CREATIVE BRIDGE
バイリンガルのプロデューサーが橋渡しとなり、ブランドの グローバル戦略、広告、クリエイティブ、デジタル・Webマーケティング、デザイン、海外進出・海外広告・ローカライズ・越境ECを実現するサービスです。
https://monopo.co.jp/bridge/
(この記事はカツセマサヒコさんに執筆していただいたnoteの記事より転載しています。)
取材のオファーを受けるまで、monopoというクリエイティブカンパニーを知らなかった。GOなら知っている。CHOCOLATEも知っている。カラスも聞いたことがある。でも、monopoは知らない。
不勉強を恥じながら広告業界の友人に同社のことを尋ねてみると、「もちろん知っている」と答える。
調べてみると、創業8年目にして、制作実績にはadidas、CANADAGOOSE、JIMMY CHOOといった超ビッグネームが並ぶ。カンヌライオンズ2018日本代表をはじめ、国際的な広告賞も複数受賞していた。これまで知らなかったことが意外なほどに、華々しい実績だ。
業界内では有名だが、世間的にはそこまで知られていない。
SNSで「注目を浴びることが全て!」と叫ぶ人もいる時代において、monopoはひたすら黒子となって、多くのクライアントから信頼を得てきたのだろう。
“知る人ぞ知る、クリエイティブの名店”
ーーそれが私の抱いたmonopoイメージだ。
monopoは代表の佐々木芳幸と岡田隼が学生時代に立ち上げた会社だ。早稲田大学で出会い、共にプロミュージシャンを目指していたが、企業の営業代行を受託していくうちに、ビジネスの道に進むことになる。
Facebookが流行すると感じれば、Facebook用の懸賞アプリを作った。それが鳴かず飛ばずで終わった後は、受託仕事をひたすらこなした。気付けば来年で創業9年目。今では大手企業のブランド戦略立案からムービー制作まで、幅広い業務を担っている。
バンドでいうベースやドラムのように、黒子に徹してきた彼らだ。国際的なクライアントを相手にこれからも下支えをしていくのかと思ったが、「国内クライアントをはじめとする多くの企業に、monopoの存在を知ってもらいたくなった」と佐々木は話す。
「国内外問わずたくさんのクリエイターやクライアントとつながっていくうちに、“ほかの広告会社は持っていないmonopoだけの強み”を見つけたし、この会社をより多くの人に知ってもらうタイミングが来たと思っています」
数ある実績から導いた、monopoの強みとは何なのか。そもそも、monopoはどういった会社なのか。
「monopoがこれまでやって来たことを改めて再定義し、言語化した」と話す同社の新たなパッケージサービス「CREATIVE BRIDGE」のローンチから、monopoの現在地とその先を見た。
monopoが作り出すクリエイティブは素人目で見ても存在感がある。あえて軽率に言えば「オシャレでクール」だ。
どこか敷居の高い高級感のあるデザインには、グローバルを意識された作りのものも多い。だが、ほかの広告会社と何が異なるのか。「社員に聞いても、自社に抱いているイメージはさまざまだった」と佐々木は話す。
しかし2019年、ロンドンに子会社「monopo London」を立ち上げたことをきっかけに、佐々木はmonopoだけが持つ強みに気付いたという。
「monopoの問い合わせフォームには、一日に5件のペースで、外国人クリエイターから連絡が届くんです。メッセージの内容は、『カナダでフォトグラファーをしているのだけれど、何かあったら一緒に仕事をしないか?』といった内容がほとんど。海外のクリエイターが突然オフィスを訪れることも珍しくありません」
気づけば、月間約150人ペースで、海外クリエイターとのコミュニティが広がっていく。そのための広告も営業も一切していない。このスピード感と規模感は異様ではないかと、佐々木は実感したという。
同社には海外企業の資本が入っているわけでもなければ、創業メンバーに外国人がいるわけでもない。それでもオフィスを覗けば、50畳ばかりの執務フロアに、今日も国籍を問わず優秀なクリエイターたちが働いている。
「よくある小さな制作会社」だった同社が、どうやって海外のクリエイターとつながっていったのか。
発端は、佐々木の些細な行動だった。
「2013年くらいに英会話を習い始めたら、国籍を問わず、たくさんの友達ができたんです。その中には、LADY GAGAを撮影していたフォトグラファーまでいた。東京で写真の仕事はしているのかを尋ねると『友達のファッションスナップを3万円で手伝っている』と話すんです。
他にも、Instagramのアカウントを開けばフォロワーが10万人近くいたりもする。実力も影響力も持っているのに、日本の企業がいかに海外の優秀なクリエイターと接点を持てていないのかを、実感しました」
