人口が減り、行政の財源にも限りが見える地方。かつて地域の中で回っていたお金は外へ流れ、地域同士で支え合う「共助」の仕組みも弱まりつつあります。
Wasshoi Tohoku Groupは、行政・企業・地域をつなぎ、社会性と経済性を両立する「ローカル・ゼブラ」を生み出すことで、この共助をビジネスの力で取り戻そうとしています。
その先頭に立つのが、グループCEOの齊藤と、Wasshoi Lab取締役社長の濵野。元々は日本マイクロソフトや、大手人材会社でいわゆるエリートとしての道を歩んでいた二人。なぜそのキャリアを手放し、このローカルな道を選んだのか。
創業の原点から出会い、ローカル・ゼブラという挑戦、そして2050年に向けた構想まで。Wasshoi Tohoku Groupの現在地をお伺いしました。
齊藤 良太 / Wasshoi Tohoku Group グループCEO
宮城県仙台市出身。San Francisco State University卒業後、2005年に富士通へ入社。2008年に日本マイクロソフトへ転職し、世界トップ営業アワードを受賞。東日本大震災を機に起業を決意し、2016年1月にWasshoi Lab(旧:VISIT東北)を創業。
濵野 友也 / 株式会社Wasshoi Lab 取締役社長
宮城県多賀城市出身。宮城大学卒業後、2015年にベネフィット・ワン(パソナグループ)へ入社し、代表直下チームで新規事業などに従事。2017年にLoco Partners(Relux)へ転職し、旅館・ホテル営業を担当。2018年にWasshoi Tohoku Groupへ参画し、2022年に取締役就任。
「日本の国力を上げたい」。その想いが、震災をきっかけに東北へ向かった
── 日本マイクロソフトでは、世界トップ営業アワードも受賞されていますよね。そこに至るまでの最初のきっかけを教えてください。
齊藤さん:
きっかけは、アメリカの大学への進学ですね。ここで日本へのナショナリズムと、アメリカのダイナミックな成長を肌で感じたのが、今の自分を形作っています。
今思えば若さだとは思うのですが、高校生の時は「こんな自分ではダメだ!」「もっと想像できないくらい大きくなりたい!」という想いに駆られていて。
進学校に通ってはいたので、成り行きに任せれば、大学へ進む道が見えていた。でもそれでは、自分でも想像できないような成長はできない。そう感じて、アメリカの大学へ飛び込みました。
── アメリカでの生活はいかがでしたか。
齊藤さん:
最初はなかなか孤独でしたね。英語ができないので友達もできないですし、ましてや日本人も自分くらいなので。
でも、そんな時にアメリカの電気屋に並ぶソニー、街を走るトヨタを見て、「日本のメーカーも頑張っている。自分は一人じゃない」と励まされたんです。異国の地に1人で来た自分と、異国で商売をする日本のメーカーが重なって見えたんですよね。その時から漠然と「日本人として、日本のために何かしたい」という想いを持っていました。
また同時に、あらゆる国の人がひとつの国で成長し続けるアメリカの強さにも圧倒されました。多様性が力になる。これを日本も真似できたらなと。
その想いを胸に、帰国後は富士通で社会人の基礎を叩き込んでもらい、より大きな舞台を求めて、暮らしを支えるプラットフォーマーであるマイクロソフトへ進みました。
── 順調そのものに見えますが、ご本人の実感はいかがでしたか。
齊藤さん:
正直に言うと、そんなに手応えがなかったんです。
もちろんたくさん仕事はしましたし、ありがたいことに毎年昇進し、世界的なアワードもいただきました。
でも、どこか消化試合のようだったんです。もっと大きなことに挑みたいのに、組織の歯車である以上、決められた枠からは出られない。自分の潜在能力を、まだまだ活かしきれていない。その歯がゆさが、ずっと胸の中でくすぶっていました。
── そこから東北で起業されますよね。何がきっかけでしたか?
齊藤さん:
東日本大震災です。出張で訪れた石巻からの帰り道に、被災しました。地元・宮城での出来事です。本当に全ての当たり前が崩れ去った瞬間でした。
そのとき、自分は綺麗に整った環境でキャリアを積んでいたことに気づいて。前提が変わってしまえば、自分のキャリアは何の役にも立たないと強く感じました。
そこから数年間のボランティアを通して、視点が一気に、社会や地域へ向いたんです。自分の力をもっと発揮したいという想いと、地元のために、日本のために何かを成し遂げたいという想い。その二つを同時に叶えられるのは、ここしかない。そう腹をくくって、2016年宮城でVISIT東北(現:Wasshoi Lab)を起業しました。
同郷の先輩と後輩。共通項は、既存の枠組みへの疑問
── 現在Wasshoi Labは濵野さんが社長を務めていますよね。どんな経緯があったのですか?
