こんにちは。WAmazing 代表の加藤です。
私たちは、日本が誇る観光コンテンツの魅力を活かして、「海外の方に日本中を楽しみ尽くしていただく」ためのプラットフォームを目指している会社です。
現在、外国人旅行者向けの温泉宿の予約、スキー場の各種チケット予約・販売、交通/アクティビティなど様々な事業を展開する当社。そのスタートは、「訪日観光客が降り立つ空港で、無料でSIMカードを提供する」サービスだったのですが、そこにはある理論に基づいた戦略がありました。
今回は、WAmazingが無料SIM提供を始めた理由やサービスを成長させる上で大切にしている考え方などを基に、マーケティングや事業戦略についてをお話できればと思っています。
行動経済学から考える。「無料」の心理を活かしたマーケティング戦略とは?
事業を拡大させていく上でマーケティング戦略は非常に重要です。前職のリクルートで「じゃらん」や「ホットペッパーグルメ」などインターネットを活用した新規事業開発や雪山地域活性「雪マジ!19」など多くのプロジェクトでマーケティングを経験してきた私ですが、施策を考える上で礎となっているのが、「行動経済学」です。
行動経済学とは、経済活動時の人間の心理について研究している学問です。心理学の理論を応用し、人々の経済活動を解明しようとする経済学の一分野で、そのベースとなる考え方は「経済活動において、人間の意思決定は必ずしも合理的ではなく、感情で動いている」ということ。人間や消費者心理の理解を深めることは、マーケティングに必須だと私は考えています。
例えば、マーケティングの4P(Product、Price、Place、Promotion)の一つである「価格」。プライシング(価格設定)もマーケティング活動の重要な要素の一つで、その代表格に「無料」を入り口とする価格戦略があります。「お試し無料」「1ヶ月無料」など、企業が新商品や新サービスを打ち出す際によく使われるマーケティング手法は、まさに行動経済学と密接に関係しているのです。
人が商品を手に入れるときの心理を示す、面白い研究事例があります。15セントの高級チョコと14セントの普通のチョコを1セントずつ値下げしていくと、どちらにも値段がつく限りは高いほうのチョコのほうが人気があり、先に売れていく。ところが高級なチョコが1セント、普通のチョコが「無料」になったとたん、無料側だけが圧倒的な人気となる。
人は本能的に「何かを失うこと」を恐れる生き物です。たとえ1円でも失いたくない。みなさんにも思い当たる節があるのではないでしょうか。
では、まず試してもらうには「無料」であればいいのか?というと、決してそれだけではないのが難しいところ。一見それだけで魅力的に見える「無料」ですが、実はニーズがない人には全く届かない。悲しいかな、欲しくなければ無料でもその商品は利用されません。
つまり、「無料」という戦略は「潜在的な需要層に届けるための手段」として有効なのです。
「飛行機を降りた瞬間、絶対に必要なもの」で潜在的需要層にリーチ
これはWAmazingのようなスタートアップを成長させていくうえでも、非常に重要な視点です。「無料」の心理は、私たちのマーケティング戦略にも活かしています。それが「無料SIM提供」戦略なのです。
「無料SIM提供」は、旅行客が「飛行機を降りた瞬間から、絶対に必要になるもの」は何か?ということから着想を得たものでした。現代においてスマホを利用せず旅行先で行動するのは難しく、通信手段の確保は必須。しかし、街中のどこでもフリーWi-Fiが完璧に整備されているわけではないので、SIMカードのニーズは確実にあることが見えています。そこで日本国内の22の国際空港で、WAmazingのアプリに登録している訪日外国人旅行客にSIMカードを無料で提供するマシンを設置し、WAmazingのサービスとの接触機会を生み出したのです。
一方、いかに潜在的な需要層にリーチする目的であっても、無料という手法を取るために予算をかけすぎてしまっては、収支が合わなくなってしまいます。当社の無料SIM提供マシンを設置する際には、空港側にテナント料を支払う形でなく、無料で置いていただく必要がありました。
