SNSの運用会社に入ったら、最初の1ヶ月からさっそくアカウントを任されるのでは、と思われるかもしれません。
▍最初の1ヶ月、あえて「アカウントを丸ごと渡さない」理由
入社してすぐ、いきなり「このアカウントの担当をお願いします」と渡されることはありません。現在私たちが運用しているSNSアカウントは300にのぼります。所属タレントの総フォロワーは1,000万人。これをチームの人数で割ると、メンバー一人あたりの担当規模は100万人に相当します。これだけの影響力を持つ場所を、まだ社内のやり方を把握していない状態でお任せすることはできません。
私たちが支援するクリエイターやモデルの活動には、一部アダルトな表現を伴うジャンルも含まれています。そうした多様なコンテンツを扱い、ファンコミュニティを熱狂させるためには、「なんとなく」の感覚ではなく、明確な意図を持った運用が不可欠です。だからこそ、最初の1ヶ月はアカウントを丸ごと任せるのではなく、私たちがどうやって意図を作っているのかを一つひとつ分解して知ってもらう期間にしています。
▍最初から任せるのは「分解」と「記録」の手順
では、入って最初に何を任されるのか。それは、すでに動いているアカウントの過去の投稿を分解し、記録していく作業です。
例えば、計測できている一部アカウントだけでも、20日間の投稿数は759本に達し、同じ20日間で獲得したいいねの合計は93,838にもなります。この膨大な反応の裏には、なぜその数字になったのかという理由が必ず存在します。
最初の仕事は、スプレッドシートを開き、先輩が出した投稿を要素ごとに分けて書き出していくことです。使われている写真の構図、添えられたテキストの長さ、ハッシュタグの選び方、投稿した時間帯などを、決められたフォーマットに沿って一つひとつ記録していきます。画像や動画を編集して派手なコンテンツを作る作業ではなく、ひたすら数字と文字をシートに打ち込む地味な時間です。しかし、この「記録」の手順を踏むことでしか、何が良くて何が悪かったのかを客観的に見ることはできません。
▍どこまでできたら、次のステップを渡すのか
記録の作業に慣れてきたら、次はどこまでできたら新しい仕事を渡すのでしょうか。私たちは、その判断の基準を「先輩の感覚」や「なんとなくの成長度合い」には置きません。基準はすべて、手元の記録に基づく明確な指標に置いています。
日々の運用の中には、朝の投稿指示の締切である12時30分という絶対のルールがあります。任された分の分解と記録をこの時間までに完了させ、午後の動きに向けた準備を整えられているか。まずは時間を守り、週の初めから週末まで抜け漏れなく正確に記録できているかを確かめます。
さらに、ただ記録するだけでなく、そこから「次にどうするか」の仮説を立てられるようになったら、いよいよ部分的に「作る側」の作業をお渡しします。過去の記録から傾向を読み解き、募集タイトルの上限である37字という制約の中でテキストを組んでみる。動画の切り抜きポイントを、過去のデータをもとに指定してみる。こうした小さな制作から任せていきます。
▍判断の基準は、人ではなく「手元にある記録」に置く
新しい仕事を丸ごと任せるかどうかも、作った企画が良いか悪いかも、すべて記録が教えてくれます。
私たちが次の企画を立てるとき、基準に使う上位の割合は35%です。記録した過去の投稿のうち、反響が良かった上位35%の要素を抽出し、その法則に沿って新しい投稿を組み立てられているか。それを満たしていれば、未経験のメンバーが作った企画であっても採用されます。逆に、どんなにベテランが「面白い」と思った企画でも、この記録の法則から外れていれば止めます。
そして投稿を出した後は、直したあとに効果を測るまでの日数を21日と定め、その期間の数字の推移を再びスプレッドシートに記録します。この「記録、抽出、作成、検証」のサイクルを一人で回せるようになったら、ひとつのアカウントのメイン担当として独り立ちしていくことになります。誰か一人の裁量や気分で決めるのではなく、手順とデータによって次のステップへの扉が開く仕組みです。
▍採用も育成も、同じやり方で進めている
こうした「記録に基づく判断」は、SNSの運用やメンバーの育成に限った話ではありません。私たちの会社づくりそのものが、同じ手順で進んでいます。
現在、掲載中の募集は40本以上あり、9つの職種で採用活動を行っています。ここでも私たちは、感覚で文章を書いて募集を出しているわけではありません。毎日巡回している同じ市場の競合は66社あり、手元に貯まっている競合募集の記録は1,071件に上ります。
この記録と照らし合わせながら、自社の立ち位置を測っています。会社全体の応募総数が自社を上回る競合は25社。そこから何とか抜け出すために、私たちの募集ページはどうあるべきかを毎日分析しています。その結果、これまでに届いた応募は240件を超えました。これもすべて、他社の動きを記録し、明確な基準を作り、それに合わせて募集の文章や条件を直してきた結果です。
▍年間13万本を動かすための、最初の1ヶ月
2022年3月の設立以来、私たちはこの「記録から基準を作り、手順に落とす」というやり方を守り続けてきました。
現在、私たちの会社が関わる年間の投稿数はおよそ13万本、年間のいいねの規模は1,700万にもなります。これだけの熱量を生み出し続けるためには、一部の天才のひらめきに頼るわけにはいきません。誰もが同じ手順を踏めば、同じように数字を動かせる。その再現性こそが私たちの強みです。
入って最初の1ヶ月は、華やかなSNSの世界を想像していると、拍子抜けするほど地味な作業の連続に思えるかもしれません。しかし、この期間に「記録」という土台を自分の中に築くことが、後々何百万人ものファンを動かす大きな波を起こすための絶対条件になります。最初から全部を任せないのは、あなたに確実な武器を手渡してから、本番の打席に立ってほしいからです。
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