AIを「使う会社」ではなく「作る会社」へ。RITが自社開発した2つのプロダクトに込めた思想〜CEO安武・CTO福田が語る、SoroiとvOffice誕生の舞台裏〜
リモートワーク下でのコミュニケーション不足、人事評価の属人化ーー。多くの企業が「解決したい」とは思いつつも、既存のSaaSで妥協しがちなこれらの課題を、RITは自らの手で解決しました!
今回は代表取締役CEO・安武とCTO・福田に、目標管理・評価ツール「Soroi」とバーチャルオフィス「vOffice」を内製した背景から、開発中の本音、そしてこの挑戦が生み出した副産物まで、たっぷりと語ってもらいました。
プロフィール
代表取締役CEO・安武
慶應義塾大学法学部卒業後、コンサルティングファームにてマーケティング戦略・基幹システム開発等に携わる。2013年にRITを共同創業し、代表取締役CEOに就任。「事業を創る人を作る」というミッションを掲げ、コンサルティング・DX・プロダクト開発の三軸で事業を拡大。2024年より太陽ホールディングスグループに参画し、IPOを視野に入れた第二創業期を牽引する。
CTO・福田
立命館大学情報理工学部卒業後、大手IT系企業でソーシャルゲームプラットフォームの運用・開発に携わる。大規模WEBサービスのパフォーマンス改善や最新技術スタックを活用した高速プロトタイプ開発を得意とし、サーバサイド・フロントエンド双方に深い知見を持つ。2017年にRIT参画、CTOとして開発全般とエンジニア採用を推進。CTO兼CHROとして、技術と組織の両面からRITを支える。
まず、評価制度を変えることにした——Soroi誕生の経緯
ー最初に開発に着手したのは、目標管理・評価ツール「Soroi」だったそうですね。きっかけを教えてください。
福田:直接のきっかけは、RITの評価制度を刷新しようという動きがあったことです。僕はCTO兼CHROという立場で、技術と人事の両方を見ているので、「評価をちゃんと機能させたい」という課題意識は以前からずっと持っていました。
ただ、最初に手をつけたかったのは「目標設定」のほうだったんです。半期ごとに目標を立ててもらっていたんですけど、それが期の終わりまで当初のまま達成されるケースって正直ほとんどなくて。事業の状況もプロジェクトのアサインも半年の間に何度も変わるので、期の途中で目標を修正する作業が何度も発生していました。
それなのに、みんな目標設定の時期になると丸1日頭を悩ませて書く。修正される前提のものを必死に作っているわけで、これはどう考えても本質的じゃないなと。
ーそれをSoroiではどう解決しているんでしょうか。
福田:発想を逆にしました。「半期に1回、目標を立てて追いかける」のではなく、「要求されているスキルとコンピテンシーを先に可視化して、日々の業務ログから逆算する」という設計にしています。
メンバー側がやることは、基本的には作業記録を入力するだけ。その記録をAIが読んで、
- 今やっているこの業務は、求められているコンピテンシーのうち、この部分に効いている
- このスキルの獲得にはあと何が足りないから、こういう経験を追加で積むといい
という提案を返してきます。つまり目標は立てるものではなくて、現在の業務から提案されるものになっているんです。
結果として、半期に一度の目標設定イベントそのものをなくせました。目標は常にリアルタイムで更新されていて、メンバーは自分が今どのスキルに近づいていて、何が足りないかがいつでも見える状態になっています。
▲システムガイドから機能仕様、技術基盤までのドキュメントもあり、どの画面からも右側にAIへの作業記録と相談入力画面を開くことができる
安武:この設計を最初に聞いたとき、方向性として納得感があったんですよね。半期目標って、期初に立てたものと実際の業務が途中で乖離してきて、期末の自己評価のときに無理やり接続するみたいなことが起きがちなので。業務記録と獲得スキルが地続きになっていれば、メンバーが「自分は今こういう方向に伸びている」を常に言語化できる状態になる。これはエンジニア組織から広げていって、最終的にはコンサルタントを含めた全社で使える基盤にしたいと思っています。
ーマネージャー側に対してはどういう機能がありますか。
福田:マネージャー側の課題は少し違っていて、突き詰めると「言語化能力の格差」だと思っているんです。メンバーの働きぶりはちゃんと見えているのに、それを具体的・建設的なフィードバックとして書き起こすのは別のスキルが必要で。特に若手マネージャーは評価コメントを書くだけで相当なエネルギーを使ってしまう。結果として当たり障りのない内容になったり、締め切り直前に焦って書いたりしてしまいがちです。
