1
/
5

ヤマハの新製品の映像を作ったら、もはや映画になったから見てほしい

クリエイティブエージェンシーのmonopoは、楽器/オーディオメーカーのヤマハ株式会社(以下、ヤマハ)とお仕事をはじめて、2年近くのお付き合いになりました。

今回は、ヤマハの新製品「Sound bar」「AV Receiver」のプロモーションムービーがとてもカッコよく作れてしまったので、その紹介と共に、完成に至るまでの波乱万丈な道のりについて話をさせてください。

まずは上記映像(30秒程度)をご覧ください! ヤマハ製品だけに、音にもこだわっています。
できればイヤホンを着けてのご視聴をお薦めします。


動画を観賞できる環境にいない方のために、キャプチャでも簡単に紹介します。

室内に設置された壁掛けテレビと、その手前に置かれたヤマハのサウンドバー。

カメラが近づいていくと、壁が倒れて映像の中に入り込んでしまいます!

画面の先はまさかの森林地帯で、銃撃戦に突入!

上空に敵の母艦と思われる巨大な宇宙船が現れます! 絶体絶命!

と、思ったところで元の世界に戻ってこられました。
OUT OF THIS WORLD SOUND.AT HOME.
というメッセージが出て、冒険はおしまい。


実はこの映像、「まったく別の実写映像をつくる予定があったのに、コロナ禍で全てポシャって、そこから立て直して完成した」という壮絶な背景があります。

一度は出演者まで決まった実写企画をすべて諦め、ゼロからフルCGのプロモーション映像を作る。しかも、通常なら5〜6カ月かかるものを、たった3カ月強で。

この映像にまつわる裏話を、ヤマハの加藤剛士さん、森美樹さん、monopoのプロデューサーである田中健介から聞いてみると、信頼関係があるからこそできた思い切った決断と、クリエイティブに対して妥協しない二社の姿勢が見えてきました。

(左)森 美樹さん:ヤマハ株式会社 マーケティング統括部 広告宣伝グループ
(右)加藤 剛士さん:ヤマハ株式会社 マーケティング統括部 広告宣伝グループ
田中健介:monopoのプロデューサー。
ヤマハ、JAL、資生堂、Johnson & Johnsonをはじめとした
グローバルブランドのプロジェクトを担当する。
デジタル領域に軸足を置き、Webサイト、グラフィック、動画など、
プロジェクトに合わせて幅広いプロデュースを手がけている。

別の方法で、同じ山の頂上を目指す

──コロナ禍の真っ最中、フルCGでの制作となった本映像ですが、まずは改めて経緯を聞かせてください。

加藤:もともと企画していた実写での撮影が3月末に予定されていましたが、4月初旬までスケジュールがずれ込んでいて、その間にもコロナのリスクは高まっていました。「どうしようか」とヤマハ社内で検討を重ねていたら、4月8日に日本アドバタイザーズ協会から「撮影の配慮をお願いします」と要請が出た。これはもう実写撮影はできない、プランを変えるしかないということになり、翌日にはmonopoさんに連絡を入れました。

森:コンセプトは非常に素晴らしかったので、そこは変えずに、別の方法で同じ山を登れませんか、と検討をお願いしました。そうしたら1週間後にはmonopoさんから修正案をいただけて、スピード感を持って動くことができました。

田中:リモートでの実写撮影も考えたのですが、当時は遠隔での撮影ノウハウが今ほど整っていなかった。だから思い切って、実写撮影を伴わない制作、つまりすべてCGでゼロからビジュアルをつくる方法に切り替えました。

加藤:名言があったよね? 田中さんの。

森:そうです、そうです。「アイデアとクリエイティブの力でこの状況を乗り切っていきたいと思います」というメールをいただいて、すごく心強く思ったのを覚えています。

田中さん:今思い出しました(笑)。とはいえ、一度つくった見積もりもゼロベースになるので「やばいなあ」と深刻に悩んではいたんです。ただ、こういう状況を打破するとしたら、やはりアイデアやクリエイティブの力に頼るしかないというか。なので、いろんな人と相談しましたし、そこから生まれたフルCG企画でしたね。

──フルCG制作に切り替えたことで、映像内で伝えるメッセージに変化はありましたか?

