PMIで大切にすべきことは相手へのリスペクト。人事担当がプロジェクトに込めた思いとは?
2022年7月、在宅医療事務のアウトソーシングサービスを提供している株式会社クラウドクリニックが、メドピアグループの一員となりました。100日という限られた期間で、人事領域におけるPMI*を成し遂げたのが、コーポレート本部 人事部 ピープルプランニンググループの佛崎 望さんです。
*PMI=Post Merger Integration M&A後の統合プロセスのことで、「経営の統合」、「業務の統合」、「人や企業文化の統合」の3つからなる
最速で最大のシナジーを生むために必要なことは何なのか。佛崎さんがクラウドクリニックのメンバーと重ねてきたプロセスを紐解くため、佛崎さんと、クラウドクリニック代表取締役・川島 史子さん、取締役・筒井 康浩さんに話を聞きました。
――本日はよろしくお願いします。まずは佛崎さんのこれまでのご経歴を教えてください。
一貫して人事領域でキャリアを歩んできました。
それぞれの業務において携わっていた期間の長短はありますが、評価、労務管理、人事制度・企画、人員計画・配置、育成・能力開発と採用以外の人事業務はひと通り経験しています。
人事システムの導入やBPR、シェアードサービスの構築など実務の遂行だけでなく、人事業務の最適化に携わっていた時期もあります。
ーー人事として幅広いキャリアを歩んで来られています。過去にPMIのご経験もおありだったのでしょうか?
初めてPMIを経験したのは、7年ほど前です。その時は、複数いるプロジェクトメンバーの一人として規程の統一や退職金の手続きといったPMI業務の一部を担当していました。人事としてのスキルを広げていく中で、自ずとPMIで対応できる領域も広がっていったんです。
目指すはシナジーの最大化。互いのカルチャーや価値観を認め合いながら、進める経営統合
ーー今回のクラウドクリニックの経営統合においても、これまでの経験を活かしてプロジェクトを進めていったのですか?
今回のクラウドクリニックの経営統合は、すでにある"クラウドクリニックの企業文化"を尊重しながら、新たにメドピアグループに参画することによって互いのシナジーを最大限生み出していくことを目指しています。私自身、PMIの経験はありましたが、今回のケースのように相手の会社の文化や価値観をそのまま残す経営統合は経験したことがありませんでした。
人事領域のPMIで言えば、給与計算や勤怠管理の方法を整備したり、評価制度の見直しをすることが担当する業務になります。しかし、本質的なミッションは単なる業務統合ではなく、クラウドクリニックの社員の方々がメドピアグループに参画することを「新しくこんなことに挑戦できそう」「あんなことができるかも!」と前向きに捉えられるPMIにすることだと考えていました。
ですので、プロジェクトがスタートした当初はこれまで経験したどのPMIよりも緊張していました。
クラウドクリニックの方々からすれば、これからどのように統合されていくのか不安でいっぱいだったと思います。私としては「メドピアグループの文化を押し付けて色を染め直すものでは決してない」、そのことはしっかりと伝えていこうと心に決めていました。
ーーPMIは異なる会社組織が統合していくプロセスなので、プロジェクトを進めるにあたって悩まれた点もあったと思います。今回のPMIで佛崎さんが大切にされていたことがあれば教えてください。
こだわった点をあげるとすれば、クラウドクリニックのことをクラウドクリニックの皆さん以上に理解できるように努力した点でしょうか。
私がクラウドクリニックの皆さんの立場であれば、自分たちのことを理解してくれていない人にどれだけポジティブなことを言われても信用できないと思うんです。PMIは長期的な取り組みです。私たちとクラウドクリニックの皆さんとの間に信頼関係がなければ成功しません。なので、事業内容に留まらず、これまでの歴史、培われたカルチャーなど、私自身がクラウドクリニックの中の人として理解できるように努めました。
ーー具体的にどのように理解を深めていったのでしょうか?
クラウドクリニックに関する資料はすべて目を通しました。ほかにもクラウドクリニック代表の川島史子さん(以下、史子さん)のインタビュー記事などウェブに掲載されている情報を通覧しました。
また史子さんと打ち合わせをする機会では、クラウドクリニックの社員の方であればどのような点を重要視され、提案されるかを常に考えながら話すように意識していました。
不安な気持ちにも寄り添いながら、未来に向けて共に歩んでいく
ーー直接、社員の方々と対話する機会もあったのですか?
2022年7月に福岡オフィスを訪問する機会がありまして、その時に直接話をすることができました。
当時は完全子会社化が成立したタイミングだったので、社員の皆さんがメドピアグループへの参画に対してネガティブなイメージを持っている可能性を想定していました。実際、ネガティブとまでいかないものの、これからどのように変化していくのか不安を感じている方が多くいらっしゃることが分かったんです。
ーーそれを受けて、どのようにコミュニケーションを取られたのでしょうか?
