最初に、事実だけ言う。
子どもがいる。 生活がある。 それでも80万円を払った。 年収を半分にした。 それでも、来た。
これは、うちのメンバーTの話だ。
出会いは、転職支援だった。
Tとはもともとキャリアのことでつながりができ、定期的に会う関係が続いていた。
俺はその頃、別の会社でコーチングも提供していた。でも、Tにその話をしても特に反応はなかった。「へえ、そうなんですね」くらいの温度感だった。
それから数ヶ月後、Tから突然メッセージが来た。
YouTubeのURLが貼ってあった。
「高野さん、これって高野さんのコーチングの会社ですか?」
そうだと答えると、次のメッセージが来た。
「高野さんの脳みそをゲットするために、ここのコーチングスクールを受講します。」
俺が驚いたのは、理由じゃない。
コーチングをやりたいわけじゃない。資格が欲しいわけでもない。
ただ、俺の思考回路を手に入れたいから80万円を払う、と言ってきた。
子どもがいる。別にめちゃくちゃ余裕があるわけでもない。それでも、だ。
「すごい」と思った。でも正直、驚きより先に別のことを感じた。
「合理的に考えたら、絶対にやれない行動だ。」
スクールを受講して、途中でやめることはできない。80万円を払った事実は消えない。それでもやると決めた。この人間の本気度が、数字で見えた気がした。
スクールの途中で、連絡が来た。
「高野さんのもとで働かせてください。」
「ようやく、力になれるようになりました。」
そして、年収を半分にして来ると言ってきた。
俺は迷わなかった。即答した。
「育てた」とは思っていない。
Tが来て1年で、自分で事業を立ち上げ、事業責任者になった。
でも俺は、「育てた」という感覚が全くない。
Tが勝手に育った。正確に言うと、最初からそういう人間だった。ただ、場所と環境が揃った。それだけだ。
俺がやっていたのは、土日に数ヶ月に一回会うことだけだった。キャリアの話をして、フィードバックをして、また次まで待つ。それだけ。
見返りなんて考えていなかった。正直、採用を考えていたわけでもなかった。ただ、この人間は本物だと思って時間を使っていた。
それが、こういう形で返ってきた。
「合理的にやれない行動が、こういう形で返ってくる。」
この経験が、今の俺の組織づくりの根っこにある。
俺が一緒に働きたい人間の話。
スペックじゃない。学歴でも、経歴でも、営業成績でもない。
一つだけ見ている。
本音で生きているかどうか。
自分の心の声がわかっているか。言っていることとやっていることが一致しているか。誰かに見せるための言葉じゃなく、自分の本音から動いているか。
Tがそうだった。80万円を払うという行動が、全部を物語っていた。言葉より先に、行動で見せてきた。
うちに来る人間に、華やかなキャリアは求めていない。でも、本音だけは絶対に持ってきてほしい。
最後に正直に言う。
move onは、まだ小さい会社だ。創業期で、キャッシュフローも、しんどいことは山ほどある。
それでも来てくれる人間がいる。年収を半分にしてでも来る人間がいる。
それは俺が「いい会社です」と言ったからじゃない。高野という人間と、この組織の本気度を見て、自分で決めてきた。
そういう人間が集まる組織を作りたい。
リクルートのように、ここを卒業して羽ばたく人間を出したい。そして卒業した後も、「move onにいて良かった」と言える場所にしたい。
それが俺の、組織づくりの答えだ。