社内プロジェクトはなぜうまくいかないのか? 運営事務局が知っておきたい、成功につながる社内プロジェクトの進め方
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どこの会社にも「社内プロジェクト」が存在しています。それは、直接的に事業に結びつくものばかりではありませんが、組織運営のために必要かつ重要な取り組みとして位置付けられていることが多いように思われます。
社内プロジェクトは、単にプロジェクトと呼ばれることもあれば、タスクフォースやクロスファンクショナルチーム(CFT)などと称されることもあります(この記事においては「社内プロジェクト」に統一)。これは、会社全体にかかわるテーマについて、各部門から集められたメンバーがプロジェクトチームとして意見をぶつけ合い、検討を重ねて意見をまとめたり、新しいアイデアを出して独自の活動を展開したりするものです。社屋移転やレイアウト変更、新しいデジタルツールの導入、働き方改革、ダイバーシティの推進など、さまざまな場面で用いられます。
各部門の声を全社的な活動に反映したり、会社の方針や活動を各部門に展開したりする上で、導入のメリットが大きい社内プロジェクトですが、私たちはお客様企業から「社内プロジェクトがうまくいかない」という相談をよく受けます。そこで、この記事では「社内プロジェクトがうまくいかない理由」と「進め方のヒント」について、具体的な事例を交えながらご紹介します。貴社の社内プロジェクト推進にお役立てください。
社内プロジェクトがうまくいかない理由は、主に「運営側の問題」
「社内プロジェクトがうまく進まない」というような悩みを抱えている運営担当者にその理由を聞いてみると、おおむね以下の5つが挙げられました。
1. いつも同じ人が集まっている
・選ばれる人がいつも同じなので新鮮味がない。
・周囲からは、またあの人ね、と言われる
・部門/部署横断チームに期待される「多様性」による意見のぶつかりあいや化学反応が期待できない…など
2. 議論が迷走する
・プロジェクトの目的やテーマ、範囲が不明確などの理由で議論がうまくかみ合わず、深まらない
・同じような話を繰り返して前に進まない…など
3. いつの間にか手段が目的化する
・当初は業務効率化を目的としたチームだったはずなのに、いつのまにか「業務システムの入れ替え」がゴールになってしまっている…など
4. 社員から上がってくる施策はいつも同じようなレベル感でいいものが生まれない
・これまでやってきた取り組みの改善にとどまっていて、斬新なアイデアが出てこない
・決裁者の顔色を見て、実現可能性が高いものだけを出してくる…など
5. 結局、一人にしわ寄せがいって、ほかの人はただ乗りしている状態
・発案者やリーダーシップを発揮した人の負担が大きくなりすぎる。結果的に、モチベーションを低下させてしまい、取り組みが停滞する…など
これらは一見、参加者のスキルや経験といった「人材に関する問題」のようにも見えますが、ほとんどの場合においてそれらは「運営側の問題」であるということに気付かねばなりません。
たとえばあなたの組織では、「社内プロジェクトを行なっているのだからメンバーとなった社員自身が全部考えるべきだし、運営側の意図することはわかって当然。でも、これまでにないような、良い感じの成果をちゃんとあげてもらわないと困る」というように、運営側が人を集めて社内プロジェクトを立ち上げたところまでで満足して、プロジェクトの成果を出す責任を社員に丸投げしてはないでしょうか。
丸投げされた当事者たちはもちろん困惑しますし、具体的なイメージが浮かばず「結果うまくいかないだろう」と感じてしまえば、社内プロジェクトメンバーに指名されても貧乏くじを引いたと認識してしまうでしょう。こうなると、個々の社員のモチベーションが上がらず、当然のことながらチーム全体の士気も上がりません。やらされ感を抱えた状態では、楽しんで活動することもできず、良い結果にもつながらず、結果的に時間の無駄となってしまうことも考えられます。
しかし、同じメンバーや同じテーマであっても、運営側が適切なファシリテーションを行えば、議論が白熱してメンバーのモチベーションも上がり、取り組みが一気に進むこともあります。社内プロジェクトを活性化させ、成果につなげるためのカギは、運営側がプロジェクトチーム全体のみならず、関連する各部門や、個々のプロジェクトメンバーの状況を把握し、状況に応じたファシリテーションを行うことなのです。
社内プロジェクトを推進する上で押さえておきたい、進め方のポイント
