Valueとマッチする人材を採用し、心理的安全性のある職場で育てる
ニュースメディアやSNSなど、インターネット上のあらゆるメディアから情報収集、分析を行い、クライアントの広報・マーケティングを支援しているMeltwater。世界28カ国、60の都市に拠点を持ち、約3万社のビジネス・コミュニケーション戦略をサポートした実績を持つグローバル企業です。
Meltwater の日本法人、Meltwater Japanは2008年に設立されました。その立ち上げメンバーであるジョセフ・ラッテリ様は、組織づくりにおいてMeltwaterの「MER」というValueを大切にしてきたと言います。「MER」はノルウェー語で「より多くの」「さらに上の」という意味です。3つのノルウェー語の頭文字をとったもので「Moro(楽しむ)新しいことや、知らないことに挑戦することを楽しむ」「Enere(一番)期待を超える成果を出すために継続的に努力する」「Respekt(敬う)従業員や顧客、提供するソリューションを尊重し、謙虚さを示す」という要素から構成されています。社内のいたるところに「MER」が掲げられており、企業文化の中核をなしています。
「組織の立ち上げ時から、ビジネススキルよりも、Valueとのマッチングやポテンシャルを重視して採用を行ってきました。素晴らしいカルチャーがあれば、結果は後からついてくると我々は考えているからです」とラッテリ様は話します。以前はノルウェーからわざわざ代表が世界の各拠点に出向き、採用に関わっていたそうです。それほど同社は採用に注力してきました。
採用面接では、Valueと照らし合わせて、スポーツで勝ちにこだわった経験や、仕事を楽しむ素質、将来的なマネジメントのポテンシャルなどを見極めるように努めているそうです。2010年に新卒で入社した山崎様は、当時の採用面接をこう振り返ります。
「就職セミナーで挨拶を交わして、気づいたら面接が始まっていたという印象です。そのおかげで、自分を取り繕うことなく、全てさらけ出すことができました。だからこそ、本当に自分に合っている会社はここだと思ったのです。」
入社後は「Feel Safe & Loved」というコンセプトに基づき、社員育成を行います。心理的安全性のある環境で、愛されている実感があるからこそ、人は挑戦できるという考え方です。小学1年生がまず学校に慣れるところから始めるのと同じように、従業員も少しずつできることを増やしていきます。
「ミスしてマネージャーに怒られたらどうしようとか、うまくいかない気がするからやめておこうとか、そういう考えに陥りやすい環境も世の中にはあると思います。当社の場合は、もし失敗しても居場所があるし、またチャンスが与えられると信じられるから、チャレンジできるし、成長できるのです」とラッテリ様は話します。
個々のモチベーションの源泉を理解した上で挑戦を促す
従業員のチャレンジを引き出すキーワードは「Getting out of comfort zone」。苦労せずできる仕事ばかりと向き合うのではなく、少し背伸びして仕事に取り組むことがその人の成長につながるという考え方です。一方で、難しい仕事ばかりで失敗が続くと自信を無くしてしまいますし、本人の価値観と異なる挑戦を促してもモチベーションは上がりません。
メンバーのマネジメントについて山崎様は「『大切なのはお金じゃない』という価値観の持ち主に『売上1.5倍にしたらコミッションが出るよ』と言っても響きません。新しいミッションは、個人個人のモチベーションに基づいていることが大事です。そのため、日ごろからコミュニケーションを重ね、一人ひとりに合わせて、かなりフレキシブルにミッションを設定しています」と話します。
同社では週1回、上司と部下の間で1on1が行われており、そこでは仕事とは関係のない雑談も歓迎されています。例えば、「学生時代の部活の話」や「田舎暮らしの夢」など。こうした会話がきっかけで、上司と部下の距離が縮まることもあれば、働き方を変えるきっかけが生まれることもあります。普段からマネージャーが、メンバーの個性やモチベーションの源泉を探しておくことで信頼関係が強まりますし、一人ひとりに合ったオーダーメイドのような働き方も可能にしているのです。
「私は新卒入社で10年目になりますが、一度も辞めたいと思ったことはありません。これから子どもを授かったり、夫が転勤になったりすることもあるかもしれませんが、この会社なら大丈夫だと信じられます。一時的に職場を離れても、次のポジションを会社と一緒に作っていけるという確信があるんです。自分が真剣に考えたキャリアビジョンを話せば、会社は必ずそれに応えてくれます」と山崎様は言います。
チーム内に出産が控えている従業員がいれば、その仕事をみんなでカバーするのは当たり前です。復帰のタイミングや、その後の業務などもしっかりと話し合いが行われています。従業員に優しいのはもちろん、その根底には「チームで成果を出すために、働き方を自由にデザインする」という考え方があるのです。
「会社に来ることが楽しみ」と答える従業員が多い理由
働きがいのある会社調査において「会社に来ることが楽しみである」と回答する従業員が多いことも同社の特徴です。もちろん、山崎様もその一人。「会社に行くと新しいことを学べるし、同僚は仲間であり、よきライバルもあります。一緒にいる人たちが素敵だから、明日はもっと成長できるし、知らない自分に出会えるかもしれないと思えるのです」と言います。
一人の力でモチベーションを維持するのは難しいことです。「同僚や上司が頑張っていなかったら『なんで私だけ頑張らなくちゃいけないの』という気持ちになってしまうでしょう。みんなでチームのゴールに向かって頑張っているから、頑張り続けられるのだと思います。何かしらの事情があり、個人としてのパフォーマンスが上がらないときも、チームが上手くいっていれば『仕事が楽しい』と感じられるのではないでしょうか」とラッテリ様は話します。
女性従業員は出産や育児で職場を離れても「仲間たちと新しい挑戦が待っている」とワクワクしながら復帰できるのだと言います。「働きがいのある会社」女性ランキングの小規模部門1位の背景には、同社ならではの企業文化があるのです。
しかしながら、この結果に対して山崎様は「男性だから、女性だからとか全く意識したことがありません。女性部門で1位になったのはいいことだけれど、せっかくなら全体で1位になりたいですね」と話します。ラッテリ様も「弊社の女性は、男性より強いです。でもそれは、結果を出してくれるからであって、女性だから特別扱いしているわけではありません。むしろ、改善点がたくさんあると思っていますので、ブラッシュアップしたいと考えています」というように、次の課題と向き合っています。
「女性が働きがいを感じられる会社」というと、労働時間短縮やテレワークなどの制度づくりに意識が向きがちではないでしょうか。もちろんそれも必要ですが、中長期的な視点に立った場合、同社のように「Valueに基づく企業文化醸成」や「マネージャーとの信頼関係」、「モチベーションを高め合う仲間」など、働きがいの源泉となる普遍的な要素をじっくりと構築することが大切なのかもしれません。