2009年、20代も終盤に差し掛かる当時の僕は、住んでいた赤羽のマンションのベランダで、毎晩のようにこう叫んでいた。
「ポップコーン王に、俺はなる!」
今とは違い、毎晩のように家で一人酒を飲み、サラリーマン時代には感じたことのなかった孤独を抱えていた頃の話だ。
食のビジネスに一切関わっていないにもかかわらず、本気でそう思っていた。
何の根拠もない。
人脈も技術も、もちろん実績もない。
でも僕は、毎晩のようにこう叫んでいた。
イメージがあったからだ。
サラリーマン時代に別れを告げ、当時は不動産管理の仕事のみをしていた大泉工場へ戻ってきた僕。
4代目として期待を背負ってはいたものの、何をしたらいいのかはまったく分からなかった。
そんな中、サラリーマン時代と大泉工場の役員になるまでの約2か月間で、僕はポップコーンビジネスと出会う。
当てもなく訪れたNYC。
そこで出会ったのは、ポップコーンを中心としたFUN FOODのカルチャーだった。
キャラメル味(甘み)とチーズ味(塩味)という両極端の味を同時に楽しむ新しい味覚。弾きたてのポップコーン片手に街中を歩く文化。
その発想に衝撃を受けた。
「これを日本で展開すれば、大当たりするぞ。」
今思えば、実に浅い考えだった。
それでも、そのイメージだけは鮮明だった。
入社して数か月後、僕は動き出した。
冒頭にも書いた通り、実績も人脈もない。
あるのはイメージだけだった。
キャラメルとチーズを掛け合わせ、スタイリッシュな店舗で、それを日本流に進化させる。
多店舗展開し、メディアにも取り上げられ、毎日行列ができる。
そして気づけば、ポップコーン業界の中心にいる。
今振り返れば、とてもお粗末で薄っぺらなイメージだったと思う。
それでも当時の僕は、その未来を本気で信じていた。
実際に現実は少し違う形になった。
僕ら自身がポップコーン専門店を大量に展開したわけではない。
むしろ、ポップコーンブームに乗って店舗をオープンしたいという多くのお客様を支える立場になった。
機械と原料を販売し、レシピを開発し、店舗づくりをサポートする。
「ポップコーン王」とまでは言えないかもしれない。
それでも、あの頃に思い描いていた世界へ、一歩ずつ近づくことはできた。
イメージは、違う形ではあったが、現実になったのである。
2026年、FIFAワールドカップ。
ベスト32で日本代表はブラジル代表と戦った。
先制点を奪ったものの、惜しくも敗戦。
それでも、多くの日本人が寝ぼけ眼でその試合を見守っていた。
もしかしたら勝てるのではないか。
そんな夢を、多くの人が共有していたからだ。
僕がサッカーを意識し始めたのは1994年、奇しくも同じアメリカで開催されたワールドカップ予選の頃だった。
ドーハの悲劇。
あの頃の日本代表は、ワールドカップに出場すること自体が夢だった。
それが今では、ワールドカップ優勝を堂々と口にする選手が当たり前のようにいる。
僕は、その姿を見ながら、ふとポップコーン王を目指していた頃を思い出した。
一見すると、まったく違う話に思える。
でも、根っこは同じなのではないかと思った。
未来を先にイメージする。
そのイメージを本気で信じ、行動する。
その積み重ねが、現実を少しずつ変えていく。
そう考えると、一つの漫画の存在も見逃せない。
『キャプテン翼』をご存知だろうか。
高橋陽一さんによって描かれたこの作品は、今なお世界中のスーパースターたちに影響を与え続けている。
この漫画のすごいところは、登場する数々のスーパープレーだ。
当時は「漫画だからできる」と思われていたプレーが次々と描かれていた。
言ってしまえば、作者の大胆なイメージが物語全体に詰め込まれていたのである。
ところが、その非現実的に思えたプレーは、多くの子どもたちの憧れとなり、世界中のプレーヤーへと受け継がれていった。
もちろん、漫画そのままのプレーが再現されているわけではない。
しかし、当時は不可能だと思われていたようなプレーが、現実のピッチで次々と生まれていることも事実だ。
改めて言いたい。
そのイメージを生み出したのは、一人の日本人漫画家だった。
一人の頭の中にあった未来が、世界中のサッカー少年たちを魅了し、やがて世界最高峰の選手たちにも影響を与えた。
そう考えると、日本代表がワールドカップ優勝を目指すことも、決して無謀な夢ではない。
むしろ、その未来を描けるようになったこと自体が、日本サッカーの大きな成長なのだと思う。
規模はまったく違う。
それでも、ポップコーンの世界で未来を思い描いていた僕も、構造としては同じだった。
日本独自の食文化でもないポップコーンの世界で、「王になる」と本気で信じていた。
今思えば笑われてもおかしくない。
でも、そのイメージがあったからこそ、行動できた。
イメージがなければ、現実も動かなかった。
だから僕は今でも思う。
人は、自分が思い描いた未来以上の場所へは、なかなかたどり着けない。
今、僕らが目指しているものは、ポップコーン王ではない。
発酵という力を通じて、人を、社会を、そして地球を少しでも良い方向へ向かわせる存在になることだ。
10年前に笑われた夢が、少しずつ形になったように、今描いている未来も、きっと現実になる。
だから今日も、少し馬鹿げているくらいのイメージを描き続けたい。
誰かに笑われてもいい。
まずは、自分自身がその未来を信じること。
そこからしか、新しい現実は始まらないのだから。
ちょっと馬鹿げたイメージを共有し、未来を面白おかしく、そしてステキにしていく。
そんな仲間を、僕らはいつでも待っている。
誰もが『キャプテン翼』の子どもであり、ポップコーン王になる可能性を持っているのだから。