行政業務の効率化は、ゴールじゃない ── 「パブテクAI行政」が目指す、社会課題に向き合える行政の未来
真剣に向き合えば向き合うほど、本当はこうしたい、もっとこうありたい、そんな思いが、少しずつ積み重なっていくものです。
行政の現場でも、それは同じ。市民の皆さんと話す中で、「この声に、どう応えられるだろうか」そんな思いが、心に残っていきます。
でも、日々の業務は複雑で、制度や調整が重なり、一つ一つに時間がかかるものも多くあります。本当は取り組みたいのに、なかなかそこまで手が届かない......
そんなジレンマを、内側から見てきた一人がいます。
行政職員としての経験を通じて、制度や組織、現場の事情を理解し、行政の現場と同じ目線に立ち、ともに考え、実装し、社会を変えていくことを選んだ、「パブテクAI行政」でマネージャーを務める田口将孝さん。
「なぜ行政を離れたのか」
「なぜ、テクノロジーで行政を支える道を選んだのか」
現場を知るからこそ語れる視点から、行政とAIのこれからについて話を聞きました。
事業本部 AI行政チーム マネージャー 田口 将孝
目次
- 自ら実装し、社会に変化をつくる立場へ。現場を知ったからこそ選んだ、次のフィールド
- 行政の現場に合わせて設計する「プロンプトレス」というAIのかたち
- 社会課題に、より深く向き合える行政へ。AIで後押しする、行政の未来
自ら実装し、社会に変化をつくる立場へ。
現場を知ったからこそ選んだ、次のフィールド
── まずは、田口さんのこれまでのご経歴を教えてください。
田口さん:
行政職員として、市役所に勤務していました。福祉、シティプロモーション、医療、デジタルなど、かなり幅広い分野に関わってきたと思います。
ただ、一市町村の中で仕事をしていると、どうしてもサービスを提供できる相手はその市の市民に限られてしまいます。
もっと視野を広げたい。
行政という仕組み自体に、別の形でインパクトを与えられないか。
そう考えて、より広い視点で行政に関われる中間組織である県庁に転職しました。教育局に所属し、県内の公立高等学校を所管する業務に携わっていたのですが、一つの自治体ではなく、行政全体を少し引いた視点で見る経験ができたと思います。
── そうした中で、パブリックテクノロジーズ(パブテク)に入社された理由はなんだったのでしょうか。
田口さん:
「本当に社会貢献性の高いサービスとは何なのか」を考える中で、行政での経験をもって、民間の立場から変化をつくることに挑戦したいと思うようになりました。
行政の経験を活かしながら、今度は民間というフィールドで、 仕組みやプロダクトを自らつくり、社会に変化を生み出していきたい。 行政の現場を知っている自分だからこそ、できることがあるのではないかと感じたんです。
そんな思いから、パブテクにジョインしました。
現在は「パブテクAI行政」というプロダクトのマネージャーを担当しています。行政内部の事務を、いかに効率化できるかをテーマにしたプロダクトです。
プロダクトの方向性を考えること。チームの役割設計やメンバーのスキルアップ。そして、それが会社としてどこに向かっていくのかを考えること。そうしたことを担いながら、実際に自治体へ出向くこともあります。
行政の現場に合わせて設計する
「プロンプトレス」というAIのかたち
── 改めて、「パブテクAI行政」とはどのようなサービスなのでしょうか。
田口さん:
「パブテクAI行政」は、自治体業務に特化し、情報収集や行政文書作成などの実務を支援する対話型AIサービスです。
行政組織では、扱う業務領域や制度、前提条件が非常に幅広く、部署や担当によって求められる知識や経験も大きく異なります。
だからこそ、特定のスキルや使いこなしを前提にするのではなく、誰が使っても、同じように業務を進められること。属人的にならず、組織として使われ続けることが重要だと考えています。
そのため、生成AIをそのまま使ってもらうようなサービスではなく、行政の仕事に合わせて実装しています。
── 具体的な特徴としてよく挙げられるのが「プロンプトレス」ですね。
田口さん:
一般的な生成AIを使う場合、業務の内容や思考プロセスを自分なりに整理して、プロンプトを書かなければなりません。
つまり、業務への解像度や、それを言語化する力が求められる。
「パブテクAI行政」では、ユーザーが業務を分解して、プロンプトを書く必要がありません。AIが単に返答するのではなく、業務フローを踏まえた形で必要な情報やステップを整理しながらサポートしてくれます。
例えば、資料をつくりたいときには、最初に必要な背景情報や関連データをAIが整理し、次のステップで「どんな情報が足りないか」「どの観点を補強すべきか」などを段階的に提案してくれます。
人がすべて整理してから使うのではなく、AIの支援に沿って進めることで、直感的に操作できるのが特徴です。
生成AIが日々進化する中で「何でもできるAI」を目指すのではなく、行政の現場で本当に使われ続ける形を突き詰める。その1つの形が、この「プロンプトレス」という設計であり、他社の生成AIにはない、パブテクならではのユニークな部分だと思っています。
── 「プロンプトレス」にこだわっているのは、なぜなのでしょうか。
田口さん:
行政業務には、業務の前提条件が非常に多く、それを一つひとつ言語化すること自体が大きな負荷になる、という特徴があるからです。
民間企業であれば、特定の事業領域を前提にして、業務やシステムを設計できますよね。一方で行政は、経済、福祉、教育など、社会にあるあらゆる領域を横断して扱っています。
そのため、業務に着手する前段階で、領域ごとの制度や背景を丁寧に確認しながら、判断を積み重ねていく必要があります。これは、単に作業量が多いというよりも、行政という組織が担っている役割や責任の大きさそのものだと思っています。