この章では、社内プロジェクトで起こりがちな問題と解決方法、効果的にプロジェクトを進めるための5つのポイントをご紹介します。
ソフィアが外部コンサルタントとして、さまざまな企業において社内プロジェクトと協働しながら風土改革などを推進してきた経験から振り返ってみると、社内プロジェクトがうまくいっていない企業ではまず大前提として、「社内プロジェクトに携わっても美味しくない(メリットがない)」と社員が認識しています。
これは、前章で述べたように、運営側がプロジェクトを適切にファシリテートできておらず、進め方すらメンバーに丸投げしてしまっている、ということから発生する問題です。大切なのは、まず社内プロジェクトを運営する事務局側が柔軟な戦略を持ち、プロジェクトチームに伴走しながら的確にファシリテートすることです。メンバーが自ら考え、アイデアを出し、自分事として実行することは最低条件ですが、それを実現するためには事務局による環境づくりや全体設計、議論されていることに対するフィードバックといった介入が必要不可欠です。
以下、プロジェクトの各段階で事務局が行うべき介入について、詳しく見ていきましょう。
人選
「立候補で同じような人しか集まらない」という問題がある場合は、そもそも社内プロジェクトの評判が悪いということが考えられます。テーマはさまざまであっても、そこに興味関心を抱きにくいような発信方法では、受け手の行動をうながすことはできません。
また、逆に事務局側がスカウトを断られることを恐れて無難な人選(過去実績がある人、リーダー層など)を指名しているため、毎度同じような顔ぶれが並ぶということも考えられるでしょう。
これらを解決するためのヒントとして、たとえば立候補で社内プロジェクトに関心を持ってほしいならば、
- 事務局側が明確な戦略と熱意をもって社内にアピールする
- 社内プロジェクト楽しい!参加してよかった!と思えるような実績を作る
という取り組みが必要です。指名であれば目的に合った人選を、過去の実績になどにとらわれずゼロベースで考え、相手が納得し安心して参加できるよう事務局側が熱意と根拠を持って説得することが不可欠です。
テーマの出し方
社内プロジェクトがうまく進まない原因の1つとして、「プロジェクトテーマが具体化されすぎている」ということが考えられます。
たとえば、何かの目的にそって全社に新たなデジタルツールを導入することになり、すでにどの会社のどんなツールを使用するかがほぼ決定していて、ただ確定はしていない、という状況があるとします。このような状況では、メンバーはほかの候補を提案しづらく、提案したとしても変更が通る見通しが立たないため、いったいこの場で何を議論すればよいのかと困ってしまいます。
また、逆に「テーマの範囲が広すぎる」という課題も考えられるでしょう。
新規事業創出や売上拡大、採用強化など、とにかく漠然としたテーマを出していたり、すでに担当部門が存在するなかプロジェクト化されたりするケースがこれに該当します。
プロジェクトメンバーからすれば、今までの経緯をインプットできないまま浅い知識で議論をし、他者や他部門の取り組みを否定することなく、これまでを凌駕する企画を出さなければいけない、ということです。このような状況では、社員はとにかくやりづらくて仕方がありません。こういったことが重なって、社内プロジェクトメンバーに指名されることが「貧乏くじを引いた」と社員に認識されるようになってしまうのです。
事務局は、プロジェクトメンバーを集めて議論を開始する前に、狭すぎず・広すぎない、適切なテーマを設定しましょう。
議論プロセスの設計
社内プロジェクトにおける「議論プロセス」は、メンバーに丸投げされがちな部分です。しかし、
- どこからどこまでを議論するのか
- どういったプロセスを得て議論を行うのか
- どうしたら、本業があるメンバーに過剰な負担を強いずに良い議論をうながすことができるのか
といった内容を考えるのは、本来社内プロジェクトを推進したい事務局の役割であるはずです。これを怠ると、時間がないメンバーは表層的な議論で終わらせようとしたり、すぐに手段に目が行ってしまったりと、結果に結びつかない時間の浪費が進んでしまいます。「手段が目的化してしまう」という失敗パターンに陥る社内プロジェクトは、多くの場合は議論のプロセスに問題があります。
最終的にプロジェクトメンバーにやり方を決めてもらう場合にも、少なくともプロジェクトスコープ(議論する範囲)は事務局側で設定し、議論のプロセスのたたき台や、メンバーの負担を押さえながら進める方法をあらかじめ考えておくようにしましょう。
