「本気の出させ方」「AIが進化した未来教育」「ダイバーシティ教育」さまざな質問にドワンゴ取締役夏野、TeachForJapan CEO白田氏が答えます!【イベントレポート】
「生徒に本気を出させるにはどうすればよいか?」という教育者なら一度は感じたことのある疑問から、「ネットやAIが進化した先の未来教育はどうなるのか?」という近年の教育業界を取り巻く流れを含んだ質問までが飛び出した今回のイベント。
最後は、プログラムを変更して、会場を巻き込んでの「ダイバーシティ教育は是か非か?」の白熱した議論にまで発展しました。
2017年10月30日にWantedly社にて、ドワンゴ取締役の夏野とTeachForJapanのCEO白田氏の教育業界を代表する2名(※1プロフィール詳細は別記)が「”質問力”の基本とは?」について語り合う、『EdTalk & Workshop Night』が開催されました。
良い質問には高級焼酎が振る舞われる!質問を考えることからスタート
N高等学校とWantedlyが主催する本イベントは、数名でグループをつくり、自己紹介を行い、夏野・白田氏に質問したい内容を考えるグループワークからスタートしました。
参加者は、学生・IT起業家・教師・NPO・ICT導入の専門家など職種も年齢もバラバラです。しかし、教育に熱い想いを持っている方々が集まったため、グループワークの段階から、熱気を帯びていました。
グループワークで質問をまとめると、Q&A大会にプログラムが進み、夏野・白田氏にその質問をぶつけていきます。
今回はお酒を片手に楽しむカジュアルなイベントだったこともあり、両氏が「これは」と思った質問をした方には、高級焼酎が振る舞われました。
一部の質問や両氏の回答内容をご紹介していきます。
生徒に本気を出させるのために大人ができることは?
会場から出てきた、「生徒に本気を出させるにはどうすればよいか?」という質問。
教育に携わる者であれば一度は抱いたことがある疑問かもしれません。
2人の回答はこういうものでした。
夏野: 「生徒が本気を出すためには2つのことが必要だと思うんです。まずは、興味が湧くこと。もう一つは、インセンティブがあることです」
夏野: 「興味は自然に備わっているものではなくて、湧いてくるものだと思っています。
例えば、授業で利用する歴史の教科書って全くおもしろくないと僕は思っています。教科書をただ読むだけでは年号と出来事の羅列でしかなくて、背景がないんです。ただ、『センゴク(講談社)』という戦国時代を題材にした漫画を読んだ後であれば、教科書のおもしろさが格段に変わってきます。織田信長の楽市楽座にはこんな背景があって、経済と戦争はつながっていたんだなって。
要は、時代背景などを知ったことで興味を湧き、歴史に対しての捉え方が変わるのです。
無駄話ばかりする先生の授業の方が面白かったという記憶を持っている人も多いと思いますが、これも同様です」
夏野: 「インセンティブはそのままですが、別に金銭的なものでなくてもいいのです。例えば、『この苦労を乗り越えれば慶應のSFCに入学できる』とかも立派なインセンティブになります。でも、僕もそうでしたが、めちゃくちゃ苦労して大学に入学した人は、その後に遊んだりするんですけどね(笑)
この本気を出させる2つのことを、現行の制度の中で最大限に取り組んでいるのがN高です。
現在の学校教育には、インセンティブの与え方がないのが問題だと捉えています」
白田氏: 「TeachForJapanは同じモデルを全世界で展開しています。
ひとことで言うと、活きのいい教育者を集めて、過疎地など厳しい環境に送ろうというモデルですね。
面白い事例があって、二桁の掛け算を授業で習った小学校3年の女の子に、『今日は何を勉強したの?』と問いかけて、返答によって先生が教えたことの自己認知の度合いがわかるというものです。
全然わかっていない子は『今日は勉強した』。
少しわかっている子は『算数の勉強』。
もっとわかっている子は『掛け算の勉強』。
先生の意図を理解した子は『二桁かける一桁の掛け算の勉強』と答えるのです。
さらに追加で『なぜそれを学んだの?』と質問をするのです。
この問いにより、今日学んだことがその子の人生にどんなふうにつながっているかまで、認識させることができているかを確認するのです。
この勉強、この学びが人生にどう役立つのかを先生が説明できていて、理解させることができれば、『これは必要だ』と本気で学ぶようになるんです」
白田氏: 「もう一つは、私が実際に経験した話です。私が小学校で教えているときに、勉強ができて空気を読んでそつなくこなせる、小3の『さっすー』という教え子がいたのです。
わずか9歳の子ども。もっと無我夢中でやることがあってもよいのではないかと不安を覚えました。そこで、何が好きかを尋ねたのです。
するとオリガミ好きと答えて、ロバートという海外のオリガミ作家の本を見せてくれました。1枚紙から手だけで折り上げるロバートのオリガミが好きだと言うのです。
そこで、さっすーの気持ちと質問を英訳し、その場でロバートにメールをしてみました。
『オリガミアーティストになるにはどうすれば良いか?』というさっすーの質問にたいして、ロバートから返信来たのです。『まずは日本のオリガミコンベンションに参加して、自分のオリガミコラムを読んで……』と小3のさっすーに対してロバートは本気で回答をしてくれました。
そこからさっすーは死ぬほどオリガミ折ったのです。学校の休み時間も学校が終わった後も。
この子は突き動かされるものに出会ったのだなと感動しました。
半年から1年後には、1枚の紙でロビンフットを折って見せてくれました。
ロビンフットってすごくないですか?
