三井物産入社3年目でフィリピンへ駐在し、投資先でのPMIを経験した米津さん。コロナ禍のロックダウンによる緊急退避という激動の中、「産業家」としての志を見つめ直し、2021年にラクスルへジョインしました。
ダンボールワンでの変革プロジェクトを経て、2024年、ダイレクトメール(DM)事業責任者に着任。30年ぶりの郵便料金大幅値上げという地殻変動の中、明治維新以来の歴史を持つDMインフラをアップデートすべく、“地産地消”型のDM配送サプライ「ラクスルDM便」を立ち上げ。1,000億円規模のインパクト創出を目指し、グロース中です。
「マクロからミクロへ」、総合商社時代に培った「投資家脳」とラクスルで鍛えた「事業家脳」を融合させた、米津さんの“ルービックキューブ”思考とその軌跡に迫ります。
目次
バリューチェーン全体の非効率を解消し、業界そのものを変革するようなビジネスを創りたい ─ 総合商社からのキャリアチェンジ
“Mass Customization”型の印刷梱包材サプライの立ち上げ ─ ラクスル×ダンボールワンのシナジー創出に挑戦
“地産地消”型DM配送サプライ「ラクスルDM便」の立ち上げ ─ 150年以上の歴史を持つDMインフラのアップデートに挑戦
Industry Endgameからの逆算で“非連続成長”に挑む ─ 産業のインフラとなり、100年選ばれ続けるエクセレントサービスを目指して
日本から“世界に跨る”「モノづくり」バリューチェーンを ─ 次世代の社会インフラを創る「産業家」を目指して
《編集後記》
バリューチェーン全体の非効率を解消し、業界そのものを変革するようなビジネスを創りたい ─ 総合商社からのキャリアチェンジ
─ ラクスルへ入社されるまでのご経歴を教えてください。
米津:2017年に三井物産へ新卒入社し、ICTセクターにおける新規事業開発、投資先のバリューアップ活動に従事。2019年にフィリピンへ駐在し、投資先のコールセンターBPO事業者に出向。シナジー創出に向けた営業・アライアンス開発、事業DXなどのPMIを経験しました。2020年に帰任後、2021年にラクスルへBizDevとしてジョインしました。
─ まったく異なる業界からのキャリアスタートだったのですね。新卒で総合商社を選ばれたのは、どういった原体験からだったのですか?
米津:自分のモチベーションは、日本からグローバルスタンダードとなるビジネスを生み出すこと。その原点は、幼少期に遡ります。日系電機メーカーに勤務していた父の駐在先、タイで出生。新興国の地でジャパンブランドの「安心・安全」の普及に奔走する、父の背中を見て育ちました。
父は帰任後、「21世紀スタンダードのスイッチ」を目指して、ワイドスイッチのリニューアル開発・国内展開をリード。やがて、その製品がアジアのみならず世界トップクラスのシェアを取ったことに、胸が熱くなります。
新卒の就職活動では、「日本から世界へ」という思いで総合商社を志望し、三井物産へ入社。ICT事業本部に配属され、衛星放送やアニメコンテンツ、コールセンターなどのドメインを担当し、多くの業界課題と向き合ってきました。
入社3年目に駐在し、PMIとしてフィリピンのコールセンター現場に入り込んで見えたのは、御用聞き的な営業スタイルや人月ベースのプライシングなど、古い商習慣による業務・取引プロセスの非効率さ。国内だけでなく、グローバルのBPO業界においてアップデートの余地があると実感しました。
個社の改善活動に留まらず、バリューチェーン全体の非効率を解消し、業界そのものを変革するようなビジネスを創ってみたい──
そんなダイナミックな挑戦をしてみたいと考えていた矢先、マニラでコロナの市中感染が初発生。その11日後、ルソン島全域のロックダウンが突如発令され、やむなく帰任。自身の志を見つめ直す中、ラクスルと出会いました。
─ キャリア初期に海外経験をしたからこそ、国内に目を向けたのですね。なぜ転職先としてラクスルを選んだのですか?
