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店舗もECも“パズル”の1つのピース。「どっちがいいか」ではなく「どっちもあって完成できる」 前編

〜 店舗×デジタルマーケティング 〜
第一回 Pathee川添隆インタビュー

EC化率があがっていくと言われている時代の中でリアル店舗はどう変化をしていく必要があるかを考えていかないといけません。今回は、店舗スタッフ経験もあるECエバンジェリスト川添隆さんに今後リアル店舗とECはどうなっていくのかを話していただきました。

店舗スタッフとして店舗の魅力を感じながら、ECの世界に飛び込んだ

原嶋:
まず、いま「ECエバンジェリスト」と呼ばれる川添さんのご経歴についてお話しをうかがえますか?

川添さん:
私がアパレルの世界に入ったのは、当時「単純に服以外に好きなものがなかったから」です(笑)。大学時代は建築の専攻だったのですが、当時の建築業界では若い間にチャンスをつかむのが難しいだろうなということで、モノづくり軸でなおかつ服が好きだったのもあり、ファッション業界の仕事に興味がでました。そこで、まずは大学3年後半くらいから店舗スタッフとしてアルバイトをしていました。

「ライティング(照明)をやってみない?」「コーディネートしてマネキンに着せておいて」、普通のアルバイトより任せてもらいました。コムサイズムというSC向けのブランドだったものの、1:1の接客の売上として積みあがっていったり、製品の反応が顧客からダイレクトに聞けることに面白さを感じ、ファッション業界での手ごたえを感じました。当時の店長に、「売れないものを売ろうとするのではなく、まず売れるものを徹底的に売って、その次を考えよ」と言われたことは今でも覚えていますし、自分の肉になっています。

新卒の就職活動では、ファッション業界に絞り、とにかく思いつく限りのブランドを受けました。しかし、なかなか内定がもらえない。いま思えば、わざわざ建築を学んだ学生が、片っ端から職種問わず受けていたので「本気じゃないな」と思われたのかもしれませんね(笑)。しかも、今思えば、もっと色んな業界の選択肢を持っておくべきでした(笑)。

原嶋:
いまアパレル業界を引っ張っている人になるとは思わなかったんですね。笑

川添さん:
最終的に2社内定をもらい、サンエー・インターナショナルの総合職に進むことにしました。まずは1年間、店舗スタッフとして勤務することになりました。改めて振り返っても店舗ってエキサイティングでした。店舗スタッフがチームとなって一体となり、それぞれの役割と責任感を持って取り組めば、徐々に売上げが上がってくるわけです。例えば、セールの準備は骨がおれますが、スタートしたら声出しをしながら、商品が減っていけば補充するんですが、補充する途中で商品をこぞって手に取ってもらったりする。嵐のような2~3日が続きますが、目標に行けば非常に達成感を感じます。こういった小売り、客商売としてのライブ感が実感できるので、業務が多くても商売としての原体験の楽しさがあると思っています。

これが本部だとこの「現場感」を掴みづらいので、定量、定性の情報を逐一、網羅的に収集してからの判断が必要になります。ただ、当時の私にとって良かったことは、配属店の営業担当が、ブランドの営業マネージャーで、そういった信頼と実力を感じられる人から「川添、商品のあたりはどう?」「どうやったら、より売れるようになると思う?」「どんな商品が必要かな?」って聞いてくれたことでした。新卒のペーペーながら頼りにしてもらえるってうれしいですよね。

「基幹システムで見る売上情報のような定量情報だけではわからないことを店舗スタッフから吸い上げる。聞かれる側は自店の視点や、競合ブランド・館の周辺状況も含めての意見が必要。フィードバックして改善ができる関係性ができていたらブランドの営業力も高まる」と実感できたんです。結果的に、自分がECに携わってみると、そのフィードバックが私とチームメンバー間で必要になるわけで、基本的な構図は同じだと思っています。

本部と店舗で起きているミスマッチを減らして「店舗の悲劇」を少なくしたい

原嶋:
その経験があっていまがあるんですね。でもいまは店舗ではなくECの道にすすまれたのはなぜですか?



川添さん:
その後、私はクラウンジュエル(現ZOZOUSED)に転職し、その後、クレッジというガールズブランドを展開する企業でEC担当になりました。もう一度アパレルメーカーに行くタイミングで、「店舗の悲劇を少なくしたい」「店頭スタッフがもっと活躍できるような業界にしたい」という想いが生まれたんです。MDの観点で言えば、アパレル業界には「見せ筋」という商品があります。こうした商品は、店舗のVMDの要素として必要なのですが、その商品自体が「売れること」よりも、店舗の商品レイアウトにアクセントを入れたり、本来売りたい商品を「引き立たせる」ことを意識しています。色展開としてやることもあれば、品番単位でつくることもあります。

例えば、春にパステルカラーのショートコートが飾ってあったら「かわいいな」と思いますよね。でも、実際にお客様の立場で着ることを考えたらベーシックカラーを選ぶわけですし、毎年の販売実績もベージュやブラックのようなカラーで、パステルカラーが相対的に量が出るわけではない。見せ筋は売れない商品なんです。

本部はそのシーズンのトレンドから読み取って、「見せ筋」商品を店舗に送っています。でも、店舗スタッフがそんな本部の戦略が伝わっていなければ、突き返したくなりますよね。私は何度もパッキン(ダンボール)を開けて、「すぐに閉じて返送したい」と思ったことは何度もありました。

でも、なんとなく「見せ筋商品なんだろう」とはわかるんですが、そもそも「売れない商品」を作ることが目的ではないはずです。そういった役割があったとしても、「これは違うんじゃないか」「もっと色は薄いほうが良い」と思うんです。そのせいで業務にも疲弊感が出てしまっていると感じました。これは、特定の企業というよりは、今のアパレル業界に蔓延している商習慣に近いと捉えています。

原嶋:
疲弊感とはどういうことですか?