まずは不安な気持ちを受け止めたいと思っていたので、一人ひとりの思いを聞かせてもらいました。その上で、会社の文化や働き方は大きく変わるものではないことを丁寧に伝えていきました。史子さんがつくってきた職場環境や、理想とする働き方を引き続き大事にします、と。
そうやってじっくり不安や疑問の声に応えていったことで、徐々に私自身にも親しみをもって接してもらえるようになったような気がします。
ーー代表の川島さんとの関係構築も大切にされていたような気がします。
史子さんに「佛崎にならば、クラウドクリニックの制度設計や育成を長期的に任せても良い」と思ってもらわなければ、PMIを成功に導くことはできません。何度も時間をかけて話し合い、まずは史子さんに新たな人事制度に賛同をいただけるよう、丁寧に提案していくことを心がけていました。
結果として、史子さんにこの統合によってクラウドクリニックは一層の成長を遂げることができるんだと信頼してもらうことができました。「今回の経営統合によってクラウドクリニックはさらに成長していくので、みんなでがんばっていこう!」というメッセージを史子さんから発信してもらえた時はとても嬉しかったです。
ーー細やかなコミュニケーションによって、クラウドクリニックの皆さんと信頼関係を築いてこられたことがわかります。
皆さんが打ち解けていってくれたのは、史子さんが私のことを受け入れてくれていたことが大きく影響していると思います。
クラウドクリニックの皆さんは史子さんに全幅の信頼を寄せています。「史子さんが信頼している人なら、頼ってみようか…」と思ってもらえたのではないでしょうか。
クラウドクリニックには互いの呼称を名字ではなく名前で呼び合う文化があるのですが、ある時から私もみなさんから「望さん」と呼ばれるようになったんです。その時は、皆さんに認めてもらえたような気がして、とても感激しました。
グループ全体のさらなる成長に向けたチャレンジ
ーーそれはうれしい出来事ですね!クラウドクリニックがメドピアに参画して半年が過ぎ、プロジェクトも次のフェーズに移っていると思います。
PMIの初期フェーズは完了しましたが、今後は人材育成や評価制度の見直しなど、中長期で取り組むべきテーマに移っていきます。
新たに立ち上がった組織課題があれば、それをキャッチアップしながら、人事として提言すべきポイントがあれば議論し、今後も引き続き、史子さんをはじめ、クラウドクリニックの皆さんと一緒に組織の土台づくりを行っていきます。
ーー今回のPMIを振り返って、改めて気づいたことや学んだことがあれば教えてください。
PMIの成功で重要な点はいくつかあると思いますが、その一つとして、「組織の成長を考えると同時に、個の集まりが組織であることを常に意識し、総合的に考えること」があると思いいます。
客観的に事実を捉えながら、やるべきことは何かを論理的に考え、一つずつ丁寧にやり切る事。そして、相手へのリスペクトを持ち続ける。
これらを同時に実行することが「シナジーを生む」ことにつながり、PMIを成功に導くんだと思います。
ーー佛崎さんが今後挑戦したいと考えていることを教えてください。
そうですね。今まで自分が携わったPMIの中で、一番心が温まったのがこの100日間のプロジェクトでした。ただ、今後を見据えると、PMIや企画ができる人を他に育成していくことに比重を置きたいとも考えています。
今後もメドピアはM&Aの形をとって成長を目指すことがあると思います。これまでに私が得た知見がメドピアの人事チーム全体の経験値として貯まり、組織としてさらに強くなれると理想的ですよね。
代表の川島史子さん、取締役の筒井康浩さんにも佛崎さんの取り組みについてコメントをいただいています。
川島さん:望さんに今までのクラウドクリニックの文化や価値観、働き方を理解・共感いただけたことは本当に心強かったです。
福岡のメンバーに限らずですが、望さんの愛情あふれる謙虚なお人柄にみんなが心から信頼を寄せています。もちろんお人柄だけでなく、人事としてのこれまでのご経験と知識に基づいたディスカッションで、私たちと健全にぶつかりあって、疑問解消や他の可能性の提唱をしてくださり、合意形成を丁寧に進めてくださったことも信頼を集めた理由です。
そのおかげで、クラウドクリニックの根幹となる組織作りの価値の最大化に向けてまっすぐに進めることが出来ていると思っています。
筒井さん:福岡オフィス訪問では、現地のメンバーとは初対面にもかかわらず、ひざ詰めで1時間以上話をしていたのが印象的でした。それ以降もメンバーと親密なコミュニケーションが取れているので、現場とのグリップ力がすごいと感じました。
PMIフェーズが終わった今も、引き続き人事施策は重要イシューです。佛崎さんには引き続き組織に入り込んで活躍していただきたいと考えています。
最後にPMIを進めるのに必要なスキルを伺ったところ、「ロジカルな思考回路」だと答えた佛崎さん。プロジェクト成功の裏にはロジカルシンキングによって裏付けられた細やかなコミュニケーションの設計と実行がありました。