世の中の駅弁も、変えたい!行列のできる海苔弁専門店、GINZA SIX店・築地店に続き、3店舗目は東京駅。東京駅出店の裏側をインタビュー
2017年4月、GINZA SIX店をオープンしてから1年を経過してもなお、連日行列が並ぶ海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」。価格も1080円と通常の海苔弁と比べるとなかなかのお値段ですが、それでも行列ができ、多い日では1日800個も売れる海苔弁の専門店です。
昨年10月に築地直売所ができ、今回3店舗目を2018年7月31日(火)、東京駅構内のエキュート東京にオープンさせることに。通勤、出張さらには観光など、東京駅を利用するお客様の数は1日約40万人以上とも言われています。
東京駅出店の背景と、改めて「海苔弁山登り」のこだわりや開発背景について、弁当事業部部長の我妻義一さんに聞きました。
我妻義一
株式会社 スマイルズ giraffe事業部長 兼 弁当事業部長
1973年生まれ。明治大学卒業後、流通業バイヤー、スペシャリティーコーヒー業界、キャラクタービジネス業界での企画等を経て、2009年に株式会社スマイルズ入社。 Soup Stock Tokyo事業の法人営業部部長を務め、冷凍スープ専門店「家で食べるスープストックトーキョー」立ち上げ、機内食企画・開発等に取り組む。 2014年秋よりネクタイブランド「giraffe」事業部長となり、店舗展開の加速と同時に、リブランディングに取り組む。その後弁当事業部を立ち上げ、2017年4月に「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」の第一号店をGINZA SIXに出店。
どうして「海苔弁専門店」を?
我妻:社内で弁当の話をしていた時に、海苔弁ってみんな好きだよね、という話になりました。ちくわの磯部揚げとかおいしいよねと盛り上がりましたね(笑)でも、世の中を見てみると、海苔弁はお弁当屋さんでも一番安い価格帯で売られているような、少しかわいそうな存在だと気づきました。幕の内弁当は、低価格なものから数千円のものまであり、価格も内容もバラエティ豊かなのに、海苔弁はそうではなかった。それならば、私たちが納得のいく最上級の海苔弁をつくることで選択肢を増やし、海苔弁を弁当界の主役にできないかと考え、よし!海苔弁専門店をやろう、と決めました。
(GINZA SIX地下2階の店舗)
―あえての海苔弁という目の付け所が面白いですよね。その後はどのように海苔弁の輪郭がつくられていったのですか?
我妻:改めて、現代の私たちの日常でのお弁当ってどういうものなのかを考えてみたんです。例えば、コンビニでお弁当を買うと「お弁当は温めますか?」と必ず聞かれますよね。温める前提になるから、温めて食べられるおかずが中心になっていく。揚げ物とか、見た目も茶色のお弁当が多いなと思いました。でも、私たちが子どもの頃のお弁当の記憶をたどっていくと、そこで思い出されるものは家族が作ってくれた冷たいままでもおいしいお弁当だったと気づきました。
―たしかに、家族が作ってくれたお弁当って、温めなくてもおいしかったです!
我妻:そこから「家庭料理の最上級」を目指そう、冷たいままでもどこか懐かしくてあたたかい気持ちになるお弁当を作ろうというコンセプトが決まりました。家族が、その家族を思いながらつくるお弁当と同じように、ひとつひとつを丁寧に手作りをしよう。作り手から食べる人にその想いがじんわりと伝わるような海苔弁をつくろうと思いました。そういうのが本来のお弁当なんじゃないかなと思ったんですよね。海苔弁を通して、お弁当の本来の姿を取り戻していくような、そんなブランドを作りたいと思っていました。
(2017年10月築地にオープンした築地のお台所直売所)
ようやく辿り着いた、有明海産の最高級海苔“青混ぜ”
海苔弁の主役は、やはり海苔。まずはどの海苔を使うのか。いくつもの海苔をブラインドテストで試した結果辿り着いたのは、有明産の最高級海苔でした。
我妻:海苔弁に使っているのは、佐賀県の有明海でとれる上位1%の最高級海苔です。海苔もお茶のように、一番摘み、二番摘み・・・と何回か収穫できるのですが、「海苔弁山登り」ではその年に収穫される一番摘みの海苔だけを使用しています。そのため、葉が柔らかく、ふわっと溶けるようなくちどけの良さが特徴なんです。さらには、海苔に自然と青海苔が付着する 、希少な“青混ぜ”を使っています。香りの豊かさ、柔らかさ、風味の良さの三拍子そろった海苔ですね。海苔弁の蓋を開けるとふわっと海苔の香りが広がりますよ。