フィードバックの出し方
社内プロジェクトのプロセスをメンバーに丸投げして何もフォローしなかった事務局が何食わぬ顔をして決裁者へのプレゼンを仕掛けることがありますが、これはメンバーの成果のみを横取りする、迷惑極まりない行為です。事務局に求められる役割は決裁者とメンバーのハブとなって、双方の状況を把握しながら良いタイミングで情報共有をしたり、議論のかじ取りをしたり、根回しをしたりすることです。
決裁者に耳打ちしてメンバーのやりたいことと決裁者が求めていることの落とし所を見つけ、確実に実現できるラインを攻めるのか、それとも決裁者の意図は含みつつあっと言わせる企画に化けさせるのか、それは事務局の手綱の引き方で良くも悪くも変わってしまうというのが現実です。しかし、なかには双方に遠慮してのことか、単に事務局メンバーが忙しいからなのか、何もしないままにプレゼン当日を迎えるケースも散見されます。
事務局はメンバーの様子や議論の経過をつかんでおき、必要なタイミングでスモールミーティングを開いて適切なフィードバックを実施するようにしましょう。
役割分担
社内プロジェクトメンバーが過度な残業をしていて、在籍する部門の管理職から注意されるということはないでしょうか? 個々のメンバーの状況を把握してプロジェクトをハンドリングするのも事務局の役割です。
- プロジェクトの中で今だれがどんな役割を担って、どのようなタスクを進めているのか
- 各メンバーは自部署でどの程度のボリュームの業務を担っていて、繁忙期はいつなのか
などを把握し、各メンバーがプロジェクトと通常業務を両立できるようサポートを行ったり、ときには繁忙期にあるメンバーのタスクを引き取って代わりに進めるなど、状況に応じて柔軟に対応しましょう。
以上、社内プロジェクトの事務局が押さえるべき5つのポイントについて解説しました。特にアウトプットの品質を求めるのであれば、事務局が気を配るべきなのは「議論の進め方」でしょう。議論が本質をついているか、企画が目的に沿っているか、常に目的を横目に見ながら議論にあえて水を差したり、場合によってはメンバーの中に入って議論をして話題を温めて誘導したりする、といったことができると、社内プロジェクトのアウトプット品質はもちろん、参加してくれたメンバーの成功体験にもつながっていきます。
社内プロジェクト取り組み事例:なぜビジョンが実現しないのか?本気の議論でプロジェクトメンバーの問題意識に火をつける
最後に、事務局が臨機応変なファシリテーションをおこなったことによりプロジェクトメンバーの議論を推進・課題解決に結びつけた事例をご紹介します。
ある企業では、自薦・他薦で集まった社員とともに、会社の風土を変えるための取り組みを検討し、実行する社内プロジェクトを立ち上げました。プロジェクトメンバーは、ビジョンの実現を妨げる要因について、「何が会社を、社員をそうさせるのか」と侃々諤々の議論を行いました。
しかし事務局は、メンバーが課題に対する当事者意識を醸成するためには、規定の時間では足りないと判断しました。そこで、ランチタイムや夕方の時間に任意のスモールミーティングを入れて課題に対する議論を徹底的に行い、彼らの問題意識と会社の課題を結びつけることに注力しました。
そこでは、議論の結果を元にさらに小チームを組成し、それぞれのチームでショートディスカッションを行い、課題解決の方法を検討しました。その上で、検討結果を執行役員に提案し、実行が承認されたものから随時取り組みを推進していきました。
この事例のポイントは、事務局がプロジェクトメンバーの状況を観察しながら、プロジェクトスタート時に設計した議論のシナリオに随時調整を加え、会議のたびに異なるアジェンダを設定したことにあります。特に、議論を深めることを目的にしたショートディスカッションを大量に実施したことが成功への秘訣と言えるでしょう。
まとめ
この記事を通して、社内プロジェクトが成功するかどうかは運営事務局によるプロジェクトファシリテーションの手腕によるところが大きい、ということをあらためてご認識いただけたのではないでしょうか。ソフィアでは部門横断プロジェクトの事務局支援に多数の実績があり、事務局の後方支援やプロジェクトファシリテーターのトレーニング、また外部のプロジェクトファシリテーターとして第三者の立場で関わることも可能です。社内プロジェクトがうまくいかない、プロジェクトファシリテーションをどのように行ったらいいのかわからない、適切な施策の講じ方がわからない、といったお悩みがある際はぜひソフィアまでお気軽にご相談ください。