タレントや芸能人が登壇し、メディアに対してさまざまなPRを行う記者発表会。そんな華やかな場を創り上げる会社がある。目線の先はクライアントの笑顔と視聴者の記憶に残る「1枚の画」。記者発表会のリアルな舞台裏をライターが潜入レポートした。本レポートは、前半と後半に分けてお届けする。本記事は、後半となる。
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荒れがちな現場を和らげるのは笑顔
本番前の現場は荒れがちになるという。「音声取れねえよ!」テレビ局のクルーが大声で怒鳴ることもある。記者発表会の現場では、短く叫んで伝えるのが当たり前。仮に「マイク音が聞こえないので、可能なら原因を確認していただけませんか?」そんな丁寧なコミュニケーションをしていたら1分1秒を争っている現場では時間を無駄にしてしまう。
1時間の記者発表会であったとしても、テレビで実際にオンエアされる時間は平均してわずか1分から1分半程度。撮れ高を狙うテレビ局のクルーたちも必死だ。もちろん、オンエアされるかどうかはわからない。実際、どのような画が撮れたのかによる。ほかに撮れ高のあるニュースがあれば、テレビ局のデスクは、容赦なくほかを選ぶだろう。これだけの準備をして芸能人を起用しても、オンエアが保証されていないのだからPRは難しい。ただ、ひとたび、オンエアが決まれば全国数百万人の人たちが目にするため、広告的な効果は絶大だ。
荒っぽい現場では、百戦錬磨のテレビ局のクルーたちの大声に気圧され、経験が浅い若いスタッフは萎縮しがちだ。そんな状況になりそうなときも、北村さんはスタッフへの配慮を忘れない。スタッフたちが萎縮しないで仕事を進められる様に気を配る。荒っぽい現場で大切なことは「笑顔」だと北村さんは強調した。
メディア受付は来場者と会場の最初の接点だ。そこでは微笑みで場を和ますスタッフが待機していた。
「笑顔の人に怒ったり文句を言ったりすることは難しいですよね(笑)。一方、仏頂面をしている人には、なぜかひとことツッコミたくなってしまう。笑顔は波紋の様に場の雰囲気を変え、進行をスムーズにしてくれます」
受付ではメディア担当のスタッフが柔らかい笑顔で来場者と名刺交換をしていた。ミッションはメディア担当者と情報交換をしつつ円滑な関係作りをすることだ。
万全のリハーサルを行ってもトラブルはつきもの
ステージでは「テクニカルリハーサル(略:テクリハ)」が始まっていた。テクリハとは運営スタッフだけで音楽、照明、映像、略して「音・照・映像(おんしょうえいぞう)」を進行確認すること。テクリハのあとはクライアントや芸能人が同席する最終のリハーサルだ。
多くのスタッフと各パートを同時に進めるのはさぞかし難しいのではないだろうか。北村さんが答えてくれた。「進行はタイムテーブルに沿って進めます。何時何分開始、登壇者のトークは何分からで、所要時間はこれくらい。時間通りに進行させるのは当然ですが、音・照・映像と完全に同期して進めるには『きっかけ』が次のアクションのトリガーになります。例えば、『登壇者がステージ中央に立ったら』とか『ステージの袖に戻ったら』とか。こうした『きっかけ』に沿って音・照・映像を同期させて進めていきます」。
アシスタントディレクターたちは次のアクションを先回りして関係者に連絡していく。例えば照明担当がスイッチのオンオフを忘れないように、伝えていくのだ。
万全の準備をしていてもトラブルはつきものだ。例えば登壇者のフリップの持ち方が上下逆だとか。台本通りに進んだことは一度もなく、イベントあたり5〜6件の細かいミスは当たり前。それに対して、臨機応変に対応していくという。
「国会議員でプロレスラーのアントニオ猪木さんが登壇された時のことでした。晩年の猪木さんは病気で立っていることが辛く、急遽椅子が必要になりました。台本にはなかったので、スタッフが機転を利かせて調達し、ステージにセットしたんです。そういう臨機応変なフレキシビリティが現場では大切」。北村さんはそう教えてくれた。
