クルージングヨット教室物語57
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「今日の式根は、式根島港の方に泊まりませんか」
隆は、中村さんと話していた。
「そっちの港の方が混雑していないかもね」
「ですよね。それに、周りが静かな場所だから落ち着けますよ」
神津から式根島の式根島港に行くことに決まった。
「隆さん、今日はセーリングはしないの?機帆走でずっと走るの?」
神津島港を出港した後、隆からラットを交代した香代が聞いた。
「セーリングしている時間が無いだろう」
隆は、周りの地形を指差しながら、香代に説明した。
「もう、あそこまで行けば、神津から式根島に着いてしまうだろう。式根に着いたら、あそこの式根と新島の間の狭い海域を通過したら、もう式根島港は、すぐ目の前だ」
香代は、今日向かうコースを隆から確認していた。
「こんな短いんじゃ、セーリングできないか」
香代は、距離が短すぎて、セーリングしている暇が無いことを納得していた。
「新島、今日も大混雑しているね」
ラッコが、ちょうど新島と式根島の境を通り抜けると、新島港にたくさんのヨットのマストが見えているのを確認した麻美子が言った。
「式根も混んでいるのかな」
瑠璃子が、隆に聞いた。
「これから行く方の式根の港は、それほど混んではいないと思うけどね」
隆は答えた。
アクエリアスが先頭で式根島港に到着した。
「アンカーレッコ!」
中村さんの号令で、アクエリアスのクルーが船尾からアンカーを打っていた。
「うちのヨットは、バックで岸壁に着岸して、船首のアンカーを打とうか」
隆は、ラッコをバックで岸壁に着岸した。バックで着眼すると、船首に取り付けてあるアンカーをスイッチ一つで自動的に打ったり上げたりすることができた。
神津島を出航してから、お昼前には式根島に到着してしまっていた。
「これで、今日のクルージングは終わり?」
「ああ、後は島内の好きなところへ行って観光してこれるよ」
隆は、瑠璃子に返事した。
「お昼ごはんにしましょう!」
キャビンの中には、麻美子と香代が作ったサンドウィッチが用意されていた。
「いただきます!」
皆は、キャビンに入って、サンドウィッチを食べていた。
お昼のサンドウィッチを食べ終わった後、隆と陽子に、瑠璃子も一緒に港の脇にできている岩の間の小道を歩いて、散歩していた。
瑠璃子は、Tシャツの下にワンピースの水着を着ていた。
岩場の道を歩いていくと、海上が岩で囲まれた場所に出た。
「瑠璃子、水着を着ているんだろう。あそこの岩場の海水に入ってごらん」
「え、なんで?」
瑠璃子は、隆に言われて、岩場の海水が貯まった場所に足を入れてみた。
「暖かい」
瑠璃子が足を入れた海水は、温度が高く暖かった。
「海中の温泉、お湯が沸いているんだ」
隆が言った。
隆に言われて、瑠璃子はTシャツを脱ぐと、水着で海水の中に入った。暖かくて、まるでお風呂に入っているような気持ち良さだった。
「私も、水着を着てくれば良かったな」
陽子が、お湯に浸かっている瑠璃子を羨ましそうに言った。
「後で、麻美子たちとまた水着に着替えて、ここに来れば良いじゃん」
隆は、陽子に話していた。