Professional Studio/Interactive dialogue:005 Manager/Hardtech Talent Studio事業責任者 大庭 崇史
Professional Studioで活躍中のメンバーの魅力を炙り出す“Interactive dialogue”。5回目はManagerでありHardtech Talent Studio事業の責任者でもある大庭さんの登場です。
大庭さんはProfessional Studioの中でも特に際立った経歴の持ち主。ヤマハ発動機でのモーターサイクルの開発を13年。その後、航空宇宙系スタートアップでの技術開発や事業開発、アクセンチュアでのコンサルタントを経てエージェントへというキャリアです。
経験を活かしつつも常に新たな分野にチャレンジし続ける大庭さんに、なぜいまエージェントなのか、日本のハードテックが抱える課題は何か、どんな世界をつくっていきたいかなどざっくばらんに語っていただきました。
日本一エンジニアと開発談義ができるエージェント
ー大庭さんといえば他に類のないキャリアの歩み方をされているなと感じますが、これまでのストーリーを聞かせていただけますか?
新卒でヤマハ発動機に入社して、モーターサイクルの開発に携わるところからスタートしました。エンジンをメインに、モーターサイクルの商品開発を行っていました。特にスーパースポーツと呼ばれるフラッグシップモデルに多く携わりました。その中でも入社9年目に手掛けたモデルが業界内でかなり話題となったんですよね。当時の同カテゴリの中でもかなり突出したモデルができました。
16歳からモーターサイクルの開発を志して、運よく新卒以降その道ひと筋で走ってきたんですが、その時に製品のクオリティだけでなくプロセスも含め、明確に自分の仕事の成果を出したという実感を持ちました。それによって自分の中にずっとあったモーターサイクルでなくてはいけないという執着がなくなったんですね。そこで何か新しいことを、と探した先にあったのがispaceという宇宙系のスタートアップでした。
ーもともと宇宙には興味があったんですか?
いえ、それまでの開発経験が活かせた上で楽しそうなフィールドを、という観点で選びました。ispaceではエンジニアとして宇宙船の開発やプロジェクト管理などに携わっていたのですが、そのうちに事業開発関係の場にも呼ばれたりするようになります。いわゆるBizDevなんですが、首を突っ込んでいるうちにこういう世界もあるのか、と。結構惹かれましたね。
そのタイミングで事業部全体を見て欲しいというオファーがあり、A.L.I. Technologiesというエアモビリティを開発するスタートアップへ。開発そのものをリードしつつ組織づくりにも携わり、エンジニアはもちろんそれ以外の人材の採用も手掛けていました。中長期的な視点で製品開発に必要な組織の構成を考えながら、適切なタイミングで必要な人材を採用し組織を構築しながら製品開発と事業開発を行っていました。
ーいまのキャリアにつながるバックグラウンドができつつあったんですね。その後、アクセンチュアでコンサルとなるのですがどういった経緯で?
その頃、いろんなスタートアップからCxOポジションのお話が来ていたのですが、どの要件にもほぼ必ず「コンサル経験」がMustかWantで書かれていたんです。そんなに市場価値が高いのなら一度やっておこう、とアクセンチュアにジョインしました。コンサル未経験、入社時40歳、シニアマネージャーとしてのリスタートです。
主に自動車、航空宇宙、建設といった分野でのコンサルティング支援や戦略提案を経験したのですが、コンサル独自の価値貢献が自分のやりたかったことなにか違うなと感じてきて、あらためて自分がやりたい、ナレッジやノウハウの幅広い展開で貢献できるフィールドはスタートアップ領域だなと思い、そこでイメージしたのはベンチャーキャピタル、そして人材エージェントでした。
ーそこでProfessional Studioとの接点が生まれるわけですね
最初に出会ったのはMeetyでのカジュアル面談でした。当時はまだProfessional Studioには二人しかいなかったんですが、小規模ながらスタートアップに特化している点がユニークだな、と。あと自分自身採用に関わった経験があるので、自分にもできそうなイメージはありました。この2つのポイントが交差したところに、自分ができること、やりたいことがあると気づいたんですね。
