スマートシューズを通じて多くのランナーの力になりたい、そんな想いを胸に新卒でスタートアップの世界に飛び込んだ、ORPHE シリーズを開発するno new folk studio川元留輝氏にインタビューを実施しました。
ランナーとして結果を出せずに苦しんだ学生時代。 ORPHE Journal編集部(以下OJ) : 本日はインタビューよろしくお願いします。まず自己紹介をお願いします。
川元:2020年4月に新卒で株式会社no new folk studioに入社しました、川元留輝です。
菊川社長が僕の大学の研究室の先輩で、そこから縁があってno new folk studioに入社しました。
中学から大学までずっと陸上をやっていました。短距離選手として陸上を始めたのですが、大学から長距離に種目を変えて、箱根駅伝の予選会に出場した経験もあります。
OJ:短距離と長距離を両方経験しているなんて珍しいですよね。学生時代はどのような選手だったのですか?
川元:短距離選手だった中学時代は、顧問の先生がザ・昭和の熱血教師というような人で、毎日鬼のように走り込まされたり、筋トレをさせられていました…笑。しかし走ることが好きだったのと、走れば走るぶんだけどんどん記録も伸びていったので、中学生の時は純粋に陸上が楽しかったです。
しかし高校に上がってからスランプに陥ってしまい、練習をしても思うように記録が伸びなくなりました。練習は人一倍真面目に取り組んでいたのですが、高校の3年間は記録が全く伸びず、大会のメンバーにもほとんど選ばれることはありませんでした。
一方で中学時代負けたことがなかった周りの同級生たちがどんどん記録を伸ばし、彼らが大会で活躍する姿を見ていると、自分には短距離選手としての才能がなかったのだと思い、その時初めて挫折を味わいました。しかしながらそれでも陸上は好きだったのと、このまま不完全燃焼で終わらせたくない、何かしらの結果を残して陸上人生を終えたいという思いがあったので、大学から長距離選手としてもう一度陸上をやり直すことに決めました。
OJ:思い切った決断ですね。
川元:はい…笑。今思えば自分でも無茶な決断だったなと思っています。
OJ: 長距離選手としてリベンジは果たせましたか?
僕は大学でも陸上を続けるにあたって「箱根駅伝の予選会出場」を目標に掲げていました。しかし一般的な大学の陸上部は、スポーツ推薦や入部制限があり、自分のように大学から長距離を始めるような学生は入部すらさせてもらえません。なので僕は入部制限のない国公立大学に進学して競技を続けることにしました。
箱根駅伝の予選会に出るために、当時は5000mで参加標準タイムをクリアするのと、学内のメンバー12人に選ばれなくてはいけませんでした。しかしながら、入部当初は練習についていくだけでも精一杯で、まともに練習すらできませんでした。長距離選手としての土台が全くできていなかったため、練習のたびに足を痛めたり、怪我をすることも多く、大学1~2年生の時はほとんどまともに走れませんでした。
そんな状態が続いていて、3年生の時にこのままでは箱根駅伝の予選会出場という目標を達成することができない、今まで通りの練習をしていてはダメだと思い、自分のこれまでの練習の取り組み方を大きく変えました。それから自分で怪我をしないためのランニングフォームや筋トレなどを調べたり、動きづくりのトレーニングなどを多く取り入れるなど、フォームの改善に力を入れるようになりました。また練習も走る量を減らして、その分質を上げることを意識して練習に取り組むようになりました。この時からトレーニングメニューも自分で考えるようになっていたので、チームと分かれて1人で練習を行うことも増えていきました。
その結果、怪我も徐々にしなくなり1年間で5000mのタイムを1分以上更新し、念願の箱根駅伝の予選会に出場することができました。また僕らの代では、予選会の総合タイムで大学記録を更新することもできました。
お正月にある箱根駅伝の本戦出場に比べたら、予選会の出場なんて大それた結果ではありません。しかし短距離選手として何も結果を残すことができなかった自分が、大学から長距離を始めて、予選会のような大きな舞台に立てたことは、僕の人生においてはとても良い経験になりました。また、大学の陸上を通して、ランニングフォームを研究したり、トレーニングを自分で作成するなど、自分の頭を使って物事に取り組む姿勢だったり、何事もただ量をこなすのではなく、質や効率を意識して取り組むことの重要さを学ぶことができたので、大学まで陸上を続けて本当によかったと思っています。
自分の陸上経験がスマートシューズの開発に貢献できる OJ:no new folk studioに入ろうと思ったきっかけはなんだったのですか?
