ナチュラルプランツは、2003年にブランド設立以来、様々な商品を開発し、独自の『セクシャルヘルスケア』という市場を創造し続けています。
今回は、私たちが新しい市場を創造し、ブランディングを実践する中で培ってきた知見をご紹介していきます。マーケティングやブランディングの仕事をされている方にとって実務のヒントにして頂けましたら嬉しいです。
実践事例を公開する背景
実は、ずっと抱え続けている問題があります。
それは、『取引先様にこのブランドのことを説明しても、すぐに理解してもらえない』のです。
特に男性にはアダルトのイメージを最初に強く持たれてしまい、それを払拭できず、どうしてもその後の仕事での考え方のズレが起こってしまいます。
・なぜかアダルトなキャッチコピーばかり提案される
・類似品の広告と似たようなクリエイティブやLPが出来上がる
・独自性を理解してもらえず、運用しても成果につながりにくい
この問題がブランド設立以来、ずっと解決できないのは、ズバリな理由があります。
実は、そもそも『LOVECOSME』のブランド設計図に、そのようになってしまう仕組みがあるからなのです。
それはある意味、ブランドとしてのメリットでもあり、デメリットでもあります。
そこで今回、わたしたちが行っているブランディングの手法を紹介させていただくことで、この記事を読むだけで素早くブランド理解を進めてもらえるようにしていきます。
そして、ブランド戦略に興味ある方には、独自のマーケティング理論や実践の中で得た知見をお伝えして、少しでもみなさまの参考になれればと思っております。
今回は、マーケティングの基本戦略であるSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)を定めるプロセスをお伝えします!
1)「セクシャルヘルスケア」というコンセプトを生み出した背景
『LOVECOSME』というブランドが生まれたのは、2003年。
当時の日本は、まだセクシャルなことを今以上に隠す社会で、『アダルトグッズ』『大人のおもちゃ』というようなものを簡単に買うこともできませんでした。
欧米ではドラッグストアで気軽に買える不感症用商品や性交痛用の潤滑ゼリーなどの商品も、なぜか日本ではアダルト扱いになってしまい、簡単には手に入らなかったのです。女性の体にとって必要とされるそれらの商品が、どうしてか恥ずかしいものとされていました。
これは日本のセクシャルなものを隠す風習なのか、それとも間違った性教育の結果なのか、必要なものが必要な人に渡らない世の中でした。
そして、当時から少子化や離婚増加、セックスレスなどが社会問題となっており、ますますこの分野の需要は高まるはずだと感じていました
このままこの閉ざされた市場を放っておいては、「日本のためにいけない、女性のためによくない!」、「誰もがこれらの商品を、恥ずかしくなく普通に買える世の中にしなければならない」そう思ったのです。
当時のマーケットの状況
・世の中は大人の玩具しかない(グロテスクな商品ばかり)
・ドラッグストアでも性交痛や不感症のアイテムの棚がない
・そもそも普通に買えるセクシャルなアイテムの市場が日本には存在しない
・コンドームを買うのも恥ずかしいから、グッズなんて絶対に買えない
そこで、インターネットを利用してどのようにブランドを展開していけばいいのかを考えました。わたしたちが提唱した『セクシャルヘルスケア』という新しい市場を創造していこうと、初期のブランド戦略を練っていきました。
当時、この閉ざされた市場の中でブランドを育てていくために、どのような戦略を練っていったのかをご紹介します。
2)セグメンテーションにて市場を創造する
まず、当時の『アダルト市場』をみると、ラブグッズなどは黒色の見た目もグロテスクな商品ばかりで、ショップも入るのだけでも勇気がいるようなお店ばかりでした。ここの市場に新ブランドで打って出ても、おそらくこのグロテスクな枠内から飛び出すことはできず、女性にも永遠に買いにくいブランドになってしまうと感じました。
不感症や性交痛などの『お悩み系の市場』をみても、ドラッグストアの片隅でひっそりと1~2アイテムしか販売しておらず、コンドームと同じ扱いを受けておりました。ここの分野から市場参入をしても、それコンドームと同じ扱いで、それ以上は拡大していくことは難しい状況でした(今でもドラッグストアの棚割りはそうなっています)。
一方、保湿ローションなどを販売している化粧品市場を見ると、どんどん拡大をしており、その市場規模の大きさからも将来性を感じました。しかし、この市場は当時から競合コスメブランドが多く、後発で参入をしても勝ち残っていくことが難しい状況でした。
そこで、まずはマーケティング手法の中のセグメンテーションを考えてみました。
セグメンテーションとは
市場を細分化して、その中でどこの分類に入るかを決定します。いわゆる、どこで商売をするのかを規定します(市場の明確化)。どのカテゴリーに属するのか、どの領域を自社のブランド領域とするのかを決めていきます。同時に対象市場が決まると、どのブランドと競合関係になるのかも規定されます。
