現場に入り、仕組みに変え、組織をつくる。 非医療職の経営陣が歩んだ“泥臭い立ち上げ”の組織論
こんにちは。土井啓史です。
本記事は、私の活動に興味を持っていただいたインタビュアーの方との対談内容です。
こうして自身の考えや背景を言語化する機会は多くないため、少しでも何かの参考になれば幸いです。
これまで第1回〜第5回では、「仕事術」「人生観」「職業観」「起業の経緯」「ビジョン」についてお伺いしてきました。
今回からは、より具体的に「現場」と、その中で行ってきた意思決定のプロセスについてお伺いできればと思います。
Q. 訪問看護の組織論として、「経営者は現場にいるべきか?」という問いをどう捉えていますか?
土井 :
非常に本質的な問いだと感じていますし、現場でもよく議論になるテーマだと思います。
その上で、今の自分なりの整理としては、
現場に“いるかどうか”という事実以上に、
どこまでその現場を解像度高く理解できているかが問われているのではないか、という実感があります。
訪問看護の現場は、日々の業務が本当に忙しい。
その中で生まれている小さな違和感や負担は、
誰かが意図的に拾い上げなければ、構造として整理されないまま積み重なっていきます。
一方で、経営が現場から離れてしまうと、
「分かってもらえていない」という感覚が生まれてしまう。
ただ、ここで難しいのは、
現場に入り続けること自体が目的化してしまうと、
今度は仕組みとして解決されず、同じ負荷が繰り返されるという点です。
この両方をどう成立させるか。
それこそが、訪問看護に限らず、組織を預かる立場として向き合うべきテーマではないかと感じています。
Q. なぜ非医療職の経営者が、そこまで現場に通い続けたのでしょうか?
土井:
前提として、私は医療の専門家ではありません。
命を預かる現場に対しては、常に強い敬意を持っています。
だからこそ、自分の役割は現場を評価することではなく、
専門職の方々が、その専門性を100%発揮できる環境を整えることだと考えていました。
立ち上げ初期は、東京から大阪の現場に新幹線で通っていました。
今振り返ると、効率だけを考えれば非合理な動きだったと思います。
ただ、その時間は自分にとって、
「解像度を上げるために必要な過程」だったという感覚があります。
例えば、雨の日。
自転車で訪問に向かうスタッフの背中を見ながら、
この身体的な負荷は、本当に仕方のないものなのか。
それとも構造として改善できる余地があるのか。
24時間対応の中で、
どの瞬間に一番心理的な重さがかかるのか。
そういったものは、外から見ているだけでは分からない。
自分の中に「体験」として残らない限り、言語化すらできないと感じました。
山本五十六の「やってみせ…」という言葉がありますが、
まず自分が理解しきること。
それが、経営として責任を持つ上での前提ではないかと考えていました。
Q. 現在は東京と大阪で分かれていますが、どのように現場理解を維持しているのですか?
土井:
現在は二拠点体制ですが、距離そのものが問題だとはあまり考えていません。
むしろ重要なのは、
現場で起きていることが、どれだけ解像度高く共有されるか。
その「流れ」をどう設計するかだと思っています。
その中で大きな役割を担っているのが、尾田取締役です。
彼は現場に常駐し、日々の業務の中でスタッフと対話を重ねています。
単なる報告ではなく、「なぜそれが起きているのか」まで含めて、一次情報として共有される。
そして私自身も、形式的な会議だけではなく、
日常的なやり取りや雑談も含めて、密に対話を続けています。
結局のところ、距離を埋めるのは仕組みだけではなく、
信頼関係と対話の量なのではないかと感じています。
現場との間に心理的な距離がなければ、
物理的な距離は大きな問題にはならない。
そんな実感があります。
Q. 実際にどのような仕組み化が行われてきたのでしょうか?
土井:
すべてに共通しているのは、
「負荷を体験し、違和感を言語化し、それを構造に変換する」
というプロセスです。
例えば、電動自転車の導入。
これは単なる備品の話ではなく、
人的資本を守るための投資だと捉えています。
移動による体力の消耗が減ることで、
本来集中すべきケアにエネルギーを使える状態になる。
結果として、それがサービスの質に繋がっていく。
シフト設計の見直しや、事務負担の軽減についても同様です。
現場の皆さんが「仕方ない」と受け入れているものを、
構造として捉え直し、再設計していく。
非医療職であることは、
現場を理解しない理由にはならないと思っています。
むしろ、理解しようとする責任がある。
その上で初めて、違う角度からの意思決定ができるのではないかと感じています。
Q. 「人的資本」などの考え方は、どのように現場に繋がっていますか?
土井:
今回の取り組みは、人的・社会・金融という3つの側面で捉えています。
電動自転車の導入は金融的な投資ですが、
それによって守られるのは、スタッフの体力や心といった人的な部分です。
そして、その余白が生まれることで、
利用者様や地域との関係性、つまり社会的な繋がりがより豊かになっていく。
この循環が機能する状態を作ることが、
組織としての持続性に繋がるのではないかと感じています。
Q. 土井さんは論理的な経営者という印象ですが、現場からはどのように見られていますか?(尾田取締役に質問)
尾田:
外から見ると、仕組みや構造を重視する経営者に見えると思います。
ただ、現場での関係性は少し違っていて、
同じ方向を向くメンバーの一人、という距離感に近いと思います。
実際に、スタッフから旅行の話が出たり、
日常の中で軽くいじられることもあります。
立ち上げ初期に現場に入り、同じ目線で負荷を経験していることが大きいと思います。
その前提があるからこそ、現場にいない今でも言葉に違和感がない。
それが信頼につながっているのではないかと感じています。
Q. 組織の本質的な競争力はどこで決まるのでしょうか?
土井:
経営の役割は、その場の課題を解くことではなく、
同じ課題が二度起きない構造を作ることだと考えています。
ただ、その上で感じているのは、
最終的に価値を生むのは仕組みではなく人だということです。
仕組みはあくまで土台であり、
それをどう活かすかは現場にいる人に委ねられる。
だからこそ、
人が力を発揮できる状態をどう作るか。
そこに向き合い続けることが重要なのではないかと思っています。
Q. 最後に
土井:
これまでお話ししてきたことに尽きるのですが、
最初から効率を取りにいくことは難しいと感じています。
一度は現場に入り、
無駄や負荷を体験し、
その中で見えてくる違和感と向き合う。
それを構造として捉え直し、
再現性のある形にしていく。
結果として、それが仕組みになっていくのではないでしょうか。
ただ、繰り返しになりますが、
最後に価値を生むのは人です。
現場で起きていることを起点に、
構造として捉え直し続けること。
その積み重ねが、組織になっていく。
そんな実感があります。
まとめ
・現場主義とは「現場にいること」ではなく「解像度を持つこと」
・仕組みは、泥臭い現場理解の“後”にしか成立しない
・組織の競争力を決めるのは、最終的には「人」である
私たちは、
仕組みで勝ち、人で圧勝する組織を目指しています。