を信じる力、それがもりさんの原動力。疑いもなく信じ続けたからこそ、伝わったときの感動は計り知れないものになる。

「いつもは唾を吐くか鼻をほじるかしかしない子が、3ヵ月くらいして、突然『行く』の手話をしたんです。それを見たとき「そうだよ! それだよ!」って言って。すごく嬉しかったですね。そしたら、他の子どもたちも真似をしだして。あぁ、ちゃんと通じてたんだと、本当に感動しました」

「気持ちが整理できた」思いを抱えて生きていく


2020年7月3日、もりさんは自身初の著書となる電子書籍「人生もうダメだ!と思ったら読む本『それでも腐らず生きる』どん底人生からリ・スタート」(出版社:まんがびと)を出版している。

書籍では、娘さんやハートサインダンスのこと、離婚など自身の人生を赤裸々に語っている。

執筆するにあたって大変だったのは、もうすでに昇華できていたはずの感情が心の奥底に眠っていただけだったのに気づいたこと。娘さんが突然、障害者になったときの悲しみやつらさなどが思い起こされて、涙が止まらなくなったそうだ。

「それに一番驚きましたよね。自分の中では、もう消えていると思っていたから。でも、泣いて気づけた。その悲しみやつらさを抱えて、私は生きているんだということに。思い出しながら書くを繰り返しているうちに、どんどん前向きな気持ちになってきて。抱えていた気持ちを整理する、いい時間になりました」

今回出版した書籍には、自身の思いを存分に注いだ。けれど、書き上げてみて、まだまだ伝え足りていないと感じたそうだ。今後も状況を見て、筆を取られるとのこと。次の書籍がどのようなものになるのか、ぜひ期待されたい。

「ハイブリッドで乗り越えていく」今後の展望

新型コロナウイルスの影響で、講座はいまだ以前と同様には再開できていない。だが、もりさんは、そんな状況さえも前向きにとらえていた。

「自分の人生が波乱万丈すぎて、今回のコロナ自粛も『何か仕組まれてるんじゃない?』と思ったほど(笑)講座は、直接対面でないと教えるのが難しい生徒さんもいますが、そうではないところはオンラインで開催できるようになりました。いわゆるハイブリッド方式ですね。いろんな方法を考えつつ、いつ何があってもいいように手札を増やしておきたいと考えています」

転職続きの仕事、離婚、お子さんの障害など、さまざまな苦難を乗り越えてこられたもりさん。そんな自身の人生を「波乱万丈」と一笑に付す。とてもタフで、深い慈愛に満ちた女性である。

これまではもりさんお一人でハートサインダンス普及に尽力されていた。今後は、ハートサインダンスの講師も増やして、より多くの人たちにパフォーマンスを伝えていくそうだ。

もりかずえさんプロフィール


一般社団法人にじいろの森・代表理事。
オリジナル手話パフォーマンス『ハートサインダンス』の考案者。
急性脳症から重度障害を抱える娘がいる。

2020年7月に初の著書「人生もうダメだ!と思ったら読む本『それでも腐らず生きる』どん底人生からリ・スタート」(まんがびと)を出版。

<連絡先>
ハートサインダンス教室『シロツメクサ
メールアドレス:k.mori@hsdance.com

(インタビュー・文=浜田みか/画像=もりかずえさんご提供)

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