そこもAIを介在させて解決しています。評価コメントは、まずマネージャーが漠然と感じていることと、メンバー側に蓄積された業務ログをAIが突き合わせて文章の叩き台を出す。次にマネージャーはそれを修正・加筆していくという流れにしています。こうすることで、AIに書かせたのではなく、自分の言葉になったという感覚が残るようにするのがポイントです。
1on1のアジェンダ自動生成も、単なるテンプレートじゃなくて、その人のスキル獲得状況と直近の作業記録を読み込んで、今週はここを確認した方がいいという具体的なアジェンダを出せるようにしています。マネージャーが毎週15分かけて状況を確認してアジェンダを考える手間を省いて、その時間をキャリアの話や本人の悩みを聞くことに使えるようにしたかったので。
安武:最初に「こういうものを作りたい」という話を福田から聞いたとき、正直「それ、どのくらいで出来上がるの?」と思ったんですよ(笑)。目標設定そのものをなくすって、言うのは簡単だけどすごく設計が難しそうじゃないですか。でも次にちゃんとした報告を受けたときには動くプロトタイプが出てきていて、しかも使ってみたら
- 業務記録からスキル獲得を逆算する
- コメントの叩き台を出す
- 1on1のアジェンダを自動生成する
という、こういうのが欲しかったんだよね!という機能がちゃんと入っていました。
福田:自分がユーザーとして評価する側・される側の両方をやっているのが大きくて。「どのタイミングでAIに割り込んでもらうか」の感覚が、実体験から来てるんですよね。実際に使いながら直せるので、精度が上がりやすかったですね。
安武:まさにそこはRITの強みで、CTOが技術と組織の両方を担っているからこそ出てくる設計だと思います。目標管理がこう壊れているという課題と、技術的にこう解決できるという答えが、同じ人の中にある。普通はそこに翻訳のコストが発生するんですけど、福田の場合はそれがない。だから課題と解決が一直線に繋がるんですよね。
ー Soroiを使い始めて、組織にどんな変化がありましたか。
福田:まず、半期ごとの目標設定ウィークみたいなものがなくなりました。これだけでも組織としての稼働がだいぶ変わったと思います。メンバー側は目標を立てるという儀式的な作業から解放されて、自分のスキルマップが日々更新されていくのを見ながら動けるようになりました。
▲スキルマップの実際の画面
安武:僕自身はまだSoroiを日々の評価で使っているわけではないんですが、先行導入しているエンジニア組織からは、評価コメントの質が変わってきたという話を聞いています。以前は「よく頑張りました」みたいな表現で終わることもあったのが、AIが業務ログを踏まえた叩き台を出すことで、何がよかったのか、次に何をすべきかという構造で書くようになってきています。1on1の密度も上がったと聞いていて、この効果をコンサルタント組織にも広げていけると、会社全体の評価・育成の質がもう一段上がると期待しています。
世の中のツールを片っ端から試した末に——vOffice誕生の経緯
ー次に開発したのがバーチャルオフィスの「vOffice」ですね。こちらはどんな経緯で始まったのでしょうか。
福田:Soroiと違って、vOfficeはもう少し紆余曲折がありました。世の中にバーチャルオフィスツールってたくさんあるので、うちもリモートワークになってから代表的なものをいくつか試してきたんです。
ただ、どれを使っても惜しいんですよね。UIが重くてストレスを感じるものや、オンライン状態の表示が雑だったり、機能は豊富なのにかえって使いにくくなっているものとか。あとリモートワークツールって海外発のものが多くて、日本のチームの使い方と微妙に合わなかったりする。
最終的に、これに合わせてうちの使い方を変えるくらいなら、自分たちが欲しいものを作ってしまおうという結論になりました。
安武:いくつかのツールを試していた頃、福田から「そろそろ作ります」と言われたんですよ(笑)。僕はCEOとして「コストどのくらいかかる?スケジュールは?」と聞くんですけど、「動くものをまず出すので、そこから調整します」という返事で。最初はちょっと心配したんですが、実際に出てきたものを使ったら、これ、今まで使ってきたツールより全然いいじゃんと思って。そこからは要望を言うたびにどんどん反映されていくので、気づいたら毎日使うものになっていました。
福田:コア技術としてはLiveKitを採用して、WebRTCで音声・映像・プレゼンス情報をリアルタイムに扱える基盤を作りました。これを自社で持つことにこだわったのには理由があって、リアルタイムコミュニケーションから生まれる情報、例えば会話の内容、誰と誰が話したか、どんな意思決定がその場で行われたかをコアに据えると、自動議事録やアクションプラン抽出みたいに、いろんな業務へのコラボレーションが広げられる時代になってきているんですよね。その入り口を既存のSaaSに預けてしまうと、連携の自由度で詰まる。だったら自分たちで持っておいたほうが、後から色々なものを繋いでいける。