通常のセグメンテーションは、マーケットセグメントツリーなどを使って、市場を区分けしながら、競合が存在しない場所を狙っていくのですが、それだと既存市場の中に囚われてしまいます。
こちらは一般的なセグメントツリーの図です。
今回のパターンで考えると、『アダルト市場』や『化粧品市場』の中での区分けでは、どうしてもその枠内で活動することになります。また、競合も多くなり、そのマーケット内での市場シェアを取り続けることは難しいのです。
そこで、今回のセグメンテーションにおいては、まったくの新しい市場を創造するような手法を行いました。
それが、『アダルト』と『コスメ』の中間に新しい『セクシャルヘルスケア』という市場を創造してしまおうという視点です。
『アダルト』の競合会社から見ると、『コスメ』の市場にいるブランドに見えます。『コスメ』の競合会社から見ると、『アダルト』の市場にいるブランドに見えます。
直接の競合がいないような状況を作り出し、オンリーワンのブランドを作り出すことを目指しました。
実際に、その後の商品開発においても、
『アダルト』商材は、できるだけ『コスメ』のように販売する
『コスメ』商材は、できるだけ『アダルト』のように販売する
という具体的な表現手法を実践します。
たとえば、人気コスメである『キス専用美容液 ヌレヌレ』や『ベッド専用香水 リビドー』は、コスメというよりもよりセクシャルな印象を強く押し出すような商品設計をしています。
そして、ラブグッズ商材は、まるで美顔器のようなキャッチコピーや広告素材を使って販売を行っています。
これらは、お客様にラブグッズを買いやすくしたり、コスメには恋愛シーンでワクワクしてもらうということ感じてもらいながら、市場としては独自の空間を創造し続ける役割を担っています。
セグメンテーションにて、新しい市場を創造することで、簡単には直接競合を作らせないような取り組みを推進していきました。
セグメンテーションのポイントまとめ
①既存市場の特性を理解する
②関連市場を組み合わせながら「新」市場を探る
③直接競合が生まれない市場を発掘・定義する
3)ターゲティングで顧客を絞らない
セグメンテーションでオンリーワンの市場を作り出した後に、次に手をつけたのがターゲティングです。
ターゲティングとは
ブランドのコンセプトを最も受け入れてくれる顧客像を描くこと。
まったく新しい市場を創造したとしても、そこにターゲットが存在しないと、ビジネスとして成り立たなくなります。当初はデモグラフィックを用いて設計しようとしたのですが、それがこのブランドにおいては間違いであることに気づかされました。
デモグラフィックとは
性別、年齢、家族構成、職業、居住地などの人口統計に関する情報。一番効果のある分野を絞り込むターゲット・マーケティングの手法のひとつ。
実際に弊社の商品を購入していただける方は、『20代の独身で、恋愛に悩んでいて、仕事をしていて、セクシャルなことに少し積極的な女性』というような位置づけをしていました。
しかし、実際にターゲットを深く理解しようとして実施した購入者への『デプスインタビュー』にて、その考えが覆されたのです。
デプスインタビューとは
定性調査の手法の1つで、対象者とモデレーターが“1対1”でインタビューする調査手法。本人さえも気がついていない深層意識の中にあるニーズや要望を聞き出し、商品開発や販売に役立てる。
インタビューに来ていただいた女性が、ことごとく属性が違う方々だったのです。年齢も、服装も、職業も、そして趣味嗜好も。インタビューにてどれ1つとして共通項が見出せませんでした。『ターゲットはこのような方』として1つのまとまりとして捉えることがまったく出来なかったのです。
それ以来、デモグラフィックでターゲットを絞り込むことはできず、社内ではターゲティングにおいてデモグラフィックは使用しないとして決めました。
そこで、ターゲティングにおいては、『オケージョン』だけを見ていくという方針に変更しました。
オケージョンとは
「場面や機会」という意味で、商品を体験する具体的な生活場面を決めます。お客様が最も商品を欲しくなる瞬間、最も商品を買いたくなる瞬間をオケージョンとして規定していきます。「いつ」「どんな場所」「どんな状況」「なぜ?」でなどのシーンやきっかけになります。
ターゲットは誰ということを規定せずに、ただ欲しくなる瞬間だけを規定し続けることで、よりブランドとして取り組むべき商品のソリューションが明確になっていきました。
●誰が欲しいのかを考えず、どんな瞬間に欲しくなるのかを考える
●誰が買うのかを考えず、どんな瞬間に買いたくなるのかを考える
この手法に特化していくことで、より多くの層にアプローチができるようになっていきました。実際にご購入されている年代は、10代から70代までと本当に多くの年代にまたがっています。
セクシャルな悩みというのは、どの年代にも共通して存在するもので、それを絞ることなく、多くのお客様に使ってもらえるようにしています。