米津:ラクスルが向き合う印刷業界は、寡占化された多重下請け構造であり、中間マージンが発生して非効率。装置産業であるため、製造現場では印刷機械の稼働率を最大化する大ロット案件が優先され、特に小ロット案件は割高化してしまう。
中小企業が抱える小ロット印刷ニーズの需給ギャップに対し、ラクスルは異なるお客様の定型需要を自社プラットフォームに集約。1枚の印刷版に付け合わせ、“仮想的な大ロット案件”として製造することで「規模の経済」を効かせている。垂直統合型の印刷業界をテクノロジーにより水平分業型に転換し、製造・取引コストを最小化する。まさに、業界を変革するビジネスだと思いました。
フィリピンでの生活者体験からも、米中のBtoCプラットフォームが浸透する中、カルチャライズが苦手な日本人がソフトウェアレイヤー単体で勝つのは難しい。他方、サプライチェーンの長い“製造”レイヤーを重ね合わせれば、日本の強みである「モノづくり」を活かした、次世代の社会インフラを創れるかもしれない。まずはその産業に飛び込み、勝ち筋を見つけてみよう、と思い立った次第です。
“Mass Customization”型の印刷梱包材サプライの立ち上げ ─ ラクスル×ダンボールワンのシナジー創出に挑戦
─ ラクスル入社後すぐに出向されましたが、ダンボールワンではどのような事業課題に取り組まれたのでしょうか?
米津:2021年に中途入社してすぐ、M&Aによりグループインしたダンボールワンに出向。既存商品のカテゴリマネジメントや、“商品拡充のスピード×100”実現に向けたPMを経験しました。総合商社との流れる時間の速度の違いに当初戸惑いもありましたが、周りのメンバーやBizDevの方々にアドバイスいただき、少しずつキャッチアップしていきました。
入社半年目のタイミングで、ラクスルの印刷事業の中でも未開拓領域であった、印刷梱包材カテゴリの変革プロジェクト(Custom EC PJ)リーダーにアサイン。ラクスルには、“やってみなはれ”と打席を回す「機会提供」文化があり、周囲に支えていただきながらチャレンジしました。
プロジェクトでは、ラクスルが持つカスタマイズ(印刷)商品の製造・販売ノウハウを活かしてシナジーを創出すべく、無地既製品中心のダンボールワンにおける既存印刷梱包材カテゴリの変革に挑戦。背景として、EC発送で利用するお客様の事業成長に伴い、(商品サイズに合わせた)小ロット多品種×ブランディングニーズが発生するも、価格競争力のある印刷商品を提供できていない事業課題がありました。
─ 印刷梱包材カテゴリにおいて、コストメリットを出しきれなかった背景には、製造課題があったと伺いました。
米津:当時メインで採用していた、“受注生産”型のサプライに真因がありました。お客様からの受注に応じてサプライヤーへ都度発注をかけていたため、段ボール印刷・製函機械を保有する他社に対して割高。翻ってダンボールワンの強みは、(物流効率が悪いため)全国各地に製造工場が分散した業界構造に対し、宅配サイズに規格化された需要を全国から集約・大量生産できること。
これまでの業界の常識であった受注生産方式ではなく、既に生産された“半製品”の段ボールに「追い刷り」すれば、コストメリットを最も出せるはず──
「既製の立体物へ『追い刷り』可能な印刷技術は世の中に存在するのか」という調査から開始。縁あって海外製の印刷機械を紹介いただき、委託先とのテストの末、畳まれた段ボールの厚みに合わせた印刷機構をセッティング。“受注生産”型から“Mass Customization”型のサプライへ刷新し、小ロット多品種の印刷段ボール需要に対して業界最安級の価格を実現・最小1枚から印刷可能になりました。
─ まさに“仕組みを変えた”好事例ですね。その後の「追い刷りサプライ」商材展開や3D Editorのリリースについても教えてください。
米津:俯瞰すると、印刷梱包材の業界課題は、製造工程が多く人手不足も相まって最小発注ロットが大きいこと。EC事業者の数と規模が成長する中、既存サプライではこの需要に応えきれず、「市場の歪み」が拡大する。段ボールだけでなく、クラフトボックスやクッション封筒などカテゴリ全体で同様の製造課題があるため、「追い刷り」サプライは印刷梱包材のスタンダードになると思い、様々なサプライヤーを巻き込んで商品群を展開しました。
更に、お客様のデザイン制作の簡便化と仕上がり不安解消のため、ベトナムのプロダクト開発拠点やドイツのソフトウェアベンダー、国内のDTPオペレーションチームと協働し、オンライン上で立体物をデザイン可能な3D Editorをリリース。結果として、新規顧客獲得数YoY240%のグロースを達成し、プラットフォーム全体のLife Time Value(LTV)改善に貢献できました。
“地産地消”型DM配送サプライ「ラクスルDM便」の立ち上げ ─ 150年以上の歴史を持つDMインフラのアップデートに挑戦
─ 現在進行中のプロジェクトの内容を教えてください。ダイレクトメール(DM)ではどのような業界課題に取り組まれたのでしょうか?