海外にいれば正当な報酬で評価される人材が、どうして低い収入でもいいから東京に住みたいと思うのか。その理由を尋ねると、多くの人が「東京という街自体に大きな魅力があるから」と話したという。
彼らにとって“TOKYO”は、日本人の想像以上にグローバルシティのひとつになっているのだ。
「この街には、日本人が気付いていない魅力がたくさんある。東京のガイドブックはいまだにお寿司や舞妓、日本酒などを紹介しようとしますが、すでに陳腐化している。リアルな”TOKYO”は、海外から来た彼らの方が知っているんです」
東京という街はもっと魅力的に紹介されていいし、東京にいる外国人クリエイターはもっと多くの企業に認知されるべきだ。
そう実感した佐々木は、2013年、東京を拠点にしている外国人クリエイターの活動や、リアルな“TOKYO”を海外に向けて紹介するメディア「poweredby.tokyo」をスタートさせた。
「電通マンも資生堂の人もまだ繋がっていない外国人クリエイターたちを、『poweredby.tokyo』で束ねていく。それがいつかmonopoのコミュニティの柱になるし、クリエイターたちが発見される場になると直感していました」
poweredby.tokyoの立ち上げ以降、monopoは海外展開に挑戦する複数の国内企業のパートナーとなり、いくつものグローバルマーケティング支援やブランディング支援を行ってきた。
優秀な海外クリエイターとの繋がりの強さと幅広さが、monopoだけの強み。その強みを改めて明確に打ち出したサービスが、2019年11月にローンチした「CREATIVE BRIDGE」なのだという。
「あなたは、日本に。ブランドは、世界へ。」
monopoが打ち出したパッケージサービス「CREATIVE BRIDGE」のメインコピーだ。同サービスは、海外進出を考える国内ブランドや企業に対して、適材適所の外国人クリエイターとの橋渡しを行う。
顧客となる企業は、現地へ赴くことなく、大幅なコストカットと実現度の高いグローバル戦略を構築することができる。
「例えば、国内の大手ブランドがアイルランドでCMを作るとき、現地コーディネーターを雇ったり、日本から機材を運んだりしたら、制作費は総額2億円近くに及ぶケースもあります。でも、現地のスタッフだけで完成させられたら、コストはもっと抑えられるはず。
CREATIVE BRIDGEなら、発生しうる複雑なコミュニケーションもほぼノーストレスで対応できるし、費用も、最大で半額近くにできるかもしれない」
過去には、ファッションブランドBEAMSのイギリスへの市場拡大なども取り組んでいる。
「コラボレーションの相手は、ロンドンの高級百貨店Harvey Nichols。BEAMSが6週間にわたってHarvey Nicholsロンドン店内でポップアップストアを展開するにあたって、そのコンセプトからクリエイティブの実制作まで、monopoが受け持ちました」
東京の流行を柔軟に牽引してきたBEAMSと、ロンドンの伝統的な高級百貨店であるHarvey Nichols。対照的な印象である二社がコラボレートするにあたり、monopoは、”世界に「東京人」を発信する”というコンセプトを提案した。
「『東京人』は、『東京という街の性質を持ち合わせ、自身の可能性を活かしてその文化に貢献し発展させていく意志をもつ個人』と定義しました。『ニューヨーカー』などと同様に『東京人』がおり、その一人ひとりに焦点を当てた五編の映像を作る。ポップアップストアで購入できるアイテムを身にまとった人物たちが多様でありながらも共同性をもつ東京を闊歩し、BEAMSの存在感をアピールしました」
制作した映像は、Harvey Nicholsの象徴的な巨大スクリーンと店内で放映。映像に合わせて、ゲストが実際にTシャツプリントを体験出来るスクリーンプリントマシーンも設営された。6週間で約10,000人が訪れ、完売したという。
国内企業のオーダーに合わせて、制作チームを海外で発足し、クリエイティブを届ける。「CREATIVE BRIDGE」におけるmonopoの役割は、クリエイティブの商社みたいなものだ。
「モノの値段は、中間業者が絡めば絡むほど上がっていきます。でも、クリエイティビティはモノではなくてアイデアですから、輸送費もかからずに、世界中へ輸出できるし、輸入できる。
ブランドを広めたい国が決まっているなら、コピーやネーミングも、その国のカルチャーを知っている人に任せた方が効率的だし、クライアントはわざわざ現地に行く必要がない」
東京に拠点を置く外国人クリエイターとつながることで、世界中どこにでも制作チームを組めるようになったmonopoだが、なぜ同社に優れた人材が集まるのだろうか?