デモグラによってターゲットをあえて絞らないことによって、ブランドとしての奥行が増し、さらに商品開発にも枠に囚われない自由度を獲得することができました。
オケージョンを商品開発で重要視することで、
●ベッド専用香水
●キス専用美容液
●ラブタイム直前の保湿液
●アンダーヘア用トリートメント
など、通常のコスメとはまったく違った価値を生み出す商品を発売できるようになったのです。
ターゲッティングのポイントまとめ
①デモグラでのターゲティングに捉われない
②オケージョンを軸に商品コンセプトを考える
4)ポジショニングで競合を作らない
セグメンテーションで市場を創造し、オケージョンを軸に商品開発の方向性を決めた後、次に練ったのが『ポジショニング』です。
ポジショニング
ターゲットにブランドイメージをどのように位置づけるのかを決めること。「なぜ、その商品を買うべきなのか?」のお客様の質問に、わかりやすく説得力のある説明を作り上げる。
このポジショニングで取り組んだのが、徹底的な『差別化ポイント』でした。差別化とは、企画や商品のオリジナリティを出すことです。弊社では、『自社ができて、他社ができず、お客様の求めているもの』としています。
ここで行ったのが、他社商品と比べられないようにする工夫です。『LOVECOSME』は『LOVECOSME』であって、その他のものではないという位置を作ることです。
商品開発での原料や製法から、商品の打ち出し方なども、できるだけ他社商品と比較されないような企画をし続けました。
具体的にはセグメンテーションで市場を創造したのと同じように、コスメはコスメとして販売せず、バイブはバイブとして販売しない工夫を常に重ねたのです。そもそも、その商品がどのようなものなのかの意識をズラすことで、お客様にとって独自の位置づけを獲得できるような方法を取りました。
これは効果があり、当時『使用している化粧品の調査』を独自に行ったときに、『LOVECOSME』ブランドの所持率は0%でした。しかし、実際にコスメポーチの中身の確認を行うと、『LOVECOSME』商品が一定数ポーチの中に入っていたのです。
つまり、「このブランドは持っているけど、この商品は化粧品ではない」というお客様の共通認識が出来上がったのです。商品としての種別はコスメではあるのですが、お客様はコスメと思っていない。この独自のポジションを獲得することで、化粧品の競合他社との競争から抜け出せることができました。
デメリットとしては、お客様もこのブランドがどんな分類なのか分からなくなります。そのため、このブランドに対して共通した認識を持てず、取引先でも説明しても理解されにくい状況を作り出されてしまいました。
これはメリットでもありますが、今でも解決できないデメリットのままです。
このポジショニング戦略によって、さらにオンリーワンのブランドとしてお客様に認識されるようになりました。
ポジショニングのポイントまとめ
①自社ができて、他社がせずに、お客様の求めるものを見つける
②独自の位置づけを獲得させるために差別化を徹底させる
③競合と比べられないようなポジションを作り上げる
5)3つの基本戦略STPのまとめ
今回、2003年にブランド設立時の初期ブランディングを進める上で使った、3つの基本戦略(STP)をお話しました。
これはマーケティングの基本的な設計図であり、ブランド運営において大切に守っていくものとして、今でも変わらずに社内で活用されています。
マーケティング基本戦略STPの考え方を再度まとめます。
1)セグメンテーション
今回のブランドにおいて、お客様の範囲、お客様から比較される競合の範囲を決める(領域を決める)
2)ターゲティング
自ブランドのコンセプトを最も受け入れてくれる顧客像を描く。
3)ポジショニング
ターゲット(お客様)から見て、競合との違いを明確にする
ブランドとお客様を繋げる設計図として、この戦略をしっかり作り込むことで、相互で価値を交換するときの理想像を描くことができます。
マーケティングの原点は、「双方が満足いく交換」です。
自ブランドとお客様が『理想的な交換関係』を築くことは、そのブランドが発展する礎となります。
実際に、『LOVECOSME』ブランドが設立以来、この変化の厳しいビジネス環境の中で、ずっとお客様から支持をいただいている理由は、最初にこの設計図を作り、それをもとにずっと変わらずに今も運営しているからかもしれません。
新しい市場を創造し、お客様も既存の概念で絞らず、さらにそれを使って圧倒的な差別化を行うことで、オンリーワンのブランドへと育っていきました。
しかし、ビジネス環境はずっと同じではありませんでした。弊社の作る商品がコモディティ化されてしまう波に飲み込まれてしまうのです。
コモディティ化
市場参入時に、高付加価値を持っていた商品の市場価値が低下し、一般的な商品になること。
コモディティ化に関しては、下記noteをご覧ください。
ナチュラルプランツはnoteでブランディング・マーケティング戦略を公開しています。
ぜひご覧くださいませ。