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QuackShiftの共同創業者であり、松尾研究所の共同プロジェクトでエンジニア経験を持つ小村。起業家としての道を歩む中で、どのように自身の理念とビジョンを実現してきたのでしょうか。彼が掲げる「顧客視点」や「誇りを持つ仕事」に対する考え方、そして自身の学びを組織に還元する姿勢は、これからのQuackShiftにおける重要な指針となるでしょう。今回は、QuackShiftの未来とその成長を支える信念を語った小村にインタビューし、彼のビジョンを掘り下げました。
小村和輝 / KAZUKI KOMURA
京都大学卒。大学院では国立情報学研究所(NII)山田研究室にて人間とAIのインタラクション研究に従事。AIとエージェントに関する国際会議での採択経験あり。東京大学松尾研究所主催のGCIで優秀賞を受賞。過去には松尾研究所にてチーフAIエンジニア/PMとして、共同研究をリードした経験を持つ。
目次
──なぜQuackShiftを創業しようと思いましたか?
──大学は教育学専攻ですが、なぜAIやエンジニアリング分野の大学院に進学したのですか?
──創業から1年が経ちましたが、この1年を振り返っていかがですか?
──インターンシップ、研究、起業、となかなかハードな1年でしたね。どうやってモチベーションを保っていたのですか?
──QuackShiftの経営者として、今1番挑戦したいことは?
──QuackShiftにはどんなエンジニアが多いですか?
──エンジニア出身の経営者として、今後QuackShiftをどのように成長させて行きたいですか?
──最後に未来のQuackShiftメンバーへのメッセージをお願いします
──なぜQuackShiftを創業しようと思いましたか?
経営者である親の背中を見て育ちました。忙しそうではありましたが、とても幸せそうに暮らしていたんです。また、僕の周りにはサラリーマンをしている人がほとんどおらず、皆それぞれの専門分野を見つけ、会社に属することなく独立して働いている方々ばかりでした。
家族の中でも大学を卒業したのは僕ぐらいで、珍しい存在でした。大学を卒業できたのは親が経営者として成功を収め、その恩恵を受けられたことがあります。この経験から、自分も専門分野を見つけ、自らの力で生きていきたい。親から受けた恩恵を、僕も次の世代に引き継いでいきたいという想いがあります。このような環境の中で育ったことが、起業するにあたって大きな影響を与えています。
もともと大学生以降、起業のタイミングをずっと探していたんです。松尾研究所でインターンをする中、同じ研究室の仲間たちが自分より若くして起業し、成功していく姿を見るたびに、「自分も何か行動を起こさなければ」という焦りを感じていました。
そんな中で、大学時代に同じシェアハウスで過ごした平野と久しぶりに再会したんです。話をするうちにお互いの考えが一致し、一緒に起業することになりました。当時僕は大学院進学とともに東京に出てきて間もない時期で、信頼できる友人が周りにいない状況だったんですね。平野とは大学時代に生活を共にした経験もあり、人柄や仕事に対する真摯な姿勢に信頼がありました。「彼となら安心して一緒に挑戦できる」と確信し、起業を決意したんです。
──大学は教育学専攻ですが、なぜAIやエンジニアリング分野の大学院に進学したのですか?
大学受験期はプレッシャーやストレスから、電車に乗るのも辛くなるほどで、無理やり体を引きずるようにして学校や塾に通っていました。この時期の体験が、僕のメンタルヘルスへの関心につながっています。
その影響で大学では心理学を学ぶために教育学部に進学しています。学部生のころは「起業×メンタルヘルス」の視点で勉強をしていました。ただ勉強を続ける中で、心理カウンセラーや学校の先生といった形で対個人に寄り添う解決方法よりも、プロダクトやサービスを通じて社会全体の仕組みを変えることで、より大きなインパクトを与えられるのではないかと考えたんです。
授業ではデータサイエンスに触れる機会があり、教育学部でありながら卒業論文ではカウンセリングChatBotを制作しました。この経験が心理学と技術の融合に興味を持ったきっかけですね。
教育分野で進学すべきか、それともAI領域での軸足を置くべきか――。最終的には、AI領域で研究を深めるほうが、自分が目指すインパクトのある社会課題解決に繋がると判断し、現在に至ります。
──創業から1年が経ちましたが、この1年を振り返っていかがですか?
「よくやったな」と思う部分と、「まだまだやれる」と感じる部分の両方があります。
「よくやったな」と思うのは、受注に至ったクライアント企業がもともとコネクションのあったところではなく、ゼロからのスタートだったことです。お問い合わせも現在は安定的にいただいていますが、創業当初の状況からすると信じられないほどの進歩だと感じます。創業当初はメンバーの給与を僕と平野の貯金から支払っていたことを考えると、今自分たちに給料があること自体がとてもありがたく感じます。
この一年間の生活でいうと、僕は大学院生として研究を進める一方で、松尾研究所で働き、QuackShiftの取締役としても活動するという3足の草鞋を履いていました。
そういった中QuackShiftが軌道に乗り始めたことで、さらに忙しさが増しましたね。クライアント企業への最終提案が週に3つほど重なることもあり、その時は本当に大変でした。寝る間も惜しんで何十枚ものスライドを作成する日々でしたね。
それでも、最終報告でご担当者の方から良い反応をいただけたときや、「頼んでよかった」と感謝の言葉をいただいた瞬間に、疲れやしんどさが一気に吹き飛びます。本当に報われたと感じる瞬間です。
一方で、「まだまだやれる」と思うのは当時掲げていた売上目標に到達できていないことです。この課題をどう解決していくか、今後もしっかり考えていかなければなりません。
──インターンシップ、研究、起業、となかなかハードな1年でしたね。どうやってモチベーションを保っていたのですか?