もうひとつは単純に、RITとしてWebRTCという領域にこれまであまり本格的に取り組めていなかったので、ここで知見を貯めておくのがちょうどいいタイミングだなと。プロダクトの戦略と技術投資の方向性が一致したので、やるならここだろうという判断でした。
その基盤の上にAI議事録機能を載せていて、会議の音声をリアルタイムで処理してLLMに渡し、要約とアクション項目を自動で抽出する設計にしています。「誰が何をいつまでにやるか」まで出てくるので、会議後の温度感が全然違います。
▲各PJの部屋、ミーティングルーム、1on1カフェなどがある
ー「vOffice」という名前に込めた意味はありますか。
福田:シンプルにそのままです。バーチャルオフィスだからvOffice。余計な意味をつけるより、何のツールかが一発でわかる名前の方がいいと思っていて(笑)
安武: 福田らしいですよね。エンジニアとして機能で勝負するという姿勢が名前にも出ている(笑)。
ー 気軽に声をかけられる感覚の再現、というのがコンセプトだそうですが。
福田:そうですね。リモートワークって、ちょっとした確認でもSlackでメッセージを打って、返事を待って、という手順が発生してしまうじゃないですか。今忙しいかな? こんな些細なこと聞いていいかな?って考えてしまいますよね。でもオフィスにいれば隣の人に「ちょっとだけいい?」って言える。あのラフさをデジタルで再現したかった。だからオンライン状態の可視化と、そこから即声をかけられるUXにこだわっています。
安武:実際に使い始めてから、あのプロジェクトどう?みたいな軽い確認が増えた感じがします。ミーティングを設定するほどでもないけど、聞けてよかったという情報共有が増えたというか。あと議事録も、誰が書くかで毎回小さな摩擦があったのがなくなって。地味に見えますけど、こういう小さな摩擦が積み重なると組織の推進力って変わってくるんですよね。
自社プロダクトを持つことで、提案に「血が通う」
ー今回の内製経験は、クライアントへのAI開発支援にどう活きますか。
福田:AIをプロダクトに本気で組み込むって、外部APIを試しに叩いてみることとは難易度が全然違うんですよ。どのタイミングで何を渡すか、プロンプトをどう設計するか、コストをどう抑えるか、ユーザーがAIの出力をどこまで信頼するかの設計、そういう泥くさいところをSoroiとvOfficeでやってきたので、同じ課題を持つクライアントの話が具体的にできるようになりました。こういうケースでLLMは精度が落ちやすい、ここの設計を変えたら改善した、という話を体験ベースで語れますから。
安武:「AIを業務に組み込みたいけど何から始めればいいかわからない」「SaaSを買えばいいのか自社開発が向いているのかわからない」という相談、本当によくいただくんですよ。そこに対して、自分たちが転んで学んできた話を交えながら「御社の場合はこっちの方が合うと思います」と言える。机上の理論じゃない提案ができるのは、Soroi・vOfficeを作ったことで明らかに変わった部分です。
福田:自分たちがユーザーというのも大きくて。機能を実装した後、自分が毎日使うからこれ使いにくいという感覚がすぐ入ってくる。クライアントワークだとフィードバックループが長くなりがちなんですけど、SoroiとvOfficeは「作ったその日の夕方に自分が1on1で使う」とか「作った翌週の会議でAI議事録を確認する」という状況なので、改善のスピードが全然違う。その体験をエンジニアメンバーが積んでいるのは、チームとして大きな財産だと思っています。
安武:CTOが技術と組織の両方を担っているって、外から見ると大変そうと思われることもあるかもしれないんですけど、組織としてはすごくメリットがあって。技術的な意思決定と組織的な意思決定が同じ人の中でシームレスに繋がるので、ツールを変えたらこういう行動変容が起きるという読みが精度高くできる。SoroiもvOfficeも、単なる便利ツールじゃなくて、組織のどこを変えたいかという意図が設計に込められているのは、そういう背景があってのことだと思います。
「使い倒す」文化の中で、エンジニアはどう育つか
ーRITのエンジニアリング文化について、改めて教えてください。
福田:「最新技術を実際のプロダクトで使い倒す」というのが、根っこの文化としてあります。新しいフレームワークや手法が出てきたら、まず社内プロダクトで試してみる。動くものが作れたら、そこで得た知見をクライアント案件にも展開する。この循環があることで、エンジニアは使ったことがある技術で話せる人になれる。勉強会で使い方を学ぶのではなく、vOfficeでWebRTCの知見を貯めたり、SoroiでLLMの組み込みパターンを試したりしながら、本番プロダクトで手を動かして覚えていく、というのがRITのやり方です。