川添さん:
実は社内スタッフに対して事前に内覧会で商品の情報共有、フィードバック場、ブランドによってはそこで数量発注の場を設けているんです。でも、招待されているのが店長か主要のメンバーだけだったり、店舗に持ち帰ってその情報が全スタッフに理解できるまで落ちていなかったり。

「こんなもの売れないよ…」という想いもスタッフが商品を見たときには「変えられない」状態だからだと思いました。結果的に売れ筋は全店舗、ECでもかぶって取り合いになってしまいます。売れ筋がなくなった時に真価が問われますが、例えば、見せ筋の商品や売れるつもりだったが当たらなかった商品が残ってしまうと「これをどう使えばいいんだ…」「店舗のことを考えているのか」と不満につながってしまうのも当たり前ですよね。

でも、本部の気持ちもわかるんです。色んな意見を取集すると、それこそ収拾がつかなくなったり、全てを採用すると中和したような商品になることで独自性がなくなったり、店舗営業を優先するあまりに「余計な手間をとらせては」という配慮をしてしまったり。だから「呼ぶのは店長だけにしよう」、「発注までに改良できないのであれば、要望を出してもらうようなムダな仕事が発生しないようにしよう」という想いもある。でも、そのせいでミスマッチが起きてしまっているようにも思っています。

原嶋:
ミスマッチが起きているのはよく耳にします。やはり店舗スタッフからは「ECなんて仕事が増えるから嫌だ」と思われてしまうと思います。これを解消するにはどうすれば良いと思いますか?

川添さん:
「デジタルを推進すると店舗の業務が増えるんじゃないか」

これに関しては、私が最も配慮している部分で、慎重すぎるくらい考えています(笑)。だからこそ、デジタル推進が重要なのではなく、「会社全体の施策の中で、今何を優先すべきか?」の方が重要です。ある意味、経営的な視点が必要です。

ブランドとしては集客が増えるからとか、次の接点をもつためにLINEをオススメすることを推進するとしましょう。デジタル部門の施策としては1つ増えるだけと思いきや、並行して他の部門でも新たな施策を店舗に導入している場合もあるわけです。その場合は、どの施策の優先順位を明確にする必要がありますし、もしまとめられるものがあればまとめるという交通整理も必要です。

話を戻すと、全体最適の話は商品、すわなちMDにも当てはまりますが、この場合は、全体最適と部分最適のバランスが必要だと考えています。店舗ごとのベストセラーを見れば確かに売れ筋はかぶるようになっていますが、ロケーション・客層が違えば店舗によってベストセラー5位以下の商品が変わるというのはありえます。販売データは結果でしかないため、販売につながらなかったデータ、店舗になかった商品のデータはのってきません。それを店舗スタッフが意志を込めて、お店の特徴、「らしさ」を込めていく。実践できれば、成功も失敗にも次の打ち手が明確になり、徐々に仕事を楽しめなくなっていくと思います。

お店のことは現場にいるスタッフが一番わかっているんです。例えば、クレッジでもメガネスーパーでも、内覧会の機会などでは、各店舗ごとに各商品のオーダーをするようにしています。さらにメガネスーパーでは、店舗のスタッフがチームとなって商品企画をしています。こういう状況なら、先ほどの「こんな商品売れないよ…」「本部は何もわかってない」の気持ちとは、逆のことが起きるんじゃないか。「自分がお店を作っている」「自分がこのブランドを盛り上げている」という気持ちになるし、責任感がでるんじゃないかと思っています。

環境を整備し、店舗スタッフにそんな想いを持ってもらえたら、「店舗を盛り上げたい」「お客様に喜んでもらいたい」という気持ちで取り組める。店舗って繁盛していると楽しくなるんですよね。その土台ができれば、ECとの連携や、デジタル関連の施策に関しても「お客様とのつながりのため、会社の利益貢献のためだから」と協力する意識に少しずつ向いてくれるのではと考えています。

インタビュー後編では川添さんが考える店舗とECのよりよい関係についてはお話を伺っていきます。

■川添隆氏 プロフィール

1982年、佐賀県生まれ。千葉大学デザイン工学科卒。2005年サンエー・インターナショナルに入社。販売、営業アシスタントとして店舗営業支援に携わる。2006年クラウンジュエルに入社。ささげ業務からサイト内企画、バイヤー、PR、新規事業のブランド展開の卸営業などに携わる。2010年クレッジに入社。EC事業責任者としてEC売上を2年で2倍以上に拡大し、LINE@活用やショールーミング店舗を手掛ける。その後、2013年メガネスーパーに入社。EC事業、オムニチャネル推進、デジタルマーケティング・コミュニケーション、デジタルを活用した店舗支援を統括。EC事業の売上を5年で4.4倍、メガネスーパー公式通販サイトは月商約8倍に拡大。2017年よりビジョナリーホールディングスの業務を兼務。2017年よりエバン合同会社を設立。2018年にビジョナリーホールディングスの執行役員に就任。

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