いよいよ本番開始
司会の開会の挨拶で本番が始まると、ホールの雰囲気は一瞬で変化した。精密に噛み合った歯車の様に黒服のスタッフたちが動きだし、記者発表会が進行していく。
株式会社SCRAP代表取締役社長 加藤 隆生(かとう たかお)さんが登壇し、「リアル脱出ゲーム」が生まれた頃の話からこれまでの軌跡を堂々とメディアにプレゼンテーションする。続いて呼び込まれたのはNON STYLE 井上 裕介(いのうえ ゆうすけ)さん。「リアル脱出ゲーム」に過去500回以上も参加したことがあるという筋金入りの井上さんが、アンバサダーとしてステージに立った。
7月7日の七夕にちなみ、井上さんが奥様に即興でラブレターを書く企画や、謎解きで井上さんの結婚指輪をステージ上の宝箱から取り出す企画が進んでいく。
続いて「リアル脱出ゲーム」の日の制定授与式が、「一般社団法人 日本記念日協会」代表理事の加瀬清志さんを迎えて行われた。
フォトセッションではパネルを手にした登壇者にスチールカメラのフラッシュが瞬き、シャッター音が連続する。テレビカメラに向かって登壇者の視線が移動する。「リアル脱出ゲーム」を育ててきた株式会社SCRAPの加藤さん。ステージ上の笑顔はひときわ輝いていた。
もし、この記事の読者で、リアル脱出ゲーム未体験という方がいたら、一度、体験してみてはいかがだろうか。1000万人以上を魅了し続けている体験型謎解きエンターテインメントの真実を、ぜひ、自分の目で確かめてほしい。
「リアル脱出ゲーム」公式サイト
https://realdgame.jp/
アウルのビジョンは「私たちが輝き、社会が輝く」。
PRの仕事のやりがいとは何だろうか?北村さんはこう話す。
「自分たちが手がけたイベントがSNSやネット上に公開され、拡散していく。情報発信をすることで情報の受け手に態度変容や行動変容が起こる。自分たちの活動が社会課題の解決に繋がるPRにやりがいを感じます。街ゆく人や電車内の人たちが、自分たちが手がけたイベントについて話をし、SNSでシェアされる光景を目の当たりにするとワクワクしますね」
クライアントからイベントの運営を受注して、記者発表会の当日までは約3ヵ月。限られた時間の中で、情報の受け手の記憶に残る「1枚の画」を作りあげる。ステージに並ぶ登壇者の笑顔が成功を物語っている。
アウル株式会社のビジョンは「私たちが輝き、社会が輝く」。社会を輝かせるために、働く社員、パートナーなどステークホルダー全体が光を放ち、未来を照らし創っていくことだという。
アウルは極めてユニークなプロジェクトも手がけている。例えば、働く漁師たちが電話で起こしてくれる、モーニングコールサービス「FISHERMAN CALL」のPR。早起き漁師とベッドから起きられない都会人をモーニングコールでつなげる奇抜なアイデアは大ヒット。夜明け前から働く漁師たちの話を聞いているうちに、本当に漁師になってしまった都会人もいるそうだ。人手不足の漁業とニッチな都会のニーズを満たした社会課題の解決の好例だ。
そんなアイデアを実現してしまうアウル株式会社の魅力は、風通しの良い社風にあるのかもしれないと、エクゼクティブオフィスの吉村さんも話す。
内定者の1人である南上(みなみうえ)さんは入社を決めた理由を話してくれた。
「自分の良いところを見てくれて、就職活動でどう改善したら良いのかアドバイスしてくれました。採用するかもわからない学生に普通ならそこまでしないと思います」
「PR・広報と全く関係ない業界の人や経験がない人にも、アウルがやっていることが面白そうだなと思ってもらえたら嬉しいですね。実際にPRを創りあげることは本当に面白いんですよ。何より、毎日が変化に富んでいる。変わりゆくトレンドの最先端を突き進んでいる感覚を常に得られるのは、とても刺激的で楽しい職場だと思います」。北村さんはそう話してくれた。
(了)