静かな波が打ち寄せる浜辺の近くに佇む小さな小屋でひとりの司書が棚を整えています。
企業の成長を支える仕事とひとつの組織を内側から育てる仕事に長く携わってきた私の頭の中にはいつもたくさんの記憶が棚に並んでいます。
その司書が保管しているのは紙の本ではなく海岸で拾い集められたさまざまな形の貝殻でした。
組織の可能性を引き出す作業や人と人が共に進む仕組みを作る作業も実はこの貝殻の耳を澄ませる作業によく似ていると感じることがあります。
世の中には目立つ成果や華やかな実績がたくさん並んでいますが表面の姿だけを見ていては本当の魅力や底力を知ることはできません。
どれほど綺麗な形をしていてもそこに込められた物語や静かな熱量に目を向けなければ本当の意味で心を動かすことはできないのです。
そこで大切になるのが個々の内側に眠る小さな声や秘められた響きを丁寧に拾い上げることです。
外側の評価だけで判断するのではなくそれぞれが持つ固有の足跡やまだ見ぬ可能性にそっと耳を傾けること。
小さな巻き貝や少し欠けた貝殻をひとつひとつ手にとり耳に当てながらそこに流れる波の音を確かめて棚へ戻します。
それぞれの貝殻から響く異なる波音が重なり合った瞬間図書室の中はまるで生きている海のような温かい響きで満たされていきます。
その響きに触れた人々は自分の中に眠っていた本当の情熱や進むべき足踏みを思い出して再び力強く前を向くことができます。
チームを導くことも単に役割を与えるのではなくそれぞれが持つ潜在的な響きをどれだけ引き出し合わせられるかが大切なのだと気づかされます。
私たちは毎日新しい出会いや挑戦という波に洗われながら自分だけの物語という貝殻を大切に温めています。
陽が傾き海面が黄金色に輝く静かな時間になるとふと自分たちが奏でてきた波音の深さを確かめたくなります。
今日あなたが誰かとともに生み出した小さな響きはどんな旋律となって新しい未来へ届いているでしょうか。
司書はそっと耳から貝殻を離し優しく棚の奥へと収めました。
明日もまた海岸へ降りて誰も気づかない新しい響きを探し続けていくのでしょう。