川元:僕がno new folk studioに入社するきっかけになったのは、僕が陸上を引退した修士1年の時のことです。
ある日、研究室の教授からno new folk studioがランニング用のスマートシューズを新しく開発していてランニングに詳しい人を探しているという話を聞きました。菊川社長がうちの研究室の卒業生ということもあり、もともとORPHEについては知っていました。
純粋にランニング用のスマートシューズがどのような製品なんだろうと興味が湧いたので、教授を通して一度ミーティングに参加させてもらえることになりました。
ミーティングでは、菊川社長からプロトタイプの ORPHE TRACK を見せてもらいました。シューズもアプリもまだ開発途中のものでしたが、シューズを履いて走るだけでランニングフォームが分析され、その人の走りをコーチングしてくれるという内容に衝撃を受けました。当時のno new folk studioにはランニング経験のあるメンバーが1人もいなかったこともあり、普通の学生だった自分に対して、ORPHE TRACKについてどう思うか、ランナーとして意見やフィードバックを求められました。なので僕は1人のランナーとして率直に感じたことや製品の改善点などをひたすら思うままに話しました。
僕は陸上選手として大きな結果を残せるような選手ではありませんでしたが、自分の陸上経験をORPHE TRACKの開発に活かすことで、世界中のランナーに大きな影響を与えることができるのではと思いました。またORPHE TRACKを自分のようにスランプや怪我で苦しんでいるランナーを1人でも多く助けてあげられるようなプロダクトにしたいと思い、no new folk studioに入社することを決めました。
OJ:no new folk studioではどのような仕事をしているのですか?
川元:社内ではユニットと呼ばれるいくつかのチームに分かれていて、僕はランニングユニットに所属しています。ランニングユニットは、ORPHE TRACKやアシックスとのコラボレーションモデルであるEVORIDE ORPHEなどORPHEシリーズの販売に関わる業務を全般に担当していて、僕は広告・オウンドメディアの運用などを主に担当しています。最近では、アプリ開発のマネジメントや、新商品・サービスの企画なども少しずつ担当させてもらえるようになりました。やることが多すぎて毎日大変ですが、その分やりがいもあり日々の成長を感じられるので仕事はとても楽しいです。
OJ:no new folk studioで働いてみてどうですか?
川元:成長できる環境だととても感じています。no new folk studioはスタートアップなのでまだ社員も16人しかいません。そのメンバーでシューズ・センサー・アプリの開発や販売業務、外部とのプロジェクトなどを全て行なっているため、その分1人が担当する業務の数も多くなります。なので新人の僕でも、いきなり広告の運用や動画編集を任されたり、マネージャーとしてプロジェクトの管理をしたりします。最初はわからないことだらけで、業務を覚えるだけでも大変なのですが、仕事をしているうちに自分の知識やできることがどんどん増えていくので、とてもやりがいを感じます。
またスタートアップは新人に対しても放任主義のようなイメージがあるかもしれませんが、no new folk studioの上司の方達は、仕事の進め方はもちろん、仕事に取り組む上での大切なことだったりをいつも丁寧に教えてくださるので、新卒としてスタートアップで働いていても不安を感じたりすることは一切ないです。no new folk studioのメンバーは優秀な人達ばかりなので、僕も早くみんなと肩を並べて仕事ができるように頑張っていきたいです。
ORPHEを通じて世界中の人たちがランニングを楽しめるようにサポートしたい。 OJ:スマートシューズの今後の可能性についてどのように感じていますか?また、ORPHEをどのようなプロダクトにしていきたいですか?
僕は学生時代、陸上選手として約10年間競技を続けてきましたが、スランプや怪我で順風満帆な競技人生を送ることができませんでした。あの時怪我をしなかったら、早く自分に合った正しいトレーニングができていたら、もっと速くなれたのではないかと今でも悔いが残ります。
世の中には、僕と同じように怪我で苦しんだり、記録が伸びずに悩んでいるランナーがたくさんいるはずです。スマートシューズは、そんな悩みを抱えるランナー達に効率的なランニングフォームを教えてくれたり、一人一人に合った正しいトレーニングを教えてくれるコーチのような存在になると思います。なので、コーチや監督がいない学生や、1人で走っている市民ランナーもスマートシューズを使うことで、誰でも同じように質の高いトレーニングができるようになるはずです。
また、ランニングコーチやトレーナーもスマートシューズを活用することで、これまで感覚的にしか伝えられなかった内容を、データや数値を用いて定量的に伝えられるようになり、より質の高い指導ができるようになると思います。更にはスマートシューズで走ったデータを遠隔で共有することで、オンライン上での指導も可能になるはずです。将来的にはそういった技術をランニングだけでなく、サッカーや野球のような他のスポーツだったり、医療の分野にも応用できるようになっていくと思います。
昨年、ASICSさんとコラボしてEVORIDE ORPHEというスマートシューズをローンチさせてもらうことができました。そのおかげもありORPHEはランナーにとってますます影響を与えるプロダクトになると思っています。なので、学生や市民ランナーはもちろん、プロのランナーがスマートシューズを使って走るということが当たり前の世界にしていきたいです。
そして僕個人としては、多くの人たちが走ることの楽しさや、成長する喜びをこれまで以上に感じられるように、また頑張るランナーを少しでもサポートしていけるように、ORPHEをより良いプロダクトにしていきたいです。