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未来の予測というテーマをFinancial Modelingの分野から追う。Modelmap創業ストーリー。

<創業から早6カ月>

はじめまして。Modelmap Co 代表の John です。2017年8月に、米国で Modelmap を創業してから早くも半年が経ちました。短い間でしたが、この6カ月の間に本当に色々なことがありました。米国アクセレレーターからの突然のオファーと辞退、以前から口説いていた共同創業者の獲得失敗、2カ月に渡る中国人エンジニアのサマーインターン受入れ、米国ソフトウェア開発委託先での炎上、スカイプで30分話した後の突如出資オファー、SFO空港での入国審査別室送り、4,500万円の借金とBay Areaの世界一高い家賃に押し潰されそうになる日々、など。常に業務内容が変わる激しい毎日ですが、人間慣れてしまえば何とか適用できるもので、事業的な余裕は一切ないのですが、自身が創業に至った経緯を思い返すだけの心の余裕は生まれてきました。この記事で、これまでの創業経緯とビジョンへの想いをお伝えできたらと思います!


<リサーチャーとして>

最初の仕事は、金融機関の研究所内でリサーチャーとして働くことでした。大学でファイナンス理論を学び、証券会社に新卒として入社をしたのち、数理・統計の研究職として働き始めました。私の職種は、クオンツ・アナリストと呼ばれる少し変わった仕事で、様々な業界の株価の動きを統計手法を用いて分析し、数多くの金融指標・経済指標と組み合わせた上で、購入する株式の種類や組み合わせ、売買のタイミングについて、統計的に有意なパターンを見つけるというものです。世界経済や金融市場全体を統計的にデータを用いて見渡すことができる業務で、とても魅力的な環境でした。当時のチームヘッドは、日本国内のランキングで10年以上首位を走る業界屈指のアナリストで、チームメンバーも物理博士や数学専攻という凄い経歴の人たちばかり。私1人が文系かつ学部卒といった状況の中、最初は単純な解析を行うこともできず、日々の業務に必死についていく日々でしたが、常に知的好奇心を刺激されるとても楽しい仕事でした。



<防火壁 - Firewall - >

昔から、数字を追いかけることは好きでした。特に、事実が数字によって明らかになる瞬間に、いつもワクワクしていました。しかし、クオンツアナリストとしての仕事には、この「事実を明らかにする」ということに対して業務上の制約条件が2つありました。1つ目が統計手法による限界。2つ目がファイアウォールと呼ばれる情報規制です。

1. 統計手法の限界
クオンツチームでは、数千社の企業データを統計的な手法を用いて分析していたため、サンプリング過程でデータを異常値として除外しなければならないことも多々ありました。データが単に間違っている可能性もあるのですが、本当に何か興味深いことが起こっているかもしれません。数百~数千社を平均化して、国や業界の経済全体の動向は捕捉できるものの、最終的にそれらの数値は個別企業のデータを積み上げた結果に過ぎません。1つ1つの数値がなぜそうなっているのか、ひいては「価値の源泉は何か」という問いを追求することができず、自身のキャリアへ疑問を投げかける1つのきっかけとなりました。

2. ファイアーウォール規制
アナリストという職種は、基本的に上場企業の分析およびレポートの発信を業務としています。そのため、私もインサイダー情報(企業の重要な未公開内部情報)を入手することがないよう、様々な規制を遵守する必要がありました。一つ例を挙げると、アナリストはM&Aを支援する部署のスタッフとあまり親しく話してはいけません。会社の買収や合併に係る情報は非常に重要であり、ふとしたきっかけでそれらの情報を入手した場合、インサイダー取引に繋がる可能性を否定できないからです。


私は、個別企業のより詳細なデータさえ手に入れば、クオンツチームが持つ膨大な経済・統計データと組み合わせることによって、より正確なシミュレーション、ひいてはより正確な未来予測が可能だと確信していました。しかし当然ながら、会社の報告書に載っていない資料などは、アナリストである以上は絶対に入手できません。この事実は、とても苦痛でした。「データは企業内に存在している。でも、僕はそれを見ることはできない。」これが、アナリストの職場を去ろうと決意した決定的な理由でした。