その根源には、佐々木の個人的な投資スタンスと、日本企業が抱える外国人雇用の問題がある。
「僕は企業ではなく個人に対して投資することが多いんです。『この人は絶対に、東京でクリエイティブな活動をした方がいい!』と思ったら、日本に引き続き滞在してもらえるように、労働ビザが発行されるまで協力する。やりたいプロジェクトがあるのなら、『poweredby.tokyo』が使えないかを提案する。
究極、その人がお金を生まなくてもいいんです。考え方が古いかもしれないけど、そうしたスタンスが、クリエイターとmonopoの良好な関係に至っていると思います」
佐々木の体感ではあるが、monopoにコンタクトを取る海外クリエイターの約3割は、広告賞などのサイトを見て連絡し、残りのうちの3〜4割は「クリエイティブエージェンシー 東京」で検索して来る。最後の3割が、クリエイターからの紹介だという。
「“東京に行ったらmonopoへ向かえ”みたいな共通認識が、海外クリエイターの一定のクラスタで共有されていっているように感じます。あとは、毎月『monopo night』というイベントを実施しているのですが、このイベントのおかげで少しずつコミュニティを大きくできたと思っています」
4年半前に同社が北青山のオフィスに移転したことをきっかけに始めた「monopo night」は、これまで毎月欠かさず実施されており、開催50回を超えた。
「当時のmonopoは営業担当が僕ひとりだったので、一社ずつ打ち合わせしたり、クリエイターを紹介したりしていると、あっという間に一日が終わってしまっていたんです。だったらお客さんも含めてみんなを一つの場に呼んで、そこで紹介しあった方が効率的かなと思って始めたんですけど……毎月開催しよう!って言ったら、社員のほとんどが反対していました(笑)」
毎月社外の人間を招くイベントを実施するのは、確かに負荷が高い。実際、机の配置から買い出しまで、佐々木自身が全てを担っていた時期も長かったという。それでも継続しようと思ったのは、どのような狙いがあったのだろうか。
「根拠はないんですけど、絶対に会社のためになるから!って、ずっと言い続けていました。単純に『monopoがつながるクリエイターはすごいですよ』って紹介したい思いもあったのかもしれません。僕のなかでmonopo nightは、クリエイターのポートフォリオ展覧会みたいなものなので」
poweredby.tokyoのローンチ後は、一時的に参加者の9割が外国人になったこともあるという。
「海外色が強すぎると離れていく人も出る。日本人と外国人をわざと50%するように調整したこともありますし、少しずつバランスを見直しながら、継続していました。大変なこともありましたけど、いつの間にかカルチャーとして馴染んだし、強制せずとも参加する社員が自然と増えていきました」
佐々木の話を聞いている限りでは、毎月イベントを実施する目的に、「クリエイターを囲い込みたい」といった魂胆は見えない。それよりも、海外クリエイターにチャンスを与えようとする側面が目立った。
「英語を喋れない国内企業の担当者が、『なんか外国人のフォトグラファーさん探してよ』とエージェンシーに発注して、彼らが思い切り中抜きした金額でオファーをしているケースは、国内ではよくあること。しかも、クリエイターの魅力や個性が全く活かされないまま発注されている現状は、単純にマーケットのミスマッチ。僕はその機会を無くしたいと思っていました」
多くの外国人クリエイターが置かれた現状を知ると、国内企業がグローバル化を履き違えている例もよく耳にするという。
「日本の大企業でよくあるケースが、『グローバル課』みたいな部署を新設して、部屋の端っこに外国人社員を10人くらい詰め込ませて座らせている状態。交流なんて生まれようがないし、どちらも萎縮していくだけ。日本という国のなかにどうやって外国人をマッチさせるかという視点しか考えていないから、こんな現象が起きているのだと思います」
日に日に増え続ける外国人のクリエイターたちに囲まれているからこそ、佐々木の目には、現在進行形の東京が映っている。
「外国人クリエイターにも仕事がいっぱいあるし、日本企業のブランドやアクションも、もっと多様になっていいはずなんです。monopoが企業の海外展開を東京でお手伝いすることで、都市としても国としても、もっと魅力的になったらいいと考えています」
monopoが打ち出す新サービス、“CREATIVE BRIDGE”。知る人ぞ知るクリエイティブの名店は、今日も東京から世界に向けて、橋をかけていく。
執筆:カツセマサヒコ、編集:長谷川賢人、撮影:Elena Midori(monopo)