【CEOインタビュー/スカイマティクスの原点と未来地図part.1】三菱商事からのスピンアウトベンチャーが「リモートセンシング」で社会を変える
「リモートセンシングで、新しい社会を創る」をミッションに掲げるスカイマティクス。
私たちは、リモートセンシングを使って得られる画像データを統合し、地理空間情報と時系列情報も含めて処理解析を行うプラットフォームをベースに「産業特化型」のスマートDXサービスを提供しています。
こうしたサービスは「農業・建設測量・設備管理などの領域で、社会を黒子として支えている方々をサポートしたい」という思いから誕生しました。
今回のインタビューでは、そんなスカイマティクスの原点に迫ります。創業者である代表取締役・渡邉は、最先端の技術を通じてどのように社会を変えたいと考え、行動してきたのでしょうか?
これまでのキャリアやリモートセンシングとの出会い、創業から現在まで大切にしている経営ポリシーについて詳しく聞きました。
「社会を変える仕事がしたい」と、学生時代に起業を決意
——渡邉さんのこれまでのキャリアを教えてください。
子どもの頃から自動車が好きで、将来はエンジン開発の仕事をしたいと早稲田大学の理工学部に入学しました。ところが希望する研究室に入れず、違う分野の研究を始めたものの、いまいち興味が持てなくて……。そこから、自動車開発以外の道を模索するようになりました。
そのときに出会ったのが、アントレプレナー(起業家)の世界です。
私が大学生だった2000年頃は、まだ「ベンチャー」や「スタートアップ」という言葉も浸透していなかった時代。ですが、大学内の講座で起業家の方がイキイキと事業を語る姿に「世の中を変える仕事って、なんて楽しそうなんだろう」と一気に惹かれたんです。在学中に、35歳までにテクノロジー分野で起業しようと決めました。
——将来は起業することを決意した渡邊さんが、ファーストキャリアに三菱商事を選んだのはなぜだったのでしょうか?
当時の私は、起業や経営についての知識を全く持っていませんでした。ビジネスを学ぶにはどうしたらいいか周りに相談したところ「商社がいいのでは」とアドバイスをもらって、商社一本で就職活動をしたんです。そこでご縁があったのが三菱商事でした。
最初に配属されたのは、防衛関連の商材を扱う事業部門です。大きな金額が動くライセンスビジネスの世界で興味深くはあったものの、これが正直あまり自分には合っていなくて……(笑)。自分たちが売っている現物を見る機会もなく、事業の手触り感が薄いことに物足りなさを感じていました。
その経験を通じて、モノを仲介するだけの仕事ではなく「自分で事業をつくり、ゼロから価値を生み出す仕事をしたい」という気持ちがますます大きくなっていったんです。
転機となった「リモートセンシング」との出会い。現場のニーズと向き合った日々が今につながる
——そこからスカイマティクスの創業までには、どんないきさつがあったのでしょうか?
社内で異動希望を出していたところ、ちょうど宇宙部門で新たな衛星ビジネスが立ち上がり、配属がかないました。理系出身の若手社員を部署に迎えたいとのことで、私に白羽の矢が立ったそうです。
そこでリモートセンシング、つまり「遠く離れたところから対象物に直接触れずに形状や性質などを観測する技術」に初めて出会ったことが、スカイマティクスの事業の原点となりました。
当時手がけていたのは、衛星画像の撮影権利を取得し、新たに設立した日本の事業会社で撮影からデータの処理加工・販売までを行うビジネスです。日本にいながら、海外のあらゆる地域が見られる衛星ビジネスの魅力と可能性にどんどん惹かれていきました。
ただ、衛星画像のデータは画角が広すぎるため細かい部分までは写せず、取得するまでにも2週間程度かかってしまうんですね。国内の農家や測量会社に販売を試みても「もっと画像を細部まで見たい」「翌日データを受け取りたい」という彼らのニーズに、なかなか応えられなかったんです。
そんな中、2014年にドローンに出会い衝撃を受けました。今までの何倍もの解像度かつ、より安価に、早く撮影データが取得できる。「これは世界を変えるかもしれない」と直感し、2016年には社内起業でスカイマティクスを設立するに至りました。
——ビジネスの突破口を見つけ、子会社設立後は事業が順調に進んでいったのではないでしょうか?