<コンサルタントとして>

転職を決意し、アナリストの仕事を2年で辞めて、財務系のコンサルティング会社へ入社をしました。ここでの業務は、様々な資本取引に係るプロジェクトに参加し、その場で要求される仕事を行うといった内容です。銀行と共に企業再生の支援をしたり、投資を行う際に事業計画のシミュレーションを構築したり、第三者の立場から客観的な事業の価値を算定したりと、コンサルタントとして様々なプロジェクトに参画することになります。プロジェクトでは、必要とあらば情報規制を気にすることなく、一般に公開されていない企業の生の情報を入手することが可能でした。製品をいくらの価格でどこに売ったのか、原価の内訳はどうなっているのか、従業員は何人でそれぞれいくらの給与をもらっているのか。外部へは公開されていない情報が手に入る毎日に感動し、入社当初はとても充実した日々を送っていました。

しかし、プロジェクトが佳境を迎えるにつれ、すぐに現場の「生の情報」というものの洗礼を受けることとなりました。上場企業の数値というものは、数千社の数値がきちんとデータベース上で項目別に整理されています。クオンツチームでは特に統計解析を行うため、世界中の企業の売上や利益等の業績を始めとして、従業員数や設立年月日、株価の推移やそれに伴う統計量に至るまで、すぐにデータベースからまとめてデータをダウンロードし、分析や加工を行える環境にありました。私は企業内部の資料を見るまで、企業の中でも自社の情報を網羅するデータベースがきちんと管理されており、欲しい情報が複数回のクリックですぐ手に入るものだと信じていました。しかし、プロジェクトの現場でクライアントから送られてきたものは、膨大な量の紙資料の束と、圧縮された数百におよぶエクセルファイル。まさか...と思った瞬間でした。


<エクセル地獄と Financial Modeling >

現場での数値は、綺麗に加工・整理などされておらず、ありとあらゆる資料にまたがって記載されていました。同じデータが載っているはずの、資料Aと資料Bの数値が合わないことなど日常茶飯事で、それどころか欲しいデータが紙の資料でしか存在せず、数値の計算根拠が確認できないケースも多々ありました。データは手に入るものの、数値や計算の確認作業だけで膨大な時間を取られ、リサーチャーであった頃のように、自分の好奇心を満たす分析は思うようにできない環境でした。

ちょうどその頃、自分が所属していた部署内で新チームが立ち上がっていました。財務モデリング (Financial Modeling) という分野を専門としたわずか3人のチームで、事業の構造を分析、重要な前提条件を抽出し、将来の事業収支から会社の状態に至るまで、包括的なシミュレーションの構築業務を日々行っている部隊です。彼らの仕事をこの目でみた瞬間、まさに自分がリサーチャーを辞めてまでやりたかったことであると確信しました。会社の休憩スペースでランチを取っていた当時のチームヘッドに声をかけ、別室で突然プレゼンテーションを行い自分をアピールした挙句、彼らの傍に席を移動して、4人目として半ば強制的にチームへジョインさせてもらいました。

チームでの仕事は、まさに自分が思い描いていた通りの内容でした。事業を構造的に分解し、本質的に重要な要素を入力値とした計算を構築していくことで、事業を丸ごと、ひいては企業全体のシミュレーションを行うことができます。私は、個別企業の詳細なシミュレーションが可能となれば、それらの手法を応用して業界全体、ひいては経済全体の動向をシミュレーションできると考えていました。しかし、またもや、困難な課題に直面することとなります。財務モデリングという作業自体があまり効率化されておらず、極めて労働集約的な性質を持ち、1つ1つのシミュレーション構築に膨大な時間と労力を必要とするという点です。


<自分にしか解けない課題>

財務モデルというものは、Micsoroft の Excel 内に1つ1つ数式を埋め込んでいくことで作成されます。似たような会社であっても1つとして全く同じビジネスは存在しないため、詳細なシミュレーションと将来予測を行うためには、1つ1つの事業を全く別のモデルとして1から構築する必要があります。シミュレーションする事業の規模も数百億円から、時には一千億円を超えることもあり、それらを丸ごとシミュレーションするとなると、エクセル上の計算も極めて複雑なものとなります。過去のプロジェクトから1つ例を挙げると、ファイルのサイズは50MB以上、エクセル内のシート数は38枚で、ブック内の計算セルの数は272,754セル、解析ソフトを用いてユニークな数式セルのみをカウントしても6,318セルありました。1つのプロジェクトの事業モデルを作成するだけで、数百時間を超える作業が必要であり、今現在でも世界中の投資銀行やコンサルティング業界で、数百万人の人々が気の遠くなるような作業を労働集約的に行っています。この事実は、数千社のデータをプログラムを用いてシミュレートしていた自分にとって衝撃的でした。


