アピリッツのコンテンツデザイン部で受託運営タイトルのディレクターを務める部長の片木は、「あまりにゲームのことばっかり話すからゲームをつくる人になったら?」と友人に言われてゲーム業界に入った人物です。キャリアチェンジのいきさつや、ソーシャルゲーム運営で大切にしていることを聞きました。(取材 2023年4月)
もともとはシステム系の商社にいました
―― 片木さんは最初からゲーム業界にいたわけじゃないんですよね?
大学を出て最初に就職したのは、システム系商社のカスタマーサポート部でした。お客様のところに訪問して、メンテや営業をするんです。なのでゲームとは無関係の仕事でした。
―― そこからどうしてゲーム業界に入ったのですか?
仕事を始めて5年目あたりで管理職を打診されて、そこで「このままずっとこの仕事を続けててよいのだろうか」と思いました。ちょうどその頃に友達から「ずっとゲームの話ばっかりしてるよね。だったらゲーム作る仕事やったら?」と言われて、そこでやっと「なるほどな」と思いました。
卒業率46%のゲーム専門学校に入る
―― ゲーム業界にはどうやって転職しましたか?
まずは専門学校に入ることにしました。とはいえ、専門学校に入っただけでゲーム業界に行けるとは思っていなかったので、なるべく厳し目のところを選びました。卒業率100%で就職率が高いと謳っていても、フタを開けてみたら「ゲームを作る仕事」ではなかったりする専門学校は残念ながら存在します。
なので、ある学校説明会で校長が「うちは厳しい。卒業率も46%だ」と話しているのを聞いて、「ここだ」と入学を決めました。
卒業後はゲームリパブリックという会社に入り、プレイステーション3のいくつかのタイトルでグラフィックプログラマーとして働きました。5年ほどそこで働いて、何社かを経て、ソーシャルゲーム業界に進みました。エンジニアをやりつつ、企画やディレクションの仕事もするようになって、今に至ります。
―― アピリッツではどんなことをしていますか?
タイトル名は明かせないのですが、ある大型タイトルの受託運営のディレクターをやっています。
クライアントやユーザーにどうやって満足してもらうか
―― アピリッツに入社した頃はどんなことを考えていましたか?
入社直後は、「自分がどうやって活躍できるか、どういうものをユーザーに提供していけるか」というようなことを考えていたと思います。それまでのキャリアと大きく変わることはないと思っていましたが、何ができるのかなと楽しみでしたね。
受託開発に関わるようになってからは、「どうやってみんなに活躍してもらうか」「クライアントやユーザーにどうやって満足してもらえるか」を考えつつ、「アピリッツとしてどうやって仕事をするべきか」というような、自分中心ではない視点が増えたと思います。
「アピリッツのあのチームに任せたら大丈夫」と思ってもらう
―― 今の部署では、おもに受託運営の仕事をしています。プロジェクトを進めるうえで、大事にしている目標や、その目標を達成するために実践していることを教えてください
私たちのチームは、クライアント様のタイトルを運営しています。でも、「自分たちのタイトルを運営している」という認識をしっかり持って、取り組んでいます。
今の目標は、もちろん、新たなタイトルの新規開発から運営をアピリッツとして任せてもらう、ということです。
ユーザー、クライアント様、そして版元様にも満足してもらって、「アピリッツのあのチームに任せれば大丈夫だ」というところまで持っていきたいです。
やっぱり北欧神話が好き
―― ある部長によると「片木さんと立ち話を始めるとおもしろくてとまらないんだよ」とのことですが、おしゃべり好きなんですか?
どうでしょう(笑)基本的にはおとなしい性格のはずなのですが、スイッチが入るとしゃべり続けることはあるような気はしています。あと、筋道立てて細かく話すことが好きですね。
雑談好きの片木さん。これは「かつてのゲーム開発ではROMに焼く作業があってデータを作るときに工夫が必要で……」という話をしているところ
―― 雑談とも関係することですが、ゲームを作る上での「引き出し」は、どんなふうに増やしてきましたか?