米津:既存のDM事業における、DM配送サプライの変革プロジェクト「DM便PJ」を立ち上げ・グロース中です。
DMとは、印刷した販促物などを特定住所に発送するサービスを指します。チラシの印刷単価は1.1円〜ですが、例えば、定形郵便物の郵送単価は110円。チラシを「刷る」だけでなく「送る」対応もできれば“顧客単価100倍”となり、ラクスル全体のLTVを引き上げるはず。
しかし、DM事業責任者に着任した2024年は郵便料金が30年ぶりに大幅値上げされた、地殻変動のタイミング。総務省の見通しでは、30%以上の値上げをしてもなお、郵送インフラの巨額赤字は拡大予測。背景には、物流「2024年問題」がありました。
働き方改革関連法が施行され、ドライバーの時間外労働制限が開始。ドライバーの高齢化も重なり、輸送キャパシティが今後低下していく。円安・地政学リスクにより燃料コストも上昇、コスト増と連動して郵便物数が減少し、供給そのものが苦しくなっていく“負のマクロトレンド”にありました。
デンマークでは郵便制度が廃止され、日本でも「年賀状じまい」が広がる中、紙ならではの情報量・保管性を活かして、お客様の“思いを届ける”DMを残したい。デジタルマーケティングで捉えきれない、生活者の潜在的なニーズに訴求・行動喚起するオフラインチャネルは未来に必要。
─ 大きな値上げの波がDM業界に押し寄せているということですね。この業界課題に対し、「ラクスルDM便」はどのようにアプローチしているか教えてください。
米津:そもそも「郵便」の原点は、明治維新にあります。前島密氏が日本の近代化を目指し、“広くあまねく”郵送される情報通信網を構想。前提となったのは「地方分散」の人口分布。当時は人口の約9割が地方エリアに居住、都市⇄地方エリア間の“双方向”の物流需要があった。一方、現代は「都市集中」に変遷、都市→地方エリアの片方向輸送が主。つまり、長距離輸送コストを双方向需要で回収していたモデルが成立しなくなっている。
「全国一律」のユニバーサルサービスを、現代に合わせてアップデートする必要がある。肝は物流コストの大半を占める「幹線輸送コスト」にある、と考えました。きっかけは物流業界のエキスパートインタビューから得た、物流コストは「密度×距離」によって決まる、との示唆。「密度」は人口分布に依存するが、「距離」はコントロールできるかもしれない。
印刷物を物理的に「運ぶ」代わりにデータを「移動」させて、宛先住所の最も近くで印刷〜配送すれば、「長距離輸送コスト」を最小化できるのではないか──
従来のDMは印刷物を郵便局に差し出し、地域区分局から全国へ幹線輸送をしていました。対し、データを移動させて宛先エリアで印刷、そこから送ることで輸送距離を大幅短縮できないか。ビジネス、オペレーション、サプライチェーン、リーガルなど、多様な専門性を持つチーム一丸でフィジビリティスタディを進めました。
この“地産地消”型のDM配送サプライは、全国に印刷ネットワークを築いてきたラクスルだからこそ実現できる、Structural Advantageがある──
都市エリア配送特化により輸送距離を最小化・価格競争力のあるセイノーグループ・地区宅便と提携。宛先住所を基にエリア毎で最適な配送パートナーをマッチングする、業界最安級のDM配送サプライ「ラクスルDM便」が2025年に誕生しました。
現在、セールス、マーケティング、デザイン、プロダクト、データアナリティクス、ファイナンス等々、各方面のスペシャリスト達も集結。“地産地消”型のTobeを目指し、バリューチェーンを構築しています。Last Mover Advantageを最大化し、1,000億円規模のインパクトを創出すべくグロース中です。
Industry Endgameからの逆算で“非連続成長”に挑む ─ 産業のインフラとなり、100年選ばれ続けるエクセレントサービスを目指して
─ 米津さんにとって、ラクスルで働く醍醐味を教えてください。
米津:産業に対して「課題設定」ができることです。ラクスルの「北極星」は、産業のインフラとなり、100年選ばれ続けるエクセレントサービス。
そのためにIndustry Endgameから逆算して、あるべき姿を実現する“非連続成長”を設計(=課題設定)。ラクスルでは、事業家集団であるBizDev同士、共通の状態目標に向かって切磋琢磨しています。
Peter Thiel氏(Co-founder of PayPal, Palantir Technologies)によれば、スタートアップの企業価値の大半は永続的なキャッシュフローの割引現在価値である。すなわち永続成長できる状態(≒独占)が肝要であり、長期的に勝つために“オセロの角”となる市場選定と、Structural Advantage(≒Moat)が必要。
Escaping competition will give you a monopoly, but even a monopoly is only a great business if it can endure in the future.”