さらに、行政業務は法律との関係を切り離すことができません。内部で事業を企画立案し、財政の査定を受け、文書を整える。その一つひとつに、法的な前提や制約条件が重なってきます。
加えて、行政組織では毎年人事異動があり、担当者が頻繁に入れ替わります。その結果、知識やノウハウが属人化しやすく、業務の前提を共有すること自体が難しくなる場面も少なくありません。
そんな行政の現場では、業務の前提や制約条件を整理し、それをすべてプロンプトとして言語化すること自体が難しく、AIを使うハードルが高いんです。
だからこそ、行政業務ではプロンプトを書くことを前提にせず、自治体特有の業務フローをあらかじめ学習させたうえで、対話を通じて必要な情報を引き出していく。そんな「プロンプトレス」な設計が必要だと考えています。
── 実際の現場で、特に印象に残っている事例はありますか。
田口さん:
象徴的な例としてあるのが、議会対応です。とある自治体の事例ですが、議会答弁に関する進捗管理が、暗黙のルールや慣習に支えられた、非常に複雑なものでした。議会では、首長や担当者が行う答弁内容について、事前に答弁案を作成し、庁内での確認や調整を重ねていきます。
その過程では、案件ごとに関係する担当者が異なり、多方面での確認が必要になります。内部での確認もあれば、議員とのやり取りが発生することもあります。
さらに、議会の位置づけは極めて重要で、正確に、誤りなく各所へ伝えなければなりません。そのため、答弁案の作成だけでなく、その進捗管理も非常に煩雑になります。
結果的に、その案件では、答弁案の作成に加えて進捗管理まで対応できるようにしたのですが、他の地域でも同様の要望が上がってきたんですよね。
やはり、こうした議会対応の業務は、把握すべき前提条件や関係者が非常に多く、それを一つひとつ言語化しながら整理して進めること自体が、複数の地域で大きな負荷になっていると感じました。
社会課題に、より深く向き合える行政へ。
AIで後押しする、行政の未来
── 「パブテクAI行政」によって効率化が進んだ先では、行政の仕事はどう変わっていくと考えていますか。
田口さん:
以前、行政職員の方から「パブテクAI行政で今の業務が楽になったら、何をしたらいいんですかね」と聞かれたことがあります。
正直、僕は業務が減ることはないと思っています。むしろ、増える可能性だってある。
行政の現場では、目の前の事務的な業務に丁寧に向き合うだけでも、相当なエネルギーが必要です。制度や調整が重なり、業務そのものが重いことも、行政の現場にいた自分にはよく分かります。
その中で、「本当はこうしたい」「もっと向き合いたい」と思いながらも、すぐには手を付けられないことが積み重なっていってしまう。それは、個人の姿勢の問題ではなく、構造として起きていることだと思っています。
「パブテクAI行政」によって今の業務が効率化されれば、そうした業務の歪みを整理したうえで、行政として向き合いたい取り組みに、より丁寧に時間とエネルギーを使える余地が生まれる。僕はそう考えています。
── その「重要なミッション」とは何でしょうか。また、行政職員に本来求められる役割も変わっていくのでしょうか。
田口さん:
これからの行政職員には、自らアウトリーチして市民と対面し、社会課題に向き合っていくことが、より一層求められていくと思っています。これは、僕自身が行政の現場にいたからこそ、強く感じていることでもあります。
だから「パブテクAI行政」は、まず事務的な行政業務を効率化することで、市民と向き合い、社会に眠る課題に取り組む時間をつくることに貢献していきたい。
結果的に、業務が楽になるわけではないかもしれません。でも、取り組める社会課題の広さや深さは、確実に広がっていくはず。その先に、パブテクが掲げる「Japanese Dynamism—地域から世界へ、日本を躍動させる」というビジョンの実現がつながっていくと考えています。
── 最後にお聞きしたいのですが、そうした未来を見据える中で、 このフェーズのパブテクではどんな方と一緒に働きたいと考えていますか。
田口さん:
不確実性を楽しめて、自分で役割をつくっていける方ですね。
公共領域でビジネスとして収益を上げていくのは、正直簡単ではありません。ビジネスの視点だけでなく、社会にどんな価値を返していくのかを同時に考え続ける必要があります。
だからこそ、正解が決まっていない状況を前向きに捉え、「どうすればいいか」を自分なりに考え、主張し、試しながら形にしていける……そんな方と一緒に挑戦したい。
今のパブテクは、事業も組織も、まだ不確実性の高いフェーズにあります。でも、状況が流動的だからこそ、自分の意見を持って主張できるし、プロダクトや事業の方向性にも、深く関わっていける。
プロダクトの戦略だけでなく、事業としてどう成り立たせていくのか。場合によっては、経営の視点まで含めて考えながら、自分なりに関わっていく。そんな思考を楽しめる方は、すごく相性がいいと思います。
現在は、交通や行政業務といった領域を起点に事業を展開していますが、それだけにとどまるプロダクトではありません。
行政という共通の基盤の上で、複数の事業や領域をどうつなぎ、社会全体に価値を広げていくか。その広がりは、一人ひとりの思考と行動次第です。
自分が関わったプロダクトや仕組みが、誰かにとってのリファレンスになっていく。それが、当たり前の選択肢になっていく。そういう未来をつくれる可能性があるのは、とても夢のあることだと思っています。
「公共の未来に関わること」に少しでもワクワクするなら、ぜひパブテクの扉を叩いてみてほしいですね。