▲折り紙作品例
子どもに本気を出させるためには、やりたいことを理解して、それはめっちゃ面白いし、誰かのためになるかもしれないと価値付けしてあげることが重要なのです。
子どもがやる気を無くすときは、興味を持ってもしょうがないと思ったときです」
夏野: 「白田さんの話はまさにですね。子どもは大人と比べると時間があるし、恋愛とか余計なことに時間を使いません。だからこそ、子どもの興味が本気の大人に出会ったときに、化学反応が起こるし、ものすごく伸びるのです」
両氏の実例を交えた、興味深い話に会場のお客さんも大きく頷いていました。
質問者に高級焼酎が振る舞われながらも、Q&Aが進んでいきます。
ネットやAIが進化したときにどうなる?
質問は、テクノロジーやAIなど近い未来の教育の話題へと進みます。
夏野: 「まず、AIの前に日本の教育にテクノロジーが取り入れられてるかが疑問です。電子黒板は導入したけど、その電子黒板が立ち上がらなくて授業の半分が終わる。そんなことがざらに起こっています。これがまず問題ですね。
シリコンバレーから戻ってきた友人に話を聞くと、アメリカのテクノロジー導入に驚きます。
生徒一人に1台のPCが与えられ、ビデオ授業を見るそうです。三者面談ではティーチングをやめて、これからはコーチングをしますと言われるそうです。
一人ひとりの学習進度に合わせて、ビデオ授業をみて小テストを行います。もし理解度が低ければ、他の先生のビデオ授業を見せるのです。
教え方が上手くても、スタイルが合わない先生では理解が進まないからだそうです。
実際は、コーチングだとしても手間は掛かかります。
他にも、理科の実験などで失敗して次々にガラスが割れるような実験もビデオ授業なら可能です。そんな実験、実際の教室ではできないですよね。
教室でやるからこそ実体験として残るという意見もあるかもしれませんが、6人グループでひとつの実験をしても実体験としてはほとんど残りません。むしろ、グループの中で誰が『ボス猿』かとか『あの子と一緒で良かった』の方が気になってしまうのが子どもなのです。
ならば、本格的な機材が使えたり失敗実験が見せられる、ビデオ授業やオンライン授業はデメリットがないと思っています」
夏野: 「ひとつだけデメリットをあげるなら、人間同士トラブルが起こらないことです。実社会で人と喧嘩したりなどトラブルが起こることは大事だとは思います。トラブルは起これば起こるほど意味があります。
ただ、現在の教育の現場ではトラブルが起こると、先生が悪いみたいになってしまいます。ですから、寛容性がある社会でトラブルが起こるのであればオンライン教育よりもリアルな教育は良いとも思っています」
夏野: 「AIの話に移ると、AIは、機械的計算やメモリーは圧倒的に得意です。
正解がある問題を解くのも得意です。人の役割として今後重要になるのは、正解のない問題に対していかに自分の回答を見いだせるかです。
AIを使いこなせる人になるには、『イマジネーション』と『クリエーション』の2つの『ソウゾウ性』が重要になってきます。
AIなどを見据えた今後の教育は、ゼロから考えることメインにするのが良いと思っています」
白田氏: 「本当にそうだと思います。TeachForJapanでは、赴任してもらう先生に事前研修を受けてもらい現場に出てもらいます。そこでは『“先生”にならなくていいよ』と言い続けています。自分自身として教壇に立ち、自分の言葉で伝えたいことを伝えて欲しいと言っているのです。
今の日本の教育現場では、誰が教壇に立っても変わらない授業になってしまっています。要因は、なかなかその先生の個性を存分に発揮できない環境にあるからです。その結果、今の学校現場やっている教育は、AIに負ける教育になってしまっています。
自分が人生の中で経験した、美味しかった・楽しかった・すごかったなんでもいいのですが、人に話したい内容を自分の言葉で伝えることが人間的に大切だと思います」
夏野からの逆質問。ダイバーシティ教育は是か非か?