まず最初に平野には本当に助けられたと感じています。一年間は自分たちの報酬がなかったため、生活費や学費を稼ぐために他社インターンを並行していましたし、研究の進捗がなければ教授にも面目が立たないので、常にプレッシャーを感じていました。
そんな状況の中で、この生活に区切りをつけたいという思いが強くなり、「人生で何を重要視するか」に焦点を当てるようになりました。
つい先日平野に、自分のQuackShiftへの思いや、来年からはフルコミットすることを宣言しました。そして、そのために日々協力してほしいことをプレゼンテーションしたところです。
タスクが多すぎたり、日々の忙殺具合にモチベーションが下がる瞬間は何度もありました。都度平野へ相談したり、その度に「頑張るしかない」と自分に言い聞かせてここまで来れたと思います。
以前、松尾教授の講演で「起業家はマリオカートのようなもので、『操縦者』と『車』としての自分がいる。操縦者は目的地が決まっていて、ひたすらゴールに向かって走り続ければいい。しかし、車としての自分は疲れてしまうので、どうやってなだめるかを考えなければならない」という話を聞いたことがあります。
僕自身、進むべき方向は決まっているので迷いはありませんが、車としての自分が疲れないよう、どのようにリフレッシュする時間を作るかに意識を向けています。
──QuackShiftの経営者として、今1番挑戦したいことは?
「体験」にこだわりたいと考えています。良い体験、新しい体験、驚きのある体験とは何かを常に模索しており、それが組織戦略を考える上での根底にあります。
体験に関して身近な影響としては、会社を「顧客」と「社内メンバー」の2軸で捉えています。会社はあくまでコミュニティの器であり、会社がメンバーに求めることと、メンバーが挑戦したい領域が一致したときに、会社は最大限に成長すると信じています。
QuackShiftが成長することで、単に企業価値の向上だけでなく、社会にも良い影響を与える企業としての成長を実現したい。本質的に僕たちが目指しているのは、AIを活用して社会に「Wow」を生み出し、今までにない体験を社会全体に提供することです。
そのため、企業コンサルティングにとどまることなく、SaaSなどのプロダクトとして拡販可能なサービスを提供し、業界構造そのものを変えていきたいと考えています。個人的には、地元愛知県のデンソーウェーブがQRコードを発明したように、一般消費者にも影響を与え、生活のインフラとなるようなプロダクトを生み出したいですね。
また、僕は学問と社会との架け橋になる経営者でありたいです。先端技術がいくら進化しても、それが実際に活用されなければ意味がありません。技術の真の価値は、社会を進化させるイノベーティブなサービスが利用されることで初めて生まれます。だからこそ、現在も博士課程に在籍しています。
──QuackShiftにはどんなエンジニアが多いですか?
QuackShiftのエンジニアは、顧客への価値提供にこだわるメンバーが多いです。一般的にエンジニアは「システムを作る」ことが使命になりがちですが、僕たちは「顧客に価値を提供する」という視点を大切にしています。
そのため、顧客体験をきちんと理解し、作った先にどんな景色が広がるかを想像できる「共感型タイプ」のエンジニアが多いですね。
IT業界において、エンジニアへのフィードバックはしばしば指摘から始まることがあります。ですがQuackShiftではエンジニアが作ったものに対するフィードバックは、指摘から始めるのではなく、まずは感謝の気持ちを伝えることから始めるようにしています。そうすることで、リスペクトがあるコミュニケーションが生まれますよね。
そういったコミュニケーションを増やし、情報を共有することで、メンバー間の結束力が強まる。情報がオープンであるからこそ、顧客視点を持ちやすく、スピード感を持った組織になれると思っています。
──エンジニア出身の経営者として、今後QuackShiftをどのように成長させて行きたいですか?
メンバー個人の仕事観を高めていける組織にしたいと考えています。仕事を依頼された際に、単にタスクをこなすのか、それとも自分のアウトプットに誇りを持つのかで、メンバーの自立性が大きく変わると思うんです。
誇りを持って仕事に取り組む方が、メンバーとしても楽しく感じるのではないでしょうか。80点のクオリティで満足するのではなく、お互いに切磋琢磨し、120点にまで引き上げるような仕事の進め方が、組織としても強くなりますし、僕はそのような雰囲気の方が楽しいと感じています。
自分がやった仕事に対して、「QuackShiftの○○」として評価されるのではなく、将来的にはメンバー個人が社会に通用するようなアウトプットを出せる組織でありたいです。
──最後に未来のQuackShiftメンバーへのメッセージをお願いします
スタートアップで働くことにはリスクが伴うと感じるかもしれませんが、自分の成長と天秤にかけて考えてほしいです。現在、株式会社QuackShiftは創業期を乗り越え成長期に差し掛かっています。会社が急に倒産する心配なく、「モノを稼ぐ力」や「モノをつくる力」が身につく環境が整っています。
独立志向の方やスタートアップで働きたい方、エンジニアとしてシステム全体を見たい方にはおすすめの環境だと思います。
執筆:近藤 里衣 バナー:外崎 嶺河 写真:西野 あきひろ