これまで自動車を筆頭に、最先端のハードウェア開発に取り組んできたHonda。現在はインターネットの進化により、乗車体験を豊かにするソフトウェアの開発にも注力している。
実は今、これらの背景からHondaは「IT人材」を積極的に採用しているのだ。
そこで今回は「HondaでIT人材がどのように活躍しているのか」を紐解くべく、前職でソーシャルゲームのプランナーとしてキャリアを積み、現在はHondaの先進サービス課で活躍している社員に話を伺った。
果たして、Hondaに転職をしたIT人材は、どのような仕事を任され、どのような思いで仕事をしているのだろうか。
入社と同時の挑戦、車がしゃべるアプリ「osoba」の開発プロジェクト
「エンジンをかけるたび、ハンドルを切るたび、愛着がわく。そんなドライブのバディを、どうぞおそばに。」
Hondaが開発した、特定の車とスマートフォンを繋ぎ、車両情報を元にキャラクターが発話するアプリ「osoba(オソバ)」。
このアプリのプロジェクトを入社と同時に担当することになった宮﨑は、プロジェクトメンバーと共に『ニコニコ生放送』を運営する株式会社ドワンゴ(以下、ドワンゴ)などの外部企業と連携し、開発とプロモーションの推進に力を注いでいた。
「今なお若者を中心に人気を博しているバーチャル・シンガーの初音ミク(ハツネミク)*1を起用し、アーリーアダプターと呼ばれる20代〜30代のインターネットやSNSが好きな男性をターゲットに、プロジェクトを推進しました。いまの時代は車を買わない、運転しない若者も多くいます。もっとドライブすることが楽しくて面白いと感じる機会をそんな若者に提供できれば、運転するちょっとしたきっかけになると考えました。
アプリの『osoba』と車をUSBで繋ぎ、その車両情報を元にアプリが発話する。ドライブがより楽しくなる情報や安全運転に役立つ情報、車両のメンテナンスに関する情報などが初音ミク(ハツネミク) によってドライバーに流れる。また、車の定期点検時期が近づけばお知らせもしてくれるのだ。実際にHonda車のオーナーにインタビューした際も、反応は上々。自分たちがやっている方向性に自信を持つようになったという。
*1 初音ミクは、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社の登録商標で、歌詞とメロディーを入力して誰でも歌を歌わせることができる「ソフトウェア」です。「キャラクター」としても注目を集め、今ではバーチャル・シンガーとしてグッズ展開やライブを行うなど、人気は世界に広がっています。
ただ、チーム内では「このアプリを開発しただけでは、普段車と接点が少ないターゲット層にはなかなか刺さらない」と予想をした。そこで、協業先のドワンゴと『osoba』のプロモーションを企画し、認知拡大を図ることにしたのだ。
このプロモーションでは、ネットライブ配信サービス『ニコニコ生放送』で、漫画家・矢吹健太朗氏と共に、初音ミクのラッピングカーを制作。全3回にわたるニコニコ生放送の最終回では、完成したラッピングカーを公開し、その後「東京オートサロン2019」で実物をお披露目するなどして大盛況となった。
「初音ミクや有名な漫画家さんとのコラボだったので、SNSでも『何をやるのだろう?』と話題になりました。たくさんのメディアに取り上げて頂き、『ラッピングカーもかわいい!』という声も見受けられ、プロモーションは大成功となりました。」
車の開発、販売だけでなく「先進サービスを作り提供したい」と立ち上がった「osobaプロジェクト」。Hondaでは社内でもあまり前例がない企画を推進し、実際にリリースをするところまで実現できたことから、「osobaプロジェクトのメンバーが社内に風穴を開けた!」と、社内でも注目を集めた。
というのも、宮崎が所属する事業部は「CF(カスタマーファースト)本部」と呼ばれ、お客様が車を購入した後に、部品を交換したり、整備をしたり、アフターサービスを提供することが主な役割だ。部門での前例がない新しい取り組みによってお客様の新しい価値を提供したと、高い評価を受けたのだ。