齊藤さん:
Wasshoi Labのリーダーを濵野に託したのは、もっと大きな構想を実現するためです。
志ある人が会社をつくり、それぞれが育っていく。そんな状態を、東北にたくさん生み出したいんです。新しい会社をどんどん立ち上げては、次の世代に渡していく。私自身は、その挑戦を支えるプラットフォーム側に回りたいと考えています。
その志ある人が濵野だと考えています。
── 濵野さんは、なぜWasshoi Tohoku Groupへ合流したのですか。経緯を教えてください。
濵野さん:
東北への想いはもちろんですが、「何もないところから新しい枠組みをつくる」ことに、自分の生き方があると思ったからです。
というのも、新卒でベネフィット・ワンに入社したのですが、初年度から社長直下のチームに配属いただき、新規事業の立ち上げを経験させていただいたんです。グループのメイン商材を全て扱う横断営業チームや、淡路島での新規事業、toC向けアプリの立ち上げなど、幅広いことに携わりました。
他の人がやっていないことに挑戦している。そこにとってもワクワクしていました!特に、新規事業で新しいものを生み出すために、様々なステークホルダーと対話し、リリースした経験はいまでも鮮明に覚えています。
一方、サービスリリース後のグロースハックフェーズに馴染めない自分がいました。今思えば、かなりクリエイティブな仕事だと理解できるのですが、当時は、教科書通り物事を因数分解して、PCの前でKPIをひたすら追っていくようなルーティンワークに思えて...自分には向いておらず、もっと得意な人が他にいるという感覚でした。
── そこに気づいてからは、どのように動かれたのですか?
濵野さん:
「想い」を重視して、志高い国内の素敵なお宿様を海外のお客様と繋ぐプラットフォームを運営するスタートアップに転職しました。ここでは、北海道・東北・北陸のお宿様への企画営業担当を経験しました。
広域を一人で担当している中、東北で「インバウンド観光事業」で起業した齊藤を思い出し連絡を取りました。Wasshoi Labは立ち上がりはパソナグループの出資を受けて創業しているため、私からしたらグループ企業の先輩だったんです。
最初はビジネスの相談をしていたのですが、徐々に私のキャリアの話になっていって(笑)。ルーティン化した仕事に違和感を覚えている特性を見抜かれ、「地方で新しい価値を自らつくる仕事に挑戦してみないか?」と声をかけてもらいました。
このまま東京の生活を送る自分もイメージできなかったので、「新しい人生に歩み出そう」と決意したんです。正直、明確なビジョンや逆算したキャリアプランがあったわけではありません。
ただ「一度きりの人生、心が躍る方に行った方がいい」という確固たる想いはあって。後ろを振り向かずに突っ込む覚悟で、2018年に宮城に戻りました。2018年6月、宮城県丸森町地域おこし協力隊としての立場からの挑戦がスタートしました。
行政だけでも、企業だけでもない。「共助」をビジネスでつくる
── 改めて、Wasshoi Tohoku Groupが目指していることを教えてください。
齊藤さん:
創業当初はインバウンド観光が中心でしたが、今は「自助と公助の間にある共助」を、ビジネスとしてつくることに挑戦しています。
具体的には、地域に必要な事業を一つひとつ立ち上げてきました。
観光施設の管理運営や移住の相談窓口、子どもたちの探究学習を支える教育事業まで。ほかにも特産品の開発やジェラート店の運営を始めています。
行政だけでは手が回らない、けれど誰かがやらなければ暮らしが続かない。その隙間をビジネスとして担うことが、私たちの考える共助です。
── 地域課題の解決は、行政の役割というイメージもあります。
濵野さん:
その行政に、もう余力がないんです。人口が増えている都市部は税収で施策を打てますが、人口が減っている地域では新しいことに使える財源がありません。
国の補助がなければ立ち行かない自治体も多く、単独ではもう間に合わない状況です。だからこそ、ビジネスの領域にいる民間企業が歩み寄り、相乗効果を生む共助のつながりや取り組みが必要だと考えています。
私たちは、そういう企業を「ローカル・ゼブラ」と呼んでいます。
── もう少し「ローカル・ゼブラ」について教えてください。
齊藤さん:
ローカル・ゼブラとは、地域に根ざしながら、社会課題の解決と経済的な持続性を両立させる企業のことです。白と黒の縞模様のように、社会性と経済性という二つの価値を同時に追い求める。急成長や上場を目指すユニコーン企業とは違い、仲間と群れをなして、地域の中で長く続いていくことを大切にしています。
実は、もともと地域の企業はゼブラ企業だったんです。建設会社、水道屋さん、新聞屋さんが地域の中でお金を回し、共助が自然に成り立っていました。
ところが経済成長とともに大きな資本が入り、お金が地域の外へ流れる構造になった。渋沢栄一の言う「論語と算盤」のように、社会性と経済性をもう一度両立させる。その担い手がローカル・ゼブラであり、私たちはその先駆者でありたいと考えています。
ここで築けるのは、セクターを越えて社会を動かすキャリア
── 東京のスタートアップと比べて、どんな違いがありますか。
齊藤さん:
そもそも地方には十分なマーケットがないことが違いです。いわゆるスタートアップは大きなリターンが狙える市場を選定し、そこに莫大な資金と人をかけて、一気に市場を独占しにいく。昨今のAI競争がわかりやすい例ですよね。
一方地方にはお金がないし、儲けられる市場が少ないんです。基本的に市場拡大を狙う経済合理性からは、逆行したマーケットです。そのため参入者も少なく、模倣する相手もいない。
だからこそ、本当に0から作って、持続可能な事業を見つけなくてはいけない。
しかも、人が少ないから、一人ひとりが担う役割が大きい。足りないピースに気づいたら、自分でつくりに行く必要もあります。
── スタートアップは熾烈な競争環境というイメージがありましたが、ローカルも違う大変さがあるのですね。
濵野さん:
「地域だからのんびりできる」ではなくて、逆に資金と人が限られている分、試行錯誤のスピードを上げなくてはいけません。正直、めちゃくちゃ大変です(笑)。いわゆる正解がないので、ストレスも葛藤も増えます。
けれど、その先に地域への貢献や自分たちの暮らしへの還元がある。活動の中で、人生のあり方や社会のあり方を真剣に考え、主体的に挑戦する素敵な方々と繋がっていく感覚もとても幸せです。
正解のない中で、自分が起点となって「未来・社会に向けた新しい何か」を生み出せた喜びややりがいは、都会で働いている時には味わえないものです。
── 仕事をするうえで、大切にしている考え方はありますか。
濵野さん:
「トライセクターリーダーシップ」という考えを大切にしています。
これは、行政(公共)、企業(民間)、NPOや地域コミュニティ(社会)という三つのセクターを横断し、それぞれの強みをつなげて課題を解決していくリーダーシップのことです。一つのセクターの論理だけでは解けない社会課題が増えるなかで、注目されている考え方でもあります。
私たちは、どこか一つの立場に閉じこもらない。それぞれの言葉や事情を理解したうえで、対話を重ね、新しい協働のかたちをつくることを大事にしています。
たとえば「行政は大変そうだから企業同士でやろう」とはならず、巻き込めば課題を解決できるならやってみる。「どうせ無理」で片付けず、「どうしたらできるか」を常に考えています。
▼トライセクターリーダーシップについてはこちら(濵野登壇の記事)

「自分がやってきたことは、これだ」── いま、トライセクターリーダーが求められる理由 |Dialogue for Everyone株式会社
2050年、100社のゼブラ企業がつくる東北へ
── これから描いている未来について教えてください。
齊藤さん:
挑戦が事業になり、10年以上続いていく。そんなゼブラ企業を、2050年までに100社生み出すことが目標です。
そのために、私はこの5年でより大きな仕組みづくりに軸足を移していきます。今は濵野や他の代表レイヤーが会社を回してくれていて、徐々に次の世代へのバトンタッチを進められています。想いに共感した人がそれぞれの事業を育て、また構想に加わってくれる。そんな雪だるま式の広がりをつくりたいと考えています。
濵野さん:
その土台となるのが、2027年1月に設立を予定している「財団」の構想です。
グループ会社の収益の一部を財団に集めて基金をつくり、次の挑戦者(=東北での起業家)へ渡していく。経済合理性だけで見れば理解しづらい仕組みかもしれませんが、「社会性と経済性」の両軸を考えたときにもっとも合理的な制度なんです。
── その実現に向けた、今の課題は何でしょうか。
齊藤さん:
やはり一緒に働く仲間です。
会社も事業も、うまく回る仕組みはできてきました。ただ、目の前の仕事に手一杯で、来年度に向けた仕込みをつくる時間が足りていません。
やるべきことは見えています。一緒に未来を考え、形にしてくれる人が必要なんです。
── どんな方がWasshoi Groupには合っていると思いますか?
濵野さん:
今いる場所で一生懸命に頑張り、成果も出している。それでもふと「あれ、本当にこれでいいんだっけ?」という心の声に気づいた方です。
特に今後はWasshoi Groupから経営者を輩出していきたいタイミングですし、それを支えるバイタリティ溢れる仲間が必要です。
「お金だけではない可能性に挑戦したい」「自らを満たしながら、周囲をハッピーにする仕事をしたい」そう思える方が弊社に合うと思います。
一回きりの人生、自分も大切にしながらも、「未来に何を残すのか」。
その議題を本気で考え、対話し、共創できる仲間との出会いを楽しみにしています。
今まで経済合理性の前で消えていったアイデアも、ここなら挑戦として形にできます。
齊藤さん:
今、自分を使いきれていない感覚の人ですね。
濵野が言うように、「一見満たされているけど、本当にこれで人生いいんだっけ?」と疑問を持った方はブレークスルーとなる環境だと思います。
私自身、いわゆるビジネスパーソンという枠組みだけでは、自分の魂を磨き切れませんでした。それが、この東北という地でチャレンジを始めてから、毎日ストレスがありながらも、最高に楽しいし、日々自分を超える成長があります。
1回きりの人生。もしモヤモヤしているなら、一度お話ししてみませんか?
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