他にも何社かエージェントや事業会社からオファーをいただいたなかでProfessional Studioを選んだ理由はいくつかありますが、まだ組織も事業もできあがっていないので、自分の得意、かつ競合の少ないハードテック領域でのサービス立ち上げなんかもできそうだったところに特に惹かれました。体制やプロセスがない状態からつくっていくほうが好きにできるだろうということもありますが、それ以上に自分の特徴を活かせてなおかつ結果に結びつくだろうと思ったからです。
ー大庭さんの強みやこれまでの経歴が結果にダイレクトに紐づくと
私はものづくりの領域においては日本ではいちばん開発や技術の話をエンジニアとできるエージェントじゃないかと思っています。候補者にあった組織体制、技術領域や開発要素がわかるから、この会社ならその人の技術スキルが活きて気持ちよく働けるだろう、こういう人がいればこの企業の開発がドライブするだろうという視点でのキャリアコンサルティングができます。
うちの遠藤さん(現Professional Studio執行役員)もそうですよね。元SEだからこそできるコンサルがあるわけです。
個人の得意領域や強み、あるいはバックグラウンドが人のキャリアや企業のビジネスに大きなインパクトを与えることができる。普通に考えたら挑戦を諦めてしまいそうな候補者にも、新しいキャリアビジョンを描いて提示できる。キャリアコンサルタントとしては未経験でも充分介在価値を発揮できることが、私がProfessional Studioを選んだ理由でした。
エンジニアの価値をお互い正しく見積もること
ーそんな大庭さんから見た日本のディープテック、とりわけハードテックのスタートアップが抱える課題ってなんでしょうか?
いくつかあります。一つには採用が上手ではない会社が多いこと。人事がハードテック系のエンジニアの採用要件を理解することが難しいんですね。技術の詳細までわかる必要はありませんが、せめて「どんなスキルがあれば何ができるか、この製品開発に必要なスキルは何か」がわからないとなかなか難しいです。製品開発エンジニア出身の人事がいれば良いのですが、残念ながらまず見かけません。
二つ目に採用戦略を立てるのが難しいことも問題です。売るためのものづくり、量産品製造の経験者がいない場合が多いので、どのタイミングでどんな人を採用する必要があるのか、中長期の視点での話ができないんです。大学の研究室での研究開発と企業で「製品」を開発するメーカーの要件はまるで違いますから。特に問題なのはそもそもそういった要件の違いがあるということ自体を認識していないケースが多いということです。
ーこれからはじめて製品をつくる、という会社には「製品化」に関する知見やノウハウがあまりないということですか
自社が開発している「技術」「製品」にどんなスキルの人材がフィットするのか、またその価値を理解することの難易度が高いのです。
価値といえば三つ目に、エンジニアの価値を見積もれない点も課題ですね。一つ目の話にも近いのですが、そのエンジニアがどのぐらいの技術レベルなのかわからない。プロダクトにフィットしているか判断ができないんです。
本当はその人がいま一番必要なのに採用を見送ってしまったり、その逆もまた然り。そしてそれは求職者側にも言えることです。よく相談されるのが、自分の価値がよくわからないということ。面談の場でも「市場価値を知りたい」と言われることが多いんですね。
ー転職の経験でもあればなんとなくつかめそうなものですが…なかなか他者と比べる機会がないんでしょうか
基本的には大企業で通用している人材なら、普通のスタートアップでも十分活躍できるんです。自動車をはじめとする世界トップレベルの産業の最先端に5年~10年も在籍しているエンジニアはみなさん優秀。素晴らしいスキルや能力をお持ちの方が多いんです。
ただ周囲も優秀な人材ばかりなので、なかなか頭ひとつとび抜けない。特にエンジニアは自分の技術領域や製品カテゴリにアンテナを絞りがちなので、相場観を持ち合わせていない人も多いんです。
もっと自分の価値を幅広く見てほしいと思いますね。私自身そういう啓蒙や発信をしていきたいとも思っています。
ーこれまで主に採用についての課題があがっていましたけど、他には何か改善の余地がある部分はありますか?スタートアップに限らずものづくりの世界全般の話で構いません