ITから、実体のあるモノづくりへ。Hondaでの新たな挑戦
入社後すぐに大きなプロジェクトを成し遂げた宮崎。「複数のプロジェクトを並行するなど、たくさんのチャレンジをさせてもらっている」と話す彼は、なぜ大手Web企業からHondaへの転職を決めたのだろうか。
「前職ではソーシャルゲームやiPhoneアプリのプロダクトオーナーをしていました。インターネットの世界は今でも最高に面白くてワクワクする世界だと思っています。自動車業界が大きく変化する現代において、インターネットとモノ(車)を繋げる仕事はさらに面白みがあると思ったんです。モノがあふれる現代において、ネットとモノをくみ合わせるとどんな付加価値を生み出せるのかが、個人的には非常に興味深いテーマの一つでした。過去のバックグラウンドを活かせるような仕事を探していたときに中途採用の募集要項を見かけてHondaに出会いました。」
Hondaは宮﨑の経歴を見て「新しい価値を提供するサービスを作るので、ぜひそのプロジェクトの企画から任せたい」と打診。宮﨑自身も「アプリ開発のディレクションをしていた経験が活かせるのではないか」と感じ、オファーを受けたという。このプロジェクトが、osobaの開発だった。
「Hondaは私にとって初めて参加するモビリティ業界となりますが、入社してみて面白い仕事がたくさんあると感じています。osobaプロジェクトを含め、任される業務が複数並行するなど、チャレンジさせてもらえる機会も多いです。」
働く会社と業界を変えた宮﨑は、これまで得たスキルや経験を活かしながらも、新しい挑戦をしているのだ。
転職者が語る「HondaでIT業界での経験が活きる理由」
ポジティブに挑戦を続ける宮﨑だが、IT業界からの転職者だからこそ感じるHondaの課題もあるという。
「Hondaの開発は、車両をベースに開発の考え方が成り立っています。歴史のある企業で、ハードウェア(車)をつくる事に長けている会社の為、車両開発と同じ前提で、ソフトウェアの開発もすすめられます。一方で、osobaのようなソフトウェア開発の場合は、アジャイル開発のようなアプリ開発手法のほうがスピーディーによりよいプロダクトをお客様にご提供できる場合もあります。ミニマムでアプリをリリースして、ユーザーのフィードバックを受けて、高速でアップデートを重ねて開発をしていく。社内ではまだ浸透しきっていない考え方ですが、前職のプロダクトオーナーの考え方を開発に活かせることもあります。
情熱を持ってやりたいことをやり抜こうとすれば、チャレンジさせてくれる文化や風土はHondaにはある。想いをもって取り組んだことで、リリースすることもできた。
チーム一丸となり様々な意見がある中でチャレンジする姿勢は、彼自身の仕事の考え方にも通じている。
「仕事で意識している点として、『一緒に働いている人にリスペクトと感謝の気持ちを持つこと』を大事にしています。一緒に働く人のことを尊敬しなくなり、自分のおかれている環境に対して感謝の気持ちが薄れてくるとネガティブ感情を抱いてしまうこともあるかと思います。世の中にはたくさんの人がいて、人の数だけ価値観や考え方が存在するのでHonda フィロソフィーにある「人間尊重」の考え方を大事にして、人の良いところに目を向ける『美点凝視』の考え方をもって仕事をしていきたいと考えています。」
「Hondaは、若さと夢を大事にし、若手に様々なチャレンジ、経験をさせてくれる企業だと感じます。現状に満足するというよりも、新しいチャレンジに取り組もうとする活動を応援してくれる環境が整っていると感じます。IT業界でのバックグラウンドやスキルを持っていて、情熱をもって一生懸命仕事する人であれば活躍できるチャンスが会社にあると思います。特にコネクテッドの領域はまだ前例が少ない領域なので、正解を探すのではなく正解を自ら創ることが仕事のやりがいにもなっています。」
新しい車の形や楽しみを提供するべく、大きな挑戦を続けるHonda。テクノロジーの進化と共に、IT人材のニーズが高まっている今、IT業界から製造業界にチャレンジを検討することで、新しいチャンスが手に入ることもあるかもしれない。