“Grandmaster José Raúl Capablanca put it well: to succeed, ‘you must study the endgame before everything else.’
Peter Thiel with Blake Masters, Zero to One: Notes on Startups, or How to Build the Future
ラクスルには、長期の時間軸でEndgame Strategyを組み上げ、既存アセットを活用してダイナミックに挑める“打席数”があります。今後はM&AなどInorganicな成長手段も戦略オプションとなり、PL/BS Leverを駆使して“非連続”な価値創造にチャレンジできることが醍醐味です。
日本から“世界に跨る”「モノづくり」バリューチェーンを ─ 次世代の社会インフラを創る「産業家」を目指して
─ 米津さんご自身の、今後のキャリアビジョンを教えてください。
米津:社会を変革する「産業家」として、日本の強みである「モノづくり」を活かし、“世界に跨る”次世代の社会インフラとなるビジネスを創ってみたい。
振り返れば、学生時代に世界中を旅して、社会課題の解決に奮闘するたくさんの「産業家」に出会いました──
一人のカンボジア人は、自国農業の近代化による「経済的自立」を目指し、日本の灌漑技術を学んでいた。
一人のシンガポール人は、自国の「教育格差」を憂いて、論理的思考能力を全ての子供にインストールするデジタル教材を開発していた。
一人のインド人は、「Make in India」のボトルネックである、即戦力エンジニア不足を解消すべく、実践的なeラーニング・ハードウェアテスト環境を展開していた。
一人のエストニア人は、「国際労働力の流動化」のため、煩雑なイミグレーション手続きを半自動化・越境人材紹介プラットフォームをグローバルに拡大していた。
国家・産業に対してAgenda Settingをして、あるべき姿を社会実装する。そんな世の中の役に立つ「良い仕事」をしたい──
父の背中や過去の出会いから培った、自身の職業観です。ラクスルの「機会提供」文化に感謝し、フルスイングで挑戦中です。
─ ラクスルでのこれまでのチャレンジを経て、米津さんが今後向き合ってきたい課題を教えてください。
米津:ラクスルでの変革プロジェクトを通じ、過去の前提で構築されたインフラは、もはや現代社会を支えられない──
かつての人口ボーナス・高度経済成長期から、労働人口が減少“し続ける”人口動態やコストプッシュインフレーション、Post-Pax Americanaの時代に、世界は突入しました。前提をアップデートして、現代・次世代の需要に応えるサプライチェーンの再構築が必要、と確信しています。
世界で拡大していく供給課題に対し、日本の「モノづくり」を活かしてアプローチできないか。生産効率化する“Mass Customization”型の「追い刷り」サプライや、省エネルギー化する“地産地消”型のDM配送サプライは、これからのグローバルスタンダードとなるはず。
“世界に跨る”バリューチェーンのグランドデザインを描いて、世のためになる「良い仕事」に挑み続けたい。次世代の社会インフラを創る「産業家」を目指して。
《編集後記》
米津さんとお話しして印象的だったのは、思考の「ダイナミックレンジ」の広さです。「マクロからミクロへ」、150年以上前の明治維新から現代の物流「2024年問題」までを一気通貫で捉え 、国家レベルの社会課題の解決に向けて事業をデザインする姿は 「産業家」そのものでした。
グローバルな総合商社から、印刷・製造・物流というドメスティックなドメインへ。一見するとまったく異なるキャリアチェンジですが、彼の中では一貫して「日本から世界に跨る社会インフラを創る」という志に燃えています。
「印刷物を『運ぶ』代わりにデータを『移動』させて、地産地消化する」。このひらめきを社会実装するために、検証を繰り返して勝ち筋を組み上げていく。世界と日本、産業と企業、過去と未来など、多面的な「視座・視野・視点」を行き来しながら語る姿は、まるで壮大な“ルービックキューブ”を解いているかのようでした。
「産業家」として米津さんが仕掛ける、次なる変革に期待せずにはいられません。そしてラクスルには、こうした「産業変革」をフルスイングで楽しめる打席が無数に用意されています 。
🌏「産業変革」の震源地で、産業のインフラとなり、100年選ばれ続けるエクセレントサービスという「北極星」を、我々と一緒に目指しませんか。