1回目の記事「ライフスタイルMDストアは今後どこへ向かうのか?第1回『niko and…』店頭フェイス調査より:樋口進」 では「商業施設内のライフスタイルMDストアはともすれば来店客の利便性を犠牲にする」というデメリットを指摘し、“ファッションストアが展開する雑貨MDの偏り”についても言及した。今回はこれとは真逆にある雑貨MD、ニトリの都心戦略店舗=ニトリ プランタン銀座店を取り上げよう。
ニトリグループの店舗としては国内で354店目の店舗であり、2000坪、1500坪、1000坪の3つのフォーマットを中心に展開するニトリの中では約450坪と極端に小さい。通常のニトリの1万SKUのMDを、3000SKU程度に絞り込んだ戦略型の新業態である。中価格帯以上の商品をメインに、セット率を上げやすいファブリックアイテムを強化。客数×客単価増進によって坪当たりコストの高さをカバーしながら、都心の高感度客に対応できるテイストの絞込みが行われている。
これらが売場MD=フェイス構成にどう現れているか?まずは売場俯瞰図を見てみよう。
■ 売場俯瞰図(ゾーニング図)
売場を上から見下ろした時の、売場のフェイス分類がどうなっているか?(=カセット区分、ブロック区分、ゾーン区分)を詳細に現したのが売り場俯瞰図である。
1. ゾーン構成はアイテムカット+シーンカットのミックス型
ニトリプランタン銀座店は、1フロア構成、9つのゾーン、400以上のカセットで構成される。カセットという言葉は小売業、特にファッションや雑貨業態に馴染みのない方にはイメージしづらいかもしれない。平たく表現すれば、『売場における品群(商品グループ)の最小単位』と言うことになる。ECサイトのカテゴリ分類と同様に、実店舗の売場は必ず、階層的な商品分類構造をなす。その最少カテゴリー単位をカセットと呼ぶ。それらが分かりやすく、買いやすいほど『来店顧客の購買を促進する良い売場』ということになる。
現行のニトリ銀座の売場は、まず大きく9つのゾーンに分かれており、「カーテン」、「ダイニング」、「リビング」、「ベッド」、「ルーム」、「バス・洗面」、「キッチン」、「収納」、「インテリア」という構成である。
2. ブロック~カセットの分類は、「シーン・スタイリング切り」と「カラー切り」「機能・アイテム切り」の3タイプ
売場のフェイス構成をさらに細かく見てみよう。450坪というニトリにとってミニマムな売場を成り立たせる肝は、大物家具の取り扱いにある。通常の大型店フォーマットであれば、チェスト、リビングセット、ソファーといった「家具のアイテム切り売場」に一定面積(=フェイス量)を割いている。銀座店にはこれがない。基本は大物家具については、シーンをイメージさせるコーディネート陳列がメインであり、特定アイテムの目的買い客もシーン型売場から選んでもらう意図である。
この家具フェイスの絞り込みと裏腹に、それなりに売場面積を割いているのが、カーテン、ルーム、バス・洗面、キッチン、収納などのホームファニシング、ホームデコレーション売場である。
■ 売場編成表
売場のフェイス構成を数値化して、詳細の分類構造を視覚的に表す手法として、売場編成表というツリー構造の表記が昔から使われている。これを見ることで、売場俯瞰図で把握する以上に構造が明確になり、MDのバランスを検証することができる。以下をご参照いただきたい。
1. カーテン売場の基本分類は実は機能分類
こちらは、カーテンのゾーンに絞った場合の売場編成表の例である。銀座店のオープン当初、メディア各社の取材では、カラー(色相分類)を随所に取り入れているという取材表現が目立ったものだが、本質は実は違っている。カーテンというゾーンの売場分類が、まずは、オーダー、既製、サプライ品に分かれ、続いて機能性や価格帯で分かれ、最小単位(カセット)でカラーや柄、デザイン種別や特殊機能で分かれていることが確認できるだろう。そしてそれぞれのカセットが売場の什器フェイスの何台分を占めているかがわかる。具体的には既製カーテンよりもオーダーカーテンに広くフェイスを割いており、その中でもベーシックカラーや価格帯の高いモダンカーテンのウエイトが高いことが見て取れる。
これはそのまま、小売バイヤー組織の仕入れ構造を表しているケースもあるが、売場担当が独自に分類体系を作成している場合もある。いずれにしても、チェーンストアの場合は陳列指示書が存在して、この分類体系での陳列指示がなされているはずである。まさにこの構造そのものが、売場のアイデンティティであり、来店客の買いやすさ・選びやすさを意識して本部側が設計している重要要素である。
2. ゾーンバランスではルーム用品のフェイスウエイトが高い
ゾーン別のフェイスバランスを見ると、9つのゾーンのうち、「ルーム」のフェイスが最も広く、全体の1/4のフェイスを占める。また、「ダイニング」と「カーテン」まで含めると、3つのゾーンで57%もの大きなフェイスを占めることが分かる。
意外だったのは、プランタン銀座自体が完全に女性向けのテナントの集積施設(ニトリの上層階のユニクロは、全国で唯一のWomenのみ取り扱い店)なのにもかかわらず、「ダイニング」や「カーテン」、「リビング」、「ベッド」という、実際の購入には夫との話し合いも必要であろうと思われる商品のゾーンが広く、「キッチン」や「収納」、「バス・洗面」「インテリア」の商品のゾーンが小さかったことだ。女性ターゲットの生活雑貨業態ではこの辺に加えて、ヘルスケア・カジュアルコスメが稼ぎ頭であるが、そういった商品は敢えて取り扱っていない。実際に店舗を見た印象で言うと、オリジナル商品比率の高いインテリア・家具の商品の集積をしっかりと行った、インテリア・家具SPAといえるだろう。郊外大型店舗よりはファブリックや雑貨の比率を増やしてはいるものの、LOFT、フランフランなどの雑貨専業業態ほどではない。それよりは遥かに実用的であり、結婚や引っ越しなどの大きなライフイベントの際に対応可能な商品領域を持っている。
3. 来店頻度 × 買上げ率向上がキー
このような『家を住みやすく・居心地の良い空間にするMD』は、米国や欧州では一般的であり、ホームインプルーブメントやフォームファッションストアとして一つのジャンルを形成している。しかし、残念ながら日本国内では、これまでこれらの業態が都心ではまず成立しなかった。大抵は家具専業か雑貨専業に分離していってしまう傾向である。これは日本人の生活習慣として、①シーズン毎に部屋の模様替えを楽しむという家づくりの習慣が定着していないこと、②圧倒的に都心ではマンションライフが中心で、住居面積が狭くて余裕がないことなどによる。東急ハンズ、フランフラン、そしてかつて丸井が展開していた『インザルーム』などもこれらのホームインプルーブメントを目指していたはずであるが、残念ながら「インザルーム」は撤退し、東急ハンズとフランフランは雑貨中心にシフトしてしまった。そんな中で、今度こそという希望をニトリ都心型店舗には期待したい。日本人の住生活ライフが豊かになるためには、これらの業態が育つことが必須であるからだ。
株式会社シンクエージェント
代表取締役 社長
樋口 進