しかし当時のチームは、贔屓目に見ても Financial Modeling の分野において業界最先端のノウハウを持っていました。世界中の投資銀行やコンサルティング会社が1つ1つの財務モデルを、それぞれを分解不可能な巨大な1つのシミュレーションとして構築しているのに対し、私のチームでは独立した小さな計算シミュレーション(モジュール)を構築し、独自の技術を用いてそれらをつなぎ合わせることで、巨大な財務モデルを構築するという手法を用いていました。このノウハウを一歩進め、モジュールを技術的に標準化することで、誰もが簡単に小さなシミュレーション(モジュール)を作成し、繋ぎ合せることができるようになると考えました。世界中の人たちが独立した小さなモデルを作成しコミットや共有ができるプラットフォームを作成すれば、最終的にそれらを繋ぎ合わて世界中のビジネス、経済全体をシミュレートすることが可能となるはずです。Financial Modeler としての経験を積むにつれ、ノウハウを深く習得するにつれて、その考えは徐々に確信に変わっていきました。


その後、紆余曲折を経て、3年間働いたコンサルティング会社を退職し、MBAを取得します。MBA在学中に、これまでの自身のキャリアや将来像などを踏まえ、この課題は、恐らく自分にしか解けない課題であり、人生を賭けて挑戦するに値するテーマだと確信し、卒業後すぐに起業に至ります。


<Vision - Modelmapが目指すもの- >

Modelmap が目指す世界は、「全ての数値が繋がっている世界」です。データベースから自社内の欲しい数値がすぐに手に入る世界。同じ種類の資料Aと資料Bの数値が常に整合する世界。多国籍企業が、複数の国に渡る税金を自動的にワンクリックで支払える世界。あらゆるデータ、例えば日本国内にある病院の勤務医の数が、すぐにダウンロードできる世界。1年後の売上高や、株価・為替の予測が正確に行える世界。全てのデータが繋がっていて、数値を辿れば、「常に真実を確認できる世界」を目指しています。

この Vision を達成するための Mission として、現在は誰もがモジュールを簡単に作成・利用できる「ビジネスマン向けのGitHub」を構築しています。2018年3月初旬時点では、その中でも更に既存のエクセルファイルから、「小さな計算シミュレーション」(モジュール)を抽出するという過程に取り組んでいます。世界には、既に数百億個以上のエクセルファイルが存在していると推定され、様々な事業や経済に係る計算やシミュレーションが、活用されずに眠っています。ユーザー1人1人が1からモジュールを作るよりも、それらの既に存在するファイルから計算モジュールを抽出するほうが、何倍も早いからです。



<これから>

現在、創業から半年となりましたが、色々と困難な道のりでした。私が作ろうとしているものは、技術的に言えば難度が高いものではありません。しかも世界で始めての試みであり、そもそも市場に競合製品が存在せず、目の前にある課題は、「エクセルにおける財務モデル構築の効率化」という非常にニッチな世界です。投資家の方々からは単に業務改善のエクセルツールの開発をしているものと誤解されたり、エンジニアの方々もエクセルと聞くとすぐにつまらなそうな顔を見せます。米国に創業者として滞在できる期間もビザの制約上限られている中で、1人で何としても事業を前に進めなければなりません。


それでも、自分はこの事業が世界を変えることになると確信しています。特に自分が所属していた前職のコンサルティング会社から非常にポジティブなフィードバックをもらい、今後共同でソフトウェアを開発できないか、話を進めています。幸運なことに、金融機関を始めとする各企業からも強い関心をいただいており、2018年3月からβバージョンのテストに参画してもらう手はずとなっています。誰もが関心を寄せてくれるわけではありませんが、色々とうまくいかない時には、自身が尊敬する著名なハッカーでもあり、またY Combinator の創業者である、Paul Graham 氏の有名な言葉を思い出すようにしています。

'It's better to make a few people really happy than to make a lot of people semi-happy.'
(多くの人を少し幸せにするより、一握りの人を本当に幸せにするほうが、ずっと良い)

自分のプロダクトを「本当に素晴らしい」と言ってくれる人が、既に身の回りにいます。ほんの一握りの人達であっても、この事業によって本当に幸せになる人々がいる限り、私は絶対に諦めず、この事業を成功させる自信があります。長くなりましたが、Modelmap では世界を変えるべく米国で一緒に事業を進めるリードエンジニアを募集しています。現在同じような課題に直面している方、Modelmap が目指す世界に少しでも共感してくれる方、より詳しくお話を聞いてみたい方などがいれば、気軽にご連絡下さい!

2018年3月初旬 John


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