実は、事業を推進するにあたって大きな問題がありました。画像1枚ごとの撮影範囲が狭いほど、農地や測量箇所全体を撮影すると大量なデータ数になってしまいます。それではあまりにも判読や管理が大変だと気づきました。
また、ある1枚の画像だけを見ても、それが農地のどの部分に当たるのかがわかりません。つまり、情報を位置データと紐づけて地図上で見られるようにしないと実用性がないんです。
このままでは、ユーザーに便利な形でサービスを使っていただけない。そんな問題意識から「撮影したデータの画像解析処理・時空間演算処理をワンストップで実現できるプラットフォームをつくろう」という発想に至りました。
——「細部が撮影できるようになったのでOK」ではなく、その先にある課題に着目したんですね。
もし、私がデスクに座ったまま事業を考えていたら、この課題には気づけなかったかもしれません。
当時はリモートセンシングの技術をどうにか便利な形で届けたいと、実際に農地へ訪問して膨大な量の写真を撮影し、ひたすら画像解析と検証を繰り返していたんです。泥くさく汗をかいて現場と向き合ったからこそ、単に画像データがあればよいわけではないのだと実感できました。
たとえば、キャベツ畑では1ヘクタールに約2万個のキャベツを育てています。キャベツ一つ一つの発育状況を現場で目視するのは非常に難しいんです。その作業を私たちの提供するサービスで管理できれば、農家の皆さんはもっと楽に成果を出すことができる。
その頃は、もう1人の社員と2人でキャベツの収穫量を予想するAIのアルゴリズムを開発し、約2万個のキャベツを実際に撮影しては現地で確認し、検証していました。キャベツを刈ったら持ち帰らなくてはいけなかったので、一時期は会社の冷蔵庫にキャベツがぎっしり詰まっていましたね(笑)。
かなり骨の折れる作業でしたが、これは全国の農家さんを救える事業だ、絶対にいけるぞ、と信じていたからこそ続けられました。
10年先を見据え、未来の課題を解決するのが私たちの使命
——2016年に三菱商事の子会社として誕生したスカイマティクスですが、2019年10月にマネジメント・バイアウト(MBO)を行い、独立します。この決断のきっかけは何でしたか?
よりフレキシブルかつスピーディーな経営の意思決定をしたいと考えたからです。創業して半年ほど経った段階で、法規制や生産体制の関係で「ドローンは想定していたスピード感で普及しないかもしれない」と思い始めました。今後の状況に合わせてさらに柔軟に動かなければ、と。
私たちが掲げるミッションを実現するには、ビジネスモデルや提供するプロダクトの形をたびたび変えていく必要があります。そこで、大手企業の子会社という立ち位置よりも、自分たちがオーナーとなって経営するのが最適だと判断しました。
1年かけて親会社と調整し、シリーズAで10億円を調達しMBOに至ったのが2019年10月でした。
——スカイマティクスの経営において大切にしていることを聞かせてください。
創業当時からずっと変わらないのは、全国の消費や産業を黒子として支える地方の農家さんや測量会社さんをサポートしたいという思いですね。そして常に大切にしているのが「未来の課題を解決する」という考え方です。
現時点で顕在化している問題は、すでに他社やお客様が気づいている課題でもあります。誰もまだ気づいていない10年後の課題を発見し、解決方法を見出す。それこそが起業家としての使命であり、スタートアップで働く醍醐味ではないでしょうか。
そのためには、常に人とは違う視点で物事を見ることが欠かせません。私たちの事業においても、既存のビジネスモデルにとらわれずに「そのデータをどう使ったら現場の作業負荷を減らせるのか」という問いを多様な角度から見つめ続けたことで、その先にある課題を見つけられました。その結果、リモートセンシングを便利な形で届けるプロダクトを生み出せたのだと思っています。
ですから、コーポレートバリューの一つである「イノベーション体質であれ」でも前提、前例、常識をすべて捨てて考えようと伝えています。
——創業から、現在では50名を超える社員規模となりました。組織が拡大していく中、企業運営において心がけていることはありますか?
メンバーには課題の発見から解決までのロードマップをわかりやすく見せ、皆が「スカイマティクスが描く未来は必ず実現する」と確信できるメッセージを伝えることを大切にしています。
二度の調達をしたとはいえ、私たちはまだまだ成長途中のスタートアップ。リスクをとって飛び込んできてくれる仲間たちに「自分たちは今、社会を変える仕事をしている」とぜひ実感してもらいたいと思っています。
そのために私がやるべきは、夢とビジョンを明確にして「リモートセンシングで、新しい社会を創る」というミッションを実現する土台をつくること。メンバーのモチベーションをあげることは、社長としての重要な仕事だと捉えています。
また、私自身がプロダクトの最初の設計段階に自ら携わることにもこだわり続けています。今でもよく、開発メンバーたちと設計についてブレストしているんですよ。新しいことを生み出すプロセスを学んで、未来を変えるための動き方や考え方を体得してほしいと思っています。
採用の場面などで今の若い人たちと出会うと、皆さん「早く成長したい」という思いが非常に強いと感じます。そういう人たちがワクワクできる挑戦の機会を、どんどん提供していきたいですね。
スカイマティクスなら、最先端のテクノロジーとビジネスのつくり方をどこよりも早く学べるよ、と自信をもって伝えたいです!