参加者の学生から出た、学芸大付属小学校で取り組んでいるという「生徒が生徒に授業をする教育方法」の話に対して、夏野から参加者に対しての逆質問が飛び出します。
夏野: 「学芸大の話は非常に興味深いと思います。ただ、それは子どもの学力レベルが高く、親も教育熱心である特定クラスタだから成立していることのようにも思えます。
僕は、もっとさまざまなクラスタの子どもが交じり合うダイバーシティ教育(※)が大切だと思うのですが、会場のみなさんはどう思いますか?」
※ダイバーシティ教育:
人間の多様性を認め、他者を尊重する。平均値より多様性を。
さまざまな人がいる社会で活躍するためには、 自分とは異なる他者を受け容れ尊重し、共に歩む力が求められます。また、何か一つ強みを持っていることが大事です。自分の得意なモノは何かを知っている、また知ることができる。それがダイバーシティ教育です。
参加者の女性教員:「ちょうど話に出ていた、学芸大学付属で学んで大人になりました。興味を喚起するような恵まれた授業を受けることができたので、個人的にはありがたかったと思っています。反面、社会に出てからは、近い価値観を持つ人に囲まれた狭い世界だったなと思うようにもなりました。公立高校などに出張授業で伺うと、経済的な事情を抱えていたり、変わった価値観を持っているさまざま生徒に出会います。だからこそ、もっとコミュニティが循環する仕組みができるならばダイバーシティは良いと思っています」
夏野の問いに対して、参加者を巻き込んでの議論が繰り広げられ、
タイムテーブルを変更してこの問題をみんなで話し合いました。
参加者のフランス語教員: 「私は、私立の超進学校から偏差値38の高校に赴任したフランス語教師です。両方で教えた経験から言えば、偏差値が70の子も38の子も一緒に教えるのは面白いと思います。偏差値が低い子は、中学校までの現在の日本の教育が合っていないだけなんです。
偏差値が38の学校でフランス語を教えると言うと、『英語もままならないのに』と言われますが、英語ができることとフランス語には関係がありません。英語ができないフランス人だっていっぱいいると思います(笑)実際、英語できない子でもフランス語に興味持ちますし、フランス語のスピーチ大会にも参加します」
教育への意識が高い参加者が多いこともあり、ダイバーシティには概ね好意的な反応が返ってきました。
白田氏: 「クラスタを分けて教育をしたとしても、学校を卒業してからもずっと別々の社会で暮らしていけるわけではないのです。ですので、小学校や中学校からダイバーシティ教育ができれば、仲間はずれが生まれない社会ができると思います。大事なのことは、全部を先生がやる必要があるのではなく、生徒を頼り先生はコーディネートをしていくことではないでしょうか?」
夏野: 「ダイバーシティ教育なども含めて、N高はチャレンジを進めます。義務教育という制度の壁は大きいと思います。ですからまずは高校教育からスタートしました。50万人、100万人と今後拡大していくことで、制度の部分にも切り込んで行けることを目指しています」
一部のプログラムを変更して盛り上がった『EdTalk & Workshop Night』は、なごやかな雰囲気の懇親会にプログラムが進み、大盛況で終幕しました。
さまざまな属性の参加者が、おのおのの視点から教育について考え、議論した
『EdTalk & Workshop Night』。参加者のみなさんにとって、普段の職場だけでは生まれないつながりやインプットがあったイベントになったのではないでしょうか。
《※1 登壇者プロフィール》
ドワンゴ取締役/慶應義塾大学政策・メディア研究科特別招聘教授 夏野 剛(なつの たけし)
1988年早稲田大学政治経済学部卒、東京ガス入社。95年ペンシルバニア大学経営大学院(ウォートンスクール)卒。
ベンチャー企業副社長を経て、97年NTTドコモへ。
99年世界初の携帯電話を利用したインターネットビジネスモデル「iモード」サービスを立ち上げ、
2001年ビジネスウィーク誌にて世界のeビジネスリーダー25人の一人に選出される。2005年ドコモ執行役員、08年退社。
現在は慶應大学の特別招聘教授のほか、ドワンゴ、トランスコスモス、セガサミーホールディングス、グリー、DLE、
U-NEXT、日本オラクル、Ubicomホールディングス、クールジャパン機構などの取締役を兼任。
経産省・IPA 未踏IT人材発掘育成事業統括プロジェクトマネージャーや、各省庁の委員会の委員、審査委員等も務める。
認定NPO法人Teach For Japan 代表理事CEO 白田 直也(しらた なおや)
早稲田大学卒業後、楽天株式会社に入社。新規事業部にて新人賞を受賞。
教育関係者と民間人との交流を促進するイベント企画団体「homeroom」を主宰。また日本国内の児童養護施設の
課題解決やオルタナティブ教育の可能性に関心を持ち、団体の立ち上げ等活動を始める。
2012年 Teach For Japan の第一期フェローとして、奈良県の公立小学校に赴任。
2015年4月、フェローの任期修了を受けて団体の採用選考担当・研修担当を務める。社会起業大学主催
ソーシャルビジネスグランプリにてコントリビューション大賞を受賞。『全国教育者会議 KES』ほか講演歴多数。