田中:「Feel truly, at home.」が今回のCMのクリエイティブコンセプトですが、これは実写案のときから変わっていませんね。“truly”は「本物の」とか「真実の」という意味で、まさにそういう音を家で感じてほしい、と。

森:そうですね。ヤマハが作った「Sound bar」と「AV Receiver」は、テレビにつないで音質や迫力を向上させ、音を最適化し映画館のようなサウンドを家で楽しんでいただくものです。でも、テレビからも音は一応出ますし、今回の製品は安くても2万円。これを買っていただくには、数万円のお金をかけてでも導入する価値があると思ってもらえるメッセージを打ち出す必要がありました。

加藤:音によって体験は変わるのですよね。人はなぜ野球を観るのにテレビではなくわざわざスタンドに行くのか。音楽はスマホで聴けるのに、なぜわざわざライブ会場に行くのか。それは、生の音に魅力を感じ、360度音に囲まれた体験をしたいからなのです。それと同じ価値があることを伝えたいです、と、田中さんにお伝えしました。

田中:実際に製品を体験させてもらうと、家での視聴体験の概念が覆りましたね。コンテンツの良さを最大限に飛躍させて、家にいながら没入できるのがこの製品の提供価値だと思いました。そこから「Feel truly, at home.」をコンセプトに、映像やWEBサイトを作っていきました。

制作途中の敵の戦艦。最初はモノクロのCGで描かれています。

──急きょCGへ方向転換する中で、キャスティングの変更も大変だったのではないでしょうか?

田中:そうですね。ただ幸いにも実写撮影でアサインしていた監督はハリウッドでもCGディレクションなどを経験していて、CG制作に知見と経験がある方だったんです。監督からは「CGに切り替わっても全然できるよ」という気持ちの良い返事をいただいたので、彼を起点として企画のコンセプトは変えずに進められました。

加藤:監督さんの過去のCG作品も事前に拝見しましたが、本当に映像がきれいで、実写ではできないことまでやっているのが見えました。ですので、フルCGに振り切るリスクはありながらも、不安はなくOKできました。

田中:CGの世界はより自由度が高いので、むしろ製品の魅力を表現するのに相性が良かったように思います。視聴体験のアップデートを現実よりさらにリアルに感じられるものになったかなと。

森:もともと、今回のプロジェクトの目的は「Sound bar」と「AV Receiver」の広告コミュニケーションを再定義して、顧客視点で発信することでした。だからこそ、monopoさんの自由な発想が発揮いただける良い案件になったかなと思います


チャレンジの連続だった、前例のないフルCGでの映像制作

──コロナ禍真っ最中の制作となりましたが、作業はすべてリモートで行ったのですか?

田中:そうです。監督はカナダ人、CGアーティストはイタリア人で、さらにその下で動いてもらっている方がたくさんいます。東京にいない方や、外国から参加する方などさまざまです。海外アーティストと組むのはmonopoでは日常的なことなので、コロナ禍以前からリモートでの制作も慣れていました。

森:私たちとmonopoさんも、お会いしたのは最初のオリエンテーションの頃だけで、あとはすべてリモートでしたね。

加藤:本社が静岡県浜松市にあるので、私たちもコロナ禍以前は出張も多く、逆にご足労いただくことも多かったのですが、リモートが当たり前になってからはお互いに利があるように感じていますね。

──実際にフルCGでの制作が始まってからはいかがでしたか?

森:社内調整と実際の制作プロセスが、弊社にとっては非常にチャレンジングでしたね。

加藤:そうそう。実写撮影と違って、CGは納品直前までずっとハリボテなんですよ(笑)

田中:おっしゃるとおりで、CGは一度作りあげてしまうと、そこからの修正にめちゃくちゃ時間がかかるんです。なので色をつけたり繊細な動きを入れたりする前の、アニマティック(※)の段階でチェックをすごく入念にやるんですよね。

※アニマティック:「動く絵コンテ」とも言われる、CG映像制作の初期段階において、
各シーンを簡単に映像化して、概要を検討するためのもの。
色は無く、人もカクカク動く、低クオリティなCGで表される。

森:発売時期が迫っているのにいまだにコンテのような状態を上司に見せると「大丈夫か!?」と不安がりそうなので、途中経過は見せずに、「万事OKです!」という報告だけをしていました(笑)。

田中:それは初めて聞きました(笑)。お二人とも大変お手数をおかけいたしました。

加藤:いえいえ。弊社内でもあまり前例のない制作だったので、途中経過だけで不安にさせるのはもったいないと思ったんです。一発目で良いものを見せるのが大事ですし、「このリアリティのある映像、全部CGなんだぞ」と言いたかった。

──CGならではの工夫やこだわったポイントはありますか?

