【連載:第1回】「過信」は本当に組織を滅ぼす悪なのか?
【第1回】「過信」は本当に組織を滅ぼす悪なのか?
インテルとインパール作戦から考える現代の組織論
こんにちは。コンサルタントの松浦智和です。
ビジネスや組織マネジメントの世界において、組織を壊す一番の敵としてよく挙げられるのが「過信」という認知バイアスです。かつて世界のPC市場を支配したインテル社の近年の苦境も、技術や資金の不足ではなく、リーダーたちの過信が原因だと言われています。
しかし、コンサルタントとして多くの現場に携わる中で、私はふと思うのです。「もし過信がそこまで悪いものなら、なぜ人間の脳にはこの仕組みが生存戦略として今も残っているのだろう?」と。
今回から全4回の連載で、過信を単なる「頭のバグ」として捨てるのではなく、激動の現代を生き抜くための「コントロールすべきエネルギー」として捉え直す、新しい組織論をお届けします。
問題提起 「過信」の本質とは
インテルという偉大な企業が生まれた背景にも、創業期には「根拠のない強い確信(過信)」という熱いエネルギーが確実にあったはずです。
理念を掲げてゼロから挑戦する中小企業の経営や、新しいプロジェクトを立ち上げる局面に置いて、客観的なデータやリスクの計算ばかりを気にしていたら、一歩も前に進めないのもまた事実ではないでしょうか。
そこで、過信というバイアスを完全に排除するのではなく、正しく「コントロール」する方法を考えていきたいと思います。そのヒントとして、まずは組織におけるアクセルとブレーキの動かし方を、歴史の教訓から紐解きます。
歴史にみる過信の罠 ── 日本人の文脈で捉える構造
過信がもたらす悲劇を考えるとき、私の中でインテルの凋落と重なるのが、日本の歴史における「インパール作戦(1944年)」です。物事をただ鵜呑みにせず、自分の頭で一歩深く考えるという『思考の整理学』の視点に立ったとき、この作戦の失敗の本質もまた、情報の不足ではなく「確信の過剰」にあったことが見えてきます。
当時、日本陸軍の歴史において最も無謀と言われたこの作戦は、まさにリーダーの過信が引き起こした悲劇でした。
現場を率いる師団長たち(佐藤幸徳中将ら)は、険しい山岳地帯や大河を渡るこの計画の危険性、とりわけ補給線の破綻を事前に見抜き、強く異議を唱えていました。しかし、作戦を主導した牟田口廉也中将ら司令部は、それらの忠告を「弱気である」として退け、一切耳を傾けなかったのです。
ここで司令部が陥った罠は、「日本軍の精神力をもってすれば、補給の困難など克服できる」「敵はすぐに退却するはずだ」という、自分たちに都合の良い前提(ドクトリン)の妄信でした。現実の物資不足や敵の猛烈な反撃に直面しても、「自分たちの見立てが間違っているかもしれない」と疑うことができませんでした。
過去の成功体験が積み重なるほど、リーダーの過信は深くなります。牟田口中将の事例は、経営者が一度「これが正しい」と確信してしまうと、間違っていることを示す現場の証拠(データ)を探さなくなり、組織全体を破滅へ巻き込んでいくという怖さを、現代の私たちに教えてくれています。
【次回予告】数字だけを追う組織は、現状維持という名の衰退へ
では、データや合理性だけを信じて、リスクを極限まで排除して動くのが正解なのでしょうか?
実は、数字ばかりを追い求める組織は、中小企業が最も大切にすべき「企業の魂」を削ぎ落としてしまうリスクをはらんでいます。
次回は【データばかり追う組織は衰退する。不確実な時代に必要な「良い過信」とは】をお届けします。 データが出揃うのを待っていられない激動の時代において、理念を守りながら会社を前に進めるための「強力なアクセル」の正体に迫ります。ぜひ、お楽しみに!