無料設置を可能にするためには交渉相手のメリットを知らなければなりません。空港の会社のIR情報なども入念に調べる中、その当時、民営化が進んでいた空港もまた「潜在的な顧客」を重視し始めていることに気が付きました。
以前の空港事業といえば、航空機の離発着料金を航空会社に課金するto Bビジネスが中心でしたが、近年ではそれに加えて空港利用者に対するto Cのリテールビジネスが全体売上シェアを伸ばしています。駅ナカが発達したのと同様、多くの人が集まるところに注目した事業です。WAmazingでは、空港を利用するユーザーのスマホにダイレクトにマーケティングできる具体的なメリットを提示。交渉に無事成功し、WAmazingの無料SIM提供サービスがスタートしたのです。
なぜユーザー数が多いほどいいのか?価値を高める「ネットワーク外部性」
「無料」によってできたユーザーとの接点を活かし、更なる成長曲線を描くのにもう一つ欠かせないのが「ネットワーク外部性」の活用です。
「ネットワーク外部性」の効果は、ある製品やサービスを使う人が多いほど、その製品やサービスの価値が大きくなることにあります。わかりやすいのは電話やSNSで、どちらも使う人が一人しかいなければ、価値がありませんよね。また、メルカリやLINEといった、ネットワーク外部性がうまく働いたプラットフォームは生活インフラとして大きく成長しています。ユーザー数が莫大に増えたからこそ、アプリとしての価値が高まっていきました。
訪日外国人旅行客向けサービスを提供する私たちのサービスでも、ネットワーク外部性の効果を活用しています。BtoCサービスであるWAmazingのプラットフォームでは、最初に無料のSIM配布で旅行客(C)を集めつつ、これまで培ってきた人脈・ネットワークを駆使して、「モノ」「サービス」(宿泊、交通、お土産等の商品・サービス)を提供する事業者(B)を増やしていくことにも尽力してきました。
「無料SIM」をきっかけにWAmazingを利用する旅行者が増えれば増えるほど、事業者の信頼も獲得でき、さらに事業者も増えていく。そして、事業者が増えれば増えるほどインバウンドの方々が欲する「モノ」「サービス」の種類と数が増えていくため、WAmazingのプラットフォームを利用して日本旅行を楽しみたいと思う方も増え、両者が広がるほどに私たちのサービスの価値が大きくなっていく……というわけです。
こうした施策については「にわとりが先か、卵が先か」というところがあり、何から始めればいいかはケースバイケース。ですが、スタートアップの事業拡大においてサービスを大きく成長させレバレッジをかけるためには、どのタイミングで、どんな「価値拡大の仕掛け」を準備できるかが重要なポイントであることは、間違いありません。その仕掛けは単なる思いつきであってはいけませんし、予算を大量に投下すればいいというものでもありません。WAmazingでは、今も消費者心理を熟慮しながら、皆で知恵を絞り、「次の一手」を検討しているところです。
◆おすすめの1冊「影響力の武器」◆
「行動経済学」からの学びは、WAmazingのマーケティング戦略を描く上で一つの大きな指針になっています。そして、その基本を理解し、効果的なマーケティング・事業戦略を考えるうえで役立つのが『影響力の武器ーなぜ、人は動かされるのかー』です。
初版は1970年代の書籍ですが、折に触れ読み返している、私のバイブルとも呼べる一冊。心理学的アプローチにより人間を理解するために必要なことが網羅されています。ここから学べる「人間を動かすのは何か?」「社会的行動の背景にはどんな理由があるのか?」という視点は、マーケターはもちろん、営業、エンジニア、その他職種・ポジションを問わず、あらゆる業務のヒントになることでしょう。
相手にとって何がメリットになるのか?そのメリットをどう作り、どう伝えればいいのか?人間心理を掘り下げて考えることで、きっとこれから「何をすべきか」が見えてくるはず。興味のある方はぜひご一読ください!
取材協力:CASTER BIZ recruiting