加藤:リアリティの追及はかなりお願いしましたね。CGを言い訳にしてはいけないと思ったので、ギリギリまで調整を重ねました。

田中:CGは細かい部分まで作り込めるので、妥協せずに現実世界に近づけました。また、今回の製品はグローバルに発売されるので、欧米の世界観でも違和感のないように意識しています。例えば、映像内で使うテレビの大きさは日本基準ではなくて、アメリカの基準を採用したり。

森:「絶対55インチ以上です」と何度も田中さんに言った記憶があります(笑)。

加藤:あとは「クリエイターが意図した音がちゃんと聞こえる」という魅力も伝えたいとお願いしました。「AV Receiver」の上位モデルでは、最大24種類の音場(※)プログラムを選択できるほか、AIが視聴するコンテンツのシーンを自動的に分析し、最適な音場効果を創出する機能が搭載されています。それは実際に音楽ホールの設計まで携わり、音の入口から出口までを担ってきたヤマハだからこそ、できること。そんなメッセージを伝えたかったんです。

※音場:音質や音の広がり具合から部屋のサイズをとらえること。
音場プログラムによって「スポーツ」や「教会」「ホール」など、その場にいるような音質に変化させることができる。

田中:そういった製品価値を視覚的に伝えられるよう、WEBサイトや映像の演出にもこだわりました。ムービーでは大きな爆発音から風の通るかすかな音まで、すべてのサウンドをこれひとつで最適化できる魅力が伝わるように意識してつくっています。


両社の共通項は、「熱」だった

──ヤマハさんは今回のプロジェクトを通じて、monopoの制作スタイルに対してどのような印象を持たれましたか?

森:これまで我々はわりとメーカー視点でターゲットやコミュニケーション手法を考えていたのですが、monopoさんは徹底的な顧客視点で考えてくださったので、「こういう視点でターゲットを定義するのか」と新しい気づきがたくさんありました。今までの視点とは違うストラテジーとコンセプトをもって製品のことを考えてくださって、すごく嬉しかったです。

加藤:「再定義」というのでしょうか。我々が当たり前だと思っていたことをまったく違う側面から定義し直して前提を変えてくれるところがmonopoさんの強みだと思います。やはり最初の企画や定義がしっかりしていると、最終的なクリエイティブも絶対的に差が出てくるのですよね。今回、monopoさんにお願いをしたのはただ動画を制作するだけではなく、新たな視点を含めた定義のお話を期待していたからでもあるので、しっかりコミットいただけて大変ありがたかったです。

田中:ヤマハさんがプロダクトやブランドに対するこだわりを明確に持ってらっしゃるからこそ、熱のあるものができると感じています。ディスカッションをするときも、お互いに思っていることを本当にぶつけ合うんですよね。「これをクライアントに言うのはいかがなものか?」と思うようなことを僕らは躊躇なく言ったりしますし、それに対してヤマハさんも120%で返してくださる。お互いのこだわりは明確にあれど、この2年間お取り組みさせていただく中でその呼吸感は合ってきているのかな、と思います。

加藤:今後も、例えばプロダクトを作り変えたら「こんなにいいものができそうなんだけど、この価値ってそもそもどう解釈していったらいいかな?」なんてことを相談できるパートナーとして、monopoさんとお付き合いできればと考えています。

田中:ありがとうございます。商品や企画の随所まで見てくださるヤマハさんのプロフェッショナリズムは本当にすごいなと思いますし、いちクライアントとエージェンシー、という立ち位置ではなく、プロダクトに対する共通視点を持ったパートナーとして今後もお手伝いできれば嬉しいです。

monopoとヤマハが挑戦した前例のないフルリモート・フルCGでのCM制作。手法は変われど、両社の変わらない熱意とブレないコンセプトづくりの結果、最高のクリエイティブを生むことができました。

どんな困難な状況も、アイデアとクリエイティブの力で打破できる。それは、多様なチーム作りで最高のクオリティを目指すmonopoだからこそ、胸を張って言えるメッセージです。


執筆:広瀬 唯、カツセマサヒコ 編集:長谷川賢人

株式会社monopo Tokyo's job postings

Weekly ranking

Show other rankings
Like Yuka Isaka's Story
Let Yuka Isaka's company know you're interested in their content