我妻:その海苔に、自家製の割醤油を刷毛でたっぷりと塗ることで、海苔が箸でスッと切れるんです。私たちは「箸切れの良さ」と言っています。海苔弁あるあるじゃないですが、ごはんを食べようとすると一気にのりがべりっとはがれてしまうことってありませんか?あのがっかりな気持ちをなくしたいなと思っていました。
(老舗海苔問屋「丸山海苔店」の最高級海苔を使用)
玉子焼きには、あえての焼き目
「海苔弁山登り」の商品は、「海」「山」「畑」の定番3種が中心。「海」は海の幸がメインの海苔弁で、築地から直接仕入れた鮭がお弁当からはみ出しそうな見た目が特徴。山の幸をメインにした海苔弁「山」は、時間が経っても柔らかくお召し上がりいただけるよう塩麹を揉みこんだ鶏の照り焼きが食欲をそそります。れんこん大葉もち、舞茸の天ぷらなど野菜のおかずが中心で優しい味わいの 「畑」。
海苔弁に彩りを添えるのは、手作りにこだわったおかずの数々。おかずの調理にも、海苔弁のこだわりが詰まっていました。
我妻:玉子焼きは、商品開発中に失敗して焼き目が強くついてしまったのですが、それを見て、「このほうが家庭の玉子焼きらしくて良いね」となり、玉子焼きにはすべて焼き目をつけています。私たちの海苔弁は「家庭料理の最上級」を目指しているので、料亭で作られるような焼き目もなく色も均一な美しい玉子焼きではなく、家庭で作られるどこか手作り感のある玉子焼きがぴったりだった。また、冷めてもおいしくお召しあがりいただけるようにしっかりとした味付けにしました。人気のちくわの磯部揚げは、鯛入りなど高級なものも含めて様々なちくわを試した結果、海苔弁の味わいに一番合う、雑魚を使用したお手頃なちくわを採用しています。
(玉子焼きはひとつひとつ、手焼きしています。)
―高級な食材を使えばよいというものではないですからね。
我妻:私たちがつくりたい味に一番合うものを採用しました。どのおかずもそれぞれの素材本来の味を引き出し、冷めてもおいしくお召し上がりいただけるよう工夫を凝らしています。おかずはその日の朝に作り、ひとつひとつ箱に詰めています。
駅弁にも、真心のこもったお弁当を
―今回東京駅に出店しようと思ったきっかけがあれば教えてください。
我妻: 海苔弁を始めるときにコンビニでのお弁当事情を考えましたが、それと同じようなこと、「なんでこうなっちゃうの?」が起きているところはどこかと考えた時に、駅弁が思い浮かびました。最近の駅弁って、どれもラップにくるまれてしまっていて、どこか工業製品のような印象がある。でも本来のお弁当ってそういうものなのか?と。
―作り手の想いが食べた人にじんわりと伝わる、それこそ本来のお弁当じゃないかというものですね。
我妻:そうです。真心がこもった手作りのお弁当、そういう選択肢を駅弁にも提案してみたかったんです。そこでちょうど東京駅出店のお話をいただき、ぜひチャレンジしてみたいと思いました。出張や観光、帰省など東京駅に立ち寄るすべてのお客様に寄り添うような存在でありたいと考えています。また、東京駅店の限定商品としておにぎりも数量限定で販売する予定です。おにぎりには有明産の海苔とは異なる海苔を使っているところもこだわりですかね。
(東京駅売店のイメージ画像)
愚直なほど、真面目に、コツコツと。
―東京駅出店もありますが、これから海苔弁山登りをどのようにしていきたいかなど、妄想していることがあればぜひ教えてください。
我妻:「家庭料理の最上級」なので、自分たちができる範囲で、変わらぬ味を守りながら商売をしていきたいんです。多店舗展開でどんどん成長させて工業製品化するのではなく、地域に根付き、手作りができる範囲で海苔弁を作っていきたいと思っています。これらの考えを前提としながら、今回の駅弁のようにどうしてこうなってしまうんだろう?というシーンに対して私たちはこう考えます、という提案をやっていきたいですね。次は空港に海苔弁はどうかな?と考えています。
「家庭料理の最上級」というコンセプトから一貫してぶれないこと。そして毎日手作りをするなど、愚直なまでに真面目にお弁当に、さらにはその先のお客様に向き合うこと。それらがおいしいだけでなくどこか懐かしい気持ちにつながり、「海苔弁山登り」が愛される秘訣になっているのかもしれません。
【店舗概要】
店舗名: 刷毛じょうゆ 海苔弁山登り エキュート東京売店
所在地: 東京都千代田区丸の内1丁目9−1 JR東日本 東京駅構内
営業時間: 8:00-22:00(日祝8:00-21:30)
定休日: 無休(施設の休館日に準ずる)
開業日: 2018年7月31日(火)