やっぱりゲームが好きなので、そこからの情報が多いです。
その中でも中学生時代に友達のなかで流行ったTRPGには一番影響を受けていると思います。
T&T、D&D、ソードワールドRPG、ルーンクエスト、クトゥルフなど広く浅く遊びました。当時はお金もなくて、みんなで順番にシナリオを作って持ち寄って遊んでました。誰かが良いシナリオを創ると悔しいので、次はそれに負けないシナリオを創って……。というような感じでみんなでそれぞれの世界を創生してましたね。
そのための設定を創るために神話調べたりもしていましたので、その辺りが自分の基礎を作ってるのかなと思います。
―― どの神話が好きですか?
北欧神話です。ゲーム業界で一番人気なんじゃないでしょうか。
―― なんで北欧神話が人気なのでしょう?
おそらくこれまでの超有名なゲームタイトルに出てくるいろんな単語が、北欧神話をモチーフとしているからじゃないでしょうか。ファミコン時代からそういう文化があります。
「オーディン」といったらみんな「あーはいはい」とわかる。「エクスカリバー」より「グングニル」のほうがグッとくるというか。
あと、北欧神話は程よいサイズ感だと思います。たとえばギリシャ神話や日本の神話だと「まずXXをして、それからXXがあって……」と、幅広く、いろいろありすぎる。個々のエピソードは面白いんですけどね。北欧神話はストーリーもわかりやすいですし、とっつきやすい印象があります。
―― なるほど。こういう感じで雑談が止まらないんですね
そうですね(笑)
ユーザーからのネガティブな反応をどう受け止める?
―― どんなふうに部署のメンバーを引っ張っていきたいですか?
「やっぱりゲームは楽しい」と思えることが一番大切だと思っていますので、「ゲームを作ることは楽しいんだよ」ということを伝えながら、一緒に楽しく作っていきたいです。
「ゲームを作る」と「ゲームで遊ぶ」は違うものです。
ゲーム業界を志望する人は、たいていゲームで遊ぶことが好きなんですよ。例外もあるかもしれませんが、「ゲームで遊んだときの感動を自分でも生み出したい」って考えてアピリッツに来てくれる人は大勢います。その人達に楽しんでもらいたいです。
特に、ソーシャルゲームはユーザーとの距離が近いです。たとえばコンシューマーゲームだと、物理的なソフトだけをリリースしていた時代は、ユーザーからの反応ってすごくわかりづらかったんです。リリースしてちょっとしてから、文句だけが匿名掲示板に書かれる(笑)
これに対してソーシャルゲームはリリースしてすぐポジティブな感想をもらえます。
―― ポジティブじゃない感想も来ちゃいますか……?
来ます! でも、ネガティブな感想も、視点を変えれば「そのゲームに興味を持ってくれている」ことですし、ヒントももらえるんです。
去年、頑張って開発した新機能に厳しいご意見が多かったんです。どうしてもそういった意見って目につくんですよね、なのでせっかく頑張ったのに……って作った本人たちは当然落ち込むのですが、「でも本当におもしろくなかったら、何も書かれないよ」ってはげましました。「その人なりに、そのゲームのことは好きでいてくれているのだ、だからこそ書いてくれているんだ」って。
―― 「好き」の反対は「嫌い」じゃなくて「無関心」ですもんね
だから無反応が一番怖いですね。文句を言う人がいなくなったときが本当のピンチだと思います。
例えば、ゲームを盛り上げるために生放送をすると、ずーっとマイナスのコメントを書いてくださる方もいらっしゃるんです。「運営に刺さる言葉をおっしゃりたいのかな。何かのメッセージなのかもしれない」と受け取るようにしています。
―― 強いですね。
そりゃもちろん最初は疲れますし、落ち込むこともあります。でも、無反応よりずっといい。
これからゲーム業界を目指す方には、「あのゲームのあの機能、惜しいよね!つまんないよね!」って話すときの方が妙に熱く盛り上がることを思い出してほしいです。文句を言い合ってる方が楽しいときだってあるんです。
だから、作り手側にまわったときに「文句ばかり言われてる、ああこのゲームはダメなんだ」って落ち込まないほうがいいですよ。マイナスに受け取らないほうがいいです!