失敗することもあるし、リリース後にこれは設計を変えた方がいいなと気づくこともあります。でも失敗を社内プロダクトでできるというのは、クライアントに迷惑をかけずに経験を積める貴重な環境なんですよね。
安武:RITで大事にしていること、シンプルに言うと動けば未来が変わる、動かなければ何も始まらないなんです。SoroiもvOfficeも、最初から完璧な設計があったわけじゃなくて、とにかく動くものを作って、使ってみて、直してを繰り返してきた。その過程でエンジニアもプロダクトマネジメントの目線を持つようになってきていて、それは会社として意図していたことでもあります。
ーフルリモート環境で働くCTOとして、今の開発体制をどう見ていますか。
福田:自分たちがリモートで働いているから、リモートワーク環境を支えるツールを作っているというのは、ちょっと面白い構造ですよね。vOfficeを一番必死に使っているのは、リモートで働くRITのメンバー自身ですから。だからこそ、オンラインでの非同期コミュニケーションに対してシビアなユーザー視点を持てている。「この状態表示だと出入りのタイミングがわかりにくい」「このUIだとスマホから確認しにくい」みたいな声がエンジニア自身から出てくるので、プロダクトの改善サイクルが速いです。
安武:リモートの課題を内側から解決しているというのは、会社のカルチャーとして伝えたいことでもあります。「働き方に課題があるなら、制度で解決するだけじゃなく、ツールでも解決できる」という発想はRITらしさだと思っています。
将来の外部提供に向けて——RITが見据えるプロダクトの未来
ーSoroiとvOfficeの今後の展開は?
福田:今は社内ツールとして使っていますが、将来的な外部提供は視野に入れています。特にAI機能の部分は、まだまだやれることがたくさんあると思っています。会議のアーカイブから、この人は過去3ヶ月どんな議論に関わってきたかを可視化したり、日々の業務記録からスキル獲得の次のステップをより精度高く提案したり。AIが組織の記憶になるという世界観を作っていきたいと思っています。
安武:中期的には、RITの中計で掲げている「受託中心からプロダクトベースの成長モデルへ」という転換の文脈でも、SoroiとvOfficeは重要な位置づけになっています。自社プロダクトを持つことで、単発の受託ではなく継続的な関係を作れる。AIがどんどん進化していく中で、一緒に使いながら育てていくパートナーとして企業と関われるような存在になれたらと思っています。
福田:エンジニア採用の観点でも言わせてほしいんですけど、外部に出せるレベルのプロダクトを内製している会社はエンジニアにとって全然違う環境だと思っていて。趣味の個人開発でも練習プロジェクトでもなく、実際にユーザーがいて改善し続けているプロダクトを仕事として作れる。「もっとよくしたい」という気持ちが本物のユーザーによって生まれる環境は、エンジニアとして大きく育てると思っています。
一緒にこの挑戦に乗ってほしい
ー最後に、エンジニアの方と、AI活用を検討している企業の方へ、それぞれメッセージをお願いします。
福田:エンジニアの方へ。RITは技術を学ぶ場所じゃなくて、技術でプロダクトを届ける場所だと思っています。LLM・WebRTC・TypeScriptといった技術を、本番プロダクトで使える環境がある。しかもそのプロダクトを自分たちが毎日使っているので、「良くしよう」という動機が自然と生まれる。
小さな組織なので、設計判断に関与できる範囲も広いです。誰かが決めた仕様を実装するだけではなく、なぜこの機能が必要かの議論から参加できます。コードを書くことが好きで、かつ「技術で何かを変えたい」という気持ちがある人は、ぜひ一度話しかけてみてください。
安武:AI活用を検討している企業の皆さんへ。「AIを導入したいけど何から始めればいいかわからない」「SaaSを買えばいいのか自社開発が向いているのかわからない」「うちの業務フローに合うものが見つからない」そういう悩みを持っている方はぜひRITに相談してほしいです。
RITはコンサルタントとエンジニアが同じ組織にいて、戦略の話と実装の話を同じ温度感でできる会社です。しかも今回お話ししたように、自分たちがAIをプロダクトに組み込む体験をしている。「絵に描いた餅」で終わらない、実体験を持った提案ができます。まずは話を聞いていただけると嬉しいです。
▶ RITのHPはこちら:https://www.rit-inc.co.jp/