職業、事業作家。(毎週月曜日更新予定)|KAZUHIKO KAWASHITA | 川下和彦|note
スタートアップスタジオquantum(クオンタム)のクリエイティブ担当役員であり、事業作家である川下和彦が、日々新規事業開発に取り組むなかで考えていることをまとめたマガジンです。
https://note.com/kazukawashita/m/mf634b5615c93
スタートアップスタジオquantumのクリエイティブ担当役員、川下です。
新規事業開発を成功へと導くために、「未来の物語」を書く事業作家として働く中で考えていることを書き留めています。
前回まで、ビジネスを当てるにはデータとロジックだけではなく、野性の勘とセンスが必要であること、また、それらを養うためには、未来をいつも「絵」でイメージするクセをつけ、未来が現実になったとき、イメージの精度がどのくらい高かったか、答え合わせをして、精度を高めていくことが大切だと書いてきました。
実際に絵を描くときもそうですが、イメージがぼんやりと定まらないままに絵を描いてしまうと、実物とかけ離れた作品になってしまうでしょう。しかし、描く対象をしっかりイメージすることができればできるほど、精度の高い絵を描くことができます。
新規事業開発は、未来の物語を書き、それを現実の絵にすることであり、そのためには頭の中にしっかり精度の高い絵を描く練習を重ねる必要があると、わたしは考えています。
そして、今回はその絵を現実にしていくために必要な「ディレクション」について書きたいと思います。
皆さんは、「ディレクション」という言葉に聞き馴染みがあるでしょうか。映画、テレビ業界では、「ディレクター(ディレクションする人)」という職業が一般的になっていますし、ファッションや、広告業界といった領域にも、「クリエイティブディレクター」という職業名称が浸透しているように思います。
では、この「ディレクション」という言葉には、本来どのような意味があるのでしょうか。
先日、ある人が「ディレクターは調整役である」とおっしゃられているのを耳にする機会がありました。たしかに、ディレクターは複数のメンバーを束ねる存在ですから、調整も重要な仕事であると思います。しかし、「調整=調子や過不足などを整えて、規準や正常状態に合わせること(Oxford Languages)」がディレクションを言い当てた言葉であるかと言われれば、わたしの答えはNOです。
「ディレクション(direction)」は、日本語にすれば「方向」という意味になります。そう考えると、「ディレクター(director)」は、「進むべき方向を指し示し、そこにたどり着くために的確な指示を出せる人」と定義できるように思います。
もし皆さんが船乗りとして航海に出ていて、船長の行き先に対するイメージがぼんやりしていて、指示があいまいだったらどう思うでしょうか。当然不安になりますよね。乗組員が長旅で文句を言い始めたら、その調整をする。それももちろんは大切なことかもしれませんが、それでは目的にたどり着くことはできません。
新規事業開発も航海と同じです。目指すべき未来を鮮明にイメージし、そこにたどり着くために精度の高い指示を出せる人をこそ、ディレクターと言うことができるのではないでしょうか。
日経BizGateによる「私の道しるべ」というサイトで、株式会社エイチ・アイ・エス代表取締役会長兼社長である澤田氏のある発言が取り上げられていました。
それは、「一つのコップの形をイメージできない人は、コップを作ることはできないんですよ。ですから、イメージの湧かないことはできません。逆に言えば、イメージのできることは大体実現できるんです。」という言葉です。
わたしは、この発言に新規事業のディレクションの真髄が詰まっているように感じます。まさに、新規事業のディレクターがなすべきことは「起きていることの調整」ではなく、「これからつくる未来を正確にイメージし、それをつくるための導きをすること」。イメージの精度とディレクションの精度が上がれば上がるほど、新規事業開発を成功に導くことが容易になっていくと、わたしは思います。
次回は、目指す未来をイメージした後、実際にどのようにアクションを起こせばよいかについて書きたいと思います。