「日本のエンジニアは給与が低すぎる」という大きな問題があります。正直、自動車メーカーなんかのエンジニアって給与面では恵まれていなかったりします。日本の製品開発エンジニアは圧倒的に優秀なのに、その価値に見合った給与が出ていません。
ITやソフトウェアのエンジニアは新しい分野であり海外の活発な動きにあわせて給与水準も上がっていますが、日本の製造業は安定産業そのもの。エンジニアの相場が40年前から変わっていません。
変革が起きていないのです。ハードテック領域こそ長い時間を伴うナレッジが重要で、一朝一夕には得られない貴重なものです。日本のエンジニアはそれをもっている貴重な人材であり、日本のGDPを支える存在なのに。
ーこのままではものづくりの技術も海外に流出してしまうのではないでしょうか
リモートでできる仕事も増えていますし、最近はみんな英語もできますからね。高額のオファーに惹かれて少しずつ海外に日本の技術力が流出してしまうのでは、と危惧しています。もっと普通に、正当な給与にすることは製造業にとっては急務でしょう。出した成果が正しく評価され、エンジニアが輝ける世界をつくることが必要だと思います。
専門性を活かせると同時に新しいチャレンジもできる
ーものづくり分野の課題が解決し、大手で経験を積んだ優秀な人材がハードテックのスタートアップにも入ってきてくれれば、地殻変動が起きそうですね
たとえばエンジニア経験者がボードメンバーに加わるスタートアップが増えれば、プロダクトとして成立する手前で挫けてしまう、いわゆる“死の谷”を越えられる確率が上がるでしょう。大企業は蓄積されたナレッジとアセットが厚いので、その知見や経験、ノウハウがシェアされることでスタートアップのレベルも格段に向上するはずです。
その結果、発想や理念はすばらしいのに志半ばで頓挫してしまう企業が減る。同時にマーケットでしっかりと存在感を発揮できる企業が増える。健全な活性化が図られることになります。
そのためにも大手の優秀なエンジニアを還流させ、然るべきポジションで能力を発揮してもらいたいと思っています。
ーこういった考え方を業界全体へ啓蒙していくには、いかに大庭さんでもひとりではリソースに限界があるのではないでしょうか
そのためにもハードテック含むディープテック領域に特化したチームの立ち上げを画策しているところです。採用計画や要件定義、開発プロダクトに紐づいたリアルな支援ができるチームですね。さすがにエンジニア出身者だけを集めるのは現実的ではありませんが、たとえ開発経験はなくとも私が直接伝えられるナレッジはあります。
それほど遠くない未来に、スタートアップとか大企業という括りは曖昧になってくるのではないかと思っています。大手だから、ベンチャーだからという境界はなくなり、個社単位で考える時代になる。その上で優秀なエンジニアが活躍できて、正当に評価され、なおかつ流動的になる。そんな仕組みづくりが日本のGDPを支える上でも不可欠ではないかと思いますね。
ー最後に求職者へのメッセージとして、いまのタイミングでProfessional Studioにジョインするとどんな面白いことがあるでしょうか
まず領域がスタートアップですから、ここに軸足を置いている以上、日々新しい事業やビジネスモデルが勃興するのを目の当たりにできます。SaaS、ディープテック、宇宙系…ありとあらゆる新しいビジネスに触れられる。その中で自分の興味関心が深い分野に寄せることが可能です。好きなこと、やりたいことがある人には最適な環境ですね。
一方で自分がいままでノータッチだった世界に触れることもできます。例えば私でいうとCFOを何人かご支援しているんですが、数年前では考えられないことです。
CADで図面を描いていた自分が投資や金融の話題で候補者とコミュニケーションしている。つまり専門性を活かせるし、新しいことにも挑戦できる。それがProfessional Studioなんです。
ー本日はありがとうございました!
■PROFILE
大庭 崇史/Manager・Hardtech Talent Studio事業責任者
新卒でヤマハ発動機に入社。エンジンを専門に多くのモーターサイクルの開発に従事。加えて新規システム開発や開発プロセス改革などのタスクを経験する。その後、ispaceで宇宙探査機開発、A.L.I.Technologiesでエアモビリティ本部の副本部長として開発組織のマネジメント、事業開発に従事。さらにアクセンチュアでのシニアマネージャー業務を経て、2022年4月よりProfessional Studioに参画する。